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【誌面連動】マイ・ストーリーを語れる生徒を育む進路指導 詳細紹介
島根県・私立開星中学校・高校
生徒が自律して学び、自信を持って将来像を語れるよう、
志望理由書の作成を通じて進路選択を支援する

2022/07/04 07:00

「マイ・ストーリー」とは、生徒一人ひとりの「自分のこれまでの学びや活動、その成果や結果に至るまでのプロセス、これからの展望」を指す。

本記事では、『VIEW next』高校版2022年6月号で紹介した島根県・私立開星中学校・高校の、「マイ・ストーリー」を描き、それを語れる力を生徒に育む取り組みを、さらに詳しく紹介する。

 

2022年6月号の記事はこちらから

本記事のコンテンツ

1.多様な大学入試に対応する力を育む「進路探究」を2022年度からスタート

2.生徒が将来像をじっくり考え、教師との信頼関係を築く期間を設ける

3.面接の資料となる志望理由書を、徹底的にブラッシュアップ

4.推薦型選抜の希望者同士で刺激し合い、模擬面接を実施

5.自己管理能力を育むため、1年次から振り返りを徹底

6.「マイ・ストーリー」を描けるよう、探究学習と進路指導を結びつける

学校概要

◎設立  1924(大正13)年

◎形態 全日制/普通科/共学

◎生徒数 1学年約150人

◎2022年度入試合格実績(現浪計) 国公立大は、鳥取大、島根大、愛媛大、横浜市立大、鳥取県立大に7人が合格。私立大は、東海大、東洋大、日本大、立教大、京都産業大、立命館大、関西大、近畿大、甲南大、広島修道大などに延べ74人が合格。

お話を伺った先生

高校2年部学年主任、学習進路部
大田 毅(おおた・たけし)

教職歴4年。同校に赴任して5年目。大学の理工系学部で助教等を10年間勤めた後、高校教師に転身。

1.多様な大学入試に対応する力を育む「進路探究」を2022年度からスタート

 

島根県・私立開星中学校・高校は、2022年度の高校1年生から「進路探究」をスタートさせた。テーマを「多様な入試に対応する力を身につけ、自分だけの進路マイ・ストーリーをつくろう」とし、次の2つを目的に掲げた。

  •  総合型選抜・学校推薦型選抜(以下、推薦型選抜)で、第1志望の大学・短大・専門学校合格を目指す
  •  一般選抜のモチベーションアップ

 

学習進路部は、「マイ・ストーリー」「小論文」「ディスカッション」「プレゼンテーション」を軸とした年間支援計画を作成。生徒が「マイ・ストーリー」を描くことができるように、1年次から探究学習を通じて希望進路の実現を支援していくというねらいがある。

 

部活動が盛んな同校では、多くの生徒が部活動引退後の高校3年次の6月頃から受験勉強を本格化させる。推薦型選抜の対策もその頃から始めるが、入試が始まる10月頃までの約4か月間では、対策が間に合わないといった課題があった。

そうした中、大田毅先生は、20年度に、同校に赴任して初めて高校3年生の担任を務め、推薦型選抜の希望者の支援を独自に行った。すると、同学年は、国公立大学に過去最高の10人が合格。私立大学も含めると110人が合格し、うち66人が推薦型選抜での合格者だった。そうした結果につながったノウハウを全校に広め、1年次から全校体制での進路支援を行っていこうとスタートさせたのが「進路探究」だ。

 

 

2.生徒が将来像をじっくり考え、教師との信頼関係を築く期間を設ける

 

進路指導の改革のきっかけとなった、大田先生が行った進路支援と、その背景にあった思いや生徒の変容を見ていく。

 

大田先生は、大学の理工系学部で助教等を10年間勤めた後、高校教師に転身し、18年4月、同校に着任。1年目に高校1年生の担任を務め、そのまま持ち上がって、大学入学共通テストや推薦型選抜が初めて実施された20年度に、高校3年生の担任を務めた。

大田先生は、大学教員時代に大学入試や就職支援に携わった経験を踏まえて、3年生への進路支援を次のような方法で行った。進路についての相談に来た生徒にはまず、独自に作成したプリント「志望理由の設計図」を渡し、志望大学や学部、将来のビジョンなどを記入してもらう。そうして自身の立ち位置を確認した上で、志望分野に関連する論文を読むようアドバイスし、生徒が大学でやりたいことや将来像についてじっくり考え、それらを明確にしてから志望理由書の作成を始める。

6月下旬に相談に来た場合は、夏季休業前までの1か月間を、生徒が将来像を考える時間に充てる。部活動の引退が遅いと、8月に相談に来る生徒もいるが、入試本番が迫っているからといって、急いで志望理由書の作成に着手させるようなことはせず、まずは将来像を具体化するよう促す。

