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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2023年度 Vol.2

地域の人材や教育資源を活用し、学校と連携して、使える英語力や国際感覚を育成
~群馬県 高山村教育委員会~

2023/07/05 09:00

群馬県吾妻郡(あがつま)高山村では、中学2年生の希望者全員がオーストラリアにホームステイする海外派遣事業を実施するなど、英語教育や国際教育に力を注いでいる 。地域人材の活用にも力を入れており、高山村教育委員会と地域コーディネーターが協力して小・中学生それぞれを対象とした英語クラブ・英語塾を開設している(本誌P.34に掲載)。

本記事では、小・中学生向けに地域で展開する英語教育の詳細と、地域コーディネーターや受講者の子どもたちの声を紹介する。

 

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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高山村概要

人口:約3,300人/面積: 64.18㎢/村立学校数 :小学校1校、中学校1校/児童生徒数 :小学校129人、中学校76人/教員数: 42人(小・中計)

お話を伺った先生

高山村教育委員会 教育長
山口 廣(やまぐち・ひろし)先生

教育課 社会教育主事
鳥塚嘉紀(とりづか・ひろき)先生

教育課 地域学校協働活動推進員(地域コーディネーター)
石坂元美(いしざか・もとみ)さん

教育課 地域学校協働活動推進員(地域コーディネーター)
平形佐和美(ひらかた・さわみ)さん

1.コロナ禍で海外派遣できなかった学年も、
2023・24年度に追加で実施

群馬県北西部に位置する高山村は、かねてより教育の重点施策として、英語教育の充実を図ってきた。その具体的な取り組みの1つが、2000年から実施している、村内の中学2年生の希望者全員がオーストラリアにホームステイをする海外派遣事業だ。山口廣教育長は次のように説明する。

「英語教育は、本村の特色ある教育の1つです。中でも中学生海外派遣事業は、現村長がアメリカに農業留学をした経験を基に、若い世代に国際感覚や英語力を養うことの重要性を村民に訴えて推進してきました。本事業は、議会の理解にも支えられ、20年以上にわたり継続しています」

しかし、コロナ禍の影響で、2020~22年度は、派遣を中止せざるを得なかった。そこで、現中学3年生は、2023年度に現中学2年生と同時期にオーストラリアに、現高校1・2年生は、2023年度または2024年度の夏季休業中にシンガポールに、希望者を派遣する計画を立てている。

地域での英語教育についても、地域住民の理解や協力の下、充実を図ってきた。2014年には、海外在住経験や英語指導経験を持つ地域の有志が集まった団体「TEACH(Takayama English Activity and Culture Hour)」が発足。派遣先で生徒が充実した経験ができるよう、事前講座の実施を高山村教育委員会(以下、村教委)に提案した。TEACHの発起人で、英語指導の講師も務める、地域学校協働活動推進員(地域コーディネーター)の石坂元美さんは、次のように思いを語る。

「希望者全員がホームステイをする事業は、大変素晴らしいと思いました。だからこそ、事前準備を丁寧に行えば、より豊かな体験につながると考えました。事前講座をTEACHの事業の1つとして提案したところ、村教委から承認を得ました」

こうして2014年、海外派遣の前に、中学2年生を対象として4回の事前講座を実施。生徒は、ホストファミリーと意思疎通を図るための英会話や、コミュニケーションで注意したいことなどを学んでから、ホームステイに臨んだ。

2.小学生向け英語クラブや英語の資格・検定試験の
サポートも開始

事前講座をきっかけとして、社会教育としても英語教育が広がった。教育課の鳥塚嘉紀社会教育主事は、次のように語る。

「社会の変化に対応していくためには、学校教育だけではなく、地域の人々の力を借りて、社会教育の面からも英語教育や国際教育を充実させたいと考えました。そこでTEACHと連携して、2014年に、小学生を対象とした『どよう英語クラブ』をスタートさせました」

