生徒の学びの意欲を引き出す
「余白」や「選択肢」をいかに生み出すか

2022年4月27日、「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」(事務局・ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「“学びの意欲”を考える」をテーマとしたトークライブがオンラインで開催された。1人1台端末や高速大容量の通信ネットワークが整備されるなど、学びを取り巻く環境が大きく変化する中、子どもの学びへの意欲をどのように捉え、成長を支えていくべきか、多様な議論が交わされた。

■登壇者
東京都 調布市立多摩川小学校 指導教諭 庄子 寛之
広島県 英数学館中・高等学校 副校長、岡山理科大学附属高等学校通信制課程 副教頭 土屋 俊之
福島県 学校法人石川高等学校 教育改革推進リーダー 岩瀬 俊介

モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 小村 俊平

左上/庄子先生 右上/土屋副校長
左下/岩瀬先生 右下/小村

学びの体系が変化する中、「意欲」をどう捉えるか

ベネッセ教育総合研究所では、中学校・高等学校の有志の教員によるオンライン対話「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」を定期的に実施している。トークライブは、その中で議論されたテーマを掘り下げる場として開催している。2022年4月27日は、「“学びの意欲”を考える」というテーマでプロジェクトメンバーが語り合った。

最初に、モデレーターのベネッセ教育総合研究所主席研究員の小村俊平が、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所による共同研究プロジェクト「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」から、学びの意欲に関するデータを紹介。「勉強しようという気持ちがわかない」の肯定率が、小学校から高等学校までのどの学年でも年々増加していることなどが示された(図1)。

図1 勉強しようという気持ちがわかない(学年別)の「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%。
出典/東京大学社会科研究所、ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」ダイジェスト版

本データから感じたことを述べ合う中で、英数学館中・高等学校の土屋俊之先生は、「このデータは、授業に対する意欲を尋ねていると思われますが、今は学びの体系が大きく変化しつつあります。学校外を含めた学び全体の意欲について調査すれば、これとは違う結果が表れるかもしれません」と指摘した。

学校法人石川高等学校の岩瀬俊介先生は、「確かに、自分の興味・関心に沿って学んでいることについて、子どもは『勉強している』といった意識を持っていないかもしれません。そうした学びに慣れてくると、ことを暗黙で想起する勉強、意欲がわきづらいと回答しやすいとでしょう」と述べた。

一方で、調布市立多摩川小学校の庄子寛之先生は、「クリエイティブな発想で教育をよりよくする動きが活発ではありますが、旧来型の指導も行われています。子どもの学びの選択肢が増えたり、『学び』と『勉強』との違いに気づいたりといった変化もあると思いますが、それだけでは学習意欲が低下しているという要因は説明し切れないとも感じます」と意見を述べた。

「余白」と「選択肢」が学びの意欲を引き出す

すると、小村主席研究員が、同調査において、「『経済的な格差』は努力しても乗り越えにくい」と考える保護者が増えていることを挙げた(図2)。

「学びの意欲は個人の責任、すなわち自己責任であるといった暗黙の了解が、に広まっている気がします。しかし本来、意欲と環境は切り離せず、いかに環境を整えていくかが重要なはずです」と、問題意識を提示した。

図2 今後の社会についての考え(保護者)
出典/東京大学社会科研究所、ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」ダイジェスト版

土屋先生は、自身が副教頭を務める高等学校の通信制課程での指導を例に、意欲を引き出す環境づくりについて説明。「本校の通信制では、3年間で卒業することを前提していません。8年間かけて卒業する生徒もいますが、保護者は『それが子どものペースだから』と納得し、本人も意欲的に学んでいます。そのように、学びの時間の流れを子ども自身のものにする環境づくりを大切にしています」と語った。

庄子先生は、その考えに共感を示し、「意欲を高めるには、『余白』と『選択肢』の2つがポイントだといえそうです。ただ、小学校から中学校、高等学校に進むにつれ、学ぶ内容はどんどん増え、子どもが忙しくなっていきます。それを考えると、『余白』と『選択肢』をどのように確保するかが重要だと感じました」と意見を述べた。

岩瀬先生は、「生徒にとって余白は大事ですが、これまでの教育は、余白を与えず、知識を詰め込む傾向にあったと思います。教員や保護者が、子どもに余白を持たせることに不安を感じていたからでしょう。本校が新しく設置した『イノベーション探究コース』では、宿題などを課さず、生徒が学び進めていく、意欲を引き出す環境づくりに力を入れています。その趣旨を保護者会で丁寧に説明し、理解を求めました」と話した。

同様に、子どもが自身で学びをつくり出していく例として、土屋先生は副校長を務める中学校・高校での試みを紹介。「本校では、平日に探究学習に関する校外での活動を希望する場合は、公欠扱いにできるようにしました。コロナ禍を機に、教員が授業を撮影してアーカイブにするケースが定着し、欠席した授業の動画を後で視聴して学ぶことができるようになったため、本制度の導入に踏み切りました」と説明した。