「志望学部や学科を挙げることはできても、大学で具体的に何を勉強したいのか、それが自分の将来にどう結びけたいのかが描けていなければ、『マイ・ストーリー』とは言えません。それらを明確にしてから志望理由書を書き始める方がよいと考えました。何より、目標が具体化すると生徒の学習意欲は高まり、その後の学習の密度が濃くなりますから、たとえ推薦型選抜で不合格になったとしても、一般選抜に対応することができます。また、教師には、生徒との信頼関係を築くことが必要です。相談に来た生徒に、余計な焦りや不安を抱かせず、『この先生となら、一緒に頑張れそうだ』と思ってもらえるように、じっくりと対話を行っています」

 

3.面接の資料となる志望理由書を、徹底的にブラッシュアップ

 

生徒の個性を尊重した支援も、大田先生は心がけている。例えば、データサイエンスを学びたいという生徒が、プレゼンテーションが得意で、読書が好きだと分かると、筑波大学情報学群知識情報・図書館学類の学校推薦型選抜を勧めた。集団面接で行われるビブリオバトルで、生徒の個性を発揮できると考えたからだ。

「即興的なやり取りもあるビブリオバトルならば、生徒がプレゼンテーション力を発揮して合格できるのではないかと考えました。一方、プレゼンテーションがあまり得意ではない生徒には、面接が課されない大学・学部を勧めることもあります。入試で課される内容も踏まえて、生徒の希望進路の実現に近づく支援をしています」

 

推薦型選抜では、一般的に志望理由書、面接、小論文が課されるが、大田先生は、面接の資料にもなる志望理由書の作成過程を重視している。

「志望理由書は、自分の情報を事前に大学に伝える資料です。そのため、面接で質問されることを想定して志望理由書を書くよう、生徒に伝えています。そして、学校の推薦書には、生徒が志望理由書に書き切れなかった、教師目線での生徒のよい点を書くようにしています。それらに書き切れなかったことをアピールするのが面接だと、生徒に説明しています」

 

志望理由書の添削では、大田先生が疑問に思った箇所やよいと思った箇所にマーカーを引き、生徒に詳しい内容や、それを書いた理由を聞く。そうした対話を通じて、生徒は志望する分野についてもっと知りたいと思い、自ら調べるようになるという。

そのようにして、マイ・ストーリーを伝える骨格ができてから、志望分野とかかわりのある自身のこれまでの学びの履歴を加えるなどして、志望大学・学部への思いが伝わるようにしていく。

4.推薦型選抜の希望者同士で刺激し合い、模擬面接を実施

 

志望理由書の作成過程で、社会課題を調べ、課題への考えも深めるため、生徒は自信を持って専門分野に関する意見を述べられるようになる。また、教師と対話を重ねるうちに、生徒は敬語を流ちょうに使えるようになったり、マナーを身につけたりする。生徒は、教師と面接の練習を行うことはないが、推薦型選抜を受験する生徒同士で、面接練習を行うという。

「私が、『Aさんは、あなたの志望分野と関連する分野を受験するから、話してみたら?』と勧めると、生徒同士で情報交換をするようになり、その流れで模擬面接を始めます。その際、志望分野が近い生徒が面接官役をするわけですが、例えば、『福祉分野にはこういった問題がありますが、都市開発を通じてどう解決することができると考えますか』といった質問をしていました。そうした生徒同士の模擬面接で質問にうまく答えられず、情報不足を感じたり、異なる分野の視点からの意見を聞くうちに疑問が湧いたりすることで、さらに生徒は自発的に情報を求めるようになります」

 

「志望理由の設計図」、志望分野の論文の閲読、志望理由書の作成、志望分野が異なる生徒との対話と、様々な手法で考えを深め、情報を蓄えていくと、生徒は次第に自律的に行動するようになり、普段の授業や一般選抜に向けた学習にも意欲的に取り組むという。

「自分の知りたいことが英語の論文に書かれていると分かっても、英語が分からないとそうした論文が読めないと認識し、英語の学習を頑張り始めたり、選挙や経済の仕組みを知りたいと、公民の勉強をし直したりする生徒がいました。希望進路に関する知識を得る中で、自分の知識不足を痛感し、それが学習意欲につながっています」

 

そのような支援が、冒頭に紹介したような大学入試の結果につながった。

「推薦型選抜の面接で、自分が調べたことを面接官に聞かれたのがうれしかったようで、多くの生徒が『面接は楽しかった』と言っていました。不合格だった生徒も、『あの質問にうまく答えられなかったからだ』と、不合格の要因を分析し、その後の学習を頑張り、一般選抜で志望校に合格しました。自律して前に進む生徒を頼もしく感じました」

