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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2021年度 Vol.1

「あったかい学校」を目指し、子どもが主体的に学校づくりに参画
~滋賀県 彦根市立佐和山小学校

2021/05/31 09:00

滋賀県彦根市立佐和山小学校では、2012年度から、子どもの「憧れ」を核として、持続発展する学校文化の醸成に努めています。『VIEW next』教育委員会版2021年度Vol.1の特集では、6年生をロールモデルとする縦割り班による清掃活動や運動会の応援合戦、若手教員の指導力を高める自主研修などを紹介しました。今回は、本誌で掲載しきれなかった、取り組みを校内に広めるために行った工夫などをお伝えします。

※記事の内容は、取材時(2021年3月)のものです。

本誌記事はこちらをご覧ください。

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無理のないステップで、教員間の共感を得ながら導入された「そうじ革命」

滋賀県彦根市立佐和山小学校は例年、教員の異動が多く、近年は若手教員の割合が急増しています。そのため、これまで大切にされてきた指導技術や暗黙知が受け継がれにくく、学校経営が安定しにくいという課題がありました。そうした課題を解決しようと、2012年度に同校に赴任した川端清司(きよし)先生が考えたのが、「憧れ」を鍵にして、子どもの思いで学校文化をつくり、子供が受け継いでいくという仕組みでした。ロールモデルとなる6年生が活躍する場面をたくさんつくることで、その姿を見た下級生が「憧れ」を抱き、「自分もよりよい上級生になりたい」と意欲を高めていく。こうした「憧れ」が活動の原動力となり、先輩から後輩へと学校文化が受け継がれていく仕組みが定着すれば、教員が入れ替わっても学校経営は安定するのではないかと考えました。

そこで、5年生が6年生にインタビューをして、リーダーになる条件や秘訣を学ぶ「佐和山リーダーになろう」や、1~6年生の縦割り班による毎日の清掃活動「そうじ革命」などを行いました。中でも、すべての6年生がリーダーとして活躍する「そうじ革命」は、同校の大きな特色となっています。

この取り組みが全校の活動として定着するまでには、実はいくつかのステップがありました。

川端先生は、赴任して3年目の12月に、担任をしていた5年生の学年集会を開き、「自分たちの力で学校を変えた伝説の6年生にならないか」と提案しました。やる気になった子どもたちは、自分の学校のよさや直した方がよいところを洗い出しました。何度目かの話し合いの時に、先生が、以前に視察した福井県の永平寺町立永平寺中学校で30年以上続く「無言清掃」を紹介しました。子どもたちはその姿を見て、「憧れ」を抱き、自分たちでもやってみたいと考えるようになりました。そして、これまでの掃除の仕方を振り返り、掃除の仕方が統一されていないことや、頑張っている人とそうでない人がいることに気づきました。各自が担当する場所を決めて、グループで掃除の仕方について話し合い、「バックワイパー拭き」や「クルリンパ」といったオリジナルの清掃法を考案しました。

同校では、縦割り班による清掃活動「縦割り班そうじ」が年1回、3学期に行われていました。5年生の子どもたちは、この機会を利用して、自分たちで考えた掃除の仕方を紹介しました。手ごたえを感じた子どもたちと川端先生ほか5年生の先生方は、他の先生方や学校長に相談して、1日だった取り組みを3日間に延長してもらいました。そして、翌年度の1学期には、期間を1か月間にすることを提案しました。

「当初は『なぜ1か月間もするのか』と疑問の声もありました。しかし、前年度の取り組みで得た手応えを基に、ほかの先生方にも活動を通じて成長していく子どもたちの姿を見てほしいと思ったのです。実際、日を追うごとにリーダーらしく振る舞う6年生の姿や、結束を強めていく班の子どもたちの様子を見るうちに、先生方からも『よい取り組みですね』といった声が聞かれるようになりました」(川端先生)

もともと、縦割り班掃除は、異学年交流を目的にした縦割り活動の一部でした。縦割り班遊びを含めても、1年間に多くて6・7回程度の交流であり、お互いに名前を覚えることもままならないものでした。ところが、毎日掃除の時間に顔を合わせることで、名前を覚えるようになり、子ども同士のつながりも強くなっていきました。

