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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2022年度 Vol.3

地域や保護者と教育活動のねらいを共有することで、 ともに子どもを育て、教員の働き方改革にもつなげる
~牛久市立ひたち野うしく小学校

2022/11/25 15:00

茨城県牛久市では、子どもの学びを充実させるために教員の働き方を変えるという視点から、学校運営協議会が多様な学校支援を展開しています。地域ボランティアが授業や校務の支援を担うことで、教員は以前にも増して学習指導や生活指導に注力できるようになりました(本誌P.34に掲載)。

本記事では、その事例として、牛久市立ひたち野うしく小学校の取り組みを詳しくご紹介します。

 

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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牛久市立ひたち野うしく小学校 概要

開校:2010(平成22)年/学級数:30学級(うち特別支援学級4)/児童生徒数:880人/教員数57人

お話を伺った先生

牛久市立ひたち野うしく小学校 校長
渡辺幸夫(わたなべ・ゆきお)

1 学校運営協議会の委員が研究授業を参観し、
教員の教育活動のねらいを委員間で共有

茨城県南部に位置する牛久市は、東京都や筑波研究学園都市のベッドタウンとして開発が進んだ地域だ。長年にわたり、子どもの協働的な学びや保幼小中連携事業に取り組むなど、教育改革の先進地域としても知られている。同市は、子どもの学びを一層充実させることを目指し、2019年度までに全市立小・中学校に学校運営協議会を設置するなど、学校と地域が一体となって教員の働き方を変える取り組みにも力を注いでいる。
牛久市立ひたち野うしく小学校では、2016年度、学校運営協議会(*)を設置し、地域に学校支援を依頼するようになった。ただ当初は、学校が地域住民に「お手伝い」をお願いする関係にとどまり、教員の業務は一部軽減されたものの、教育活動の充実にはつながらなかったという。渡辺幸夫校長は、次のように話す。
当時は、学校と地域の目標が一致していませんでした。その状態で『お手伝い』をお願いしていると、いずれはどちらかに不満が生じるなどして、うまくいかなくなります。まずは、『どのような子どもを育てたいのか』『そのためにどういった教育を展開するのか』といった教育の目標について、共通理解を図ることを大切にしました。相互の共通理解の下、子どもの学びを充実させるために地域の力を借りて、働き方改革につなげていきたいと考えました

*ひたち野うしく小学校の学校運営協議会の委員は15人。学校の管理職、行政区長や民生委員、PTA関係者、社会福祉協議会の関係者、地域学校協働活動推進員などが参加している。

同校では、2021年度から市の方針に基づき、学校運営協議会の委員に研究授業の参観を呼びかけている。年4回の研究授業に、毎回2~5人の委員が参観し、事後研究会にも加わっている(写真1)。当初は、市を挙げて推進する「主体的・対話的で深い学び」の意義が、委員に十分に浸透していなかったため、「なぜ、先生は詳しく教えないのか」といった意見もあった。そこで、資質・能力の育成など、教育活動のねらいを丁寧に説明すると、教員が課題設定や発問などに様々な工夫を凝らしていることが伝わった。「こういう授業を準備しているのだから、先生は大変なはずだ」「授業づくりの時間を確保するために、私たちにできることはないか」といった声が上がるようになった。
授業を参観した後、委員の方々と子どもの成長する姿について意見を交わし合います。『子どもの変化を見たいから』と、毎回参観する委員もいます。次第に、『こんな活動をすると、先生方のサポートになるのではないか』と、様々な提案をしてくれるようになりました」(渡辺校長)

学校運営協議会の委員は、地域の会合などで、地域住民に対して同校の教育目標や実践、教員の多忙さなどを説明してくれるようになった。そうして、学校や教員への理解が年を経るごとに地域全体に広がり、学校とともに子どもの成長を支える関係が構築されていった。

写真1 研究授業の事後研究会の様子。学校と学校運営協議会は、子どもの姿を通して、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」という育成を目指す資質・能力を共有している。

2 ボランティア活動に参加する意義を発信し続けて、
取り組みを活性化

地域住民による学校理解が出発点となり、多様な学校支援が展開されるようになった。それらの活動は、地域学校協働活動推進員(地域コーディネーター)が中心となって計画を立て、実施している。ボランティア活動に参加意思のある保護者や地域住民は、連絡網アプリに「サポーターズクラブ」の会員として登録。地域学校協働活動推進員が、アプリを通じてボランティア活動を依頼し、参加者を募るという仕組みだ。サポーターズクラブには現在、保護者はほぼ全員の約900人、地域住民は約20人が登録している。
ボランティア活動を募集しても、当初は十分な人数が集まらない場合があった。その要因は、ボランティア活動に参加することの意義が十分に伝わっていないことだと捉え、同校は情報発信に力を注いだ。
学校だよりやウェブサイトで、『これだけの人数が集まった』『子どもたちとこんなかかわりがあった』『保護者や地域住民が交流して、地域コミュニティの輪が広がった』などと、地道に発信を続けました。保護者に対しては、学校での我が子の様子を間近に見られる機会にもなるので、『授業参観のつもりで参加してみませんか』と発信しました」(渡辺校長)

そうして、地域の回覧板で学校だよりを目にして、学校でのボランティア活動に興味を持つ地域住民が徐々に増えていった。加えて、地域行政の中心となる行政区長に、各活動に適切な人材を紹介してくれるように依頼したことも効果的だった。
ボランティア活動の代表的なものに、授業ボランティアがある。専門家が講師として授業に参加したり、「総合的な学習の時間」などに保護者がサポートに入ったりすることで、子どもの学びの充実につなげたり、教員の負担を軽減したりしている。
同校では、年度当初に、全教員・学校運営協議会委員・地域学校協働活動推進員による打ち合わせを行い、年間指導計画を見ながら、どの授業にどういった人材の支援が必要かを話し合っている。その依頼を踏まえて、地域学校協働活動推進員が連絡網アプリを通じてサポーターズクラブにボランティアを募集し、年間の授業支援計画を作成している。

