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- 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2022年度 Vol.1
<教委がつなぐ地域と学校>
学校運営協議会での熟議を基に、子どもたちが自ら考え、地域に貢献
~山口県山口市教育委員会
2022/06/01 09:01
山口県山口市は、地域と学校との連携強化を支援しようと、2016年度、社会教育課と学校教育課が一体的に取り組む地域連携推進室を設けました。2021年度からは、学校運営協議会に児童生徒の参画を推奨。地域住民・教職員・児童生徒の三者による熟議は、多様な活動に発展しています(本誌P.34に掲載)。本記事では、その取り組みの内容と成果を詳しく紹介します。
▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)
山口市概要
人口:約19万2,000人/面積:1,023.23㎢/公立学校数:小学校33校、中学校17校/児童生徒数:約1万4,500人/地域連携推進室職員数:12人
お話を伺った先生
社会教育課 主幹(社会教育主事)、地域連携推進室 主幹 福井貴己(ふくい・たかみ)
(※概要・プロフィールは、取材時[2022年3月]のものです)
1.地域と学校がより一体となった学校づくりへ
「第二次山口市教育振興基本計画」で掲げる教育目標「やまぐちのまちで育む ふるさとを愛し 豊かな心と健やかな体で 未来を生きぬく子ども」の実現に向けて、山口市教育委員会(以下、市教委)が、児童生徒の意見を聞く機会を学校運営協議会に設定することを提唱したところ、2021年度は小学校12校、中学校9校が実行した。地域連携推進室の福井貴己主幹は、そのねらいを次のように語る。
「本市は、2012年度に全市立小・中学校がコミュニティ・スクールを導入し、地域と学校の協働体制は整いましたが、徐々に学校運営協議会が、単なる学校から地域住民への伝達の場に過ぎなくなっていきました。その状況を改善する手段の1つとして、学校運営協議会に児童・生徒も参画してもらうことで、議論の活性化を図ろうと考えたのです」
各学校の学校運営協議会は、年1~3回実施され、「自校の教育目標はどうすれば実現するか」「地域の行事や清掃活動の実施について」「校則について」などが議題に上がった。地域連携推進室の職員は、話し合いをサポートするため、各学校の学校運営協議会には必ず参加するようにした。
2.「地域協育ネット協議会」の活性化で、
地域と学校の連携を密に
地域と学校の連携強化にあたっては、「地域協育ネット協議会(地域学校協働本部)」の活性化も図った。同協議会は、幼児期から中学校卒業程度までの子どもの育ちや学びを地域総がかりで見守り、支援するために、中学校区を一まとまりとした地域のネットワークだ。地域のことを熟知した地域学校協働活動推進員(以下、推進員)を中心とした多様なメンバーで構成され、地域全体で子どもたちの学びや成長を支える。なお、地域協育ネット協議会の会議には、地域連携推進室の職員も参加するようにしている。
推進員は、地域の代表として学校運営協議会にも参画する。また、学校運営協議会や地域協育ネット協議会の際に役立つファシリテーション研修を、推進員を対象に実施している。
地域協育ネット協議会が地域と学校をつなぐ役割(図1)を担い、「学校を核とした地域づくり」と「地域とともにある学校づくり」を目指している。
図1 山口市の地域連携教育の体制
3.【山口市立島地(しまじ)小学校】
熟議を通じて地域活動への参画意識を育む
山口市立島地小学校では2021年度、学校運営協議会に5・6年生15人が参画し、地域の人々が学校を訪れる「ふれあいの日(参観日)」の企画を立てたり、「学校・地域連携カリキュラム」を作成したりした。
「ふれあいの日(参観日)」の企画は、子どもが中心となって練り上げた。「総合的な学習の時間」と国語科の授業を活用し、学校運営協議会に参画していない子どもを含めて事前に話し合い、素案を作成。学校運営協議会の当日、地域住民・教職員・児童の混合グループを複数組み、各グループにおいて、児童が端末を用いながら、授業で準備した内容を提示した(写真1)。それを基に三者が熟議をし、最後に、話し合った内容を、各グループとも、グループの代表として児童が発表した(写真2)。
