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  • 【誌面連動】『VIEW next』高校版 2022年度 12月号

【誌面連動】ウェブで詳しく!『これからの進路指導のための世の中トレンド解説』トレンドワード:シェアリング・エコノミー

2022/12/15 08:30

生徒の学びや進路選択、その後の人生に影響を与えるような革新的な技術や価値観を「社会のトレンド」として、「学ぶ」「働く」「暮らす」の観点から解説します。

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お話を伺ったのはこの方

【解説者】
同志社大学 商学部 教授
髙橋広行(たかはし・ひろゆき)

専門はマーケティング。特に消費者行動やブランド論などを中心に幅広い領域で、企業との共同研究やアドバイザーとしての活動を展開。最近の著書に、『「持たない時代」のマーケティング』(共著、同文舘出版)など。

モノを持たない消費にメリットを感じる人が急増

インターネット上のプラットフォームを介して、個人間でモノや場所などを共有することを「シェアリング・エコノミー」と言います。そして、このようなサービスを支援する活動を「シェアリング・サービス」と呼び、そのサービスが広がりつつあります。これまでは主に、部屋や駐車場、自動車、自転車などの共有が代表的でしたが、最近では服や家具などの消費財も対象になりつつあります。そのほか、個人のスキルを提供したり、クラウドファンディングのように支援という形でお金をシェアしたりするなど、シェアリング・エコノミーに関する領域は大きく分けて5つあります(図1)。

図1 シェアリング・エコノミーの5つの領域
※髙橋教授への取材を基に編集部で作成。

日本のシェアリング・エコノミーの市場規模は、2021年度で2兆4,198億円を超えたと推計され、2030年度には、14兆2,799億円まで拡大すると予測されています(一般社団法人シェアリングエコノミー協会と株式会社情報通信総合研究所による共同調査)。

シェアリング・エコノミーが急速に拡大している大きな要因の1つとして、モノを持たない消費に価値を感じる人が増えていることが挙げられます。例えば、自動車を使いたい時にだけカーシェアリングを利用すれば、自動車の購入費用は必要ありませんし、駐車場や保険などのランニング・コストも発生せず、出費を抑えられます。用途に合った自動車を、利用の都度選ぶこともできるでしょう。また、自動車は高額ですから、購入までに複数の店舗を訪れて車種を検討し、見積もりを比較するといった手間と時間がかかりますが、カーシェアにはそうした気苦労もありません。

シェアリング・サービスの利用者を対象としたアンケート調査では、利用者は、「所有することの煩わしさから解放される」「次々と買い替える罪悪感から解放される」「環境保全に役立っていると感じる」といったよさを感じていることが分かりました(図2)。単に節約のためだけではなく、消費者心理が大きく変化しており、モノを持たないことに価値を見いだす消費者が増えていると言えます。

図2 シェアリング・サービスを利用している時の気持ち
※髙橋広行・CCCマーケティング総合研究所編著『「持たない時代」のマーケティング』に掲載されている、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)が運営するT会員(全国約7000万人)に対して実施した調査結果を基に編集部で作成。

社会の変化や技術の発展などを背景に、価値観が変化

では、なぜ、モノを所有しないという価値観が広がっているのでしょうか。シェアリング・エコノミーが拡大する背景を理解するために、マーケティング手法の1つ、PEST分析(*1)を用いて状況を整理すると、次のようになります。

◎Politics(政治的要因)
働き方改革などの流れの中で副業・兼業が推進されており、個人がシェアリング・サービスを通じて副収入を得る動きにつながっています。また、国や自治体がSDGs(*2)を政策方針として掲げていることにより、「Sustainable(持続可能な)」「Ecological(環境にやさしい)」「Ethical(倫理的)」といった価値観が広がり、モノを持たずに消費する傾向を後押ししていることも考えられます。

◎Economy(経済的要因)
長引く経済不況やコロナ禍の影響などにより、収入や雇用への不安が高まり、家計を見直して不必要なモノを買い控えるといった消費者心理が、「モノ離れ」につながっています。

◎Society(社会・文化的要因)
社会全体において環境保護の意識が高まり、無駄をなくそうとする動きが見られます。多くの企業が環境に配慮した取り組みに力を入れており、消費者にも無駄な消費を抑える動きが広がっています。

◎Technology(技術的要因)
デジタル技術の進化にともない、インターネット上のプラットフォームで人がつながったり、利用料金の決済をしたりすることが容易になったことで、有形・無形を問わず、様々なモノがシェアしやすくなっています。

以上のような様々な要因が絡み合い、モノを持たない消費を選択する人が増えていることが、シェアリング・エコノミーの拡大をもたらしています。

そうした社会・経済や消費者心理の変化は、別の消費スタイルにもつながっています。定額料金で商品やサービスを一定期間利用できる「サブスクリプション・サービス」です。それは、企業が個人に商品・サービスを提供するBtoCであり、個人間でシェアをするCtoCのシェアリング・サービスとは市場の構造が異なりますが、シェアリング・サービスと同様に、モノを持たない消費に価値を見いだす消費者心理の高まりが根底にあります。

*1 Politics(政治的要因)、Economy(経済的要因)、Society(社会・文化的要因)、Technology(技術的要因)の4つの頭文字を取ったもの。

