探究の苦楽を知る仲間同士で刺激し合い、
次の探究に向けてパワーをチャージ

2024年3月、3年ぶりに集合形式で開催された「ベネッセSTEAMフェスタ2024」では、前編でリポートしたポスターセッションのほかに、初対面の中高生同士によるワークショップが行われました。後編では、その模様と、代表チームによるポスター発表をレポートします。

初対面の参加者同士で、探究の思いを語り合う

■ワークショップ
エントリー部門ごとに5~10名のグループで、約40分間、互いの探究活動を振り返るワークショップが行われました。

ワークショップでは、探究の悩みや苦労など、ポスターセッションでは話さなかったことを伝え合っていました。

グループごとに車座になると、自己紹介と探究活動の説明、学んだことなどを伝え合いました。「先生から与えられた課題ではなく、自分で立てたテーマについて答えを探す活動が新鮮でした」「やればやるほど分からないことが出てきて大変でしたが、どんどん高みを目指すところにやりがいを感じました」など、多くの生徒が意欲的に探究を進めてきた様子がうかがえました。

一方、壁にぶつかったり、挫折を味わったりした生徒も多かったようです。「最初はどのようにテーマを決めてよいか分からず、毎週行われる報告会がプレッシャーでした」「データ解析では何度もエラーが出て、心が折れそうになりました」など、ポスターセッションでは語られなかった苦労を口にする生徒もいました。また、「今日のポスターセッションの質疑応答でうまく答えられず、データが不十分だったことが分かりました」と、ポスターセッションでの経験を次に生かそうとする姿勢も見られました。

途中、社会人サポーターがグループに加わると、話し合いはさらに深まりました。メイカー部門のあるグループでは、社会人サポーターから「今日のプレゼンを見ると、無理にテーマを作っている、やらされ感のある発表もあったように感じられました」と厳しい意見が出されました。それを受けて、生徒たちは「他人の評価を気にして前に進めなくなることがあるかもしれない」「個性を出しすぎると叩かれる風潮も感じる」など、それぞれが抱いていた葛藤や違和感を口にしました。

討論後、このグループに参加していた生徒は「もっと、自分の個性を出してもいいのかなと思いました。自分の研究は先行研究に少し工夫を加えただけだったかもしれません。独自性のあるテーマを立てることが、これからの課題です」と抱負を述べました。

学校や世代を超えた交流は、生徒たちに大きな刺激を与えていました。

参加者全員に見てほしい! 3チームがポスターを全体発表

■ポスターセッション代表チームの発表
ポスターセッションを行ったチームのうち、社会人サポーターによって選出されたチームがポスター発表を行いました。テーマの立て方や仮説、探究のプロセス、ポスターのまとめ方などの項目について、社会人サポーターが「参加者全員に見せたい」と思ったチームが選ばれました。

代表チームに選ばれたのは、各部門1チームずつです。
・メイカー部門:三田国際学園中学校・高等学校 チーム遠竹「結びプロジェクト」
・ソーシャルイノベーション部門:神奈川県立神奈川総合高等学校 チーム田老「わかりやすい駅のサインをデザインする」
・アカデミック部門:奈良女子大学附属中等教育学校 チーム武村「バスケットボールにおけるディフェンス時の視線制御方略」(発表内容は、前編の記事で紹介)

人々の思いが詰まった神社を残したい!

三田国際学園中学校・高等学校のチーム遠竹は、古代から守られてきた神社を、1000年後も人々の思いが集まる場所であり続けるためのプロジェクトを企画しました。神社を守るためにまずは神社を知ってもらうことが大切と考え、福岡県の宗像大社を紹介する冊子を製作しました。製作過程では、様々な人に意見をもらいながら改良を重ねました。また、独自の視点を得ようと、自宅の近所の神社で巫女を体験しました。

完成した冊子を秋の学園祭に出品したところ、保護者には興味を持ってもらえたものの、同世代からは文字が多いという理由で、あまり手に取ってもらえませんでした。そこで、中高生にも関心を持ってもらえるようにと、宗像大社の祭神である三女神をイラスト化し、写真の配置にも工夫を凝らして、親しみやすい冊子に改良しました。また、宗像大社を取材し、アピールしたい点を聞いて、冊子に盛り込みました。

外国人にも神社の文化を伝えたいと考え、英語版の冊子も製作しました。外国人に神社についてヒアリングをすると、「神社は敷居が高い」という声があったため、日本語版をそのまま英訳するのではなく、神社の参拝の作法を説明するページを追加しました。「今後は、海外を含む様々なお店に冊子を設置してもらえるよう働きかけていきたい」と、チーム遠竹は語りました。

三田国際学園中学校・高等学校 チーム遠竹「結びプロジェクト」の発表の様子。

駅構内で迷わない乗換案内のデザインとは?

