2022年11月7日(月)に立命館宇治高等学校(京都府)、宮城県仙台第三高等学校の合同授業が行われました。この記事では合同授業3回目(全3回)の最終発表会についてレポートします!
異なる地域の高校で合同授業を実施
立命館宇治高校の2年生の文系選択科目「文学総合」と仙台第三高校の1年生の必修科目「言語文化」で全3回の合同授業を実施しました。
テーマは「文学×学問」。学校をまたいで同じ作品について考察をする4~6人のチームを作り、夏休み中に作品を読みこみました。生徒たちは自らが決めた学問的な視点(〇〇学(心理学、社会学など))から問いを設定し、探究を進めます。夏休み明けの9月・10月・11月の期間で学校間の交流を通じて、問いや仮説をブラッシュアップしてきました。3回目の今回はその成果を基に、最終ポスター発表に臨みました。
まずは接続確認を兼ねて、チームごとにコミュニケーションを行いました。オンラインで「その恰好ってことは仙台はめっちゃ寒そうやね」、「久しぶり」といった声が飛び交います。
最終ポスター発表会がスタート!
アイスブレイクを終え、各チームで発表が始まります。ひとりが発表し、ほかの生徒から質問を受け、次の生徒の発表に移る流れです。発表では趣向を凝らしたポスターを出し合います。
仙台第三高校の植松由貴さんの作品は「マスク」×学問「医学」です。
心臓が欠けた状態で生きることは可能か、作品内の描写から「心臓弁膜症の三尖弁閉鎖不全症」と仮説を立てて発表しました。立命館宇治高校の生徒からは、「限られた情報の中で病気を特定していてすごい」「年齢が書かれていなかったと思うが、どのように年代を推測したのか」といった質問が出ました。
質問により深まる考え
ポスター発表のたびにチームのメンバーから感想や質問が出ます。
ポスター発表が始まる前に、先生から「聞く側はたくさん質問できるよう、興味を持って聞こう。「知りたい!」「わかりたい!」という姿勢が大切。グループ活動は聞く側の質によって充実度が決まる!!」とアナウンスが入っていました。
生徒から出ていた質問は「斜陽のどの場面からその考察をしたの?」「芋粥がこうなら・・・それって本当にそうかな?どうしてそう思ったの?」「これはどうやって計算したの?」「どうやってこの基準を考えたの?」「どうやって調べたの?」「なんで主人公はこう思ったと分析したの?」など。
質問しあうことで、お互いの発表内容をより深く考察する様子が見られ、発表者自身の考えも深まっていく様子が見られました。
また、発表への感想では「写真や図だけでなく、グラフを作ったのがすごい」「相関図があって分かりやすかった」「数学的考え方は自分にはない視点でわかりやすかった」など、お互いのいい点を褒めあい、学びあう様子が見られました。
「象たちの反撃は正当防衛か?」生徒にインタビュー(立命館宇治高校)
授業後に楠山晴香さん(立命館宇治高校2年生 )に今回の合同授業の感想を伺いました。
楠山さんは文学作品「オツベルと象」を法学の視点から「象たちの反撃は正当防衛にあたらないのではないか?」と仮説を立てて分析しました。
■テーマ
「オツベルと象」×「法学」■問い
引用元:楠山晴香さん発表より
象たちの反撃は正当防衛か?
・授業はどうでしたか?
相手が1年生だったのではじめは距離の縮め方に苦戦したところがあって、男子も多かったので共通点を見つけにくいところがあったのですが、私は早生まれなので「同い年だからタメ口で行こう」と伝えて、そこから本音で話せたかなと思います。
・発表後、チームメンバーから質問をもらっていましたね。
発表後の質問はどう思われましたか?
仙台第三高校の生徒は数学的で論理的な質問が多くて、私は文系でそういったところが甘いので、いろんな質問をいただいて指摘してもらったことで、自分の文章が論理的にすっきりするように改善できたかなと思います。
横でインタビューを聞いていらっしゃった稲垣先生からは「楠山さんは「SDGs」という別の授業でも、仙台第三高校の生徒とのつながりを生かしたいとの声をあげてくれています。教員の予想を超えて、生徒自身が今回のつながりから新しい取り組みに繋げてくれたことが嬉しいです。」とのコメントをいただきました。
「様々な発見がありました」生徒にインタビュー(仙台第三高校)
仙台第三高校では3名の生徒にインタビューしました。
・授業を受けての感想はいかがですか?
最初は難しいかなと思ったが、考えるのは好きなので楽しく取り組めた。質疑応答が一番難しい。質問に答えるのは難しくないが、全く知らない視点、新しいものを見たときに質問を考えることが難しかった。(大橋千咲さん)
夏休みから同じ作品を読んで、僕は経済学について調べました。交流相手は日本神話学や天文学について、自分の考えになかったことをどんどん突いてきてくれました。京都じゃなくてもこの授業はできたという人もいるかもしれないが、仙台ではない遠い土地の高校生と交流することで自分の世界・考え方が広がったと思うし、このような機会があってありがたいなと思った。(石川楓さん)
遠い京都にある高校と、同じ作品を通じてかかわりができたことが嬉しかったです。私は菊池寛の「マスク」を読み、病気を持った主人公が出てきて、自分の将来の目標が医学系なので医学について取り上げました。調べながら様々な発見があって自分の夢・興味関心についても考えを深められました。(櫻井幸輝さん)
・発表に当たって工夫したことはありますか?
