- 高校向け
次代を担う全国の若手教師が集まり語り合う「若手教師・教育創造MTG」第2期・第2回オンラインミーティング 詳細リポート
2024/02/15 09:30
2020年4月にスタートした、若手教師による対話のコミュニティー「若手教師・教育創造MTG(ミーティング)」は、23年10月、新たなメンバーで第2期の活動をスタートした。23年12月にオンラインで開催された第2回ミーティングでは、メンバーの関心が高い「進路指導」「探究学習」「主体的・対話的で深い学び」の3テーマについて、代表メンバーの実践の発表と、それを基にした対話が行われた。その様子をリポートする。
生徒を主語にした進路指導を目指して
「進路指導」のテーマで発表したのは、富山県立南砺福野(なんとふくの)高校の土田俊輔先生。土田先生は「才能を開花させる進路指導」と題して、2020年に同校に開設された国際科で、初めての卒業生を送り出すまでの軌跡を語った。
自分たちが行っている「進路指導」は、本当に生徒を主語にした教育活動になっているのだろうか。気がつかないうちに、教師の思いが中心の「指導」になっていないだろうか。国際科の担任を務めることが決まった時、土田先生は自身の進路指導を問い直すことを決意した。そして、3年間を通して取り組んだのが、希望進路の実現のための生徒との「作戦会議」だ。「短時間でも、頻繁に」を方針に、副担任と手分けをしながら、土田先生は生徒と面談を重ねていった。最初はあまり自分の思いを話そうとしなかった生徒も、徐々に自分の言葉で「なりたい姿」を語れるようになったという。
また、土田先生は、「出会いの機会」の創出にも力を入れた。生徒にかかわる大人を保護者、教師以外にも増やしたいと考え、大学生や企業、地域の人たちなど、様々な人を学校に招き、生徒と対話する機会をつくったという。次第に生徒たちは、ゲストの人に質問や相談ができるようになっていった。
そうした3年間を振り返って土田先生は、「3年次の進路決定時に自分の考えをしっかりと語れる生徒が増えた。そして、生徒、保護者、担任の自分との間での進路に関する認識のずれが非常に少なくなった」と、チャレンジの成果を語った。
土田先生の発表を聞いたメンバーから、「確かに面談は生徒の心を動かすチャンスだが、面談には技術も求められる。どんなことを意識していたか」と問われると、土田先生は、「最近、どう?」といった言葉で始めることで、雑談のような雰囲気づくりを心がけていたと説明。「どんどん話す生徒の言葉には耳を傾ける一方で、言葉が出てこず、早く面談を終わらせたがっている生徒は追いかけ過ぎないようにした。ただ、常に願っていたのは、その時点での目標と、そこに向かうために今することを本人に語ってもらうことだった」と、自身の面談のポイントの一端を明かした。
生徒が他者とのかかわりの中で
自由を実現する探究型の授業
「探究学習」をテーマに発表したのは、北海道・市立札幌藻岩高校の對馬光揮(つしま・こうき)先生。對馬先生は「教科教育における『探究的な学び』とは」と題して、自身の担当教科である国語の授業における実践を紹介した。
まず、對馬先生は、教育学者・哲学者の苫野一徳(とまの・いっとく)・熊本大学教育学部准教授の「教育の目的は、自由の相互承認である」という考えを紹介しながら、對馬先生自身が考える授業の目的が「当事者意識を持ちながら、他者とのかかわりの中で自由を実現すること」であると述べた。その上で、教科の授業の中で、生徒は「自分がしたいことは何か」「それはどうすれば実現することができるのか」「それを他者は受け入れられるのか」「そしてほかの人がしたいことは何なのか」といったことを考えることが必要であり、一方教師は「生徒が自分のしたいことを見つけるには」「したいことを実現するために必要な支援とは」「それは他者に受け入れられるものなのか」「生徒同士が自由を認め合うためには」といったことを考えながら教育を展開することが必要であると語った。そして、そのための有効な学びの一例として、自身の授業での「探究的な学び」(*1)の実践を紹介した。
例えば、芥川龍之介の『羅生門』を題材に用いた英語科との教科横断型の授業では、登場人物の下人が発する「きっと、そうか。」という言葉の英訳に取り組んだ。生徒の英訳だけでなく、英語教育の専門家などの英訳も鑑賞し、多様な解釈・表現に触れたという。また、ICTを活用し、評論の「図解スライド」を作成する授業にも取り組んだ。制作過程での對馬先生との対話を通じて、生徒は自身の考えの変化を自覚し、また、他者と考えを認め合うことの大切さを体感していったという。なお、對馬先生が同授業後の生徒の振り返りをChatGPTを使って総括したところ、「難しさへの挑戦」「読解力の向上の必要性の認識」など、生徒の学習に対する意識の高まりが指摘されたといい、「生成AIは教師の授業改善にも役立てられそうだ」と語った。