地域住民からは、「子どもたちから、地域のメンバーと一緒に勉強したいという気持ちが伝わってきて、うれしかったです」「大人が集まる中で、子どもたちが自分の考えを言うことができるのは、素晴らしいです」といった声が上がった。
また、子どもからは、「地域の大人たちと話し合うことは、今まで経験したことのない貴重な機会になりました」「これからも、地域の人と一緒に発表の準備などを工夫してやっていきたいです」などの声が聞かれた。
「学校運営協議会の活動を授業の一環として取り組んだことで、子どもは事前にしっかり準備をすることができたため、自信を持って熟議に臨めたようです。また、地域住民は、子どもの学びに間近で触れることによって、学校運営協議会に参画する意義を改めて感じることができたと思います」(福井主幹)
そうした熟議を経て実現した活動が「ホタルの鑑賞会」だ。同小学校区に流れる川にはホタルが生息し、地域の魅力の1つとなっている。子どもがホタルについて学び、発信すれば、それが地域のPRにもつながると考え、学校運営協議会で話し合った。
「夜間に児童が外出する教育活動の実施は、安全面の問題から容易ではありません。また、河原の整備なども必要な状況でした。いくつかの課題がある中で、地域の方に『草刈りは我々に任せてください』などと積極的に行動していただいたことで、ホタルの鑑賞会が実現しました。学校だけでは実現が難しかった学びを実現することができたのは、学校と地域の連携による大きな成果だと感じています」(福井主幹)
地域と連携した教育活動を通じて、同校の教員は子どもたちの資質・能力の向上を感じている。
「地域の方とのかかわりが増える中で、子どもの地域活動への参画意識が高まっています。さらに、自分たちにできることがあることを実感することで、自己肯定感が高まっていると感じます」「授業での学びが社会でどう生きるのかを子どもに体験させるとともに、コミュニケーション能力や表現力をつけることができています」といった意見が、教員から寄せられているという。
4.【山口市立小郡(おごおり)中学校】
生徒会を中心とした地域参画活動で、地域貢献の意識を育む
山口市立小郡中学校では、生徒が学校運営協議会や地域協育ネット協議会に臨む前に、「総合的な学習の時間」などを活用して、「小郡を将来、どのような地域にしていきたいか」「小郡の〇〇を生かして、地域として何ができるだろうか」「小郡の〇〇を生かして、小郡中学校として何ができるだろうか」といったことを話し合った(写真3)。
話し合った内容は地域住民に提案。熟議した内容を持ち帰り、生徒会が中心となって、自分たちができる活動を具体化していった。そして、市内の駅前におけるイルミネーションの展示や駅周辺の清掃、保育園に配布するおもちゃ作りなどを行った。
生徒が学校運営協議会や地域協育ネット協議会に参画し、地域との連携事業を推進していくことは、同校が育成を目指す生徒像「ふるさと小郡を愛し、社会に貢献できる生徒」の実現に寄与するものだと捉えられている。
実際、生徒へのアンケート結果を見ると、「地域や社会をよくするために何をすべきか考えることがありますか」の肯定率(「あてはまる」+「どちらかというとあてはまる」)が、生徒参画型の学校運営協議会を始めた2020年度は63.6%と、前年度から約29ポイント上昇しており(図2)、生徒の地域貢献への意識が高まっていることが分かった。
図2 小郡中学校 生徒へのアンケート結果
市教委では、各学校での成果を受け、今後、児童生徒が参画する学校運営協議会の実施を市内全体に広げていく考えだ。さらに2022年度は、新たな取り組みとして、学校運営協議会での熟議を通じて提案された内容を具現化する事業を進めていくこととしている。
「社会教育課と学校教育課が力を合わせた地域連携推進室に2022年度、訪問相談や保護者カフェ等にかかわる家庭教育支援の担当者が新たに加わりました。今後も、学校・地域・家庭の三者の連携をより強化しながら、未来を生き抜く力を持った子どもたちを育てていきます」(福井主幹)