3年ぶりに全国の中高生が集合して探究を発表
仲間や社会人と交じり合い、イノベーションを楽しむ!

2024年3月、上野学園中学校・高等学校を会場として「ベネッセSTEAMフェスタ2024」が開催されました。過去3年間はコロナ禍によりオンライン形式でしたが、13回目となる今回は3年ぶりに集合形式で行われました。中高生や各分野の専門家、企業人らが一堂に会して行われた発表や交流の様子を2回に分けてレポートします。

■開催概要
【日時】2024年3月23日(土)
【主催】株式会社ベネッセコーポレーション
【参加チーム数】中学校・高校 19校104チーム
【エントリー部門】
・アカデミック部門:学術的な探究心をもとに進めた探究・研究活動を発表する部門
・ソーシャルイノベーション部門:身近な気づきや問題意識から行動し、自分や周囲にもたらした変化を発表する部門
・メイカー部門:「創りたい!」という想いを形にし、表現する部門
【社会人サポーター】社会人や大学・企業の専門家14人
【プログラム】
・開会式
・ポスターセッション
・ワークショップ
・代表発表
・閉会式

知らない人との出会いで、何かが起こる!

ベネッセSTEAMフェスタは中高生の探究・研究活動を支え、STEAMの実践を広げることを目的として2011年に始まりました。中高生が自分の探究・研究の成果を発表し、学び合うとともに、各分野の専門家や企業人などの「社会人サポーター」を含めた参加者がフラットに対話し、学びの場を作り上げています。

3年ぶりに集合形式で行われた今回は、全国から19校104チームが参加。ポスターセッションやワークショップなどを通じて、参加者は学校・世代を超えて活発に交流しました。

■開会式
ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平センター長から開会の言葉が述べられました。小村センター長は、「リアルの開催で一番価値があるのは、知らない人と出会うことです。勇気を出して声をかければ、きっと新しい何かが起こると思います」と、積極的な交流を促しました。
そして、社会人サポーター14人が紹介されました。

司会は生徒たちが行いました。

ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平 センター長

14人の社会人サポーターは、専門家や企業の立場から、中高生の探究にアドバイスをしました。

全国から104チームが集まり、ポスターで探究を発表

■ポスターセッション
ポスターセッションは6回に分けて行われ、各セッション約18チームが発表しました。1チームあたり発表は7分間、質疑応答は6分間です。発表者は緊張気味ながら堂々とプレゼンテーションし、探究に対する自信と発表練習の成果が見られました。発表後は活発に質疑応答が行われ、特に社会人サポーターからは専門的な見地から、アドバイスや励ましの言葉が送られました。
以下、3チームの発表を紹介します。

手作りの博物館を文化祭で開館!

ソーシャル・イノベーション部門
発表タイトル「DIYいきもの博物館」
チーム名 三田国際学園中学校・高等学校 いきものがかり

三田国際学園中学校・高等学校のチーム「いきものがかり」は、自然と人との距離が離れていることを課題と捉え、その原因は「人が生物に無関心である」と仮説を立てました。そして、自然と人との共存の第一歩として、学園祭で手作りの博物館を企画。魚類・鳥類の標本や、段ボール製の恐竜の骨格標本、解説パネルの作成・展示、化石発掘体験・昆虫食体験、生物多様性に関する講演を実施しました。

高校生だからこそできる親しみやすさと温かみのある手作り感は、自然に興味を持ってもらう上で大切だと考えました」と、メンバーは語りました。

博物館には、文化祭開催の3日間で約900人が来場。入館者に取ったアンケートでは約9割の人が「自然に興味を持った」と回答しました。今後は学園祭にとどまらず、移動博物館を作り、小学校などで活動していきたいと意気込みを語りました。

見学者していた社会人サポーターからは、「博物館の入館料を無料にして、入館へのハードルを下げたのはよいアイデアですね。一方、運営にはコストがかかるので、サステナブルに取り組める方法を考えましょう」とアドバイスが送られました。

文化祭で博物館を開館した取り組みを発表する、チーム「いきものがかり」。

ディフェンスでの効果的な視線とは?

