学会形式でポスターセッションを実施!
他校の中高生や社会人からの質問に答え、学びを深める
2025年3月開催された「ベネッセSTEAMフェスタ2025」では、前編でレポートしたセミナーセッション後、開会式とポスターセッションが行われました。中編では、開会式の模様と、3つのチームのポスターセッションをレポートします。
研究者や大学教員など、14名の社会人サポーターが参加
■開会式
開会式の司会は、会場となった昭和女子大学附属昭和高等学校の生徒3人が務めました。最初に、ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平センター長が開会の言葉を述べました。小村センター長は、「探究は、これまで皆さんが体験してきた学校内の学びと大きく違う点があります。それは自分が学んだこと、取り組んだことが誰にどのように評価されるかを皆さん自身が選べることです。この場には各分野の第一線で活躍する研究者や専門家が集まり、皆さんと同じように探究や研究に取り組んだ同世代がいます。ぜひ多くの参加者に声をかけ、意見をもらいましょう。そうすることで皆さんの探究や研究がさらに発展していくと思います。」と、参加者にアドバイスを送りました。続いて、今日の流れの説明と、社会人サポーター14名の自己紹介が行われました。
全国から102チームが集結! 文理問わず様々な探究を発表
■ポスターセッション
ポスターセッションは、1回40分間で、3回に分けて行われました。会場の13の教室では、最大3チームが同時に発表。ポスターの前に聴講者が来たら発表者は随時発表し、質疑応答や意見交換をする学会のポスター発表形式で実施されました。聴講者は、パンフレットを見て自分の興味・関心がある発表テーマを探し、多くのチームの発表を聞きました。
最初は緊張した面持ちで発表していた生徒たちですが、他校の生徒などからの質問に答えるうちに、緊張がほぐれていった様子でした。社会人サポーターから専門的なアドバイスを得て、熱心にメモする発表者の姿も見られました。
以下、3チームの発表を紹介します。
木の床を歩く力で、効率よく電力を発生させる方法とは?
ソーシャル・イノベーション部門
発表タイトル「出木杉君には敵わない!!〜木材の圧電効果を用いた床発電について〜」
チーム名 宮崎県立宮崎大宮高等学校 チーム大宮
近年注目されている「床発電」に関する研究を行った「チーム大宮」。「日本は、地球温暖化などの環境問題の要因の1つになっている火力発電への依存度が高い状況です。そこで、環境に優しい発電方法である『床発電』に着目しました」と、研究の背景を説明しました。床発電は、床に組み込んだ圧電素子によって、人が歩行する際の振動を電気に変える方法です。同チームは、床電力が実用化されれば、世界的な人口の増加や人口過密を利点に変えることができると期待を寄せています。また、林業が盛んな宮崎県では間伐材の有効活用が課題となっており、「杉の間伐材を用いた床発電の研究を進めることで、より環境負荷の少ない発電方法の普及につなげたいと考えました」と述べました。
同チームは、杉を用いた床で発電量を増やす条件を調べるため、木の水分量や厚さ、たたき方、踏む周期、踏み方などを比較する6つの実験を行いました。条件の違いによる発電量の変化を調べた結果、木の厚さは発電量に影響はなく、発電量を増やすには、木を水に1日中浸し、木目に対して並行にたたくのが最も効果的であることがわかりました。また、チーム内では「床を速く歩くほど発電量も増える」と仮説を立てていましたが、実験の結果、適度な周期で踏む方が、発電量が増えることがわかりました。実験結果は、わかりやすくグラフや表でまとめました。
今後の展望については、「杉を用いた床で可能な発電量を調べて、床発電の適切な設置場所を見つけるなど、実用化に向けて一層探究を深めていきます」と述べました。
見学していた社会人サポーターからは、「とても専門的な探究で驚きました。どのような仮説からこの6つの実験を考えたのですか」と質問がありました。同チームは、「仮説や実験方法は、宮崎大学の教授からアドバイスを受けながら、自分たちで考えました」と答えました。
凍らせたペットボトルの中身、次第に味が薄くなるのはなぜ?