神奈川県立神奈川総合高等学校のチーム田老は、駅で迷わないように、新しいサインのデザインを提案しました。まず、駅の誘導サインに関する先行研究を調べ、「下向き・折線の矢印」は、進む方向や距離が分かりづらいとされていることを確認した上で、校内でアンケートを実施。駅のサインが分かりづらいと感じている人は8割に及び、現在の乗換案内の写真を見せて、どちらに進むか聞いたところ4人に1人が間違った方向を選択しました。

その結果を踏まえて、「日吉駅で、東急東横線の1番ホームから横浜市営地下鉄に乗り換える際に間違える人が多いのはなぜか」という問いと、それに対する「下向きの折線矢印や平行と立体の違い、誘導案内の不足などが原因である」という仮説を立て、改善案を作成。折線矢印からUターン矢印へ変更する、看板に地下鉄のシンボルカラーを使い目立たせる、床に乗り換えの誘導線を引く、立体の矢印を立てるなどのアイデアを考案し、3DCG等でデザイン化しました。

作成した改善案を携えて、東急電鉄本社を訪問。サイン計画の担当者に話を聞き、駅の誘導サインの基本的な考え方、自分の改善案に対するアドバイスをもらいました。それを基に改善案を修正し、アンケートを実施。すると、進む方向を間違えた人は、現在の乗換案内の写真では42.6%だったのに対し、改善案では18.1%という結果を得ました。

探究で大切なことは何か? 社会人サポーターがメッセージ

■閉会式
社会人サポーター3人から、ポスターセッションへの講評がありました。

CAP高等学院の佐藤裕幸さんは、マーケティングの視点から探究活動のあるべき姿を語りました。「好きなことをするだけの時代は終わりました。大事なのは、好きなことを“やり続ける”ことです。そして、好きなことをやり続けたいのなら、『結びプロジェクト』のように市場にマッチしているのかを調べ、いろいろな人に知ってもらう努力をすることが大切です」と、参加者に伝えました。

自然科学研究機構の小泉周特任教授は、仮説を立てることの大切さを強調しました。
「3つの代表チームはいずれも、好きなテーマから上手に仮説を立て、検証のプロセスがきちんとできていました。一方、仮説の立て方や検証の方法について、十分につめられていなかったり、迷いが見られるものが少なくありませんでした。」と、引率で参加していた教員にもメッセージを送りました。

東京都立大学の福田公子准教授は、研究における熱意の重要性を語りました。「研究者は1年中、研究に没頭していますが、そのうち成果が出るのは5~6日程度です。それでも前に進み続けられるのは、執着と呼べるほどの熱意があるからです。熱意は年齢にかかわらず、いつでも燃え上がらせることができます。たとえ今は燃えていないとしても、いつかは燃えるんだという思いを秘めて、教科の学びや人との出会いを大切にしてください」と語りました。

講評に続いて、本フェスタに初回からご協力いただいている東京工業大学の赤堀侃司名誉教授からメッセージをいただきました。「本日のポスターセッションがすべてよかったのは、データに基づいた論理的な説明で納得感があったからだと思います。優れた研究は、格好よく美しいものです。皆さんはその美しいものを追いかけて探究活動に取り組んできました。その思いを胸に、これからも自信をもって探究を続けてください」と、参加者にエールを送りました。

ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平センター長は、「素晴らしい研究や活動は、必ずしもすぐに評価されるものではありません。もし皆さんの取り組みが本当に大切なものだと思ったら、周りの人にすぐに評価されないからといってあきらめないでください。色々な人に意見を求めてください。見てもらう人や環境が変われば評価は変わるし、色々な意見を聞くプロセスで活動が深まります。本当に世の中を変えるような重要な取り組み、新しい取り組みは、簡単には実行できません。時間がかかると思って、粘り強く取り組んでください。」と総括しました。そして最後に、会場となった上野学園中学校・高等学校の藤井亮太朗先生が、「今日、この場で知り合った人と情熱をシェアしてください」と呼びかけ、4時間半に及んだ熱いフェスタは幕を閉じました。

編集後記

ベネッセSTEAMフェスタは今年、コロナ禍以降、3年振りの集合形式で開催されました。
他者の発表に向き合い、社会人や同世代に声をかけて話し合う姿などオンラインではなかなか見られない光景がたくさんありました。

今年で13回目ということもあり、世の中の動きも大きく変わり、いわゆる『探究コンテスト』も増えてきました。その中でフェスタは第1回の頃から、成果発表ではなく、学び合いの場であることを大事にしています。日頃、全国で生徒の皆さんが取り組んでいる探究・研究を持ち寄り、アカデミック、ソーシャルイノベーション、メイカーという異分野で混じり合うことに意味があると思っています。
ワークショップでは互いの探究活動を振り返る時間がありましたが、悩みや苦労、葛藤や違和感などもたくさん話し合われました。全国から参加する中高生や先生、社会人サポーターと同じ悩みを抱えていることを見つけ、異なる意見や視点と触れることで
、生徒の皆さんの次の学びやイノベーションにつながれば幸いです。

最後にこの場をお借りして、保護者会の日程にもかかわらず会場を使わせていただいた上野学園の皆さまに感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

フェスタは、さらに活動内容を発展させて、来年以降も続けていきます。ぜひ今後も皆さんと一緒に盛り上げていければと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 

ベネッセSTEAMフェスタ事務局

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