学校教育情報誌『VIEW next』『VIEW next』TOPへ

  • 教育委員会向け
  • 誌面連動
  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2024年度 Vol.3

部活動を地域へ移行。 指導者や活動場所の確保、用具・備品の準備など、様々な課題に挑戦
神戸市教育委員会

2025/03/17 09:00

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • はてなブックマーク

2026年8月末に、中学校の部活動を平日・休日ともに終了し、同年9月から新たな地域クラブ活動「KOBE◆KATSU(コベカツ)」を開始する予定の神戸市。移行後は、地域活動の受け入れ団体・企業が主体となって学校や地域の施設を利用した活動の場をつくり、生徒は学校区を超えて自分の希望する活動に参加する。ただ、移行までには、活動場所や指導者の確保、用具・備品の準備はもちろんのこと、ハラスメント防止を始めとする生徒の安全確保など、様々な課題に取り組まなければならない。神戸市教育委員会(以下、市教委)に、地域移行の進捗と2026年9月までの課題と展望を聞いた。

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

PDFダウンロード

神戸市 概要

「心豊かに たくましく生きる人間」を目指す人間像に掲げ、教育ビジョン「自他を大切に 自ら考え 未来をつくる」の具体的展開に向けて、「主体的・対話的で深い学び」や体験活動の充実、行きたくなる学校づくり、実効性のある働き方改革に取り組む。
人口 約150万人  面積 552.3㎢
市立学校数 小学校161校、中学校80校、特別支援学校6校、義務教育学校2校
児童生徒数 小学校約6万9,900人、中学校約3万3,800人
教員数 約7,800人

お話を伺った先生

教育長
福本 靖(ふくもと・やすし)

学校教育部 部長
竹森永敏(たけもり・ながとし)

学校教育部 児童生徒課 係長
魚山純子(うおやま・じゅんこ)

2026年8月末で学校単位の部活動は終了し、
9月からは地域クラブ活動を開始

神戸市では、これまで各中学校で実施されてきた部活動を2026年8月末ですべて終了し、同年9月から地域クラブ活動「KOBE◆KATSU(コベカツ)」の開始を予定している。そのため、2024年度に中学1年生だった生徒は、引退時期である中学3年生の夏まで中学校での部活動に参加できる。2024年度の小学6年生は中学2年生の夏まで、小学5年生は中学1年生の夏まで、それぞれ部活動に参加することが可能で、その後は希望者が、2026年9月から開始する「KOBE◆KATSU」に参加することになる()。中学校の部活動に参加していなかった生徒が、「KOBE◆KATSU」に参加することも可能だ。

なお、施設の使用面などで部活動と競合しない活動は、2025年9月以降に「KOBE◆KATSU」としての先行実施を認めていく予定だ。2026年9月を待つことなく、可能な限り生徒の選択肢を増やしていくためだ。

図 「KOBE◆KATSU」スタートまでの各学年の動き

部活動の地域移行については2022年11月に、市教委が「部活動の地域移行のあり方検討委員会」を設置。部活動の取り組みを検証するとともに、地域移行のあり方について、有識者等の意見を聞きながら検討を進めてきた。

そして2024年4月、福本靖氏の教育長就任をきっかけに、地域移行が具体性を帯び始めた。神戸市で中学校教員、校長を務めた後、県内の川西市教育委員会で教員の働き方改革、部活動の地域移行に携わった福本氏の教育長就任は、神戸市の改革の推進力を一気に高め、就任後まもなく「KOBE◆KATSU」に関する議論が、市教委内で始まった。

政令指定都市で初めてとなる部活動の地域移行については、市教委内からも戸惑いや不安の声が一定数聞こえたという。

「反対する人に話を聞くと、自身が経験した部活動のあり方を前提としていて、『皆で1つのことに没頭する経験ができる場として、学校の部活動は今後も必要だ』といった考えが少なくないことが分かりました。そこで私たちは、現状の部活動では小規模校が単独で試合に参加できなかったり、そもそもチームを組めなかったりすること、そして多様化した子どもや保護者の価値観に対応し切れていないことなどを説明していきました。現状を説明すると、部活動の地域移行について理解を得ることができました」(福本教育長)

福本教育長も、教員時代にバレーボール部の顧問として25年間にわたって中学生を指導してきた経験を持つ。「教員を志望した理由の1つに、部活動の指導に携わりたいという思いがありました」と話すほど、教員の仕事として部活動にも一生懸命取り組んできた。部活動の価値と部活動を取り巻く状況の変化の双方を理解しているからこそ、地域移行への動きを停滞させてはならないと、福本教育長は考えている。

「私が教員になったおよそ40年前は、各学校とも生徒数や教員数が多かったので、部活動の顧問は、情熱を持つ教員が自ら望み、務めていました。しかし、学校が小規模化し、望まない教員も含めて多くの教員が顧問を務めなければならなくなった今は、多忙な教員の善意に頼る形で部活動を続けていくことはもはや困難な状況です」(福本教育長)

部活動の地域移行を決めると、市教委には他の自治体の現役教員から、部活動が地域に移行した際には、神戸市の教員採用試験を受験することはできるのかといった相談もあったという。

学校という枠を取り払い、
地域とともに多様な活動を展開

2025年1月に、「KOBE◆KATSU」への登録を希望する団体・企業の第1次募集が開始された。持続可能な運営体制とするため、各団体・企業ともに責任者、会計担当者、指導者など、3人以上のスタッフで構成することを原則とし、責任者は高校生を除く18歳以上としている。また、「神戸市立中学校の中学生が参加できる活動であること」「営利を主目的とした活動ではないこと」「団体のスタッフ全員が神戸市の指定する研修を受講すること」といった応募資格の要件を定めている。