メイカー部門
発表タイトル「凍らせた飲み物の融解時の糖度変化」
チーム名:西武学園文理中学・高等学校 チーム鈴木
「チーム鈴木」は、所属しているテニス部の活動中、凍らせたペットボトルの飲料を飲む際、「飲み物が溶けるにつれて味が薄くなるのが嫌だな」と感じたことをきっかけに、この現象を解消する方法を研究しようと考えました。そこで、研究目的を「凝固点降下による糖度変化を押さえた飲み物を開発する」ことにしました。
まず先行研究を調べたところ、群馬の高校生が同様の研究を行っており、その論文を参考にして実験の方向性を考えることにしました。同論文では、スポーツドリンクを飽和させることで、凍らせた後に融解しても濃度を一定に保てることが示されていました。しかし「チーム鈴木」は、その方法では、スポーツ時の飲料としては甘過ぎるため、問題の解決にはなっていないと感じました。そこで、一般で販売されているスポーツドリンクの濃度を均一にする方法を研究しようと考え、凍らせた飲み物の味の変化が起こる要因を明らかにする実験を行いました。
同チームは、糖度濃度1%の砂糖水を作り、ペットボトルに入れて、冷凍庫で縦向きに凍らせました。次に、凍ったペットボトルの口を下にしてひもで吊してキャップを外し、溶け出す溶液を一定量ずつ採取し、溶液の糖度を測定。「溶け始めの濃度が高く、次第に薄くなる」と仮説を立てました。滴下数と糖度の関係には減少傾向は見られたものの、期待されたようななめらかな勾配にはなりませんでした。
見学者からは「実験方法はどうやって考えたのですか」といった質問がありました。「担任の先生から飲み物が溶ける際、『ペットボトルが他のものに触れない方が、影響を受けないのではないか』とアドバイスをもらい、吊るすことにしました」と答えました。
ポスターセッション終了後、同チームに感想を聞いたところ、「見学者の方から、『凍らせる時、縦に置くのではなく、ペットボトルを回しながら凍らせると濃度が一定になるのではないか?』とアドバイスをいただき、ぜひ試してみたいと思いました」と語りました。対話によって新たな着想を得たようです。
SNSの発達する世の中で集団心理による印象操作の影響は?
ソーシャルイノベーション部門
発表タイトル 「決断力の低い人は集団心理による印象操作を受けやすいか〜決断力と集団心理の関係性について〜」
チーム名:千代田国際中学校(現 千代田中学校・高等学校) チーム遠藤
「チーム遠藤」は、SNSを利用する中で、「共感した人が多い情報ほど、その情報を正しいと認識してしまうのではないか」と考えました。そこから、「決断力の低い人は、集団心理による印象操作の影響を受けやすいのではないか」と仮説を立て、調査を実施しました。
まず、調査対象者に以下の3つの質問を含むアンケートAを実施しました。
① 決断力を測る質問
引用元:アンケートA
② 教員に対する信頼度を測る質問
③ 教科ごとの得意度を測る質問
次に、アンケートAの①の結果から決断力の高い生徒と低い生徒を抽出。さらに、②③の結果から数学教師に対する信頼度と数学の得意度がともに低い生徒に、「数学の●●先生授業の〜がわかりやすかったよね」など、数学の教師に対して好印象を与え、対象者が数学を得意だと思えるような声かけ(印象操作)を行いました。その後、アンケートAと同様の内容のアンケートBを実施し、教員への信頼度と教科の得意度の変化を調査。得られたデータを散布図にして分析しました。
その結果、印象操作によって、教員に対する信頼度や教科に対する得意度が上昇する可能性が示されました。ただ、決断力の有無と印象操作の影響は関係性が見られませんでした。
今後の展望として、同チームは「今回の調査対象者は64人と少なかったため、今後はデータ数を増やして分析の確実性を高めたいです」と述べました。
発表を聞いていた社会人サポーターからは、「受け取った情報が誤情報なのかどうかを判断する力を『決断力』と呼んでよいのか疑問を持ちました。情報がフェイクニュースかどうかを識別する力に関する先行研究があります。そうした力を因子として調査した方が、研究の説得力をより高められるのではないでしょうか」とアドバイスしました。
(後編に続きます)
ベネッセSTEAMフェスタ事務局