馬渕 直

㈱ベネッセコーポレーション 教育情報部 部長

詳しいプロフィールはこちら

今年度から、学校設置基準の改正によって、高校の普通科に新たに学科を設置できるようになり、岐阜県や島根県、そして長崎県に新学科を持つ高校が設置されました。

 

また、少子化、そして私立高校への奨学支援金による授業料の実質無料化などによって、全国の公立高校で入試志願倍率が低くなっている状況もあり、生徒募集という観点からも普通科改革に取り組む県教委も出てきています。

 

今後、普通科に求められるのは、どのようなことなのでしょうか。

志望校の選択理由と満足度

普通科改革の背景が語られる際に、よく引かれるのが文部科学省・厚生労働省の共管で実施されている「21世紀出生児縦断調査(※1)」の第16回結果です。

 

その調査の「学校選択の理由」という質問に対する回答の上位3つは、「自宅から近いから・通いやすいから」、「合格できそうだったから」、「学校の雰囲気がよかったから」でしたが、「特色ある取組を行っているなど授業内容に興味があったから」は15%程度と低い回答結果でした。

 

このように、志望校を選択する理由として、その高校に何らかの魅力を感じて選択している生徒は少ないこと、また、同調査の「授業に対する満足度」の結果が、中学校段階に比べ、高校段階で下がっていることも普通科改革を検討する要因の1つでした。

 

しかし、地方部の場合であればなおさらですが、自宅から通いやすく、現在の学力で合格できそうな高校、かつ普通科を志望校とするのは現実的な選択であり、この回答割合が多いことが一概に問題だとは言えないはずです。また、進路選択の満足度については、男子、女子ともに8割以上が「満足」または「どちらかといえば満足」と回答しています。

 

ただ、「進路選択の満足度」と「学校を選択した特に強い理由別」のクロス集計の結果を見ると、学校を選択した特に強い理由に「将来就きたい仕事と関連しているから」、「学校の雰囲気がよかったから」、「特色ある取組を行っているなど授業内容に興味があったから」を挙げている場合に進路選択の満足度は高くなっています。

 

どの普通科高校であっても、特色ある取り組みや授業が行われていることを踏まえた上でこの結果を見ると、中学生や、保護者に対して学校説明会だけではなくHPなどで、それらの情報発信を積極的に行い、認知と理解をしてもらうことが重要と感じます。

 

「自宅からの通いやすさと成績を考えて」の志望校選択であったとしても、「こんな学校行事があるんだ」「この授業が面白そう」「自分のやりたいことにつながりそう」など、自分の志望校に対する興味や期待を持たせることができれば、生徒はより前向きな気持で入学し、ひいては学校の活性化にもつながるのではないでしょうか。

自校のあり方を問われるスクールポリシー

普通科改革の目的は、『「普通教育を主とする学科」を置く各高等学校がそれぞれ特色化・魅力化に取り組むことを推進する観点(※2)』にあります。

 

社会構造や産業構造が大きく変わり、少子化が進む中で多様化する生徒一人ひとりの個性や課題に対応していくための、普通科のあり方、自校のあり方が問われていると言えます。そして、それを対外的に示すものが、公表を義務づけられた「求める生徒」「学びの内容」「育てる生徒像」という3つのスクールポリシーです。

 

スクールミッションとともに、スクールポリシーをHPに載せる高校も増えてきましたが、「求める生徒」「学びの内容」「育てる生徒像」という3つのスクールポリシーの各事項が、具体的な教育活動とどのように結びついているのかを示せている高校は、まだ多くありません。

 

また、そのためには、スクールポリシーと教育活動の結びつきについて、何よりも教員や設置者が十分に理解・共有し、語れるかが問われることになります。求める生徒像という、いわゆるアドミッションポリシーを掲げている以上、推薦入試や学校独自入試の導入といった入試の変更も、いずれ検討する必要も出てくるはずです。

 

普通科改革の目的は、「普通科」という看板を時代に合わせた名称に変えることではなく、教育活動の改革によって生徒、保護者、そして地域にとって魅力ある高校になることにあります。だからこそ、各学校で設定をしたスクールポリシーを画餅に帰さないようにしなくてはなりません。

※1:2001年生まれの子どもの実態及び経年変化の状況を継続的に観察している調査。少子化対策等の施策の企画立案を目的としていた。第16回調査から教育面を含む国の施策に活用することを目的として、文部科学省が実施主体となり厚生労働省との共管調査となった。

※2:中教審答申「《令和の日本型学校教育》の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」(令和3年1月26日)