生徒の成長が期待できる外部発表の機会をいかに活用していくか

2023年2月1日、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」(事務局:ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「外部発表の機会と学校の関わりを考える」をテーマにトークライブがオンラインで開催された。昨今、全国の中学校や高校で探究学習が盛んに進められているのに伴い、学校外でその成果を発表する場も数多く設けられている。生徒が探究学習を深めていくために、そうした機会をどのように活用したらよいか議論が交わされた。

■登壇者
岡山県立瀬戸高等学校 指導教諭 絹田昌代
埼玉県 西武学園文理中学・高等学校 教諭 加藤礼

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンタ—長 小村 俊平

左上/絹田先生 右上/加藤先生 下/小村

”自分の好き”をもとに探究テーマを探る

これまで「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」では、探究学習のあり方について何度も対話を重ねており、その中でも今回は「外部発表の機会と学校の関わり」をテーマとしてとりあげた。近年、探究学習の成果を外部で発表する学校が増えているが、そうした機会は生徒にとってどのような意義があるのか。また、教員は外部発表の機会をどのように活用すべきか。今回は外部発表という観点から、探究学習にまつわる様々な課題について議論した。

最初に、登壇者の2人が勤務校における探究学習について紹介した。

絹田昌代先生が勤務する岡山県立瀬戸高等学校は、「総合的な探究の時間」を中心としたキャリア教育に力を入れている。1年次前期は地域課題に取り組み、1年次後期と2年次は自分が大切にしている価値から自分が学びたい学問へつなげる探究学習を行い、3年次は自分の進路を考えていく。
「本校の探究学習の特徴は、地域課題や自分の好きなこと、将来の進路というようにテーマを変え、複数回、探究のサイクルを経験することです。1・2年次はグループで、3年次は個人で探究に取り組みます。その成果は、年2回の校内発表会『セト☆フェス』で発表するほか、希望者は『全国高校生マイプロジェクトアワード』『ベネッセ STEAMフェスタ』に参加します」と語った。

次に、西武学園文理中学・高等学校の加藤礼先生が、自校の探究学習について説明した。同校には、普通科と先端サイエンスクラス(理数科)が設置されている。1年次は、2学科共通で「文理探究」を実施。地元狭山市の地域課題に取り組みながら、探究の手法を学ぶ。普通科は2年次以降も地域課題をテーマとし、理数科は2年次から自分の興味・関心を基に個人探究を行う。校内で探究発表会を実施するほか、「ベネッセ STEAMフェスタ」や探究テーマに合った学会などの外部発表にも参加している。

テーマが見つからない生徒にどうアプローチするか

2校の実践を受けて、小村俊平教育イノベーションセンタ—長は、「両校ともに、生徒の興味・関心を軸に探究学習に取り組んでいますが、好きなことが見つからない生徒もいると思います。そうした場合、教員はどのように関わっていますか」と質問した。

絹田先生の高校では探究学習を始めた当初、1年次に興味のある大学の学部・学科の調べ学習を行っていた。しかし、「何学部を調べればよいか分からない」という生徒が少なくなかった。大学でどんな学問を学べるかを知らないので、いきなり学部を選ぶのは難しいのだと気づいた。そこで、自分の価値をヒントに、興味・関心のあるテーマを考えられるようにした。経済協力開発機構(OECD)が開発した「より良い暮らし指標(BLI)」を構成する11の分野(住宅、収入、雇用、共同体、教育、環境、ガバナンス、医療、生活の満足度、安全、ワークライフバランス)を活用し、それらの中で何に自分が一番価値を置いているか問いかけた。
「例えば、環境に関心がある生徒は、『自分は釣りが趣味だから、近所でよく釣れる、なまずについて調べてみよう』と、徐々にテーマを絞り込むことができるようになりました」と述べた。

一方、加藤先生は、理数科で探究学習を始める際、まず生徒に好きなことに関わるキーワードを10個挙げてもらうと説明した。「いきなり1つにテーマを絞るのは難しく、そこで思考が止まってしまう生徒もいます。1歩でも前に進めるように、『とりあえず10個、出してみようよ』と、気軽に取り組めるように声をかけています。そこから徐々にテーマを絞っていきます」と述べた。

