「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」第123回
「教科『情報』の学びとは?」開催

ベネッセ教育総合研究所では、有志の教員らがオンラインで対話する「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」を、2020年4月から週1回のペースで実施している。2022年11月の第123回では、新学習指導要領において、高校で必履修科目となった「情報Ⅰ」の指導をテーマに対話会を行った。様々な教科の教員や教育関係者らが、教科の枠を超え、情報社会を生きるための力を生徒にどう育むかを語り合った。

中学校までの学びを意識して、「情報Ⅰ」の授業づくりを

高校で必履修科目となった「情報Ⅰ」は、旧課程で多くの高校が設置していた「社会と情報」と比べて学習内容が大きく拡充されたこともあり、学校現場には指導体制の再整備や教科間の連携などの対応が迫られている。そうした課題を前提として、話題提供者である米田先生は、まず、「情報Ⅰ」の学習内容のポイントを提示し、従来の情報科から何がどう変化したのかを解説した。

「情報Ⅰ」は、旧課程の「社会と情報」と「情報の科学」の内容が統合され、①情報社会の問題解決、②コミュニケーションと情報デザイン、③コンピュータとプログラミング、④情報通信ネットワークとデータの活用の4つの柱で構成されている。米田先生は、「このうち『情報デザイン』『プログラミング』『データの活用』には新しい内容が多く含まれており、それらの分野をどう取り扱うかが授業づくりの鍵と言えます。特に、数学や理科と連携し、教科横断の学びを作り上げる際にも重要な分野となります」と説明した。

「情報Ⅰ」の授業では、小学校からの学習の積み上げを意識することが必要だとも語った。「小・中学校には情報に特化した教科はありませんが、各教科を通して『情報デザイン』『プログラミング』『統計に関連した学び』など、生徒はそれぞれの基礎を学んでいます(図1)。生徒にはそれらが土台にあるとして、『情報Ⅰ』の授業づくりを考えるとよいでしょう」と、米田先生は語った。

図1 小学校・中学校・情報Ⅰ・情報Ⅱの学習の積み上げ

学びを充実させる4つの柱のポイントとは?

続いて、米田先生は、4つの柱についてそれぞれ指導のポイントを提示した。

①情報社会の問題解決
どの教科でも問題解決型学習が重視されているが、「情報Ⅰ」では、統計を活用して思考・判断・表現を働かせる問題解決のサイクルが重要になると説明(図2)。「統計では、『数学Ⅰ』と連携して、科学的な根拠に基づいて判断するなどの力が大切になります」と述べた。さらに、社会科で情報社会に関する法律や制度を学ぶなど、他教科と横断した学びを充実させて問題解決力を高めているという自校の実践について紹介した。

図2 「情報Ⅰ」の授業で行う問題解決のサイクル

②コミュニケーションと情報デザイン
「情報デザイン」は、目的や意図を持った情報を受け手に分かりやすく伝達したり、情報の操作性を高めたりするためのデザインの基礎知識や表現方法、およびその技術を指す。米田先生は、「『総合的な探究の時間』でよく行われるポスターセッションやプレゼンテーションは、情報デザインの知識・技能があるとその質が高まります。さらに、アルゴリズムやプログラミング、ネットワークなどを学ぶ上でも、情報デザインの考え方は重要になります」と説明した。

③コンピュータとプログラミング
「コンピュータの仕組み」「アルゴリズムとプログラミング」「モデル化とシミュレーション」などについて学び、問題の適切な解決方法を考えていく。「プログラミング言語の指定はなく、教科書によっては複数の言語を扱っています。現状では、Pythonを選ぶ高校が多いようです」と、米田先生は全国の高校の動向を示した。

④情報通信ネットワークとデータの活用
ネットワークを構成するものやプロトコル、情報セキュリティ、クラウド、分散型データベースなどについて学び、小規模な情報通信ネットワークを設計できる力の育成を目指す。「ネットワークやデータを扱うため、数学教員も関心を持ちやすい分野だと思います」と、米田先生。「質的データと量的データ」などの分野は、探究学習と関連づけて学びを深めやすいことも解説した。

教科間連携、教員のスキルアップが鍵

次に、米田先生は「情報Ⅰ」の課題を提示した。

その一つは、プログラミングの難度の高さだ。米田先生は、「『情報Ⅰ』は文理の別を問わずすべての生徒が学習し、大学でのあらゆる分野の学習の基盤となるものです。中学校の技術・家庭科では、プログラミングについてかなり深い内容まで学ぶことになっているため、『情報Ⅰ』でも『関数の使用による構造化』など、旧課程の『情報の科学』で扱った内容よりも難しいものとなっています」と指摘した。

学習内容の複雑さや学習量の多さへの対応も課題になると指摘した。「教科間連携を取り入れながら、ICT社会で必要となる幅広い能力を育む必要がありますが、それを2単位で行うにはかなりの工夫が必要です。カリキュラム・マネジメントの見直し、指導する教員の増員やスキルアップが必要になります」と、米田先生は提言した。

大学入学共通テストの「情報」の取り扱い関しても見解を述べた。一部の国立大学は、大学入学共通テストで「情報」を必須として課すが、配点しないと予告している。米田先生は、「大学入試における『情報』の扱いはまだまだ不透明な点が多く、高校現場が対応に苦慮されている様子がうかがえます。試験は課すけど点数化をしないとなると、受験生のモチベーションに大きな影響が出ることも懸念されます。最終的な対応について、さらに検討がなされてほしいと思います」と話した。

受験以外で情報科の学びへの動機付けを強めることが重要

話題提供を受け、グループに分かれて対話を行った後、全体で共有した。

あるグループでは、「公立高校の教員の場合、異動すると使用するアプリや指導する言語が変わる可能性があるなど、様々な課題があります。それらの課題への対応考えることが大事だと思いますが、情報科の教員だけでの解決は難しいでしょう。学校全体、さらには教育界全体で取り組む必要があり、その点でも、今日のように様々な教科の教員と対話する機会は重要だと思いました」と意見を述べた。

別のグループの参加者は、「私のグループでも、情報科の教員だけではなく学校全体がチームとなって指導の充実を図る必要があるという意見が交わされました。『情報Ⅰ』の学習内容について、各教科の教員が、担当教科で担うことができる指導を明確にし、情報科に負担が偏らないようにすべきではないでしょうか」と提案した。

また、情報科の教員は、「生徒が情報の学びに興味を持てるようにしようと、実習を充実させたいのですが、時間が足りないと感じます。また、1年生からは、授業で受験対策を行ってほしいと要望がありますが、情報科は学びの内容がどんどん新しくなっていく教科であり、2年後の受験時に、それまで学習内容では通用しなくなっているのではないかと心配しています」といった課題意識を提示した。

それらの意見を受けて、米田先生は、「今日はとても有意義な議論ができました。大学入学共通テストに関する動向が明らかになった後、改めて同じテーマで対話したいと思いました」と述べた。

最後に、プロジェクトの代表を務めるベネッセ教育総合研究所の小村俊平教育イノベーションセンタ—長は、対話を通して考えたことについて、次のように述べた。
「大学入学共通テストに『情報』を加えたことは、生徒を情報科の学びに向かわせる意味合いが大きいと思いますが、大学入学共通テストを受けない生徒もいることを考えると、別の動機づけが必要になるでしょう。高校時代に情報に興味を持てず、何も学ばずに過ごすことは、生徒にとって大きな損失です。授業を通して情報を学ぶ面白さを伝えたり、生徒が挑戦する機会を設けて自分で面白さを見つけさせたりすることは、高校の大きな社会的使命になると感じています」

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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