松本 留奈

ベネッセ教育総合研究所 調査研究室 主任研究員

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ジェンダーの観点で理数系教科の諸問題を考える

理工系学部の定員拡充、とりわけ女子枠の拡大など、理工系分野における女性活躍の推進が話題となっている。しかし、過去TIMSS2019までの結果をジェンダーの視点から言及した研究成果は多くなかった。数少ないTIMSS2019を用いたジェンダーの観点での先行分析を確認してみると、学力に男女差はなさそうであるということ(*1)、一方で、数学に対する態度には男女差があること、その背景として、数学が男性のものというような社会的なイメージがあり、数学を学ぶことがその先の職業にどうつながっているか想像できていないといったことが指摘(*2)されている。

 

*1 令和5年度文部科学省委託事業 学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査報告書

*2 瀬沼花子「学校での算数・数学とジェンダー」(理数系教育とジェンダー、2021年7月)

 

今回のTIMSS2023の結果では、文部科学省からの発表にジェンダーの分析が含まれていたが、ベネッセ独自のデータでも次の観点から分析を試みた。具体的には、理数系教科の学力に男女差があるのか、また、理数系教科に対する態度に男女差があるのか、そしてその要因として挙げられていた、理数系教科が男性のものであるというステレオタイプな考え方との関連性、さらには、子どもたちの学習と将来の職業へのつながりが文理選択、特に理系選択にどのような影響を及ぼしているのかについて、ベネッセが持つ小学生から高校生までの大規模データ(*3)を使って分析した結果を報告する。

 

*3 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクト

高校生の文理選択において理系選択は増えていない

まず、高校生の文理選択の実態から見ていく。グラフは、2015年から2023年までの9年間にわたる高校1年生から3年生までの文理選択の変化を男女別に示したものである。理系は男子で5割前後、女子で3割弱ほど、文系は男子で3割強、女子で5割強の割合で、9年間、その傾向はほとんど変わっていない。高校生の文理選択においては、理系が増えているという実態は確認できていない。

では、高校以前の状況はどうだろうか。グラフは、小学4年生から高校3年生までの文理選択の状況を、学年別・男女別に見たものである。小学4年生の時点で大半の子どもが文系か理系かを選んでおり、文理意識というのが割と早い時期から子どもの中にはあることが分かる。次に、理系に着目してみると、女子はいずれの学年においても3割前後、男子は学年に上がるに連れて少し減っていくものの、それでも大体5割程度となっており、学年による差は大きくない。一方、文系は男子も女子も学年が上がるに連れて増え、女子は中学2年生以降、圧倒的に文系が増え、男子も高校に入ってから文系が増えていく。

 

また、以下のグラフは同じ子どもの中の変化を表したものだ。小学4年生の時点で文系と答えていた子どものうち、高校3年生になった時に66.1%は文系のままだが、16.5%が理系に変わっている。一方、小学4年生の時点で理系と答えていた子どものうち、54.5%が理系のまま、32.8%が文系に変わっている。以上のことから、文系から理系への変更よりも、理系から文系への変更の方が容易に起こりやすいことが分かる。中学1年生から6年間の変化を見ても傾向は同じだ。

成績は男女同等でも、女子の方が理数系教科が嫌い

文理選択の大きな要因と考えられる教科の好き嫌いについても見ていく。理科について、小学4年生の時点で好きと答えた子どもは約85%で、ほかの教科が6、7割程度であることを踏まえると、小学4年生の時点では、理科は多くの子どもに好かれている教科と言える。しかし、高校3年生までに嫌いと答えた子どもが3倍近くに増える。ほかの教科も学年とともに嫌いが増えていく傾向だが、理科は著しく増加する。算数・数学も、理科ほどではないが、学年が上がるに連れて嫌いになっていく。教科の好き嫌いと文理選択は強い相関関係があるため、理工系学部の定員拡充の流れの中、理数系教科が嫌いになる子どもの増加は課題の1つと言える。

教科の好き嫌いに成績や男女差の観点を加えて分析を行ったところ、小学4年生から中学3年生までは、理科、算数・数学ともに学力に男女差はなかった。理科の好き嫌いを見ると、小学4年生から高校3年生まで、男子の方が理科が好き、女子の方が理科が嫌いという傾向が続いた。算数・数学も同じような傾向だった。いずれの教科も小・中学校のうちは成績が男女同等であるにもかかわらず、男子の方が教科に対して肯定的で、女子の方が否定的であった。