探究の苦労や悩みを他校の仲間に相談し、
今後の探究のヒントを得る

2025年3月に開催された「ベネッセSTEAMフェスタ2025」では、前編で紹介したAMセミナーセッション、中編でレポートしたポスターセッションに続き、他校の生徒と対話を通して探究活動を振り返るワークショップが行われました。後編ではその模様と、代表チームによるポスター発表をレポートします。

他校の生徒と対話しながら、探究の悩みを共有

■ワークショップ
参加者は3~8名のグループに分かれ、探究活動を振り返るワークショップを約40分間行いました。

グループごとに車座になり、探究での悩みを率直に語り合った

グループ内で自己紹介をした後、探究活動で楽しかったことや学んだこと、大変だったことなどを出し合いました。多くの生徒が大変だったことに挙げたのは、「計画を立てて探究することの難しさ」でした。「メンバーでやることを分担して計画的に進めようとしても、思うようにいかず、自分1人で抱え込んでしまった」「長期休業中にしかじっくり探究できる時間がなく、調査する時間を確保するのが大変だった」といった声が上がり、仲間とのチームワークや忙しい学校生活との両立などの苦労がうかがえました。

ほかにも、「信頼できる情報を見分けるのが難しかった」「協力者がなかなか集まらなかった」「生き物を使った実験をしていたが、条件をそろえるのが大変だった」など、調査や実験に関する悩みも共有されました。ある生徒が「多くの人にアンケートをとりたいけども、頼める人が限られてしまった」という悩みを話すと、グループのメンバーから「兄弟の友人に依頼する」「近くの小学校に協力を求める」「学校の先生に知り合いを紹介してもらう」といった実体験を基にしたアドバイスがありました。

また、ポスターセッションの感想には「自分の探究テーマは文系のものだったが、理系の研究もたくさん聞くことができて視野が広がった」「最新の知見を持つ大学の教員から研究のトレンドを聞くことができて勉強になった」「課題だと感じていた実験手法について、新たなアイデアをもらえた」などが上がりました。ポスターセッションは、多くの生徒にとって今後の探究に関するヒントを得る場になっていたことがわかりました。

社会人サポーターが厳選した3チームが、ポスターを発表!

■ポスターセッション代表チームの発表

ポスターセッションを実施した全102チームの中から、14名の社会人サポーターによって選ばれた3チームが、参加者全員の前でポスター発表を行いました。テーマの設定や仮説、探究のプロセス、ポスターの構成などの観点から、社会人サポーターが「オリジナリティがあり、ぜひ参加者全員に共有したい」と感じた3チームです。それぞれの発表後には、社会人サポーターからの推しコメントがありました。

代表チームに選ばれたのは、下記3チームです。
・メイカー部門:福井県立武生高等学校 なひばーにゃ「おもちゃで取り組むジェンダーギャップ」
・メイカー部門:かえつ有明中・高等学校 ものづくりPJ「小屋づくり計画」
・アカデミック部門:奈良女子大学附属中等教育学校 チーム竹田「古代〜中世の奈良における地蔵信仰・地蔵菩薩像造立の展開について」

性別に関係なく遊べるおもちゃとは?

福井県立武生高等学校の「なひばーにゃ」は、ジェンダーギャップの解消を目指したおもちゃを制作しました。それを研究テーマにしたのは、理系分野に進学する女子が少ないのは、幼少期から理系的な遊びに触れる機会が少なく、理系分野に興味を持ちづらいからではないかと考えたためです。「『おままごとは女の子がするもの』『ブロック遊びやプラモデルは男の子がするもの』といった無意識の思い込み(=アンコンシャスバイアス)があり、それはおもちゃのパッケージに印刷されている子どもの性別からもわかります」と説明しました。

そこで、同チームは、「どのようなおもちゃが、ジェンダーバイアスから生まれる理系分野に進学する女子の割合が低いという男女間の文理の比率の偏りを解消するのか」という問いを立て、探究を進めました。

おもちゃの設計図や試作品を見せながら発表を行った武生高等学校の「なひばーにゃ」

まず、幼児に推奨されている遊びを調べたところ、STEAM教育が推進されていることがわかりました。ただ、STEAM教育は理系的思考を養うことに重点を置かれているため、そこに文系的能力を育む要素を加える必要があると考えました。そこで、文系的能力を育むおもちゃの要素を探るため、保育園を訪問。園児を観察した結果、STEAM教育の要素となる遊びはブロック遊びが、文系的能力を養う遊びはおままごとが人気であることが判明しました。それを基に、おもちゃの開発の方向性を、ブロックとおままごとを組み合わせたおもちゃにしました。

