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【誌面連動】マイ・ストーリーを語れる生徒を育む進路指導 詳細紹介
北海道旭川永嶺高校
進路指導部と3年次団

2022/04/22 17:00

「マイ・ストーリー」とは、生徒一人ひとりの「自分のこれまでの学びや活動、その成果や結果に至るまでのプロセス、これからの展望」を指す。

本記事では、『VIEW next』高校版2022年4月号で紹介した北海道旭川永嶺(えいりょう)高校の、「マイ・ストーリー」を描き、それを語れる力を生徒に育む取り組みを、さらに詳しく紹介する。

 

志望理由の具体化を生徒個別に支援する体制を、
進路指導部と3年次団が連携して構築

■本記事のコンテンツ

1.教師の個別の問いかけが、生徒が「マイ・ストーリー」を描くきっかけに

2.就職するなど、大学卒業後の人生も描けるような問いかけをする

3.「キャリアノート」や「第1志望届」を問いかけの材料に

4.今後の課題は、1年次からの「書く力」の育成

■学校概要
設立 2016(平成28)年
形態 全日制/普通科/共学 
生徒数 1学年約240人
2021年度入試合格実績(現浪計)
国公立大は、小樽商科大、帯広畜産大、北見工業大、北海道教育大、北海道大、室蘭工業大、新潟大、静岡大、釧路公立大、名寄市立大などに45人が合格。私立大は、旭川大、北星学園大、北海学園大、専修大、東洋大、法政大、明治大、立教大、立命館大、関西学院大などに延べ269人が合格。

■お話を伺った先生(プロフィールは、2022年3月時点のものです)

進路指導部長 水野雅文(みずの・まさふみ)教職歴34年。同校に赴任して3年目。理科(生物)。

進路指導部副部長 山田訓之(やまだ・のりゆき) 教職歴28年。同校に赴任して6年目。数学科。

3年次主任 安井健治(やすい・けんじ)教職歴36年。同校に赴任して15年目。国語科。

3年次担任 岸本浩昭(きしもと・ひろあき)教職歴26年。同校に赴任して5年目。英語科。

3年次担任 近江谷優介(おうみや・ゆうすけ)教職歴6年。同校に赴任して5年目。理科(物理)。

1.教師の個別の問いかけが、生徒が「マイ・ストーリー」を描くきっかけに

北海道旭川永嶺高校は、2016年4月、北海道旭川凌雲高校と北海道旭川東栄高校が統合して設立された。生徒の卒業後の進路は、難関国公立大学への進学から就職までと幅広く、それぞれの希望進路に応じた進路指導を行ってきた。

そうした中、総合型選抜・学校推薦型選抜(以下、推薦型選抜)の希望者への支援に課題感を抱いていた。毎年40人程受験する中で、合格率は3〜4割。特に、国公立大学の推薦型選抜の合格率は2〜3割にとどまっていた。

進路指導部副部長の山田訓之先生は、次のような課題意識があったと語る。

「以前は、推薦型選抜の希望者に志望理由書作成の指導を始めるのは、出願締め切りの約1か月前でした。その時になって初めて自身の学びを振り返り、将来像を考え始める生徒が少なくなかったので、そこから教師とやり取りを重ねても、約1か月間では志望理由を具体的に書くところまでには至りませんでした。そのため、推薦型選抜の希望者への支援の早期化の必要性を感じていました」

 

【生徒の志望理由書から教師が感じていた課題】
◆その学問を学びたい、その職業に就きたいと思った「きっかけ」は詳しく書けている。しかし、そこから考えをどう深めて、学びたい学問や将来像と結びついたのかが表現することができていない。
◆大学案内に書かれている大学の特色に魅力を感じたことを志望理由に挙げているだけで、自分が大学で何を学びたいのかが明確でない。
◆自分の体験談が、体験内容や得られた結果の説明にとどまっており、自身の成長や将来像にまで言及することができていない。

 

進路指導部長の水野雅文先生は、志望理由書の内容や指導開始時期に加えて、大学入試の変化に対応するためにも、推薦型選抜の希望者への支援体制を整える必要性を感じていた。

「推薦型選抜では、生徒がどう考えて、何に取り組み、その結果、将来どうなりたいと思うようになったのか、生徒の『マイ・ストーリー』を、以前の推薦入試よりも重視しているのだと思います。しかし、生徒が『マイ・ストーリー』を語れるようになるまでには、自身の内面を掘り下げる必要があり、それには時間がかかります。教師が生徒一人ひとりに合った問いかけをしていくためには、1対1の支援が重要だと考え、学校全体で組織的に行おうと考えました」