相手が答えやすいように質問をすることを心掛けました。はじめは「はい」か「いいえ」で答えられるように訊いて、追加で質問して深めることを意識しました。(大橋千咲さん)
班の中で仙台三高側が自分だけだったので、しっかりしないとなと思いました。もともと話すことは苦手ではなかったので、話やすいようにポスターや問いづくりなどをしっかりと作りこむことを意識しました。(石川楓さん)
・立命館宇治の生徒の発表から気づいたことはありますか?
「マスク」の中に、黒マスクの話が出てきますが、立命館宇治高校の生徒が「黒が相手に与える印象」について発表していて、自分にはない視点で新鮮でした。(櫻井幸輝さん)
「今回の学びを大切に」2校の先生方から生徒たちへ
最終ポスター発表会の終わりには、先生方から生徒への思いが伝えられます。
・作品に対して問いを立てることで作品の見え方が変わったと思う。同じ文学作品について、違う視点を持った違う地域の友人と意見を交わすことが出来る喜びを大切にしてほしい。それが文学の魅力の一つだと思う。(稲垣桃子先生・立命館宇治高校)
・環境も文化も違う相手と、同じ作品を通じて意見交換することで多くの学びがあったと思います。(佐々木遥子先生・仙台第三高校)
・同じ小説を読んでも、この学問を掛け合わせるとこんな風に問いを立てられるんだなという発見があったと思います。読書は一人でするものと思うかもしれないが、話すことで考えが広がる。これからも交流を大切にしてほしい。(浅野李帆先生・立命館宇治高校)
「生徒の視点が深まっていきました」授業を終えた稲垣先生にインタビュー(立命館宇治高校)
■今回の授業の位置づけを教えて下さい。
「文学で探究をしよう」という授業です。生徒には「この授業の目的は、『文学作品をきれいに読めること』ではなく、『文学作品を通じて個人としての探究力を育むこと』である」と伝えてきました。
特に「文学×学問」の単元では作品の探究に加え、高2のこの時期は志望学部を決める進路選択の時期なので、キャリアのきっかけづくりとして進路探究の意味合いも持たせています。
また、今回の全3回の交流授業では、「他者に自分の考えを伝えること」にも重点を置き、「他者に伝わるポスター作り」や「適切な話し方」も生徒に考えてもらいたいポイントでした。
■質問:交流授業を行うにあたって、生徒に意識して伝えたことはなんですか。
批判や質問が出来るくらい相手の意見を吸収しなさいというのを伝えていました。他の人の発表を聞いて「そうだね、すごいね」と言うことはできても、批判や質問ができない生徒は多いので、相手の意見を受け身に聞くのではなく、相手を質問攻めにすることが大事だと伝えました。
相手に質問するためには相手について知ったり、発表を集中して聞いたりすることが求められます。「同じ作品に立ち向かっている」という共闘の思いと、「違うところに住んでいる同世代の子」という環境が生徒にとって前向きに取り組む刺激になったと思っています。
また、仙台第三高校の生徒さんの感想で驚いたのは「関西弁がかわいかった」という意見が多かったことです。また、立命館宇治高校の生徒は「制服無くていいなあ」、仙台第三高校の生徒は「制服あっていいなあ」と、お互いの違いに気付くと同時に、「同じ高校生である」ということが質問のしやすさにつながったのではないかと思います。
■質問:生徒にはどんな変化がありましたか?
最初は作成するだけで精いっぱいだった。それがだんだん「●●の視点でアドバイスくれないですか?」と質問がどんどん高度になっていきました。なかには「仙台の子に○○と質問されたから、こんな風に考え直してみたんですけど、どうですか?」と交流を通じて自らの考えを見直すきっかけになり、より良い考察を行うことができた生徒もいました。
ポスター作りにおいても、「こうしたらわかりやすいかな」と相手の顔を思い浮かべながら創り上げた生徒が多く、以前に作成したポスターに比べかなりレベルの高いものに仕上がりました。
「若手教員の取り組みが大事」交流のきっかけとなった酒井先生にインタビュー(立命館宇治高校)
立命館宇治高校の酒井淳平先生は今回の合同授業をうけて、以下のようにまとめられました。
「生徒の学びはもちろんですが、お互い(どちらの学校も)若手教員が取り組んでいることも大事だと思っています。仙台第三高校の佐々木校長が「形になるかならないかというのはどちらでもいい。若手同士で試行錯誤してほしい」と言ってくださったことが大きかったです。この取り組みは結果的に生きた教員研修にもなっています。環境が違う学校の先生が交流することで教員が育つことを実感しています。」
竹下 友梨