對馬先生の先駆的な実践(*2)に対して、「ベテランを始めとする周囲の教師の理解をどのように得て、そして巻き込もうとしているのか」と、メンバーが率直な疑問をぶつけたところ、對馬先生は、「何よりも大事なのは自分の授業を先輩や同僚に見てもらうこと。だから公開授業を積極的に行っている」と、若手教師として新しい風を起こす際の第一歩を語った。
*1 對馬先生が考える「探究的な学び」の要素は、「1.生徒の内側から湧き出てくる欲求を基盤とした学び」「2.自分の個性・強みを生かせる学び」「3.複数のものの見方を連携させる学び」「4.日常に波及する学び」「5.他者とかかわることによって自己を見つめる学び」「6.多様な見方や考え方があることを想定して考え続ける学び」の6つ。
*2 對馬先生の実践の詳細は学校のウェブサイトで紹介されている。
https://www23.sapporo-c.ed.jp/moiwa/index.cfm/26,0,72,243,html
つながりの中で学び合い、
幸せを実現する「教えない授業」
「主体的・対話的で深い学び」をテーマに発表したのは、山口県立岩国総合高校の川端雄也先生。川端先生は「『手段』としての『教えない授業』」と題して、3コマをひとまとまりとして展開する自身の授業(生物)における実践を紹介した。
1コマ目は、川端先生が作成したプリントを使って目標と問い(課題)を把握。生徒は、川端先生が提示した問いに対する答えをどのように説明するか、各自準備を始める。2コマ目では、生徒は川端先生が示した問いに対する自身の答えをペアになって相手に説明し、互いにフィードバックを行う。そして3コマ目で、川端先生が作成した小テストが実施され、生徒はデザインソフトを用いてまとめの成果物を作成する。以上の3コマの中で、川端先生は全く講義を行わず、生徒同士がかかわり合いながら学びを深めていく。なお、定期考査を実施しない川端先生は、小テストと成果物を総括的評価の材料としている。
そうした授業を通じて川端先生は、「自由の中で、生徒同士がつながりをつくる」ことを大切にしている。そして、「つながり」は、生徒一人ひとりが「HAPPYな社会」の担い手となってほしいという川端先生の願いを実現するために不可欠なものだという。実際、「分からないことを諦めず、友だちや先生に聞くことで解決することができるようになった」といった、川端先生の授業に対する生徒の声が示す通り、「教えない授業」が、生徒間に幸せのためのつながりを生んでいるようだ。
発表では、普段の授業の様子が動画でも紹介されたが、活発に話し合う生徒の姿を見たメンバーから、「グループワークが苦手な生徒もいると思うが、どのように指導しているのか」という質問が投げかけられた。川端先生は、「話し合いが苦手な生徒は確かに存在する。そうした生徒を教師が無理に参加させようとしてもうまくいかないので、クラス全体に対して、『話し合いにうまく参加できていない人はいなかったかな? そんな仲間にできることはないかな?』などと投げかけ、生徒同士が支え合いながら、少しずつ変わることを期待している」と答え、つながりの中だからこそ生まれる力を重視している、自身の指導観を示した。
今回の3人の発表を聞いたメンバーからは様々な感想の声が上がった。
「若手教師こそ、単に実践するだけではなく、裏づけとなる理論と根拠を示すことができるようになるべきだと、再認識することができた」
「進路指導、探究学習、主体的・対話的で深い学びは、すべてつながっているのだと実感した」
「自分の教科に置き換えて考えてみたい具体的なヒントをもらえた」
「全国の先生方の取り組みが聞けて知識や視野が広がるので、本当によいコミュニティーだと思う。今後の日本の学校教育を発展させていくためにも、他校の先生方と対話を重ねていきたい」
若手教師が自身の実践を披露し、互いに研鑽する、今回のような機会を自分たちでもつくり、全国の先生方に参加を呼びかけたいといった声も上がった。まさに「つながり」の中で変容していこうとする「若手教師・教育創造MTG」(第2期)の活動は、今後も随時本サイトでリポートする。