こうした段階を踏むことで、教員間の共感や賛同を得て、2014年度の2学期からは、毎日の清掃を縦割り班で行う「そうじ革命」が本格的に導入されることになりました。

掃除を開始する前に、6年生リーダーが掃除のめあてを決めてメンバーに伝えてから掃除が始まります。

「あったかい学校をつくりたい」という児童の思いから生まれた挨拶運動

2015年度に進化した挨拶運動も、同校の特徴的な取り組みです。それは、児童会で「どんな学校にしたいか」と子どもたちが話し合った際、「あったかい学校にしたい」という意見が出たのがきっかけでした。児童会の子どもたちは、「佐和山あったか魂」と名付けて様々な取り組みを開始しました。

挨拶運動は、児童会の子どもが中心となり、毎朝校門前に立ち、登校してきた子どもに「おはようございます」と声をかけます。当初は児童会の5・6年生12人の取り組みでしたが、次第に、「自分も参加したい」という子どもが現れ、校門に立つ子どもは増えていきました。

新たに参加した子どもたちは、「学校を明るくし隊」というグループをつくり、児童会を応援しました。「隊員証」を発行して参加者を募ったことで参加人数はさらに増え、多い時は校門から昇降口までの40メートルの道の両側に、約200人が並ぶ「挨拶ロード」ができあがったこともありました。現在5学年担任の溝口聡(さとし)先生は、目を細めながら次のように語りました。

「きちんと挨拶することが、みんながつながるきっかけになるということを、子どもたちは感じたのだと思います」

今では、目線を合わせて挨拶する「アイビーム挨拶」や、挨拶を交互にする「キャッチボール挨拶」など、新たな挨拶の方法を子どもが自ら考案し、挨拶運動はますます発展しながら続いています。

校門から昇降口までの40メートルの道にできた「挨拶ロード」。看板を先頭に、登校する子どもたちが次々と挨拶を交わしていきます。

「どんな教員になりたいか」という問いから始まった自主的な研修活動

本誌で紹介した2019年度に始まった教員の自主研修「課題別研究チーム」も、段階を踏んで定着させました。

まず、「プロの教員になろう」をテーマに全体研修の場を設け、ベテラン教員が模擬授業を行いました。それは、「プロの教員の基礎基本」として17の工夫が盛り込まれた授業で、参観しながらそれらを見つけるという研修です。模擬授業後の検討会では、視線の配り方、立ち位置、板書の工夫、子どもへの声かけ方法など、参観者が気づいた工夫を共有し、指導に当たる際に心がけるべき点について整理しました。

次に、「マンダラート」(9つのマス目を使って発想・思考を広げるフレームワーク)を使い、自分がどのような教員になりたいのかを考える研修を行いました。一人ひとりが「目指す教員像」を明確にした上で、自校の子どもにどのような資質・能力を育みたいのかを参加者全員で考えました。議論の過程で、これからの社会を生き抜く上で必要な力や、新学習指導要領の内容などを踏まえ、「自分の思いを伝える」「他者の考えを聞いて取り入れたり、折り合いをつけたりする」「意見を出し合い、よりよいものに高めていく」といった資質・能力が挙げられました。

そして、本誌で紹介した通り、同校が育成を目指す資質・能力として、「人とよりよくつながるためのコミュニケーション能力」を策定。その達成に向けて、「子どもたちが自分から話したくなる、聴きたくなる授業づくり」というテーマで校内研究を進めました。自分が目指す教師像と研究テーマを照らして、各自が授業づくりの中で大切にしたいことを決め、同じ課題を持った者同士で「課題別研究チーム」をつくって研究を進めました。2020年度の「課題別研究チーム」では、「発問の工夫」「単元を貫く授業展開」などの7つのチームがあり、年度末には校内研究発表大会を開催しました。

現在1学年担任の林知代(ともよ)先生は、次のように振り返ります。

「指導力向上という漠然としたねらいだけではなく、自分がなりたい教員像や育てたい子ども像を明確にした上で研究テーマを決めたので、より意欲的に、主体的に研究に取り組めました」

「課題別研究チーム」の活動。チームごとにテーブルにメモを記載しながら、輪になって様々な意見を交わしながら議論を進めていきます。

「伝統の灯を絶やさない」という決意で実施したコロナ禍の学校行事

コロナ禍でも「ウイルスに負けない姿を子どもに見せよう」「今だからこそできることがある」と教職員は語り合い、子ども主体の学校文化を絶やさないという決意の下、教員と子どもが一丸となって多くの学校行事を行いました。

