小村 俊平

ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長

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算数・数学及び理科に焦点をあてた国際的な学力調査

TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study:国際数学・理科教育動向調査)は、オランダのアムステルダムに本部を置く国際教育到達度評価学会(IEA)が企画・実施する国際共同研究調査である。同調査では、児童・生徒の算数・数学及び理科の教育到達度を国際的な尺度で把握し、指導方法や学習環境等の諸要因との関係について明らかにすることを目的として実施されている。1964年に「国際数学教育調査」として始まり、1995 年に現在のTIMSS という名称に変更。以降4 年ごとに過去7回にわたって実施されてきた。そして2024年12 月、2023年に実施されたTIMSSの結果が公表された。

 

TIMSSの対象となるのは第4学年(日本では小学校4年生)と第8学年(中学校2年生)で、調査の実施は4年ごと。調査内容は算数・数学及び理科と、理数系に焦点をあてており、特に知識・技能を選択肢で問う問題が多いのが特徴だ。なお、よく知られている国際調査に「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」があるが、PISAは読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、3年ごとに本調査を実施している。日本は、TIMSS、PISA、どちらの結果においても上位となっている。

日本の教育政策の成果と課題

TIMSSやPISAなどの国際調査は、日本の教育政策のあり方に大きな影響を与えてきた。近年、学習指導要領が、知識の習得だけでなく、習得した知識を活用する力までを身につけられるように改訂されたり、1人1台端末の整備とICT教育の充実が図られたりしてきたが、そうした教育改革も、国際調査によって日本の教育課題が明らかになったことで進められてきたものだ。

 

日本では、理数系人材の育成が重要な課題となっている。TIMSSやPISAの結果を見ると、日本の児童・生徒の理数系の学力は世界トップクラスであることが分かるが、日本の理工系学部への進学率はOECD最低クラスとなっている。大学では理数系学部の定員の増加や学部の新設が進み、また、2024年度からは、文部科学省が「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」を実施し、理数教育の環境整備のために1校1,000万円を上限として、全国約1,000校に補助するなど、理数教育の充実が進められている。そうした環境整備の下、理数系人材の育成は順調に進んでいるのか、課題があるとすればそれはどのようなものか、そうしたことを明らかにする上でも、2024年12月に公表されたTIMSS2023の結果、そして後追いの形で公開される調査データは注目すべきものと言える。

TIMSS2023結果を踏まえた、今後の教育の方向性

今回のTIMSS2023の結果を見ると、日本の⼩中学⽣は算数・数学・理科で世界トップクラスの成績を維持しており、日本の学校現場がコロナ禍の中でも高い水準の教育を行ってきたことが伺える。また、日本の教育の課題とされてきた関心・興味について、勉強が日常生活に役立つ、勉強が楽しいと回答する中学生が増加傾向となった。現行学習指導要領に基づく探究やSTEAM等の取り組みの成果と言えるだろう。一方、これらの教科を得意だと答える⼩中学⽣の割合は減少傾向にある。デジタル化の進展によって理数系人材のニーズが高まるなか、理数系の学力が高い日本の児童・生徒が自信をもって学び、学んだことを発揮する機会をつくっていくことが大切ではないだろうか。

PART2では、TIMSS2023の特徴について紹介する。