2011年から毎年、中高生による探究的な学びの交流会であるベネッセSTEAMフェスタ(旧:新しい学びフェスタ)を開催してきました。今年度のフェスタには、全国から150チームが集まり、素晴らしい取り組みを発表してくれました。ここでは、3月25日の閉会式でコメントしたことをもとに、今年度のフェスタを簡単に振り返りたいと思います。

当事者としての探究

まず、最初に申し上げたいのは、生徒たちのテーマ設定がより当事者目線になったことです。しばらく前はSDGsというキーワードが普及したこともあって「気候変動」「教育」などの大きなテーマ設定が目立ちましたが、今年度はより身近な観点からテーマを掘り下げる取り組みが増えていました。

たとえば、3月25日の代表発表では、「出身地である木曽のカラマツに着目した」「熱中症で倒れた経験から栄養に興味を持った」のようなエピソードを聞くことができました。自分と自分の身の回りがよくなるように探究するという姿勢が浸透してきたと言えるのではないでしょうか。

特に「学校生活で見えない差別を感じた」というように容易には解決できないが重要な問題提起を実体験に基づいて掘り下げる姿勢は、フェスタで大切にしていきたいことです。

アプローチの多様化と高度化

また、テーマへのアプローチがより多様化し、かつ高度になりました。ベネッセSTEAMフェスタの特徴は、アカデミック(学術的な研究)、ソーシャルイノベーション(社会的な活動)、メーカー(ものづくり)という3つの部門の取り組みがそれぞれに学びあう場が設定されていることです。これまでソーシャルイノベーション部門やメーカー部門では「こんな活動をしました」という報告にとどまるケースも散見されましたが、今年度は仮説検証を行いアカデミック部門で発表する生徒が増えました。

3月25日の代表発表では、「ロケット」「時短メニュー」「消臭剤」「日焼け止め」が挙げられます。大きな問題を自分が働きかけられるサイズに分解し、何か解決策をつくって試してみる。フェスタが当初から大切にしてきた姿勢が、少しずつ浸透してきたのではないかと感じます。

その他、新しいアプローチとして興味深かったのは「世界と日本 二面からみる明治維新」です。小説を使って多角的に分析しようとするアプローチは他テーマにも応用できるのではないでしょうか。

継続と発展

昨年度に発表した取り組みをさらに発展させ、今年度も発表してくれた生徒のことも印象に残っています。代表発表に臨んでくれた10チームが、3月18日の全チーム発表からわずか1週間の間に、社会人サポーターや中高生からのフィードバックをもとに発表資料をアップデートしてくれたのも嬉しいことでした。

集大成としての最終発表ではなく、自分たちの活動をさらに発展させるための中間発表の場としてフェスタを活用する。そんな生徒たちの存在はとても心強いです。これはフェスタが学校単位で参加する場だからこそ、実現できていることだと思います。毎年のフェスタでの経験が各学校の探究活動に蓄積され、生徒たちの取り組みに反映されていることを実感します。

ChatGPTとこれからの教育

最後に、最近話題のChatGPTと教育について、コメントしたいと思います。私たちが計算機(Calculator)を自然に使っているように、これからは多くの人たちが生成機(generator)を使うようになり、創造がより身近なものになっていくでしょう。そして、ツールが当たり前になったときに成果の違いを生み出すのは、ツールの前後のプロセスです。

そう考えると、これから私たちがAIを活用し、AIと共存しながら幸せに社会で活躍していくためには、「意欲」「当事者性」「美的感覚」「メタ認知」等の資質・能力が重要になっていくのでしょう。どんなに素晴らしいツールがあったとしても、やりたいことがなければ使わないですし、善し悪しを判断して粘り強く改善していくのも人間です。

私自身がこの問題意識をもっているからでしょう。今年度のフェスタでは中高生の皆さんの当事者性と意欲、物事への多様なアプローチ、仮説検証や試行錯誤の継続と発展に目が留まりました。中高生の皆さんが、今後どのように成長していくか、何を成し遂げるかが本当に楽しみですし、元気になる一日でした。

3月25日に開催されたベネッセSTEAMフェスタ2023代表発表のアーカイブは、こちらからご覧いただけます。ぜひご覧ください。中高生の取り組みに対して同じ熱量でフィードバック、自らも成長し続ける社会人サポーターの姿もとても素敵です。

【代表発表チーム】

●アカデミック部門
郁文館グローバル高等学校『有翼モデルロケットの研究開発及び飛行特性』
奈良女子大学附属中等教育学校『会話文中の文末表現や一人称によってキャラクターに割り当てられるジェンダー —小学校国語教科書の物語文から見る児童が抱くジェンダー・イメージ—』
広尾学園高等学校『ニッケルを用いた有機無機ハイブリッド太陽電池及びハイドロクロミック材料の開発』
自修館中等教育学校『殺処分をゼロにするには』
豊島岡女子学園中学校『あっと言う間に分解!魔法のような光触媒』
豊島岡女子学園中学校『世界と日本 二面からみる明治維新 ~幕末日本の向かう先は~』
●ソーシャルイノベーション部門
郁文館高等学校『海にも人にも優しい日焼け止め』
上野学園高等学校『上野学園高等学校と他の国籍の学校との国際交流を継続するためには』
岡山学芸館高等学校『大学生選手と栄養のチグハグ』
●メイカー部門
長野県松本県ヶ丘高校『木曽のカラマツの余った枝や葉を使って消臭スプレーを作る』

 

小村俊平

ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長

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