2.就職など、大学卒業後の人生も描けるような問いかけをする

2019年3月、進路指導部と年次団が連携し、推薦型選抜の希望者を支援する「推薦プロジェクト」を始動した。

 

【推薦プロジェクトの主な流れ】
◆2年次3月 進路検討会の実施
進路指導部と2年次団が集まり、2日間かけて、2年生一人ひとりの希望進路や学力などの情報を共有する。その上で、推薦型選抜を希望する生徒を志望学問分野別にグルーピングし、以降、グループ単位で指導を行う。

◆2年次春季休業 「図書レポート」の作成
推薦型選抜の希望者は、志望学部・学科に関連する書籍を1冊以上読み、①読み終えた感想、②何を学び取ったか、③自分の意見などをレポートにまとめる。志望校のアドミッション・ポリシーも調べて記入する。学校の図書館と連携し、学問分野別の推薦書籍を提示する。

◆3年次4月 志望理由書作成の個別支援を本格的に開始
推薦型選抜の希望者に、指導の担当教師をつける。生徒は、担当教師の支援を受けながら、志望理由書の作成を始める。初めて顔を合わせる生徒と教師もいるため、生徒は、志望校のアドミッション・ポリシー、志望大学・学部・学科の特徴、自分の長所・短所、趣味・特技などを「自己紹介カルテ」に記入して、担当教師に提出。

◆3年次7月 推薦型選抜入試ガイダンスを実施 
推薦型選抜の希望者を対象に、入試ガイダンスを実施。評定などの数値基準ではなく、希望進路と照らし合わせて、推薦型選抜の受験をするか、判断するように改めて伝える。その上で、同系統の学部・学科を複数比較して、「他校ではなく、志望校を志望した理由」を明確に答えられるようにしておくよう伝える。また、推薦型選抜の希望者は、保護者の同意書の提出を求める。

◆3年次8月 小論文・面接指導を開始
担当教師が引き続き、小論文や面接の指導を行う。小論文の指導には、全年次の国語科教師が支援に加わる。

 

2年次3月の進路検討会では、2年生の冬季休業明けに提出する「第1志望届」や模擬試験の結果、生徒の特性などを踏まえて、希望進路と志望校にミスマッチはないか、生徒の学力や特性からどのような入試形態の受験が適切かといったことを話し合う。

「進路検討会では、進路指導部と年次団が情報を共有し、様々な視点から考えを出し合います。そうすることで、生徒の状況を細かく把握できるようになりますし、また、若手教師が、進路指導部の情報提供から指導方針を持ちやすくなるため、生徒との面談で適切なアドバイスをできるようにもなりました」(山田先生)

 

3年次4月からは、推薦型選抜の希望者の約40人を教師約20人で分担し、志望理由書作成の個別支援を行う。担当するのは、3年次団と1・2年次の進路担当の教師で、1人あたり2〜4人の生徒を受け持つ。完成の目安は、夏季休業前だ。生徒とのやり取りの方法は担当教師に任されるが、生徒が大学卒業後以降の「マイ・ストーリー」を描けるように問いかけることを共通認識として持った。

「大学入試の合格は、ゴールではありません。大学入学後、何を学び、そして大学卒業後、どんな仕事に就きたいのか、どんな人生を送りたいのかまでを含めたのが『マイ・ストーリー』であり、生徒がそれを語れるようにしようと、教師間で目線合わせをしています」(水野先生)

 

3年次主任の安井健治先生は、夏季休業前に志望理由書を書き上げることで、その後の指導がスムーズになったと語る。

「3年次の夏季休業前に志望理由書を書き上げるのは、早すぎではないかと思っていました。しかし、教師に『なぜ、そう思うのか』『ここは、どういう体験だったのか』などと問われることで、生徒は深く考え、将来像を明確にしていきます。8月以降は、小論文や面接の指導に集中できるので、結果的に、夏前に一通り書き終えておく方がよいと実感しています」(安井先生)

3.「キャリアノート」や「第1志望届」を問いかけの材料に

生徒が「マイ・ストーリー」を描けるよう、1年次から「キャリアノート」で活動の振り返りなどを蓄積し、2年次の冬季休業中には「第1志望届」を課す。

 

◆キャリアノート

1〜3年次に、下記の記録をファイリングする。教師はその記録に対して、適宜、コメントを書き添えてきた。

・職業人講演会や大学見学、大学出前講義などの進路行事での気づき・感想

・模擬試験の結果・振り返りと、次の模擬試験の目標

・職業・学問適性診断の結果

◆第1志望届

2年次の冬季休業中に出す、第1志望校を志望する理由を約800字で作成する課題。保護者にコメントと押印をもらった上で提出する。

 