月1回、土曜日に実施する「どよう英語クラブ」は、毎回20人以上の小学生が参加する人気の講座だ。日本や外国の文化、季節や行事といった身近な事柄を取り上げ、ゲームや遊びなどを通じて体験的に英語を学ぶ活動を展開している(写真1)。石坂さんは、「遊びながら学べるのが、『どよう英語クラブ』のよいところです。他学年との交流も大切にしていて、相互に英語力を高め合う姿が見られます。子どもたちからは、『活動が楽しい』『英語が分かるようになった』『次が楽しみ』といったポジティブな感想が多く聞かれます」と語る。

写真1:子どもたちが、指とスポンジと、折り紙を用いて、季節の絵を描いている「どよう英語クラブ」の1場面。指導員と英語でやり取りをする中で、色や形、季節を表す英語を学んでいく。

2019年には、「どよう英語クラブ」の実施日に、地域コーディネーターによる小・中学生の希望者を対象とした英語の資格・検定試験の受験サポートを行う「チャレンジ塾」も開設した。小学生は、習熟度別に「読む・書く・話す・聞く」の技能を養い、中学生は、受験するレベルに応じて「読む・書く」を中心に練習するなど、受検対策や家庭学習の進め方を少人数で指導している。

3.中学校の英語科教員と連携し、学習効果を高める

現在、中学1・2年生対象の「中学生英語塾」は、月1〜2回(年間全14回)で、中学校が部活動を休みとしている月曜日の放課後に実施している。例年、海外派遣事業を希望する生徒の大半が参加している。

「中学生英語塾」は、学校での学習内容を考慮して、学年別に実施している。中学1年生は、主に英会話を通じて英語に親しみ、コミュニケーションツールとしての英語力を高める活動を重視している。地域コーディネーターで、「中学生英語塾」の講師を務める平形佐和美さんは、次のように説明する。

「中学校では文法なども本格的に学習するようになりますから、英語に苦手意識を持つ生徒が増えます。そこで塾では、外国の文化や風習に触れながら、英語をより身近に感じられる活動を中心に行っています。ゲームなどのアクティビティーを通して、英語を使うことが楽しいと感じ、学校の授業も頑張ろうと、学習意欲が高まる場になることを目指しています」

地域コーディネーターは、中学校の英語科教員やALTとも、SNSなどで学校の授業の進度等の情報を交換し、塾での活動に生かしている。例えば、学校の授業で習ったばかりの表現や語彙を取り上げてアウトプットの練習をしたり、教員から生徒の理解が不十分であると伝えられた単元の復習をしたりしている。

「中学校の英語科教員と協力して指導できていることが、学習効果の高さにつながっていると感じます。教員が塾の様子を見に来て指導に加わったり、生徒と一緒に活動したりすることもあります」(山口教育長)

生徒からは、「英語でコミュニケーションをするのは難しかったけれど、この塾のおかげで自信がついた」「ゲームなどを通して楽しみながら知識を身につけられた」「実際に使えるコミュニケーションを学べた」といった声が聞かれている(写真2)。

写真2:「中学生英語塾」の活動では、正確性よりも、まずは失敗を恐れずに英語を発信することを優先している。活動内容は、生徒の理解度や反応を踏まえ、中学校の英語科教員にも相談し、柔軟に構成している。

4.初対面の外国人と交流する様々な場を用意

中学生英語塾では、ALTが指導に加わるほか、平形さんが運営する農園にファームステイとして滞在する外国人観光客が講座に参加するなど、村に滞在している外国人を積極的に招き、生徒と交流する場を設けている。コロナ禍以前は、前橋市内の専門学校に通う留学生の寮が村内にあったため、留学生と定期的に国際交流会を実施していた。また、隔年で、中学生海外派遣事業の提携校であるオーストラリアの中学校の生徒が来日。村内にホームステイをして、生徒と交流する(写真3・4)。

「村には子どもの数が少なく、就学前から同じ集団で過ごしていて、人間関係にあまり変化がありません。初対面の人に自分について伝えることに慣れるという目的で、多様な人と出会う機会を増やしています」(平形さん)

