前回は、トランスジェンダーの当事者の1人として、LGBTQの人たちが置かれている現状や抱えている課題、社会に対する今後の期待について、私自身の活動や経験を交えながらお話ししました。今回は、皆さんの周囲にも高い確率で存在している当事者に対して、どのような心持ちで接してほしいかや、具体的にできることなど、学校や家庭のあり方についてお話ししたいと思います。

※本稿では、セクシュアル・マイノリティーの総称として、LGBTQという表現を使用しています。また、LGBTQの当事者を「当事者」と表記しています。

当事者にとっての大きな転機となる
カミングアウト

全国におけるLGBTQの割合は、調査や定義の仕方によって異なるものの、おおよそ5~8%とされています。そのすべての当事者が、性的マイノリティーであることを周囲の人に伝える「カミングアウト」をしているわけではありません。カミングアウトは当事者にとっての大きな転機となる可能性が高く、一大決心を強いられます。私の場合、初めてカミングアウトしたのは中学生の時、相手は母親でした。意を決して打ち明けたものの、「病院に行きなさい」と言われ、言葉にできないショックを受けました。何よりもつらかったのは、理解されなかったことではなく、私をいわゆる「普通」ではない状態で産んでしまった母が、“自責の念”に駆られていたことでした。しかし、その後しばらくして、「あなたが我が子であることには変わりはないし、いつも味方だから」と言われ、心から救われました。私は周囲に同じような立場のロールモデルがいなかったため、自分のあり方や生き方が分からず、非常に苦しい思いをしてきましたが、同じように、当事者の母親もロールモデルがおらず、苦しかったのだと思います。

居場所となる家庭などで、
当事者の心理的安全性を確保する

私の場合は、幸いにも、家族を始めとする身近な人が自分を受け入れてくれましたが、そうでない当事者も多くいます。また、友人にはカミングアウトしていても、職場や家族にはカミングアウトしていないなど、自分がかかわるすべてのコミュニティーに満遍なくカミングアウトしているケースは、少数にとどまります。当事者にとって最もカミングアウトしにくい相手は、家族と職場の同僚です。一番身近で大切な人や場所であるからこそ、そこでの居場所がなくなってしまうことを恐れて、言い出せないのです。

LGBTQの人々が、自分の考えや気持ちを安心して発信し、自分の存在が否定されることのない状態=心理的安全性が確保できる場所を、少しでも増やすことが重要です。カミングアウトの前提となるのは、相手への信頼です。当事者にとっては、「言えない」のと「言わない」のでは心理的安全性が全く異なります。言いたいけれど言えない状態と、いつでも言える環境の中だけれど、自分が「言わない」と選択しているか。正確なデータはありませんが、保護者に言えず苦しんでいる人は、普段から保護者とのコミュニケーションがうまくいっていないケースが多い一方で、保護者が自分のことを尊重してくれた経験を多く持つ子どもは、スムーズにカミングアウトすることができたケースが多いようです。ですから、保護者の方は、「子どもの存在が何よりも大事」というメッセージを子どもに発信し続け、土台となる信頼関係を築いておいてほしいと思います。

保護者は、子どもからカミングアウトされると、「それを受け入れたら、この子が幸せになれないのではないか」、「わざわざ生きにくい道を選んでほしくない」といった親心から、すぐには受け入れられないものです。また、保護者のそうした気持ちが伝わってくるために、子どもがカミングアウトできないという負のスパイラルも生じます。それはとても悲しいことです。LGBTQを受け入れる風潮が高まりつつあるとはいえ、依然として当事者は、日常生活で多くの困難に直面しています。せめて家庭だけは、安心できる場所であってほしいと願っています。

杉山家の次女として生まれた。小学校入学前の写真(左から2番目)。

高校時代、女子校の友人と一緒に(右から2番目)。

フェンシング女子日本代表。男女が同じユニフォームであることが、フェンシングを始めたきっかけ。

教師は、「当事者は必ずそこにいる」という前提で
子どもと向き合う

学校も、当事者の心理的安全性が最大限に確保される場であってほしいと思います。先生方には、子どもたちの声に耳を傾け、自分は味方であるという意思表示をしていただくことが重要だと考えます。

また、日頃から、「その空間の中に必ず当事者がいる」という前提で子どもたちに接し、支援していただきたいと思います。というのも、LGBTQの子どもは、割合的にはクラスに1、2人はいるにもかかわらず、外見上は分かりにくいことも多いため、日常的な配慮が求められるからです。特に、「L(レズビアン)」「G(ゲイ)」「B(バイセクシュアル)」は、その特徴が性的指向の違いにあるため、当事者であることはなかなか分かりません。一方、「T(トランスジェンダー)」は、持って生まれた身体的特徴と性自認との間に違和感があるため、身なりや言動から分かることがあります。制服やトイレといった、日常生活に関する苦痛が多い点が特徴的です。さらに、身体的に男性でも、性自認が女性のトランスジェンダーの場合は、「男のくせに」「女みたいになよなよするなよ」などと、いじめの対象になりやすいようです。

教育委員会や学校が行うアンケートの中に、使い道が明確でないのにもかかわらず、男女の記入が必須となっていたり、クラス全体で並ぶ際は、常に男子が前で女子がその後ろといった画一的なジェンダー規範が残っていたりする場合は、それが本当に必要なことなのか、いま一度考え直していただきたいと思います。男女を分けること自体が問題なのではなく、男性らしさや女性らしさを強いたり、意味なく習慣的に性差をつくっていたりする状況が問題なのだと思います。そうした文化や風土は、性差に限らず、多様性を認めない学校をつくってしまうのではないでしょうか。

一人ひとりの知識とアクションで、
互いを尊重し合える社会に

以上のようなスタンスと、LGBTQに関する正しい知識を持つことの両方が大切ですが、加えて、積極的かつ簡単にできるアクションがあります。その代表例が、「ウェルカミングアウト」です。それは、その人なりに無理のない方法で、「カミングアウトはウェルカムですよ」という意思を表示することです。LGBTQの理解者のことをアライ(Ally)と言いますが、例えば、LGBTQの話題がニュースになった時などに、ポジティブなコメントやリツイートをしたり、アライであることを示すグッズを身につけたりするといったことです。

写真は、NPO法人東京レインボープライドが販売するキーホルダーとスマートフォンリング。アライであることをアピールできるグッズには様々な種類があり、多様な販売元から入手できる。

LGBTQの象徴とされるのが、米国を発祥とする「レインボーフラッグ」で、関連グッズには、虹のような6色がデザインにあしらわれていることが多い。

カミングアウトしていない当事者にとっては、自分の存在を認め、応援してくれる人が身近にいることが分かって心の支えになりますし、カミングアウトのきっかけになることもあります。

関連団体が実施している様々なイベントに参加してみるのもお勧めです。LGBTQに関する映画を観たり、書籍を読んだりするのもよいでしょう。“百聞は一見に如かず”です。ぜひ、当事者の話に触れて、LGBTQのことを知っていただきたいと思います。何だかよく分からないから避ける、いないことにするのではなく、多様化する社会に既に実在している存在として、セクシュアル・マイノリティーを受け入れ、すべての人が、互いに尊重し合える日々を過ごせるようになってほしいと願っています。

(本記事の執筆者:神田 有希子)

杉山文野(すぎやま・ふみの)

株式会社ニューキャンバス代表、NPO法人東京レインボープライド共同代表理事、トランスジェンダー

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