私は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトマネジャーとして、現在も2031年の最終目的地でのミッションの達成に向けて仲間たちと日々試行錯誤を続けています。子どもの頃から手を動かしてものを作ることに強い興味を持っていた私が、どのような経緯で現在に至っているか、学生時代のことなども振り返りながらお話ししていきたいと思います。

進路選択に大きな影響を与えた親友の存在

私は小さい頃からものづくりが好きでした。プラモデル製作や工作、ラジオ作り、プログラミングなどに没頭し、父のDIYを見よう見まねで手伝ったり、近所に住むおじさんにプラモデル作りを教わったりした記憶があります。

小・中学校は地元の公立に通い、算数や理科が得意でした。ただ当時は、ものづくりや科学技術系の仕事に就くことを特段意識したこともなく、将来の進路を真剣に考えたのは高校に入ってからです。特に、受験する大学・学部を選ぶ際には、将来自分はどのような仕事をするとよいのか、とても悩みました。高校時代も数学が得意で、物理を始め、理科系の科目の授業に圧倒的に興味がありました。また、小学1年生の時にロケットの実物や発射台を見学した時のことが強く印象に残っていたことから、人工衛星を作ってみたい、宇宙工学を学んで宇宙に関連する仕事に就きたいと考えるようになりました。進路を考える際に支えとなったのが、親友の存在です。その親友というのは、高校の部活動でテニスのペアを組んでいた相手で、彼も宇宙工学に興味があり、進路の悩みを互いに話し合う中で、私は自分の進む道を定めていくことができました。そうして高校時代に将来の方向性を決めることができていたおかげで、大学入学後の専攻の選択の際も迷いはありませんでした。

理論だけでなく、実物をつくり上げたことで、進みたい道がより明確になった

当時、宇宙工学を専攻できる大学は今ほど多くなく、その1つである東京大学に入学し、航空宇宙工学を専攻しました。そこで恩師となる先生に出会い、先生の研究室で人工衛星の開発に没頭しました。学生のうちは衛星づくりに必要な基礎理論を学んだり、計算をひたすら行ったりするだけだと思っていましたが、実際に衛星をつくる機会も与えてもらえました。それは想定外の喜びでした。大学院まで同じ先生の下で学び、手のひらサイズの人工衛星を完成させることができました。その喜びや経験から、宇宙を飛行する機体を製造することを仕事にしたいという思いがますます募っていきました。なお、完成させた衛星は、大学院卒業後にすぐに宇宙に打ち上げられました。

大学院生時代に完成させた、手のひらサイズの人工衛星「Cube Sat」。右から2人目が津田氏。

高校時代に進路の悩みを相談し合った親友とは後日談があります。大学院時代に完成させた人工衛星の開発は、親友が学ぶ大学との共同プロジェクトでした。私も彼もそれぞれの大学のプロジェクトリーダーとなり、一緒に人工衛星を打ち上げました。その彼は現在、私と同じJAXAに所属し、ともに働いています。それも日頃から仲間と夢や目標を語り、技術を追究して、その素晴らしさをともに感じるなど、周囲との小さな一つひとつの縁を大切にしてきたからこそ実現した偶然だと思っています。そういった意味で「共感力」とは、縁を大切にし、周囲と物事を協力して進めることを大切にできる力とも言えるのではないでしょうか。

疑問を持つことが評価され、ワクワクが連鎖するような教育を

就職先については、どうせなら誰もやったことがないすごいことや、まだ存在しない乗り物にかかわる仕事に就きたいと考えました。その条件に最も近そうだったのが、旧宇宙科学研究所(その後、他の2機関と統合して現在はJAXA)でした。折しも入社時は小惑星探査機初号機の「はやぶさ」が打ち上がる直前でした。まだ右も左も分からないまま私は、「はやぶさ」による惑星探査をつかさどる部署に配属されました。そこから私の「はやぶさ」、「はやぶさ2」とのかかわりが続いています。

科学者の先輩として科学者を目指す子どもにアドバイスを贈るならば、科学的思考力を高めるために必要な、未知なるものを面白いと感じる力を大切にしてほしいということです。科学の面白さは、何らかの謎があって、その謎を解き明かすと世の中の仕組みの一部が分かるのと同時に、「じゃあ、ここはどうなっているんだろう?」といった次の謎が生まれる、その無限の連鎖にあるのではないでしょうか。そうした様々な謎解きのワクワクを、中学・高校の先生方には、生徒にたくさん味わわせていただきたいと思います。謎解きの過程で生徒は、「自分は○○を勉強しないといけないんだな」などと、自分が学ぶべきことが分かるようになりますし、現時点でできない、分からないことがあっても、分かるようになることが大切だと思えるようになるのではないでしょうか。例えば、生徒が先生に疑問を投げかけてきたら、「よく気づいたね」「こういうことを知ったのなら、そういう疑問が湧くのは自然なことだよ」「じゃあそれは、どういうことだと思う?」といったやり取りを先生と生徒の間でしながら授業が進むことが理想的です。知識が身につくことだけではなく、疑問を持つことも評価されるような仕組みを、先生方にはつくっていってほしいと思います。

実物に触れ、手を動かす体験がますます重要になる

私は3人の子どもの親ですが、子育てには苦労しています。その中で感じるのは、大人が子どもに対して「指導する」「答えを示してあげる」などと強く思わない方がよいということです。例えば、大抵の子どもは宇宙や乗り物に自然と興味を持つものですが、私の場合、子どもたちの「それは何?」「どうして?」に対する答えを知っているので、ついそれらの問いに答えてしまっていました。すると、答えを知ってしまった子どもは、疑問に思ったことに対する興味を急速に失っていきます。大人も子どもと近い立場で一緒に謎を解き、ワクワクを共有することの方が、答えを教えることよりも余程大切なことなのだと、後になって気づき、後悔しました。

また、科学技術が進歩すればするほど、机上や画面上だけの世界ではなく、実物に触れ、自分の手を動かすことがますます重要になると思います。その直接的な感覚や刺激、経験なくして、好奇心や興味・関心は生まれません。もし、ICTの普及によって実物に触れる機会が少なくなっているのであれば、それはとても残念なことです。知識は大人になってからでも身につきます。子どものうちはまず実物に触れさせ、世の中の出来事を自分事として捉える経験を積ませることを優先すべきではないでしょうか。他者から言われたことや文書を通じてインプットした知識は身につきにくいものです。自分で手を動かしたり、他者と一緒に体験したりした方が身につきやすいと言われます。なぜなら、それらには「自分が行動する」という要素が必ず入っているからです。教師や保護者の方には、子どもが自分からやりたいと思うことを学校やご家庭で増やし、実際に行動に移せる機会をぜひ数多く用意していただきたいと思います。

(本記事の執筆者:神田 有希子)

 

津田 雄一(つだ・ゆういち)

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授。JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」拡張ミッションチームプロジェクトマネジャー。

詳しいプロフィールはこちら