アカデミック部門
発表タイトル「バスケットボールにおけるディフェンス時の視線制御方略」
チーム名 奈良女子大学附属中等教育学校 チーム武村

奈良女子大学附属中等教育学校の「チーム武村」は、メンバーのバスケットボールの経験から、「1対1のディフェンスの巧拙は、視線に左右されるのではないか」という仮説を立て、優れたディフェンス動作と視線の関係について探究しました。

実験では、メガネにセットしたアイマークレコーダーでディフェンダーの視線を撮影して、視線の動向を分析。独自に作成した観察的動作評価を用いて、ディフェンスの到達度と比較しました。観察的動作評価は、「重心が低い」「ハンズアップができている」といった優れたディフェンスの条件を設定した上で、到達度を3段階で評価。視線の分析は、撮影した視線のデータを基に、ディフェンダーが注視した相手の体の部位を0.5秒ごとに記録して行いました。その結果、動作評価の低い選手は相手の首や胸を見ている一方、動作評価の高い選手は首から腹や腰までを見ていることが分かりました。

さらに、研究を進める中で、「身長によって視線が変わるのではないか」という第三者から指摘を受け、身長・経験年数と視線の関連を明らかにするアンケート調査を実施。また、実験の精度を高めるため、被験者を6人に増やして同じ実験を行うなど、追加調査も行いました。

それらの実験・調査の結果、「視線が体幹部分にあるほどディフェンス力が高い」「視線の向きは身長や経験年数に左右されず、個人の意識の違いによる」という結論が得られました。今後は、同様の方法で実際にディフェンス力が高まるか検証したいと展望を語りました。

見学者からは、「選手が元々持っている瞬発力や筋力などは考慮されないのですか」と質問がありました。「チーム武村」は、「視線を変えることで動作評価が上がれば、同じ筋力でも視線によって効果が出ることになる」と説明。「研究で楽しかったことは?」という質問には、「動画で撮影した選手の視線を初めて見た時、動作評価のデータと一致していることが分かった瞬間がうれしかった」と語りました。

「チーム武村」は、実験の様子を動画で紹介しました。

勉強中に抱いた疑問 転がりにくい消しゴムの形って?

ソーシャル・イノベーション部門
発表タイトル 「落としても転がらない消しゴム」
チーム名 西武学園文理中学・高等学校 チーム唯野

西武学園文理中学・高等学校の「チーム唯野」は、高校生の身近な困りごとを探究しました。ポスターセッションの冒頭、メンバーは見学者に「マーフィの法則を知っていますか?」と問いかけました。マーフィの法則は、往々に起こりやすい失敗や不運などの経験則のことです。同チームは、勉強中に落とした消しゴムが予想以上に遠くに転がるのもその一つと考え、消しゴムの形と転がり方について検証しました。

実験方法は次の3つです。
1.斜めの板にゴムを滑らせ、釣り合いの式を使って摩擦係数を計算。
2.消しゴムの代わりに軟式野球ボールを床に落とし、跳ね上がった高さから反発係数を測定。
3.Unity(物理演算エンジン)で球体や立方体、直方体、円柱形、楕円などのオブジェクトが転がる距離をシミュレーションで測定。

その結果、最も転がりにくいのは直方体で、次に球体、立方体等の順になりました。「一般的な消しゴムが最も転がりにくいという結果は残念でしたが、同じ直方体でも転がりにくい形があるはずなので、それも調べていきたいと思います」と、発表を締めくくりました。

見学者からは、「実験は何回しましたか」「初期状態の消しゴムの向きはランダムでしたか」など、実験方法や条件に関する質問が出ました。社会人サポーターからは、「最初にランダマイズする条件設定をもう少し見直すと、実験の精度が上がるかもしれない」など、具体的にアドバイスしていました。

「チーム唯野」は、勉強中に抱いた疑問を探究テーマとしました。

(後編に続きます)

ベネッセSTEAMフェスタ事務局

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