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【リポート】学校の“新たな日常”
日々の積み重ねを大切にすることで、生徒も教員も落ち着いた学校生活を送る
茨城県 古河市立総和南中学校
『VIEW21』教育委員会版2020年Vol.1表紙の学校

2020/11/06 09:00

住宅や田畑が広がる落ち着いた環境の中にある古河市立総和南中学校は、1学年4学級、生徒数約420人の中規模の学校です。『VIEW21』教育委員会版2020年Vol.1では、同校の授業や給食などの様子を撮影し、表紙で紹介しました。今回は、取材時の様子を交えながら、新たな生活様式を実践する同校の様子をリポートします。

ゆとりを持って行動できるよう、生活リズムに慣れるまで日課表を変更

取材に訪れたのは、7月上旬。同校が6月4日に通常授業を再開してから約1か月が経った頃でした。廊下から教室内に目をやると、3年生の理科の授業の真っ最中です。先生は、黒板に加え今年導入したばかりの65型テレビにスライドを映しながら、仕事率の単元を指導していました。生徒は先生を真っすぐに見つめ、その説明が終わると、演習問題に取り組み始めました。隣の教室では、1クラスを2つに分けた少人数制の英語の授業が行われています。大型テレビを活用して発音練習を行い、続いて、隣の席の生徒とペアでスキットのやり取りをしていました。

同校では、学校再開以降にICTを活用する場面が一層増えたと、森田泰司校長は話します。「学校再開にあたり、本校では、落ち着いた学校生活が送れるように日課表を見直しました。その結果、1コマを45分授業に変更しました。従来の50分授業から5分間短縮しても、生徒が学習内容を十分に理解できる質の高い指導とするために、ICTの活用を進めています。授業の効率化や振り返りのオンライン相互学習との併用などです」

日課表を見直した背景には、通学時や給食の配膳時にゆとりを持たせる一方で、学校での密の時間を少なくするといった配慮があります。

「分散登校初日、自転車で通学する新1年生の一部が道に迷うという出来事が起きました。久しぶりの登校であることや、新1年生は初めての自転車登校で慣れない通学路を通うことなど、心配な点は沢山ありました。そこで、登校時刻を10分間遅らせることにしたのです。この出来事は想定されることでした。さらに、感染リスクを抑えるために給食の配膳方法を改めましたが、新しい方法での配膳には時間がかかるため、給食の準備の時間を10分間延ばすことにしました。かと言って、下校時刻は遅くできません。そこで、生活リズムが定着するまで、授業時間の5分短縮に踏み切ったのです」(森田校長)

ノーチャイム制を採用している同校では、以前から生徒は時刻を意識して行動していました。そのため、授業開始時刻が変更となっても、戸惑いや混乱はなく、新しい日課表どおりに授業が進められています。取材の日も、先生が教室に来る前に生徒は着席し、授業はスムーズに始められていました。

少人数教室で行われた英語の授業の様子。教員は、手元のタブレット端末を操作して大型テレビに重要語句を表示し、語句を説明。ネイティブ・スピーカーの音声に続き、生徒全員で繰り返し発音練習を行いました。

換気のため、クーラーをつけながら、教室の窓を開け天井の扇風機もすべて回していました。1クラスを2つに分けた少人数制授業ですが、生徒は自分の席に着席して自席のみを使用し、できる限り接触を減らすようにしています。

各教室の前に常備されている手指消毒用アルコールの脇には、小さな観葉植物がさりげなく置かれています。

ヨガを授業に取り入れ、心身を鍛える

新型コロナウイルスの感染防止のため、全国の学校が様々に工夫をしていますが、同校でも、着替え時に更衣室の「3密」を避けるために運動着の着用を登下校や学校生活の基本としたり、授業での教室移動をできるだけ控え、生徒が自席のみを使うようにして消毒箇所を減らすようにしたりしています。

「要所でゆとりを持たせたり、気を遣う場面を減らしたりすることで、教職員はじめ慌てることがなくなり、生徒にむやみに注意を促す必要もなくなります。そうした工夫が、落ち着いた学校生活につながっていると感じています」(森田校長)

