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- 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2024年度 Vol.2
研究主任会で学んだ方法で自校の調査結果を分析。 全教員が同じ方向で授業改善に取り組む
長野県 飯田市立浜井場(はまいば)小学校
2024/11/22 09:00
飯田市教育委員会(以下、市教委)は、市内の小学2〜5年生と中学1・2年生を対象に、市独自で学力調査を実施。同調査の結果から分かった児童生徒の強みや課題を把握する方法を、市内の各学校の研究主任が集まる研究主任会で提示し、どの学年の教員もエビデンスに基づいた授業改善を進められるよう、支援している(詳細は本誌記事を参照)。本記事では、それらの調査結果を活用しながら、全校を挙げて授業改善に取り組んでいる、飯田市立浜井場小学校の実践を詳しく紹介する。
▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)
学校概要
設立:1908(明治41)年
児童数:96人
教員数:15人
学級数:8学級
お話を伺った先生
校長
小林正彦(こばやし・まさひこ)
同校に赴任して2年目。
研究主任
壬生光江(みぶ・みつえ)
3学年担任。
研究主任会での学びを生かし、
校内で授業改善の方針を打ち出す
浜井場小学校では、学力調査の結果を生かした授業改善に取り組んでいる。小林正彦校長は次のように語る。
「本校では、子ども主体の学びを大切にしています。そうした授業づくりにおいては、すべての子どもの学力の実態を的確に把握することが重要であり、そのために学力調査の結果を活用しています」
研究主任の壬生光江先生は、市教委主催の研究主任会で学んだことを生かして、2024年8月下旬に「2学期に向けた授業改善」をテーマに校内研修を行った。
[研修前]
各学年の担任に、学年ごとに学力調査の結果がまとまっている学年票を配布。担当学年の「強み」と「(教師の指導場面から)そう考えられる理由」、「課題」と「(教師の指導場面から)そう考えられる理由」、「課題に対して、どのような取り組みができそうか」を、クラウドの「取り組みシート」に入力してもらった(図1)。
「私だけでなく、先生方の視点を踏まえて全校の分析をしたいと考え、研修の前に同シートに入力してもらいました。また、各先生が結果をどのように捉えたかを共有することで、分析の視点も学ぶことができると思いました。実際、先生によって考えることは異なり、私自身にとっても勉強になりました」(壬生先生)
[研修内容]
壬生先生は、シートに入力された各教員の結果分析と自身が調査結果から読み取ったことを踏まえて、学校全体としての国語・算数のよかった点と課題を説明。その上で、2学期に意識して指導したいことを提案した。
例えば国語では、「各単元で身についた知識・技能を発揮する場をつくりましょう。そのために、言語活動を工夫して設定しましょう」と提案した。その背景には、次のような分析があった。
「研究主任会で自校の結果を分析した際に、どの学年も、説明文の構成に関する設問の正答率がよくなかったことに気づきました。説明文は、1年生から段階を追ってその読解について学ぶ分野であり、どの学年も授業で扱います。学力調査での初見の素材文の問題を解けないのは、授業で学んだことと目の前のテストの問題を子どもが切り離して捉えているからではないかと考えました。そこで、授業での学びが汎用的なものとなるよう、教科書以外の素材文で読解する機会を設けることを提案しました」(壬生先生)
そのように、教員間で強みや課題を共有した上で、学年ごとに「できるようになりたい“この1問”」を見いだす活動を行った。“この1問”を考えるための課題が焦点化された状態で日々の授業を振り返れば、どの教員も“この1問”を考えやすくなると思ったからだ。
壬生先生は、研究主任会で配布された「正答数分布グラフ」の資料を提示して、「あと1問」を正答すれば全国の平均正答率に近づくことを説明。ウェブ分析システム「SYEN」(*1)から抜き出した3年生のS-P表(*2)を例に、誤答の多かった問題や、ケアレスミスが多かったと想定される問題など、どの問題に着目すればよいのか、どうすれば課題を見いだせるのかを示した(図2)。