*2 Sustainable Development Goalsの略。2015年に国連が掲げた、持続可能な開発目標のこと。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など、17の目標と169のターゲットから成る。

【学ぶ】
シェアする仕組みで外部とつながり、実践的な問題解決学習が可能に

シェアリング・エコノミーの普及は、高校生の学びを充実させる可能性があります。大学では、学生の持つアイデアや発想を企業の商品企画やマーケティングに生かす産学連携が行われています。そうした連携は、かつては教員の知り合いの企業と協働するケースが大半でしたが、今では、インターネット上でアイデアや発想、スキル、ノウハウをシェアするプラットフォームの活用によって、より適切なマッチングがしやすくなっています。同様に、高校生の持つアイデアや発想に目を向けている企業と連携すれば、問題解決型学習に取り組みやすくなると思います。

高校生がクラウドファンディングで資金を集め、自分たちで企画したプロジェクトを実行した事例もあります。シェアリング・エコノミーの仕組みを活用することで、教育と社会とのつながりが作りやすくなるでしょう。また、学校が教育活動のために、企業や地域から人材を探したい場合にも、オンライン上のプラットフォームを用いることで、効率的なマッチングが可能になると思います。

【働く】
副業・兼業が活発化して、自分の望む働き方を選べる社会に

これまでの日本の社会では、1つの会社や1つの仕事に従事し続けるというのが基本でしたが、スキルをシェアする仕組みが一般化することで、働き方の多様化がより進んでいくと考えられます。本業を通じて得られたスキルを生かして、副業で収入を得る人が増えていくでしょう。

自分のスキルを必要としている人とオンライン上のプラットフォームで直接つながり、スキルを提供することで、自分の社会的な価値を実感しやすくなり、新たな生きがいを得ることができるといった一面もあると思います。また、場所を選ばずに、自分のスキルを生かして働きやすくなることで、地方への移住なども活発化するのではないでしょうか。

他方で、シェアリング・エコノミーの普及に伴い、ビジネスモデルの転換を迫られている企業が増えています。シェアリング・サービスを利用する消費者が増えることで、モノが売れにくくなる一面があるのは確かです。実際、「クルマ離れ」を始めとした、「モノ離れ」という言葉を耳にすることが増えました。

ある家具メーカーは、自社で製品を製造・販売する業態に見切りをつけて、様々なメーカーの家具のシェアをするビジネスへと転換し、成功を収めました。また、複数の自動車メーカーが、サブスクリプション・サービスを展開しています。モノを持たずに消費したい人が増える社会では、企業はこれまで以上に多くの消費者と接点を持ち、サービスの満足度を高め、「広く、浅く、長く」つき合っていくビジネスモデルが求められるようになると考えています。

企業のブランディングも、再考を迫られるでしょう。従来は、高級な製品を中心として、所有することで消費者にステータスを感じさせるモノづくりが重視されていました。今後、「使えればよい」といった価値観がますます広がると想定した場合、シェアされることを念頭に置いたブランディングを強化する必要があるかもしれません。

シェアリング・サービスは、自社で在庫を抱える必要がなく、初期投資が少なくて済むことから、事業参入が比較的容易です。そのため、未成熟な同市場では、様々なプラットフォームが乱立して競争が繰り広げられているのが現状です。今後、人が集まりやすい仕組みをどう構築するか、貸し手と借り手の間のトラブルをいかに防ぐかといった観点において優れたサービスを構築することができた企業が、市場の大手として生き残っていくと見ています。

【暮らす】
シェアリング・エコノミーが、人と人とのつながりを生み出す

モノを所有することでモノに対する愛着や所有することの喜びを感じるのか、それとも所有にはこだわらず、必要な時に必要なだけ使えればよいと考えるのか。消費者行動の研究では、前者は「ソリッド(物質的)消費」、後者は「リキッド(流動的)消費」と呼んでいます。多くの人は、どちらか一方に割り切っているのではなく、両方の考えが併存し、どちらかがやや強いと考えられています。

シェアリング・サービスを積極的に利用する人は、リキッド消費の志向が強いと言えるでしょう。そうした消費行動は、「デジタルネイティブ」と呼ばれるミレニアル世代(1980年代序盤~1990年代中盤に生まれた世代)や、Z世代(1990年代中盤から2010年代序盤に生まれた世代)に多いと考えられています。そうであれば、持たない消費を受け入れる消費者は、今後増えていくと考えるのが自然です。

シェアリング・サービスは、個人間のやり取りがベースとなりますから、つながりや信頼が非常に重視されます。信頼性に少しでも疑問を持たれる人は、借り手としても貸し手としてもシェアリングに参加しづらくなります。言ってみれば、「よい人」しか残れない社会が到来する可能性があるということです。そのため、シェアリング・サービスを通じてかかわった人からの高評価を積み重ねていくことが、重要な人生戦略の1つとも言えるようになるかもしれません。

シェアリング・サービスは、見知らぬ個人同士をつなげる仕組みです。自分が保有する資産を提供して相手に喜んでもらったり、感謝の気持ちを込めて評価をし合ったりする行為を通じて、社会に参加している実感を得ることができます。様々なコミュニティーの力が弱まったと言われる現代社会において、人と人とのつながりを生み出すプラスの側面があることにも目を向けると、シェアリング・サービスへの理解が一層深まると思います。

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