教育ジャーナリストの後藤健夫さんがお送りする連載「大人たちのアンラーニング」のススメ。前回から「探究学習」をテーマに展開しています。今回は、探究学習と「依存的な学習」を考えます。「主体的な学び」の対極にある「依存的な学習」を考えることで「探究学習」への認識が深まるのではないかと考えています。

探究学習が促す主体性

ベネッセ教育総合研究所の「第4回大学生の学習・生活実態調査」では、「授業に対する取り組みは積極的になっている」が、一方で「大学教育に指導や支援を求める意識が強まっている」という調査結果が報告されています。「能動性・主体性」と「受動性・依存性」といった元来であれば相反するものが共存しています。具体的には、課題に取り組む時間は増えているものの、授業以外の自主的な学習時間は増えていません。
この状況に「大学の高校化」「学生の生徒化」を危惧する声が挙がります。大学は「自ら学ぶ」ところだからです。そして、調査結果は高校生の学ぶ姿勢と地続きにあるのではないかと危惧しています。
第5回で述べたように、大学では自ら考えることを求められます。それが学生たるところです。与えられた「問い」にしか向き合えない生徒は学生にはなれずいつまでも生徒に過ぎません。

あるイベントに大人に交ざって参加していた高校生が「LGBTQ+に注目が集まっているけれども学校では教えてくれないんです。どうやって学べば良いんですか」と素朴に言い出しました。我々の世代であればこうした問いは生まれないですから、ちょっとしたショックを受けました。この高校生は「学ぶべきことは学校が与えてくれる」と思っているのでしょう。あるいは高校で学ぶことは「すべて教科の中にある」と思っているのかも知れません。いまや、わからないこと、興味を持ったものを、学校の教育に関係なく、自分で学ぶことが当たり前ではなくなっている学校文化なのかもしれません。また、生徒は教科の授業の課題に追われて、教科以外のことを学ぶ余裕がないのでしょう。与えられたことだけを学ぶ「依存的な学習」が常態化しているのであれば、とても残念な話です。

さて、「総合的な探究の時間」は、教科横断、あるいは教科の枠にはないことを教える授業です。ここではLGBTQ+のように生徒が興味を持ったことを探究したり、身近な課題や自分が抱いた課題を解決したりすることも可能です。社会は教科で輪切りにされているわけではありませんから、教科に馴染まないテーマを積極的に扱って欲しいところです。
ただ、この授業も教員にとっては負担が大きいようです。自分の教科以外のことを教えるとなると準備も大変でしょう。ですから、既存のワークシートを活用したり決まったテーマを生徒にやらせたりすることが多いでしょう。しかも生徒の教科以外の発表にフィードバックをするとなると尻込みしたくなりますね。
ここで、下記のコメントを読んでいただきたいと思います。

「教員が全ての知識を獲得している必要はない。知識や事実を基に生徒自身がもっと探究していかなければならないのであるから、むしろ教員は生徒の思考の過程を重視して探究させる存在であるべきだ。未知の問題に立ち向かうことは 21世紀の重要な力である」

引用元:「国際バカロレア認定校200校が高校・大学に与えるインパクト 」(後藤健夫 進研アド「Between 2013年12月ー2014年1月」)

そうです。「すべての知識を獲得している必要はない」のです。これは、国際バカロレア機構の担当者を取材したときに聞いたものです。国際バカロレア教育は「探究学習」であり、このように授業を展開しています。こうすることで生徒を「依存的な学習」から解放して「主体的な学習」へと導くのです。
最近は「探究学習」において教員は生徒の「伴走者」だとする考えがありますが、このコメントはまさに「伴走者」としての教員の役割を求めるものです。

一方で、教科と「総合的な探究の時間」の関係はどのように捉えたら良いのでしょうか。前述では「社会は教科で輪切りにされているわけではない」としましたが、そのことよりも大事なことは「教科の視点を持って、日常や社会を見るとより良くわかる」ということです。
例えば、毎週1回、全教科の授業で、共通する一つのテーマについて10分でも教科の視点を持って、生徒に話してみるのもいいのではないでしょうか。「エネルギー」について、理科で科学技術的な視点を扱うだけではなく、実社会に則した視点を、英語や国語、地歴公民のそれぞれの授業で話してみると、生徒は「総合的な探究の時間」にも取り組みやすくなるのではないでしょうか。こうした取り組みが、大学入試の小論文や総合問題で効果を発揮するのではないかと思います。
なにしろ、生徒に教科の話を最もわかりやすく話ができるのは、教科の教員ですから。

次回も「探究学習」をテーマに考えていきたいと思います。

後藤 健夫

教育ジャーナリスト

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