運動会は、密を避けるため、2日間に分けて開催しました。1日目は、全校児童による色別応援合戦と、各学年の徒競走を実施。6年生の姿を下級生に見せて「憧れ」を喚起するため、6年生が指揮をとる色別応援合戦には全学年が参加できるようにしました。そして2日目は、1〜3年生は午前、4~6年生は午後に分けて実施。下学年が校庭で運動会をしている時、上学年は教室で授業を行いました。

2020年度は、中止となった修学旅行の代わりに、地元商店街や観光ボランティアなどの協力を得て、「修学体験IN彦根 いいとこ発見まち中ウォークラリー」が実施されました。6年生は、空き店舗を活用した場所で絵手紙や切り絵、陶芸の絵つけ体験をしたり、観光人力車や彦根城の屋形船に乗ったりして、地元の魅力を思う存分味わいました。修学旅行を諦めていた子どもたちは、コロナ禍でも楽しめることがあるのだと実感していました。

毎年3学期に実施している学習成果を発表する「佐和山祭り」では、子どもたちが感染症対策を考えました。催し物会場入り口で手指消毒を呼びかけたり、一つの会場に入ることができる人数を制限したりして工夫を凝らし、子ども主体の行事を成功させました。

「佐和山祭り」で行われた室内での催し物会場の入り口。入室人数を制限して感染予防に努めています。

地域のボランティアと退職教員が学校を支える

多くの取り組みが成功した背景には、子どもや教員を支える保護者や地域の人たちの存在がありました。その1つが、2018年度に始まった「佐和山応援隊」です。地域人材による学校支援ボランティアで、教員が教育活動に集中できるように様々な活動を支援しています。川端先生が企画し、学校支援ボランティアの方と地域の退職教員でアイデアを出し合って応援隊を結成しました。いつでも集まれる場所を作るために学校長にお願いし、使わなくなっていた放送室横のスタジオを利用して「佐和山応援隊詰所」を設けました。そして、応援隊メンバーの取り組みに賛同する人が少しずつ増え、様々な場面で学校を支援してくださるようになりました。活動内容は、体力テスト、家庭科学習、クラブ活動、朝の英語学習、長期休業期間に課す学習プリントやしおりなどの印刷、校外学習のサポートとしての修学体験ウォークラリーなど、多岐に渡ります。

退職教員は、再任用や支援員など様々な立場で学校に関わり、子どもたちの学習指導や学校生活の支援を行っています。同校では若手教員の増加によって、暗黙知としての指導ノウハウが継承されにくい状況が、大きな課題となっていました。退職教員には、これまでの長い教員経験で培った技術や知識があります。授業の進め方だけでなく、学級経営のコツや個に応じた支援、課題を抱える子供への対応、保護者対応など、経験の浅い教員にとってもミドル層の教員にとっても、指導技術を学ぶ貴重な機会を提供しています。また、教務部の教員にはリーダーとして配慮すべきことや、学級運営や学校経営に欠かせない大切なポイントをさりげなく伝えており、学校運営上の不可欠な存在となっています。

「退職教員は、私が学年主任の時には学年主任としてのあり方を、教務主任になった時には学校全体を支える立場としての配慮などを教えてくださいました。豊かな経験と知識をもとに、困っている教員をサポートしてくださるので、私たち教員の先生であり、困った時には必ず助けてくださるスーパーマンのような存在です。特に特別な支援を要する児童の指導場面では、一人ひとりの長所や課題を的確に把握して指導される姿から、多くのことを学ぶことができます。こうしたサポートによって豊かな学びが実現され、子どもたちは大きく成長しています。保護者との関係もよりよい形でつなぎ、支援してくださっています」(川端先生)

同校には、表立っては見えなくても、陰で学校を支えている人々がいて、子どもと教員の成長を温かく見守っているのです。

「佐和山応援隊」が学校を訪れ、夏季休業時に配布するしおりやプリントを印刷し、1人分ずつまとめる作業を行っている様子。そうした支援によってできた空き時間を使って、教員は、子どものノートや日記を見たり、授業準備に力を注いだりすることができています。

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