学校教育部の竹森永敏部長は、「募集を開始した当初は、どのくらいの数の団体・企業が手を挙げてくれるか、正直、不安はありました」と語る。だが、募集開始から約2週間で、155の団体・企業からの応募があり、市教委としても一定の手応えを感じている。

「応募団体・企業の活動内容はバラエティーに富んでいます。サッカーやバスケットボールなどのスポーツ種目はもちろん、農業、料理、伝統芸能といった、これまでの部活動のイメージには収まらないものもあります。若い世代とつながるチャンスと捉えている地域の方々も多いようです」(竹森部長)

一般企業や地域住民から、「こういう活動は『KOBE◆KATSU』として登録できるのか」といった問い合わせも少なくないと、学校教育部児童生徒課の魚山純子係長は語る。

「ロボット製作に携わる企業からは、『ものづくりに興味を持ってもらえるよう、ドローンを使ったサッカーを『KOBE◆KATSU』でやってみたい』といった相談がありました。CSR(企業の社会的責任)の活動の1つとして、参画を検討する企業もあるようです」

さらには、スポーツクライミングの楽しさを子どもたちに体験してほしいと、有志の保護者が新たに団体を立ち上げたり、子ども食堂を運営する地域住民が、食堂で振る舞う料理を中学生と一緒に作ろうと、『KOBE◆KATSU』への参画を検討したりする動きもあるそうだ。

2024年11月には、小学校5年生、6年生の児童を対象に、須磨海釣り公園で「KOBE◆KATSU」体験会」『Enjoy!フィッシング(釣り)』が開催された。中学校の部活動には見られない活動だったため、子どもたちの人気は高く、募集開始後すぐに定員に到達した。

施設利用において学校に負担をかけないように、
リモートロックを採用

現在、市教委では、部活動の地域移行に向けて、対応すべき問題を1つずつ解決している段階だ。

「例えば、『KOBE◆KATSU』への参加団体・企業等が学校の施設を使用する場合、鍵の管理が問題になります。これまでのように、教頭先生などが鍵を管理し、施錠・解錠に立ち合っていては、教員にかかる負担は変わらないどころか、増える可能性もあります。神戸市では、既にICTを活用した市立中学校体育館の夜間開放を実施しており、82校のうち68校の体育館に、スマートロックを整備済みです」(竹森部長)

用具や備品に関する問題もある。例えば吹奏楽は、部活動として行っている現在は、学校の備品として購入した楽器を生徒が使用することができる。しかし、「KOBE◆KATSU」に移行すると、生徒が使用する楽器を誰かが準備しなくてはならない。

「本市は、ほぼすべての中学校に吹奏楽部があります。今後も希望する生徒が『KOBE◆KATSU』で吹奏楽を続けられるように、中学校にある楽器の使用を認めるなど、環境を整えることを考えています。なお、吹奏楽では、指導者の確保も重要な課題です。指導者がいない学校については、その学校が所在する地域に住む方々や参画を希望する教員に相談することになるかもしれません」(魚山係長)

ほかにも、活動に使用する用具・備品の運搬の問題や、これまでの部活動よりも遅い時刻からの開始が予想される中で、特に夕方以降に発生する活動音などが近隣住民に与える問題などもある。さらに活動にかかる費用の問題もある。

「活動にかかる費用は、各家庭に負担していただくことになります。活動内容によって金額は異なりますが、想定しているのは、週2、3回の活動で、月額3,000円から4,000円程度です。生活に困窮している家庭の生徒も『KOBE◆KATSU』に参加できるよう、支援のあり方を検討しているところです」(竹森部長)

さらに、応募団体・企業の数や活動内容が地域によってばらつきがあるため、募集については今後も力を入れていく。

「市教委では、各地域の小学生がどんな活動を望んでいるかに加えて、どの活動にどれだけの団体・企業から応募があったのかも公表し、今後も活動団体が参画しやすい環境を整備していきます。そして、参加する大人の必要人数に応じて市教委が地域に出向き、地域の保護者に、『実際の活動の指導は必ずしも必要ではないので、子どもたちの活動を見守っていただけませんか』などと、直接、『KOBE◆KATSU』参画団体の設立を呼びかけていくことも考えています」(竹森部長)

2024年6月に、性犯罪歴を持つ者が子どもにかかわる職業に就くことを防ぐ制度である「日本版DBS」の創設を含む「こども性暴力防止法」が成立した。2026年には施行される見通しだ。『KOBE◆KATSU』に参加する団体・企業のスタッフには、中学生の活動にあたって留意すべき事項、安全管理、熱中症予防、ハラスメント防止などに関する研修を、活動開始までに受けることを求めているが、今後は、「こども性暴力防止法」に関する国の動向を注視しながら、必要に応じて同法を踏まえたガイドラインを作成することになると、市教委では考えている。

「部活動の地域移行は前例が少なく、手探りのチャレンジです。だからこそ、市教委には覚悟とリーダーシップが求められます。また、地域に移行するからといって、活動に関する責任をすべて地域に押しつけるものではありません。子どもたち、保護者、活動に参画する地域団体・企業の言葉に耳を傾けながら、市教委として、子どもたちのためにできることに取り組み続けたいと考えています」(福本教育長)

Benesse High School Online|ベネッセハイスクールオンライン

ベネッセ教育総合研究所

Copyright ©Benesse Corporation. All rights reserved.