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「探究フォーラム2023」開催探究を深める校内体制のつくり方と教師のかかわりとは

2023/11/08 14:05

学校設立当初から探究学習に力を入れてきた千葉県・私立芝浦工業大学柏中学高校は、東京都・私立神田女学園中学校高校と「探究フォーラム2023」を共催した。フォーラム当日はオンラインでの視聴も含め、教育関係者約160人が参加。特別講演やトークセッションを通じて探究的学習の意義を共有しながら、生徒の興味・関心の広げ方や探究学習を実施する上での校内体制のつくり方、進路指導への結びつけ方などについて、参加者とともに考えた。

 

 

開催概要

日時 2023年8月4日(金)13時〜16時
場所 芝浦工業大学柏中学高校(オンライン同時開催)
主催 芝浦工業大学柏中学高校 教育振興部
共催 神田女学園中学校高校
協力 株式会社ベネッセコーポレーション

プログラム

1.開会挨拶 芝浦工業大学柏中学高校
校長 中根正義
2.特別講演 「あらためて『探究』とは?」ベネッセ教育総合研究所
教育イノベーションセンター 主席研究員 山下真司
3.トークセッション 芝浦工業大学柏中学高校×神田女学園中学校高校
テーマ:現場から考える探究的な学び「生徒の問いを広げる取り組み」・「校内体制の作り方」
ファシリテーター:私立福岡女子商業高校 副校長 近藤直輝
4. 講演「総合的な探究の時間」の学びを活かした進路選択について
株式会社ベネッセコーポレーション東京支社 課長 片山俊
5.閉会挨拶 神田女学園中学校高校
校長 芦澤康宏

特別講演
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 
主席研究員 山下真司
「あらためて『探究』とは?」

まず、探究学習の意義を考える入り口として、生徒が未来をどのように捉えているかを示した各種調査を紹介。「日本の若者は、自分の国の将来に不安を感じていながらも、社会参加には消極的で、また幸福度も決して高くないといったデータがあるがどう捉えればよいか」と問い掛けた。「生徒が将来に希望を持てる社会にするにはどうしたらよいかを考えることが、教師全員に求められている」と語った。

続いて、新学習指導要領の概要と、「総合的な探究の時間」の位置づけを解説。「総合的な探究の時間」では生徒一人ひとりが「個別最適な課題」に取り組むことが重要だとし、「調べ学習に陥らないためには内発的な動機を伴っていること、その起点となる「問い」を生徒自らが設定することが大切」と述べた。

講演の後半では、「総合的な探究の時間」と教科学習をどのように結びつけるかといった点に話題が及んだ。事例として、ある公立高校の国語の授業を取り上げた。小説「羅生門」を題材に、単元を貫く問いを生徒自身が意識しながら探究サイクルを回し、主題に迫っていく。思考力・判断力・表現力の向上を図る授業デザインのポイントを解説した。

さらに「総合的な探究の時間」と教科学習の関係性は扇の形に例えることができると解説(図1)。各教科の学びは風を起こす「扇面」と呼ばれる部分に相当し、教科間のつながりを意識していくこと。そして各教科・科目等の特質に応じた見方・考え方を横断的・総合的に活用していく場面が「総合的な探究の時間」である」と述べた。また、扇の「要」が特別活動であり、各教科等の学びの基盤となることを、新学習指導要領を引用して示した。

教科の授業、「総合的な探究の時間」、そして特別活動を、教育活動全体を通じて一体的に取り組むカリキュラム・マネジメントの視点が大切であり、それぞれの学校での取組を確認してほしい」と、講演を締めくくった。

図1 教科学習と「総合的な探究の時間」と特別活動の関係性を扇の形を用いて説明した。

トークセッション
芝浦工業大学柏中学高校 ×神田女学園中学校高校
現場から考える探究的な学び

■ファシリテーター
福岡女子商業高校 副校長 近藤直輝
■登壇者
芝浦工業大学柏中学高校 SSH主担当 須田博貴
芝浦工業大学柏中学高校 SSH担当 高澤良輔
神田女学園中学校高校 教務部長 探究担当 池田幸代
神田女学園中学校高校 教務部 探究主任 江森華子

(キャプション)写真左から、近藤副校長、高澤先生、須田先生、江森先生、池田先生

福岡女子商業高校の近藤直輝副校長のファシリテーションの下、「現場から考える探究的な学び」をテーマにしたトークセッションが行われ、芝浦工業大学柏中学高校と神田女学園中学校高校の教師が、「生徒の問いを広げる取り組み」や「校内体制のつくり方」などについて意見交換を行った。

最初に、両校が自校の探究学習について紹介。神田女学園中学校高校の教務部長で探究担当の池田幸代先生がまず、同校の探究学習が2015年度にグローバル教育の一環としてスタートし、徐々に全校へ広げていった経緯を説明した。組織的に探究学習に取り組むために、探究学習に関する教師の悩みを丁寧にヒアリングし、それをテーマにした校内研修を開催(図2)。「教師の悩みを1つずつ解決することで、教師の探究学習へのモチベーションを高めていった」と、池田先生は当時を振り返った。加えて、教務部探究主任の江森華子先生は、生徒の問いを深めるためのポイントを話した。

