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- 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2024年度 Vol.2
自分の思いを話したり、書いたりする活動を毎日積み重ねて、言語能力を育む
三重県 四日市市立港中学校
2024/11/22 09:00
四日市市教育委員会(以下、市教委)は、2021年度に「読解力を育む『20の観点』」を策定し、学習の基盤となる資質・能力の1つとして、言語能力の育成に力を入れている。市教委から実践推進校の指定を受けている四日市市立港中学校は、全教科で言語能力の育成を意識した授業づくりに取り組んでおり、文部科学省「全国学力・学習状況調査」や論理言語力検定において、市の平均以上の成績を収めている。本記事では、同校が実践している言語能力の育成に関する取り組みを紹介する。
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学校概要
設立:1947(昭和22)年
生徒数:180人
教員数:29人
学級数:8学級
お話を伺った先生
校長
中井克実(なかい・かつみ)
同校に赴任して1年目。
研修担当
久門あゆみ(ひさかど・あゆみ)
英語科。
2学年担任
清野未来(きよの・みき)
保健体育科。
取り組み1 「読解力を育む『20の観点』」を意識した授業づくりを全教科で実践
港中学校は、学校教育目標「心を豊かにして自主的、主体的に行動し、互いに高め合う生徒の育成」の実現に向けて、すべての教育活動にキャリア教育の視点を取り入れている。同校が目指す「人とつながる力」や「自分をみつめる力」の育成には言語能力が必要だと考え、全教員に「言語能力は全教科で育む」という共通認識を図った。次いで、「読解力を育む『20の観点』」(図1)を踏まえ、各教科における読解力を明確化して一覧化(図2)。教科ごとに「読解力を育む『20の観点』」の中から1つを選び、その観点に対応した問題を作成して、A4版1枚のワークシートにまとめた(図3)。
研修担当の久門あゆみ先生は、それらの資料の作成の過程を次のように説明する。
「本校は小規模校で、担当教員が1人の教科もあります。各教員が担当教科における読解力を考え、それを全教員が集まる研修会で検討して、各教科における読解力を設定しました」
各教科では、読解力の育成に向けてどのような授業を行っているのか。
保健体育科では、読解力を「保健体育にかかわる専門用語を理解し、仲間へのアドバイスやグループ全体へ伝えるための指示や説明に活用する力。また、仲間からのアドバイスを理解できる力」(図2)と設定。授業では、オンラインのホワイトボードツールを活用し、技能を高めるためにはどのような練習をするとよいのか、試合に勝つためにはどういった作戦にするかといったことなどについて、意見交換を行っている。保健体育科の清野未来先生は、授業の様子を次のように説明する。
「生徒一人ひとりが意見を述べられるよう、まず1人で考えてから、グループで意見を交換する場を設けています。意見交換を続けていくと、技能の高い生徒が周りの生徒に教える姿がよく見られるようになり、うまくできない生徒は「どうしたらよいか」と質問するようになります。そうした姿を見る度に、保健体育科における読解力が生徒に育まれていると感じます」
取り組み2 ソーシャルスキルトレーニング「みなトーク」で、自分のことをグループで話す
同校の「港タイム」(帰りの会の前に行う10分間の帯学習)では、週1回「みなトーク」を実施している。それは、クラスの中で4〜5人のグループを組み、毎回1つの話題について1人ずつ話すというソーシャルスキルトレーニングだ。話題には「好きな季節」「言われてうれしい言葉」など、生徒にとって身近で話しやすいものを設定。加えて、「顔を見ながら(話す)」「うなずきながら(聞く)」などの約束(ルール)を設けて、心理的安全性が保たれるようにしている(写真1)。中井克実校長は、「みなトーク」の目的について次のように説明する。
「仲がよさそうに見える生徒同士でも、好きな食べ物は何か、休日に何をしているかを知らないことがあります。そこで、身近な話題で自分のことを話し、相手の話を聞く活動を通じて、伝える力や傾聴力などを育むことを目指しています」
さらに、年度初めには、4月に異動してきた教員を含め、教職員全員で「みなトーク」を行う。そうして、生徒が取り組む活動を教員も経験しながら、教員同士の親交を深める機会としている。