しかし、幼児向けのおもちゃには様々な規制があることを知り、大学教授やおもちゃ会社にインタビュー調査を実施。その結果、色や素材、安全性に配慮する必要があることがわかりました。また、子どもの創造力を高めるためのおもちゃ作りのポイントも学びました。同チームは、調査を踏まえて設計図を作成し、3Dプリンターで試作品を制作。ポスター発表ではそれを見学者に示しました。今後の展望では、「保育園に試作品を持ち込み、園児たちの能力発達にどのような影響を与えるのか調査したいと考えています」と語りました。

同チームを推薦した社会人サポーターの鰺坂志門さんは、「課題の発見からアウトプットまで一気通貫で取り組んでいる点が、非常に素晴らしいと感じました」と評価しました。

校長にプレゼンし、校内にものづくりの拠点となる小屋を設置!

かえつ有明中・高等学校の「ものづくりプロジェクト」は、「小屋づくり計画」を立てました。同校の近隣地域の新木場は、かつて「木の町」と知られていました。しかし、木造の建物の減少や、海外からの木材輸入の増加などで、材木屋の数は激減しました。

そこで、同チームは、新木場の材木業界の復活を願い、自分たちにできることは何かと考え、若者が木を使ったものづくりを身近に感じられる環境を整備することにしました

端材で製作したおみくじを紹介しながら発表を行うかえつ有明高等学校の「ものづくりPJ」のメンバー

同校の敷地内に新校舎のアーツセンターができたことを機に、同チームは材木屋から端材を無料で譲り受け、アーツセンターでものづくりを開始しました。当初は端材を屋外に置いていたため、風雨にさらされた端材が傷んでしまいました。そこで、端材を保管する「小屋づくり計画」を立ち上げました。最初の目的は端材の保管でしたが、次第に「学校・もの・地域をつなげる空間」にしたいという想いが生まれました。

アーツセンターを設計した建築士からアドバイスを得ながら、現実性や安全性を考慮し小屋を設計。何度も設計し直し、最終的には幅約8m、奥行き2.5m、高さ3mの小屋の図面を完成させました。

設計の過程で、小屋の建築には様々な許可が必要であることもわかりました。まず、校長と学校法人にプレゼンテーションを行って許可を得るとともに、60万円の予算も確保。東京都における建築法規も確認し、ようやく2025年3月に建築を開始しました。同チームは、「ものづくりを通じて、人とのつながりを広げ続けられるようにしたいと考えています」と語りました。

社会人サポーターで大手建設会社に勤務する太田賢志さんは、推しコメントとして「設計前に敷地の可能性を調べ上げ、法的な問題もクリアし、着工まで自分たちの手でたどり着いたことが素晴らしいと思いました。彼らのようにぜひ皆さんも手を動かしながら考えてください」と述べました。

奈良町にある地蔵菩薩像を調べ、地蔵信仰の歴史的な展開を探る

奈良女子大学附属中等教育学校のチーム竹田は、「古代〜中世の奈良における地蔵信仰・地蔵菩薩像造立の展開について」というテーマで研究しました。研究の動機は、メンバーの地元・奈良町に地蔵菩薩像が多くあることに気づいたことにあります。小学生の頃に地域の伝統行事・地蔵盆に参加していたことから、奈良町には地蔵信仰がいつから、どのように展開していったのかに興味を持ち、調べることにしました。

まず、奈良における古代〜中世の地蔵信仰や地蔵菩薩像造立の特徴を探るために、奈良町に造立された地蔵菩薩像の分布を調査しました。その過程で、「滝坂の道」に地蔵菩薩像がまとまって存在していることに着目。石造仏の造立と信仰、都市・街道の形成に関連があるのではないかと仮説を立て、「滝坂の道」(旧柳生街道)の形成と仏像の造立や信仰との関連を探りました。

同チームは、文献調査を基に、「滝坂の道」沿いにある石造仏の種類や設置された時代などを一覧表にまとめていきました。すると、鎌倉時代には春日山中に麿崖仏(岩壁などに直接彫られた仏像)が多く建立されていたこと、室町時代には造立の範囲が春日山中から東側に広がったこと、石造仏の形が麿崖仏から独立型(切り出した石を加工したもの)に移行したことが明らかになりました。また、地蔵菩薩像や阿弥陀如来像が多く見られることから、庶民に浄土信仰が広がったと考察しました。