地域の専門家が授業に参加するケースには、次のような例がある。
◎理科の天気について学ぶ授業で、地域に住む気象予報士を講師に招き、天気予報の手法などを教える。
◎音楽科の授業で、地域の琴教室の先生が、琴の演奏方法を指導する。
◎牛久市の歴史や偉人について学ぶ授業で、学芸員が解説する。

写真2 気象予報士を招いた授業の様子。

写真3 琴教室の先生を招いた音楽の授業の様子。

3 地域人材を活用した体験活動や学習支援で、
子どもの成長を促す

地域人材を活用した教育活動である「うしくカッパ塾」では、保護者や地域住民の参加・協力による体験活動や学習支援を展開している。その活動は、土曜日の体験活動「うしく土曜カッパ塾」、放課後の学習支援「うしく放課後カッパ塾」の2つ。2014年度に同校がモデル校となってスタートし、現在は全市立小・中学校で行われている。
うしく土曜カッパ塾」では、小学生(1~6年生)の希望者を対象とし、学校施設を中心に、英語、音楽、料理、工作、プログラミング、野外体験、理科実験といった多様な体験活動を、年間で約30回実施している(写真4・5)。様々な経験や技能を持つ保護者や地域住民が講師を担い、子ども一人ひとりに多様で豊かな体験を提供するとともに、子どもが地域の大人と深くかかわる場にもなっている。各回の参加者の定員は20~50人で、応募者が多ければ抽選になる場合がある。参加費は基本的に無料だが、体験活動によっては、50~500円程度の材料費などがかかる場合がある。

写真4 地域の森林公園で実施した自然観察を行う活動「ネイチャーゲーム」。講師を迎え、自然に触れ合いながら自然のよさや生物の不思議を体感する。

写真5 「かけ足が速くなる教室」の様子。講師が、陸上記録会の前などに速く走るコツを教えて、子どもたちの50m走のタイムを縮めるのに役立った。

うしく放課後カッパ塾」では、小学4~6年生、中学1~3年生、義務教育学校4~9年生の希望者に対し、週2日、平日の放課後に各校の図書室で、学校の宿題・ドリル・学習プリントなどを使った学習支援を行う。1回あたり1時間20分ほどで、毎回30人程度が利用し、基礎学力の向上や学習習慣の定着を図っている。地域の元教員や学生が指導員を務め、子ども一人ひとりの学習状況やつまずきの内容は、担当教員と共有することで、学習支援の効果を高めている。参加費は無料で、家庭の事情などにより家庭学習が困難な子どもでも参加しやすい仕組みとなっている。

4 地域住民の校務支援で、教員は指導の時間を確保

地域住民が校務の一部を担うことも、教員の業務負担の軽減と指導時間の確保に役立っている。主に地域住民からの提案により、次のようなボランティア活動が展開されている。
◎ほぼ毎日、地域住民が数人来校し、トイレや手すりなどの校内設備の消毒を行う。
◎下校時に子どもが集まってあふれやすい交差点などに地域住民が立ち、子どもの安全を見守る。
◎春と秋の年2回、地域住民十数人で花壇の整備をしたり、冬の大掃除の時期に30人弱が網戸を清掃したりする。
◎年数回、あらかじめ決まっている研修などで教員が不在時に、保護者が自習をする子どもを見守る。
◎新年度の開始前に、30人ほどの保護者が、低・中学年約600人の机と椅子の高さの調整を行う(写真6)。
◎入学したての1年生が給食のおかずをよそうことに慣れるまでの2週間、数人の保護者がサポートをする(写真7)。

写真6 以前は、新年度に担任が時間をかけて行っていた、子どもの机と椅子の高さの調整を、保護者がボランティアで行う。保護者は、自分の子どものクラスを優先して担当。1クラスを15分程度で調整して、順次、次のクラスに移る。2022年度は12クラスの調整を行った。

写真7 以前は高学年生が新1年生を手伝っていたが、コロナ禍で保護者ボランティアに切り替えた。入学説明会の際に、保護者に呼びかけてボランティアを募集した。

5 学校と地域の良好な関係が育まれ、
地域全体で子どもを育てる実践が加速

地域による様々な学校支援を通して、子どもの学びの質が高まるとともに、教員の負担が時間的に軽減され、学習指導や生活指導、授業準備などに集中しやすくなった。教員からは、次のような声が上がっている。
けがをしやすいマット運動の授業は、教員1人では同時に多くの子どもの動きに注意を払うのが大変でした。保護者に補助や見守りをしてもらえることで、安全で充実した授業ができています
毎年4月に子どもの机や椅子の高さを調節しますが、1・2年生は自分ではできないため、教員が行っていました。4月は新学年になって学級事務が一番忙しい時期なので、保護者が調整してくれるのは、本当に助かっています

そうした取り組みの定着に伴い、学校と保護者、地域住民の間に良好な関係性が構築されている。
保護者や地域住民から、『学校での授業の様子が分かるので、安心して子どもを通わせられる』などと、感謝の言葉を伝えられることが増えました。教員は、地域住民が学校のことを深く理解して協力してくれる様子を見ることで、これまで以上に前向きな気持ちで業務に取り組めるようになっています。今後も、子どものことを一番に考えた地域との連携を充実させて、子どもの成長を支えていきます」(渡辺校長)

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