すると、小村教育イノベーションセンタ—長は、「生徒から学校で対応が難しいテーマが上がってきた場合、どのように向き合っていますか」と投げかけた。

加藤先生は、「実現の可能性が低いテーマだったとしても、『よく考えたね』『いい考えだね』と、まずは受け止めます。最初に生徒の考えを否定してしまうと、ネガティブな気持ちで探究に取り組むことになってしまうからです。学校の設備や予算の関係で探究が難しい場合は、それを正直に伝えます。ただ、基本的には、『自由にやってごらん』と伝え、生徒に試行錯誤してもらいます。私の専門外のテーマに取り組む生徒も多いですが、調べ方や深め方は支援できます。私自身、生徒と一緒に勉強する気持ちで取り組んでいます」と述べた。

絹田先生は、学校で対応できる教員がいないテーマであれば、外部人材を活用しているという。
「国語科教員の私は、理系の探究テーマに関して専門的なアドバイスはできません。そこで、探究学習に関して本校と連携している大学の先生や企業の方にメンターになっていただき、アドバイスをお願いしています。学校としても任せて安心ですし、専門家からアドバイスを受けた方が生徒の目が輝きます」と語った。

外部発表で生徒は大きく成長する

次に、外部発表の機会について語り合った。
小村教育イノベーションセンタ—長は、「2校とも校内発表会を実施していますが、なぜ外部発表にも参加するのでしょうか。そうした場に何を期待していますか」と質問した。

加藤先生は、「生徒は外部発表で、他校の生徒や大学教員などの大人と出会い、大きな刺激を受け成長します。引率する教員にも出会いがあり、自校の探究を見つめ直す機会になります。そうしたワクワクを生徒や教員が感じるために、外部発表の機会を活用しています。ただ、そのワクワクを一過性で終わらせず、探究学習を磨くための一場面にすることを、校内で共有する必要があると思います」と述べた。

絹田先生も、外部発表は生徒が様々な出会いを通して成長できる場であるとし、校内発表にも地域や企業からゲストを招きアドバイスをもらえる場にしていると述べた。
「私も発表の場は大きければ大きいほど、生徒は成長すると感じます。昨年度までは校内選考を通過したチームだけが外部発表に参加していましたが、今年度からは参加を希望制にしました。すると、あるチームは過去に他校が発表した動画を見て、『この内容のままでは自分たちは発表できない。もっと頑張ります』と奮起して、発表内容を練り直していました。意欲があればどのような生徒が参加しても、外部発表に挑戦する意義があると思います」と語った。

それを受けて、小村教育イノベーションセンタ—長は、「外部発表は外部評価の機会ではなく、武者修行や腕試しの場となっていますね。参加して教員以外の大人から今後の活動のヒントをもらい、前向きになることが重要だと思います」と述べ、外部発表の場におけるアドバイザーの重要性を指摘した。

加藤先生はその意見に大きくうなずき、「外部発表の場で褒められてばかり批判されてばかりでは、生徒は成長しません。よりよい探究にするためのアドバイスを、本気でしてくれる大人に出会える場を、教員が上手に設定する必要があります」と述べた。

絹田先生の高校では、数年前から「ベネッセSTEAMフェスタ」に参加している。「アドバイザーの方から鋭い指摘があっても、必ずよい点も褒めてくれるので、生徒は自己肯定感を高めてきます。私が100回褒めても、身内感覚のためか、それほど自己肯定感は高まらないので、貴重な場だと感謝しています」と、外部発表の機会の重要性を語った。

探究のプロセスを評価してほしい

小村教育イノベーションセンタ—長は、「外部発表を上手に利用して、探究学習を充実させている学校が増えています。高校での探究学習の成果を、総合型選抜や学校推薦型選抜で活用する大学も増加中です。高大接続の視点で探究学習を考える際、何が課題でしょうか」と質問した。

加藤先生は、「面接で探究学習について話すと、鋭い質問をする大学とそうでない大学があると、生徒から聞いています。大学によって探究学習への評価に差があるようです。鋭い質問をする大学は、研究力や教育力があるのではないかと感じます」と述べた。

絹田先生は、「生徒に聞くと、総合型選抜の面接では『本学で何を学びたいですか』とよく質問されるそうですが、志望動機よりも探究学習のサイクルで身につけた力を評価してほしいと思っています。高校時代に大学で学びたいことを明確に決めなくてもよいと思うからです。『大学でも高校と同じ内容で研究している』と聞くことがあり、少し残念です」

ここで、視聴者にも話を聞いた。ある高校教員は「本校では、探究学習、外部発表の機会、大学入試の3つの連携がうまく取れていません。それぞれが別の活動になっていて、探究学習の成果を生かせていません」と述べた。