「同じ尺度を使って話し合いができるようになったことで、全教員で課題を共有し、同じ方向で授業改善に取り組みやすくなったと感じています。次年度も今年度同様、2~5年生が学力調査を受けますから、皆で頑張って授業改善を進めた結果を見取り、さらにブラッシュアップを図っていきたいと思っています」(壬生先生)
*1 ベネッセが提供するアセスメント「総合学力調査」の結果を提供するウェブ分析システム。必要なデータを簡単に検索でき、詳しい分析もウェブ上の簡単な操作で行える。
*2 学校や学級単位で、縦と横がそれぞれ児童生徒(S:Student)と設問(P:Problem)の正答数の多い順に並べ替えた表の中に、S曲線とP曲線を書き入れたもの。それを活用することで、平均正答率だけでは把握できない、学校や学級全体の課題の傾向や、個々の児童生徒が理解していない可能性が高い設問を見つけだすことができる。文部科学省のウェブサイト「学校/学級別解答状況整理表(S-P表)の活用方法について」で詳しく説明されている。
的確な実態の把握で、
授業改善と指導の見通しを立てる
壬生先生は自身の授業改善のために、学力調査を次のように活用している。
2024年4月に同校に赴任して3年生の担任を受け持つことになった壬生先生は、2年生までの学習状況が分からず、何に指導の重点を置けばよいか、考えあぐねていた。しかし、4月に行われた学力調査の結果を見ることで、その問題は解決した。
「学力調査では、国語も算数も知識・技能に課題が見られた一方で、思考・判断・表現の問題はよくできていました。記述式問題は、3年生でも自分の考えをこんなに書くことができるのだと驚くくらい、しっかり解答が書けていました。子どもに話を聞いたところ、1・2年生の授業では子ども同士で話し合う活動がよく行われていたことが分かりました。そこで、3年生の授業でも話し合い活動を継続しつつ、知識・技能で課題のあった分野を補っていこうと考えました」(壬生先生)
例えば国語では、主語と述語に関する文法事項の理解が十分でないことが分かった。そこで主語と述語について扱う3年生の単元は、2年生での学習内容の復習から授業を始めようと考えている。
「その学年の学習内容を確実に身につけてから、次の学年に進んでほしいと思っています。そのため、調査結果を基に指導の見通しを持ち、指導計画を立てるようにしています」(壬生先生)
自律した学習者の育成に向けて、個人票を活用
学力調査の個人票の返却時には、担任が子ども一人ひとりと面談をして、子どもが担任とともに結果を振り返った。壬生先生の場合、事前に子どもに個人票を渡して振り返りを書いてもらい、それを見ながら1人ずつ、約5分間の面談を行った。
「どの子どもも、個人票を見て自分なりに考えたことを書いていました。私はそれを見取り、『2学期は書き順を頑張ろうね』『3年生の算数でも図形の学習があるので、意識して勉強しようね』などと、2学期以降の学習につながるような声かけをしました」(壬生先生)
個人票は通知表のファイルに挟んで自宅に持ち帰らせ、子どもから保護者に渡すようにした。その際、学力調査は今後の学習改善に役立てるものであるため、点数を見るだけでなく、子どもの振り返りを読み、頑張りを認めるメッセージを書いてほしいことを伝える、保護者宛てのお便りを添えた。
3年生の算数の授業では、授業開始後の5分間を「ハッピータイム」と名づけ、デジタルドリルに取り組ませている。5・6年生も授業の終わりなどにデジタルドリルに取り組んでいるが、自分で取り組む問題を決める、自己調整学習としている。
壬生先生は、3年生でも同様の自己調整学習を行おうとしたが、子どもが自分の苦手分野を把握できていない様子だったため、学力調査の結果を踏まえ、2年生の学習範囲からできていない分野を提示して取り組ませた。ある時、九九の問題を出したところ、子どもたちから「九九はできるよ」という声が上がった。そこで壬生先生が、「4月にみんなが受けたテストでは、(九九の)できがよくないところがあったんだよ。もう一度、復習してみよう」と説明すると、子どもたちは「そうなんだ」と、納得して取り組んだという。学力調査の結果は、子どももエビデンスの1つとして捉えているようだ。
「高学年になる時には、自分で弱点を見いだし、するべきことを自分で判断して取り組めるような、自律的な学習者に育っていてほしいと考えています。その実現に向けて、低学年時からテストの結果を見て振り返る経験を積み重ねてもらいたいと思っています」
壬生先生は、そのように今後の指導の方向性を語った。