生徒が自分自身を守る力をつける必要もあると考え、新たな試みも始めています。その1つが、ヨガの授業です。呼吸法とストレッチを中心とするヨガは、呼吸を整え、姿勢を改善し、体幹を鍛えることに効果的だとされています。

「心身ともにリラックスし、気持ちを安定させる効果も期待できます。ヨガは接触や飛沫の感染リスクが少ないことから、コロナ禍での体育の学習に効果的だと考えました」(森田校長)

東京在住のヨガのインストラクターに講師を依頼し、講師と同校をオンライン会議ツールでつないだ遠隔授業が体育館で行われました。2クラス合同の授業でしたが、講師の姿は大きなスクリーンに映し出されるので、生徒同士の間隔を空けても十分に体を動かすことができます。授業の最後は、瞑想で心を落ち着かせます。普段の体育とは異なる授業でしたが、生徒はすがすがしい表情を見せ、「楽しかった!」と評判も上々のようです。

雨が降っていたため、体育の授業は体育館でヨガが行われました。オンライン会議ツールで講師と結び、大きなスクリーンを見ながらの授業です。生徒は、講師の指導に従って「三角のポーズ」や「木のポーズ」などを決め、最後は瞑想でリラックスしていました。

他者を思いやり、自分を律する姿勢を育む

生徒が楽しみにしている給食も、以前と様子が変わりました。配膳をできるだけ簡略化するため、メニューは一品少なくなり、その代わり、具だくさんな汁物で栄養面を補います。配膳は、生徒が間隔を空けて一列に並び、1人ずつ配膳されます。10分間延長した理由は、配膳の時間にゆとりを持たせるためです。食事中は前を向き、会話はありませんが、生徒たちはおいしそうに食べていました。

給食後は掃除の時間です。以前と同様に、生徒はてきぱきと掃除を進めていきます。同校では無言清掃(黙働)を行っており、3年生ともなれば、自分たちでやるべきことを見いだして動きます。

「集団生活を送る以上、感染のリスクはゼロにはならず、新型コロナウイルスとどうつき合っていくかが重要です。その際に何よりも大切になるのは、他者を思いやり、自分を律する行動ではないでしょうか。それは、コロナ禍前から本校で進めてきた教育であり、さらに意識して推進していくことで、どんな事態にも前向きに進んでいける、心身ともにたくましい生徒を育てることにつながると信じています」(森田校長)

3年生の学級目標には、「全員合格」に並び、「感染予防」の言葉が。生徒たちも「人に移さない」ことへの意識の高さがうかがえます。

廊下の床に貼られているのは、フィジカル・ディスタンスの目印となる赤いテープ。給食の前に手を洗う際にも、そのラインまで下がって自分の番を待ちます。

以前は机を寄せ合い、おしゃべりしながら食べていた給食も、今は一人ひとり前を向いて食べるように。配膳時には、一人ずつトレーを持って間隔を空けて並び、盛り付け係から配膳されていました。

学校再開後も無言清掃を継続。生徒は黙々とそれぞれの持ち場をきれいにしていきます。

以上は2020年7月上旬の取材時の状況ですが、今春の臨時休校から約8か月が経った11月現在の様子を、森田校長は以下のように話します。

「生徒は新しい生活様式に慣れ、今の生活が普通であるかのように生活しています。この数か月間を通して、生徒たちは以前よりも主体性が増し、自立心や自律心が育ってきている気がします。それは先生方も同じです。『ピンチはチャンス』を文字通り実践してくれています」

そうした生徒や教員の様子を踏まえて、11月からは日課表を再変更し、従来の50分授業に戻しました。また、ICTを活用した授業の質向上にもいっそう力を注ぎ、65型TVの追加導入が決定しています。年内に合計10台が揃い、フル活用される予定です。さらに、ニュージーランドとの英語交流授業も毎週行うなど、オンライン授業もさらに進めていきます。

「授業でのICT活用が進むにつれて、画面を分割して複数の内容を同時に提示したり、オンライン授業に生かすなど、より発展的で効果的な活用が増えてくることは明らかです。そうなると、教室後方に座る生徒でもしっかり認識できる大型の画面が必須となります。これからも、ICTならではのメリットを生かした授業のあり方を、先生方と共に追究していきます」(森田校長)

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