5.自己管理能力を育むため、1年次から振り返りを徹底

 

1学年主任となった大田先生は、1年次から自己管理能力を育むことを目的とした進路指導計画を立て、学年全体で進めていった。

「3年生の夏季休業前の1か月間で行っていたことを1年次から行えば、生徒は希望進路をより多角的に、より深く考えることができます。目標が明確になれば、学習にも早期から意欲的に取り組むようになると期待しました」

 

1年次の4月から重点を置いたのが、振り返りだ。定期考査や学校行事などの後に、よかった点や反省点、今後取り組みたい点を書く機会を設けた。2年生になると、1人1冊手帳を持たせ、前週のよかった点と反省点の振り返り、今週の学習や部活動などの計画及び今週頑張ることを書かせるようにした。それは、自分の状況を確認した上で、目標達成までの計画を考えられるようにするためだ。また、中学校までの経験を振り返る活動や適職検査などを行うことで、自分の強みや弱みを知り、やりたいことや将来像を考える機会を設けた。

 

「1年次から希望進路について調べ、考えてきたことで、2年生の4月に行った志望校調査では、多くの生徒が、具体的な志望大学や学部を挙げていました。手帳による振り返りの効果もあるのか、例年よりも、全体的に学習意欲が高くなっていると感じています」

6.「マイ・ストーリー」を描けるよう、探究学習と進路指導を結びつける

 

21年度の1年生に対して行った取り組みも踏まえ、22年度の1年生においては、「進路探究」の計画を立て、実施している。

 

進路探究では、「自己・他己分析」や「自分史」の作成、学内外での活動の度にその経験を書きためる「ポートフォリオ」、自身の関心を基に調査や課外活動に取り組む「実践的学習」通じて、将来像を考えていく。「小論文」「ディスカッション」「プレゼンテーション」を盛り込んだプログラムは、推薦型選抜で課される小論文、集団面接でのグループ・ディスカッション、個人)面接を想定したものであり、それぞれの対策方法を学ぶ。

「早期から目標を持つことで、学習意欲が高まることを期待しています。推薦型選抜では、大学入学共通テストの利用が増えており、高い学力をつければ、志望校の選択肢が広がるからです」

「早期から目標を持つことで、学習意欲が高まることを期待しています。推薦型選抜では、大学入学共通テストの利用が増えており、高い学力をつければ、志望校の選択肢が広がるからです」

 

また、探究学習は、進路指導の中に位置づけた。1年次の「探究基礎」では、ベネッセの「進路達成プログラム」を活用して、生徒が自身の興味・関心のある分野について知識を得て、考えを深めていく活動を行う。具体的には、7月に、自分の強みやこだわりから、自分にマッチする大学が診断されるテストを行い、その結果を参考にして、夏季休業中に複数の学校の資料を取り寄せる。2学期には、それらの資料から、学べる学問や入試制度などを調べることで、各大学の違いを認識し、自分の希望進路の軸を固めていく。そして3学期には、「希望進路宣言」として、第1志望校・学部・学科を、志望理由などとともにまとめ、生徒同士で発表し合う。

その上で、2年次の「探究旅行」では、希望進路に関する課題を、個人またはグループで設定して探究学習に取り組み、クラス発表、学年全体発表を行う。

「推薦型選抜では、志望理由書や面接で、自分の経験と将来像を結びつけた『マイ・ストーリー』が問われます。高校時代に自分の関心に基づいて探究したことをもっと深めることができるのが貴学だといった『マイ・ストーリー』を、生徒は自分の体験を基に、自信を持って語れます。また、探究学習をしっかりできるのであれば、大学の研究室でも活躍できると、大学側に捉えてもらえるはずです」

 

様々なプログラムを組み合わせた「進路探究」は、研究開発部と学習進路部が協働で計画を立て、学年団とともに実践している。三者は常に連携を図り、具体的な活動の進め方を検討したり、実践後に生徒の様子を共有して、次の活動につなげたりしている。

「授業、探究学習、進路学習を、それぞれ個別の目標のために進めるのではなく、一人ひとりの生徒の希望進路の実現という1つの目標に向けて融合させようとしているところです。それぞれの活動の目的やノウハウを教師間で共有しながら、生徒の希望進路の実現を組織的に支援できるような体制を整えていきたいと考えています」

 

※「自分の軸を持った進路選択」を体験させるベネッセの新コンセプト進路学習。「進路達成プログラム」の詳細は、ベネッセハイスクールオンラインで紹介。ログインにはIDとPWが必要。

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