東京都港区の私立広尾学園中学校・高等学校(以下、広尾学園)を卒業後、海外大学に進学したお二人にインタビューをした。1回目の今回は、高校生のときに仲間たちと人工衛星を打ち上げ、芽生えた宇宙への夢を軌道に乗せた木本晃一(きもと・こういち)さん(19歳)に、海外進学に至るまでの道のりと、2年目を迎えるスタンフォード大学での生活や将来の夢について聞いた。

(聞き手:ベネッセ教育総合研究所 石坂 貴明)
 

宇宙への夢を、現実に変える場所へ

――― まず広尾学園に入るまでの幼少期の学びについて教えてください。

小学校4年生までは日本のインターナショナルスクールに通っていました。その後、親の転勤に伴い、アメリカテキサス州の公立の現地校に移りました。英語と数学は現地校で設置されていたGT(ギフテッド・アンド・タレンテッド)クラスに在籍して、自分のレベルに合った授業を受けられたのが良かったです。毎週土曜日は日本語で学ぶ補習校に通い、1日6時間みっちり学んでいました。
 

スタンフォード大学在学中の木本晃一さん

 
――― 小さい頃から勉強熱心だったのでしょうか。

競争心はあったので、漢字テストなどは100点を取りたかったです。ただ、それ以外はゲームなども好きで、そこまで勉強に励んでいませんでした。時には友達と外で遊んだり、ゲームに夢中になりすぎて親に「やることはちゃんとやりなさい」と言われ、スクリーンタイムは制限されたりしていました。

また、小学校の頃から趣味でクラシックギターを弾いています。ピックは使わず、指の肉と爪だけで弾く感覚を大切にしています。高校のときにギターの全国コンクールで2位になれたこともあり、大学出願時の課外活動評価にもつながったと思います。
 

――― 米国から帰国後、日本の高校に入学した経緯を教えてください。

テキサスから帰国した後は公立の中学校に編入しました。そこから一年半かけて高校受験の準備をして、広尾学園高等学校のインターナショナルコースに進学しました。

入学直後は海外大学進学と日本の大学進学の両方を検討していましたが、広尾学園のカリキュラムを通じて海外進学への意識が高まりました。自分のやりたい宇宙工学を学ぶにはアメリカの方が適していると感じたからです。
 

――― 高校のときはどのような探究活動に取り組みましたか。

高1の夏に、物理の先生と先輩たちと一緒にモデルロケットを飛ばしました。その後も高3からスタンフォード入学直前まで約1年半かけて「ISHIKI」という人工衛星をロケット会社の協力のもと製作し、打ち上げまで行いましたが、残念ながらロケット側の軌道の不備により、RUD-Rapid Unscheduled Disassembly(急速非計画的分解)、つまり、意図的な爆発をロケット会社が行いました。それでも、後輩たちへ次のチャレンジの思いを託せたのは大きな経験でした。
 

――― 進学先はどのように決めましたか。

もともと高1の1学期からずっとアメリカをはじめとする海外大学進学を視野に入れていました。合格した大学の中から進学先を選ぶ決め手は、航空宇宙工学を学ぶうえで、いかに充実した環境か(教授、活動、施設等)、そして選択できる講義の自由度(工学部でも音楽の講義を受講できる)などでした。また学費全額をサポートしてもらえる柳井正財団海外奨学金に受かり、スタンフォードはその対象校であったため、まさに自分の希望に合った大学を選べました。
 

――― 大学合格の決め手は何だったと思いますか。

高校での課外活動が評価されたと思います。ロケットや人工衛星の製作活動、ギターコンテストでの受賞歴などが高く評価してもらえたのだと思います。また、スタンフォードの面接は受験生の居住国にいるスタンフォード大学のOBOGが行うのが通例ですが、通常40分程度のところ、僕の場合は2時間も話し込んでしまって(笑)。入学後、アドミッションオフィスで自分の入学願書の評価を見せてもらえるのですが、面接と課外活動での評価がとても高かったです。
 

――― スタンフォード大学での生活について教えてください。

朝から授業に出て、昼は友達とランチ、午後の授業のあとジムで筋トレ、夕方には宇宙部(SSI)の活動に参加しています。SSIは数百人規模で、再利用型ロケットなどの開発をしていて、とても刺激的です。夜は0時まで勉強して1日が終わります。週末の休みなどは国立公園の山や太平洋の海岸沿いなどを探検し、カリフォルニアの自然を味わっています。

ただ、最初の半年は人との関わりを増やそうとしすぎて、毎日帰宅が深夜2時でした。さすがに体調を崩しそうになって、冬休みを機に生活を見直しました。自立することの大変さを痛感しました。
 

――― スタンフォード大学の魅力は何でしょうか。

特に、教授陣の人脈の広さは予想以上でした。ある先生がNASAのAmes研究所にコネがあって、実際に見学に行ったこともあります。さらに教授1人あたりの学生数が少ないので、とても親身な指導を受けやすく、教授との研究のつながりやすさも魅力だと思います。またアメリカ国籍のない日本人で、NASAのEuropa Clipperミッションに携わっていた現在博士課程のメンターにも出会い、共に研究活動を行っています。
 

――― 将来の目標を教えてください。

大きなビジョンとしては宇宙システムの開発を通し、人類が地球だけでなくいろいろな惑星の環境で生きていけるインフラを組み立て、宇宙間での物資やサービス、情報の流通が盛んな世の中を築く一員になりたいです。ただ、日本国籍ままではアメリカの宇宙産業では機密保持の観点で不利な面もあるので、グリーンカード(アメリカ永住権)の取得や企業からのスポンサーシップを獲得することも視野に入れています。宇宙という分野だからこそ、国境を越えて挑戦していきたいと思っています。
 

――― 海外進学を考えている高校生にメッセージをお願いします。

自分の「やりたいこと」が明確にある人には、海外の大学は大きな選択肢になると思います。学びの自由度が高く、自己の関心に合わせて研究や授業を選べるのがアメリカの大学の魅力です。

高等教育機関などに定められた範囲やカリキュラムに束縛されず、探究心を持って、自分のやりたい分野に熱心に取り組もうとする人は特に、塾や予備校で朝から晩までひたすら勉強ばかりする日本の受験よりも、将来の仕事に関連したノウハウを自主的に学び、それを課外活動して評価してもらえる「受験」の形態である海外大学出願をお勧めします。

日本の大学だけにとどまらず、視野を広げて動き出してみればきっと道は開けると思います。
 

 
【編集後記】

インタビュー中、木本さんは終始落ち着いた口調で、自身の経験を語ってくれました。その言葉には、宇宙という果てしない夢に向かって着実に歩みを進めてきた軌跡と覚悟がにじんでいました。

そこで強く感じたのは、中高生時代に「自分のしたいこと」に出会うこと、更にそれを深める学びの機会を自ら選びとることの大切さです。そのような一人一人の学びをサポートする学校側の環境設定やプロセスデザインについては前回お伝えした通りです。これからも木本さん自身が育てた探究心を糧に、夢をさらに大きく育てて実現してほしいと思いました。