それらの意見を受け、小村主席研究員は、「OECD Education 2030 プロジェクト」の議論に参加した経験から、教育課程に学習事項が大幅に積み込まれている「カリキュラム・オーバーロード」の問題について指摘した。「学ぶことが多過ぎて悩んでいるのは、どの国も同じです。学ぶ内容を与えることも大事ですが、一方で、子ども自身が学びをつくり出す時間を確保することが重要だと、今日の議論を聞いて改めて感じました」と話した。

教える側に余裕があってこそ、教育に余白が生まれる

聴衆にも意見を求めたところ、高校生が自身の体験を基に学びの意欲について考えを述べた。「探究学習で公欠が取れる制度は、とてもよいと思いました。小学生の頃は時間がたっぷりあって、自学ノートで自分のための学びをしていましたが、高校生の今は、テストのための勉強に追われています。授業がつまらないと感じるのは、知的好奇心が満たされない、自分から発信できないなど、自分がやりたい学びが思うようにできないからだと分かりました」

それに対して小村主席研究員は、「教員が一方的に教えるだけで、生徒とのコミュニケーションが成立していないのかもしれません。授業における人間関係や場づくりの重要性が大事だと感じます」と、生徒の意欲を高める授業や声かけについてヒントを求めた。

すると、庄子先生は、「私は、事実をそのまま伝えるのではなく、その先を見据えた声かけを大事にしています。例えば、忘れ物をしやすい子どもには、次に忘れ物をしないためにどうすればよいかを一緒に考えたり、その子のよい面に着目して認めたりして、今後の生きる力を伸ばすことを意識しています」と語った。

岩瀬先生は、教員自身が余裕を持つことが大切という視点を提示した。「生徒から質問された際に、『あなたはどう思いますか』と問い返し、生徒自身が考えることが大事であるはずです。しかし、教員に余裕がないと、すぐに答えを教えてしまい、学びに余白が生まれません。つまり、教える側が余裕を持つことが必要です」と話した。

土屋先生は、生徒一人ひとりに寄り添った声かけのあり方について話した。「学校外のイベントへの参加者を募っても、周りの様子を見て手を挙げられない生徒がいます。本校では、生徒一人ひとりの興味・関心や得意なことをデータ化しており、個別に『実は興味があるでしょう』と声をかけるようにしています」と実践を説明した。

なぜ、学びの意欲が大切なのか?

最後に、メンバーがそれぞれトークライブを振り返り、気づきや思いを語った。

土屋先生は、「例えば、教員が授業で話す時間に上限を設けるなど、今の教育の仕組みを生かしつつも、生徒の意欲や満足度を高められる手法を模索し続けたいと思いました」と述べた。

岩瀬先生は、「生徒の興味・関心が大きく変わる中、従来型の『勉強』を続ける限り、意欲は下がり続ける一方ではないでしょうか。生徒の意欲を引き出す教育環境をいかにつくり出していくかが重要であり、それを考え続けていきます」と語った。

庄子先生は、「大人が学ぶことの楽しさを伝え続け、行動し続けることが、生徒の意欲につながると思います。そのためにも、挑戦し、失敗したら褒められるという文化をつくることが大切であり、まずは自分自身がそうした姿勢を持ちたいと思います」と話した。

小村主席研究員は、「OECD Education 2030プロジェクト」が提示する幸せに生きるための資質・能力の1つに、「ジレンマや緊張を解決・解消する力」があることを紹介した。「今日の議論は、『学びの意欲は高い方がよい』という前提で進めましたが、そもそもなぜ、意欲が必要なのでしょうか。自分が楽しさを感じることに対して意欲を持つことも大事ですが、ジレンマやあいまいさを受け止めて解決に向かうためにも強い意欲を持ち続けることが必要でしょう。今日の議論を通じて、そうした観点を持つことも大事だと改めて感じました」と締めくくった。

■視聴者からの意見・感想

◎「勉強=義務・嫌々すること」と捉えている中高生が本当に多いと感じています。子どもの知的好奇心を生かし切れていない、受け身型の授業を続けてきた結果、学びの楽しさに気づけないままなのかもしれません。

◎学んでいる最中には、「分からない」ことに直面します。それが「つらい」と捉えられると、意欲が減退するのかもしれません。「分からない」に挑むことの喜びと大切さをどう体験するかが大切なのだと思います。ICT活用が進めば進むほど、「分かりやすさ」が追求されてしまい、「分からない」ことへの耐性が失われてしまうのではないでしょうか。

◎「勉めて強いる」から「問い学ぶ」ということ、「効率的な知識伝達」から「能率的な意識共有(面白さや感情を共有する)」に比重を移すこと。そうした方向に一歩ずつでも進めるとよいと思いました。

◎教員が学ぶことの楽しさや意欲を持つこと、学校の外に出て学ぶことも必要だと思います。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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