それに対して加藤先生は、「本校では、大学入試や外部発表で高い評価を得ることを、探究学習の目標にはしていません。特に理数科には、研究者を目指している生徒が多いため、自分の興味のある探究に取り組み、それを深める機会として外部発表に参加するのは自然な流れだと考え、カリキュラムの中に外部発表を組み込んでいます。ただ、大学入試で探究学習の成果が活用されることになり、それも考慮したカリキュラム・マネジメントを考えるのは難しく、高校現場は過渡期を迎えていると思います。今日のように全国の先生方と日本の探究学習をどうすべきか、考えていきたいです」と語った。

探究学習を推進する鍵は、組織化

小村教育イノベーションセンタ—長は、「視聴者からいただいた事前アンケートでは、『探究学習に協力してくれる先生をどのように増やしているか』という質問がありました。お2人はいかがでしょうか」と尋ねた。

絹田先生の勤務校では、自身が室長を務めるキャリアデザイン室が中心となって、探究学習の企画・運営をしている。同室の教員が、管理職と学年団の教員とをつなぐ役割を果たすことで、学校全体で探究学習を推進できるようになったという。
「探究学習の2年目に、校長が全校で探究学習を推進するためには、個人の力に頼るのではなく、組織化が必要だと考え、現在の体制を整えました。若手教員2名が学年主任と連携して各学年の探究学習を進め、校長と私が外部との折衝、教頭が全体をまとめています」と、役割分担の状況を説明した。

加藤先生の勤務校では、普通科は学年の分掌の「探究チーム」が、理数科は加藤先生が中心となって、学年の先生と連携しながら探究学習を進めている。
「理科教員の私は、学生時代に研究に取り組み、探究学習の方法がイメージできますが、探究自体に馴染みのない先生もいます。そうした先生方とどのように探究学習を進めていけばよいか、一緒に探究していこうと思っています。また、コミュニケーションが大切です。自分から探究の楽しさを発信することで、『何か手伝えることはないですか』と声をかけてくれる先生もいます」と述べた。

探究学習を通じて、自分らしさをアップデートさせる

最後に、登壇者の2人が「よい探究とは何か」を語った。

絹田先生は、「よい探究とは、生徒が自分の決めたテーマを深め続けていくことだと思います。探究学習では、学びを深め、『この分野は誰にも負けない』となれば、勉強や運動が苦手でも、誰もがスターになる可能性があります。一人ひとりの生徒が、そうした種を高校時代に見つけられるよう支援していきます」と話した。

加藤先生は、「高校卒業後、自分の探究学習を振り返ったときに、何か気づきが得られるようなものになっているとよいと思っています。外部発表の機会を通して、他校の高校生や大人と出会うことで、よりよいヒントが得られれば、さらに探究の質を高めることができるでしょう。そうした探究コミュニティーが広がることで、日本はさらに成長していくのではないでしょうか」と語った。

小村教育イノベーションセンター長は、「探究学習で身につくのは、知識や技能だけではなく、物事を深めるためのアプローチではないでしょうか。『深める』といっても、専門家の観点でどこまで深められたかは大切ですが、それ以上に、自分なりにどれだけ深められたかが大切です。また、探究学習は自己肯定感を高められる活動です。探究学習を通じて、自分の将来が楽しみになる、自分らしさがアップデートするといった経験こそが大切です。中・高校生がそうした経験のできる場を、今後も私たちが提供していきましょう」と述べ、議論を締めくくった。

■視聴者からの意見・感想

◎探究学習に堅苦しく取り組んでしまうと、生徒の発想が閉じこもってしまうので、加藤先生の言うように、気楽に始めるのがよいと思いました。そして、生徒自身が「分からないことが楽しくて仕方ない」という思考になるのが、最高の探究だと思いました。

◎外部発表の場では、生徒も教員もどうしても評価されることを気にしがちです。生徒が本当に注目してほしいことをアピールする探究発表会があればよいなと思いました。

◎生徒が外部発表に参加する際、教員が自分をよく見せたい気持ちが働き、「よりよい内容にしなくては」と思ってしまいがちです。絹田先生がおっしゃっていたように、参加すること自体で、生徒は成長します。生徒の視点を大切にして、上手に外とつながりを活用していくべきだと思いました。

◎探究学習において、周囲の大人が、探究的な生き方を生徒に見せられるかが重要だと思いました。自分の仕事が探究的になっているのかを振り返りながら、生徒と向き合いたいと思いました。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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