同校では「みなトーク」のほかにも、職業調べや職場体験の発表会など、自分の意見や思いを発表する場を設けている。それらの場でも、ルールは統一して「みなトーク」の約束を用いている。生徒の間にも、話し合いの際に「お願いします」「ありがとうございました」と声をかける習慣が定着し、相手の意見をしっかり聞き、自分の意見を分かりやすく伝えようとする姿が見られているという。
「ある卒業生は、『学校できちんと話す力がついたので、高校入試の面接の時も自分の伝えたいことをしっかりと話すことができた』と言っていました」(久門先生)
取り組み3 帰りの会で「今日、私が思うこと」を自由に書く
同校の2年生は、帰りの会で1日を振り返って「今日、私が思うこと」を書く活動を、1年生の時から続けている。
「現2年生は書くことが1年生時は苦手で、文法や漢字を間違える生徒が多かったため、自分の思いを書いて発信する練習として始めました。生徒によって書く内容は様々で、イラストを描いて文章に添える生徒もいます(写真2)。毎日継続することで書くことに慣れ、自分の思いを文章で伝えられるようになっていきます」(清野先生)
清野先生は提出された用紙を読み、ほかの生徒と共有したいものをスキャンして、翌日の学級便りに掲載している。
「生徒がクラスメートの知らない面に気づいたり、同じ授業を受けていても違う気づきがあることを知ったりすることで、生徒間で新たな交流が生まれています。学級便りに掲載されたクラスメートの文章を見て、気づきを書く生徒もいますし、皆への悩み相談を書く生徒もいます。それらは次の学級便りに掲載して共有し、生徒同士のやり取りにつながるようにしています」(清野先生)
取り組み4 朝読書で、教員による読み聞かせを味わう
四日市市では、すべての市立中学校が毎日10分間の朝読書を行っている。
港中学校では、教員もその時間は業務をせずに本を読み、月に1回、教員による読み聞かせも行っている。担任や副担任、あるいは隣のクラスの担任など、様々な教員が入れ替わりながら各クラスを担当し、読み聞かせる本は教員自身が選ぶ。
「10分間で話が完結するよう、絵本を選ぶことが多いですね。環境問題やLGBTQなど、社会課題を取り上げている絵本もありますし、内容に応じて声色を変えて読み聞かせをする教員もいます。読んだ本を教室の後ろの棚に置いておくと、手に取って読む生徒もいます」(久門先生)
なお、四日市市では、読書活動推進校の教員や市立図書館の司書が、教員の読み聞かせに適した書籍を小・中学校向けに毎年選定している。
その他の取り組み
◎毎朝、各クラスに新聞を配布
地元の新聞販売店の協力で、毎朝各クラスに1部ずつ、新聞を配布。「全国学力・学習状況調査」では、同校の「新聞を読んでいますか」の肯定率は全国平均の2倍以上だった。
「生徒は休み時間にごく自然に新聞を読んでいます。大きな事件が起きた時は、朝の会で新聞の1面を見せながら話をする教員もいます」(中井校長)
◎新聞社による出前講座
2年生の「総合的な学習の時間」では、中日新聞社が出前講座を実施。生徒は新聞の製作過程や新聞記者の仕事について学んだ後、社説の書き写しや、分からない用語を調べる活動に取り組む。
◎言語能力を育成するワークブックの活用
2年生は「港タイム」で週1〜2回、「Literas 論理言語力検定」(*)のワークブックに取り組んでいる。同検定のワークブックに出てくる語彙を国語辞典で調べる活動も行っている。
*ベネッセコーポレーションが提供する検定の1つ。社会で活躍するために必要な力を「語彙運用力」「情報理解力」「社会理解力」の3つの領域で育成・ 測定する。
成果と展望
港中学校は、市立中学校の3年生全員が受検する論理言語力検定の語彙運用力と社会理解力の領域において、市内でも高い成績を収めている。そして、日々の授業でも、教科書や書籍を粘り強く読もうとする姿勢や、自分の考えを素直に話そうとする姿が生徒に見られるという。
「生徒を見ると、相手が理解できる表現になっているかを考えて発言したり、書いたりしている様子がうかがえます。言葉に詰まって話せないような状況はあまり見られず、伝えたいという思いが感じられますし、言葉をしっかり考える様子からは、言語能力の高まりを感じます」(久門先生)
今後の展望について、中井校長は次のように語る。
「社会に出れば、初めて会った人にも自分の意思をしっかり伝えることが求められます。そしてそのためには、相手の言葉をしっかり聞いて理解する力を身につけておくことが必要です。言語能力は生きる力です。これからも様々な工夫をして、その力を育んでいきたいと思っています」