写真3:オーストラリアの提携校の生徒が、高山村立高山中学校を訪れ、交流活動を行う。

写真4:地域クラブの上州いぶき太鼓チームがワークショップを開催。中高生のメンバーがオーストラリアの提携校の生徒にフォームやリズムを教え、一緒に簡単な演奏をした。

中学生英語塾に参加するボランティアの中には、生徒と同じ目線で一緒に学ぶ大人もいる。

「生徒と一緒に学ぶ大人は、生徒の英語学習のロールモデルになります。間違えても率先して英語を話そうとする大人の姿を見れば、生徒も、『自分も失敗を恐れずにチャレンジしてみよう』という気持ちになるでしょう。『英語が得意でなくても大丈夫ですよ』と、ボランティアへの参加を呼びかけると、多くの人が興味を持って参加してくれます」(平形さん)

5.ホームステイの体験をその後の学びにつなげるサポート

中学2年生の前半は、ホームステイに向けて、コミュニケーションのポイントやマナーとともに、日常の英会話や自己紹介、日本や高山村の魅力の説明、フリートークの仕方、そして御礼の手紙の書き方などを実践的に学ぶ。

「何も準備をせずに渡航すると、カルチャーショックを受けただけでホームステイの期間が終わってしまいます。渡航先での過ごし方をイメージして心の準備をし、英会話を練習しておくと、『知っている表現を試してみよう』といった前向きな気持ちで過ごせます。現地の人たちと少しでもやり取りができれば自信になりますし、失敗しても次につながりやすいと思います(写真5)」(石坂さん)

写真5:ホームステイ先での活動の様子。海外への渡航が初めての生徒が多いが、しっかりと準備をするからこそ、前向きにチャレンジして、自分の課題にも気づける。

実際、帰国後に、「塾で学んだ表現が役立った」「御礼の手紙を書いて渡してきた」などと、事前に学んだことを生かせたという声が多く聞かれた。一方で、「もっと練習しておけばよかった」「こういう表現を身につけたい」などと、現地で課題に気づく生徒も多いことから、帰国後の塾では、文法などの学習も取り入れるようにしている。

「伝えたいことを満足に伝えられずに、悔しい思いを抱えて帰国する生徒は少なくありません。そこで、『もっと文法を勉強すれば、話せることが増えるよ』などと学習を促し、少しずつ受験勉強にもつなげていきます」(平形さん)

帰国後は、参加者全員が現地での体験をまとめる報告書を作成し、村議会議員を含めた多くの関係者を前に発表する場を設ける。そうした情報共有によって村議会の理解が得られ、本事業が長年にわたって継続してこられた背景の1つとなっている。

6.学校教育と社会教育の両面から英語力を充実させていく

学校教育と社会教育の両面から英語力や国際感覚を育成する取り組みは、生徒の学びや進路に大きな影響を及ぼしている。毎年の成人式で新成人を対象に行っているアンケートでは、海外派遣事業の経験について9割以上が「非常に役立っている」と回答している。

「『高校で海外留学をした』『大学卒業後に海外で働いている』といった話を聞くと、本事業の意義を感じます。英語科教員となって県の英語教育に貢献する人もいることを、誇らしく思っています」(山口教育長)

そうした成果を踏まえ、今後も村教委では、学校教育と社会教育を通じた英語教育や国際教育を充実させていく方針だ。

「地域の方々が参画してくださることで、地域の人材や教育資源を効果的に学びに取り入れられるとともに、様々な人とのつながりが生まれていることに素晴らしさを感じています。学校の教員とは異なる指導や支援を受け、子どもたちは英語活動をより身近に感じることができています。これからもグローバル人材の育成に力を注ぐとともに、地域の魅力に目を向けた郷土愛を育む活動を充実させて、様々な形で地域に貢献してくれる多様な人材を育てていきたいと考えています」(鳥塚社会教育主事)

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