独自データを収集して発表をまとめた、奈良女子大学附属中等教育学校の「チーム竹田」

今後の展望として、「奈良町から延びる街道沿いに造立された石造仏の特徴と、『滝坂の道』に見られる特徴とを比較すること、そして石造仏が多く造立された鎌倉時代や室町時代の社会の変化や動きとの関係性についても、考察を深めていきたいです」と述べました。

社会人サポーターの東京都立大学の福田公子准教授は、「アカデミック部門に必要なのはオリジナリティですが、文系の探究においては既にあるものを組み替え、新しい発見へとつなげなければならず、それはとても難しいものです」と述べた上で、「チーム竹田」のオリジナリティを賞賛。「『チーム竹田』は、奈良で生まれ育ったローカル力、そして歴史が大好きというオタク力を生かして研究し、その成果を発表しました。これからも文系アカデミックを率いていってください」と熱いエールを送りました。

「自由な発想で考えよう!」「独創性を大切に」社会人サポーターからのメッセージ

■閉会式
社会人サポーター2人から、全体への講評がありました。

自然科学研究機構の小泉周特任教授は、自由な発想で考えることの重要性を強調しました。
「一人ひとりが本当に課題を解決したいという思いが、発表を通じてよく伝わってきました。ただ、ソーシャル・イノベーション部門は、身近な課題が見つけやすい一方で、解決方法を考える際、既存の仕組みや制約、常識にとらわれすぎていると感じました。もっと自由な発想で考えてほしいですね。先生方も生徒が突拍子もないアイデアを出しても、温かい目で見守ってください」と話しました。

東京科学大学の赤堀侃司名誉教授は、小泉特任教授の意見に同意した上で、「常識を打ち破るには勇気が必要です。特に日本では、周囲に忖度してしまいがちですが、それを打ち破って新しいアイデアを生み出してほしいと思います。ただし、独創性だけでなく、人とのコミュニケーションを大切にしながら探究を進めていくことが重要です。自分のオリジナリティとコミュニケーション力、この2つを意識して探究を続けてください」と、参加者にエールを送りました。

最後に、ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平センター長は、「今日で探究は終わりではありません。情熱を持ち続け、探究を深めてほしいと思います。大学で研究者になっても、企業でビジネスパーソンになっても、それだけで自分のやりたいことができるわけでも、大きなことができるわけでもありません。未来を切り拓いていくためには、常に強い意志が不可欠です。今日感じたことを大切にして、さらに挑戦をし続けていくことを期待します」と話し、フェスタを締めくくりました。

編集後記

昨年度、ベネッセSTEAMフェスタはコロナ禍以降、3年振りの集合形式で開催しました。他者の発表に向き合い、社会人や同世代に声をかけて話し合う姿などオンラインではなかなか見られない光景がたくさんありましたが、中にはなかなかはじめましての方に声をかけにくく、発表したことで満足してしまったような「受け身な姿勢がもったいない」生徒の姿もあったと社会人サポーターや参加者の方からコメントをいただいておりました。

「発表すること」が目的であるのであれば、世の中にあまたある、いわゆる『探究コンテスト』でよいかもしれません。その中でフェスタは第1回の頃から、成果発表ではなく、学び合いの場であることを大事にしています。日頃、全国で生徒の皆さんが取り組んでいる探究・研究を持ち寄り、アカデミック、ソーシャルイノベーション、メイカーという異分野、別の地域からきた学校、大人と生徒で混じり合うことに意味があると思っています。

そこで今回のフェスタでは、セミナーセッションで深く探究についてアドバイスをもらえる機会や、ポスターセッションの時間制限を撤廃するなど、参加者の方がより学びあう時間を確保できるように様々運用上の変更を行いました。結果、フェスタの会場のあちこちで、連絡先を交換しあう参加者の様子や、社会人サポーターをソファーブースに引っ張り込み自分の悩みをぶつける生徒の方の姿が見られました。
ある運営スタッフは、「異なる制服の生徒さんたちが閉会式後に「またね!」と手を振りあってました。言われた生徒さんがお友達に「またね、って言われちゃった!お友達できちゃった!」と大変嬉しそうにされてましたよ」と教えてくれました。

全国から参加する中高生や先生、社会人サポーターと共感しあい、異なる意見や視点と触れることで、生徒の皆さんの次の学びやイノベーションにつながれば幸いです。

最後にこの場をお借りして、オープンキャンパスの日程にもかかわらず会場を使わせていただいた昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の皆さまに感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

 

 

ベネッセSTEAMフェスタ事務局

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