東京都港区の私立広尾学園中学校・高等学校(以下、広尾学園)は、近年堅実に大学進学実績を積み上げている。海外大学の合格者数も全国トップクラスで、2024年度卒業生の実績は第1位だ。今回は、海外進学の人気の背景とともに、最新の海外進学事情を同学園の植松久恵教頭と尾澤章浩海外大学担当部長に聞いた。

(聞き手:ベネッセ教育総合研究所 石坂 貴明)
 

保護者と生徒の期待値の変化 —— “将来有利”から“教育的価値”へ

 
――― 首都圏の高校を中心に海外大学進学者数が増加傾向にある背景は何でしょうか。

 
「今では最初から海外大学を志望する生徒は珍しくなくなりました。一昔前は、海外大学への進学を希望するのは、海外駐在経験がある家庭が主でした。

しかしここ数年、年間を通して多くの海外大学が本学園を訪れ、説明会などを行うこともあり、海外大学が進路を考える上での身近な選択肢の1つとなっているように感じます」と同学園植松教頭は語る。

 
「近年は、より多様な価値観に触れ、人間として成長してほしいという、本質的な学びへの期待を持っている保護者が増えています。

また、生徒自身も、将来の就職のためというよりも、多様な環境で多様な人々と、自分の興味をとことん追求したい、海外の先進分野を学びたい、視野を広げたいといった内発的な動機で留学する傾向が強くなっています」と、尾澤海外大学担当部長は説明する。

 

広尾学園・植松久恵教頭

 
――― では、海外大学へ進学する際には、どのような姿勢や力が求められるのでしょうか。

 
「いわゆる学力だけでは通用しないのが海外大学受験の特徴です。特に近年の合格者には、自ら問いを立て、それを深く探究し、成果を発信できた生徒が多いです。

具体的にはエッセーやプレゼンテーションなどで、自分の興味・関心や主張を論理的に伝えることが求められます。そのためには、一朝一夕の対策ではなく、中高時代に自分で考え、発信する経験を重ねることが重要であり、それは合格の先にある大学での学びや研究活動にもつながるものだと思います」(植松教頭)
 

――― 進学先の海外大学で伸びる生徒に共通する特徴はありますか。

 
「海外大学進学者に限ったことではありませんが、自立心、好奇心と柔軟性を備えているということが言えると思います。また、「大学の授業が楽しい」「刺激にあふれている」といった声もよく聞かれます。

受験時点の希望専攻が変わったり、二重専攻をしたりする学生も見られます。主体的かつ状況に応じて柔軟に学ぶ姿勢が定着しているからこそ、海外に行っても自身の持つ資質・能力を発揮できているのではないでしょうか」(尾澤海外大学担当部長)
 

広尾学園・尾澤章浩海外大学担当部長

 
海外大学進学の成功の鍵である探究心、そして文化の違いや環境の変化を前向きに受け入れる柔軟性を育てるため、同学園では授業でも授業以外でも、外部から様々な情報が生徒たちに伝わるような機会を設けることにも腐心している。

「例えば、昼休みや放課後にも、大学、NPO、企業などの方々が本学園を訪れ、情報提供をしてくださいます。生徒たちは自分の興味・関心に基づいて、そうした情報提供の場に参加します。

中には、人工衛星を共同開発しようと生徒たちに声をかけてくださったケースもありました。人工衛星の打ち上げの際にはプロジェクトに参加した生徒たちは現地まで行って見守りましたが、残念ながら軌道には乗せられませんでした。ただ、学んだことはとても多かったようで、彼らの次に向けた探究は続いています。

何気なく参加した機会からでも、それまで気づいていなかった自分の中の興味・関心を見つけることがあるようです。生徒には可能な限り、いろいろな機会を活用してほしいと思っています」(植松教頭)
 

 
――― 最後に、高額な留学費用はどのように準備すればよいのでしょうか。

 
「その点は本学園も大変重要視しています。学費と現地での生活費をどのように準備するかは、一義的には大学と個々の家庭の問題です。

とは言え、アメリカのトップ大学だと、生活費も含めると年間1千万円を超える費用が必要です。本学園では奨学金の取得を進路指導の対象と位置付け、情報提供やアドバイスを行っています。

現在は国内にも手厚い奨学金を提供してくれる財団などが複数あります。また、海外大学の特徴の1つに、合格後に学生本人と大学側とで学費の交渉ができるという点があります。

学費を下げるためには、自分が入学することで大学側にもメリットがあることを、説得力をもって大学に伝える必要があります」(植松教頭)

――― ありがとうございました。

 
 
【編集後記】

お二人のインタビューから強く感じたことは大きく2つ。
1つめは、英語力や成績以前に「やってみたい」「知りたい」と思えるテーマを持っているかどうかということ。そして、そのテーマを自分なりに深め、周囲と共有できるかどうか。その学びに向かう姿勢こそが、どの進路においても最大の強みになるということだ。

そして2つめは、海外大学進学はもはや決して「エリートコース」ではなく、「自分の人生を主体的に選び取るための一手段」として捉えられ始めているということ。

生徒たちを支援する学校側も、「進学すること」だけではなく、「なぜ、その道を選ぶのか」を問い続ける教育を日々行っている。そうした教師たちの姿勢そのものが、グローバルに活躍する若者を育んでいると感じた。次回は広尾学園の卒業生インタビューをリポートする。