図2 神田女学園中学校高校では、教務部探究担当が校内研修を定期的に実施し、教師の不安解消に努めている。

続いて、芝浦工業大学柏中学高校のSSH主担当の須田博貴先生が、同校の探究学習について紹介した。1980年の学校設立当初から探究学習に取り組んできた同校は、2004年度に文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けたことを機に、高校2年生の選択科目として物理と化学の課題研究を設定。毎年100人程度が課題研究に取り組んできた。22年度からは同科目を高校1・2年次の必修科目に変更し、課題研究を中心とするSSH事業を各部署で分担することにした。その理由について、須田先生は次のように説明した、「高校1・2年生は約600人いますから、それだけの数の生徒が同時に課題研究に取り組むことになります。それまでは研究部が課題研究を主導していましたが、高校1・2年次の必修科目になると全教師が同科目にかかわる必要があるため、同科目にかかわる業務を他の分掌と分担するような体制へと変更しました」。SSH担当の高澤良輔先生は、「生徒と教師で課題研究についての共通理解を図るために、課題研究の細かい手順や流れをまとめた探究のテキストを作成した(図3)」と話した。

図3 芝浦工業大学柏中学高校は探究学習の指針となるテキストを作成。同テキストは同校のウェブサイトで公開されている。

両校の探究学習の紹介後、ファシリテーターの近藤先生がまず話題に挙げたのは、「調べ学習から脱却するための問いの深め方」だった。池田先生は、「テーマが決まったら、『なぜ▲▲は●●なのか?』というように、テーマに『なぜ』をつけてみようと生徒に伝えている」と、自身が行っているアイデアを披露。同じテーマでも、「広く」「深く」などと切り口を変えて考えてみると、調べたいことが見つけやすくなると説明した。高澤先生は、「教師がコーチングをする前に、生徒がモデリングする場をつくるようにしている。探究発表会など、先輩や同級生のよい取り組みを見る機会を設けることが、調べ学習から一歩踏み出すには効果的」と述べた。

続いて話題は、教師の姿勢に移った。近藤先生は、「多くの教師が、自身が中高生の時に探究学習の授業を受けた経験がない。そうした教師は探究学習の指導上どのような点に気をつけるべきか」と問いかけた。江森先生は、「教師は、『生徒に教えなければならない』というマインドを捨てることが重要」だとし、「校内研修において、教師は生徒とどのような対話をしたら探究を深めることができるのかについて、具体的な会話例を紹介しながら教師間で議論している」と答えた。須田先生は、「教えるのではなく、生徒に伴走するという気持ちが大切。生徒が問いを深めるためには、学校の中だけで探究を完結させず、生徒を地域や外部機関とつなげるといった視点も大切にしてほしい。その場合、外部連携が目的化しないよう注意が必要」と述べた。

最後に、教科学習と探究学習の連携について意見を交換した。高澤先生は、「探究学習と教科学習の連携は決して難しいことではない。探究的な問いは教科の授業やプリントの中に忍ばせることができる。そうした工夫を校内で共有することが大事」と語った。

近藤先生は、「先生方の話から、探究学習では、生徒の問いを深めることや、教師は生徒に伴走することなどが必要であり、その際には生徒との対話が重要であることが分かった。本日のような、多くの教育関係者とつながることができる場を大切にし、教師自身も探究し続けてほしい」と、トークセッションを締めくくった。

「総合的な探究の時間」の学びを活かした進路選択について 
 ベネッセコーポレーション東京支社 課長 片山 俊

最後に、ベネッセコーポレーション東京支社課長の片山俊が、「総合的な探究の時間」と進路選択のかかわりをテーマに講演した。まず片山は、「探究学習のサイクルを通じて、自分の興味・関心や大切にしていることが社会とどうかかわっているかを深めることで、自分の将来が見えてくる」とし、探究学習が進路選択に大いに生きることを強調した。

そして、教科学力のみならず、意欲や好奇心、目的意識を強く持った生徒を受け入れたいという大学が増えていることを、学校推薦型・総合型選抜の入試概況のデータを示しながら解説。全入学者数に占める学校推薦型・総合型選抜の合格者の割合が、国公立大学が21%、私立大学は58%に及び、2024年度大学入試ではさらにその割合は増える見込みだと述べた(図4)。

図4 2024年度入試でも多くの大学が学校推薦型・総合型選抜の募集枠を拡大する見込みであることが説明された。

続いて、学校推薦型・総合型選抜で最も重視されるのは「明確な志望動機」であるというデータを紹介。「探究学習を通じてもっと学びたい、もっと深めたいといった情熱や好奇心を持つようになった生徒にとって、学校推薦型・総合型選抜は1つの選択肢になる」と語った。

後半は、学校推薦型・総合型選抜の指導について話が及んだ。ベネッセの調査では、学校推薦型・総合型選抜の指導において、「学校の指導体制の構築」「志望理由書の対策」「小論文の対策」が各校の強化したい項目として挙がっていると紹介。志望理由書は自分にしか書けないエピソードを具体的に入れることが重要になると指摘。具体例として、福岡県立明善高校の関浩一郎先生の小論文指導を紹介した。

また、誰でも自由に利用できる高校生のための探究情報サイト「探究lab」を開設したことを説明。「今後も情報発信や教材開発を通して、全国の高校の探究学習を支援していきたい」と意気込みを語った。

なお、今回の探究フォーラムは、全国の教育関係者がオンラインでも参加することがもできる体制を整えた。講演の撮影や動画配信の準備・運営を進めたのは、芝浦工業大学柏中学高校有志の生徒たちだ(写真)。吹奏楽部や生徒会に所属する彼らは、コロナ禍の中で行事などをオンライン配信する技術を身につけてきた。デジタル機器の取り扱いが得意な友人にも声をかけ、生配信をやり遂げた。「一瞬画像が映らないこともありましたが、想定外のことにも落ち着いて対応できたことが今後の自信になりました」(生徒)

講演の撮影や動画配信の準備・運営を進めた、芝浦工業大学柏中学高校有志の生徒たち

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