3年次担任の岸本浩昭先生は、「キャリアノート」を基に、生徒が自分の成長に気づけるように問いかけるようにしたと語る。

「『キャリアノート』には、生徒が自分を知るための材料が蓄積されています。それを見ながら、『こんなよいところがあるよね』『これはどういった体験なの?』などと問いかけ、生徒が自分のよさを見つけられるようにしました。『マイ・ストーリー』を描けるようになっていく生徒の姿を見ると、生徒が内面を掘り下げられるような問いかけは、個別に支援するからこそできるものだと実感します」

 

「第1志望届」に書かれる志望理由は、2年次の1月の段階ではまだまだ推敲の余地があるが、その時点で一度、自分の志望に真剣に向き合い、保護者とも話をすることに意義があると、3年次担任の近江谷優介先生は語る。

「真剣に考えなければ、800字は埋まりません。真面目な生徒ほど、『書けませんでした』と言ってきますが、その段階ではそれでよいと思っています。とにかく一度自分と向き合い、保護者にも志望を伝えることで、志望校合格に向けたスタートラインに立てるのです」

 

「キャリアノート」や「第1志望届」があることで、生徒の希望進路と志望校のミスマッチに早期に気づけるようにもなった。

近江谷先生が担当した生徒は、ICT関係の研究がしたいと、3年次に理系を選択し、情報工学の学科を志望していた。ところが、「キャリアノート」などを見ると、レストランを経営する父親を尊敬し、家業につながるような仕事をしたいという思いが透けて見えた。そこで、近江谷先生は、水野先生や安井先生、岸本先生に相談。情報工学の中でも、企業経営にも生かせるデータサイエンスを学べる学科が、生徒の将来につながる学びができるのではないかと話し合った。近江谷先生は、その話を生徒に伝え、経営とデータサイエンスを学べる小樽商科大学を薦めた。第1志望校に理工系学部の大学を挙げていた生徒は最初、そのアドバイスに戸惑ったが、最終的には、小樽商科大学で学べることが自身の将来像と合致していると納得し、小樽商科大学を第1志望として、推薦型選抜で合格した。

 

「生徒の将来像はもちろん、経験や家庭の状況、経済状況なども把握し、教師側でも生徒の『マイ・ストーリー』を描いてこそ、適切なアドバイスができるのだと思いました。また、進路は、人生にかかわることであり、教師は生徒にとって信頼できる存在であるからこそ、教師の言葉が生徒に届くのだと感じています」(近江谷先生)

 

水野先生は、次のように指摘する。

「生徒が語る将来像と志望校が合っていないと感じたとしても、生徒の意思は尊重すべきですから、アドバイスをするのがよいのかどうかをしっかり見極めなければなりません。だからこそ、生徒にかかわる教師が情報を密に交換し、複数の教師が見て、客観的かつ俯瞰的に生徒の将来を考える、そうした体制が重要なのです」

4.今後の課題は、1年次からの「書く力」の育成

3年次7月に行う「推薦型選抜入試ガイダンス」では、安易な気持ちで推薦型選抜を出願することがないよう改めて説明し、出願する場合は、保護者の同意を得るよう促す。そして、8月から、小論文と面接の指導を行う。学問分野ごとのグループ分けによって、各分野の出題傾向に応じた指導が可能となった。

そうした支援の結果、2020年度入試、2021年度入試において、推薦型選抜の受験者の半数以上が合格。国公立大学の合格者も大幅に増えた。

 

推薦型選抜の合格後は、学校の代表として大学入学後も輝く人物であるようにと伝える。多くの生徒が、一般選抜を受験する生徒と同様に講習を受け、学習にしっかり取り組む。また、一般選抜を受験する生徒の集団面接の練習に参加し、ほかの生徒のサポートをする生徒もいるという。

「自分が教師からしてもらったように、ほかの生徒を支えたいという思いが芽生えるようです。『マイ・ストーリー』を描くと、学びに目的意識を持ち、意欲的になります。例えば、推薦型選抜で英文科に合格した生徒は、合格後も、自主的に英語の資格・検定試験にチャレンジしていました」(岸本先生)

 

3年間を通したキャリア教育として「推薦プロジェクト」の形が整った。今後は、1年次から「書く力」の育成に力を入れてきたいと、水野先生は語る。

「書く力は、すぐに身につくものではありません。各教科と連携し、1年次から、社説の要約や図書レポートなどを書く場面と、優れた文章に触れる機会を設けて、生徒が自身の書く力をメタ認知し、早期から表現力を磨くための学習を積み重ねられるようにしていきたいと考えています」

 

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