教育ジャーナリストの後藤健夫さんがお送りする連載「大人たちのアンラーニング」のススメ。第7回より「探究学習」をテーマに展開しています。今回は、前回に引き続き「探究学習」と「年内入試」の関係、特に学校推薦型選抜の中に位置する「指定校推薦」に重点を置いて考えます。

「学校推薦型」はあくまでも選抜試験である

「指定校推薦」は、大学が、進学実績がある高校から自大学にふさわしい生徒を推薦してもらうことで入学者を受け入れる仕組みで、現在の選抜方式では「学校推薦型選抜」に組み込まれています。
かつて「指定校推薦」や附属校からの内部進学など高校からの推薦で大学に入学する仕組みには実質的な選抜試験が課されない、つまり不合格にならないことが一般的でした。ですから当時はこれらを「推薦入学」と呼び「推薦入試」とは言わなかったのです。「入試」とは入学者選抜試験の略なのですから。当時は選抜試験がないのですから不合格になることはない「フリーパス」でした。もちろん大学は高校に一定の推薦要件を課しますが、その要件を満たしているかどうかの審査は、事実上、高校を信頼して高校に託されます。そんな信頼関係が大学と高校にありましたから、「指定校推薦」で不合格者を出すことは高校との信頼関係を損なうと言われていました。中にはそれでも不合格者を出す大学がなかったわけではありませんが、このとき、何を判断して不合格としたかは不明でした。大学から高校に説明があったとしても本人には説明がなかったようです。

かつて「推薦入試」は「推薦入学」だった

こうした状況に、高校は「推薦枠」の獲得を目指します。この推薦枠を手に入れれば確実に合格実績を上げやすくなります。そして、有名大学の推薦枠があれば確実に生徒を送り込むことができると生徒募集の広報ができます。合格実績を上げたい高校は推薦枠獲得を目指して有名大学に入学者を出すことに躍起になりました。推薦枠をもらえない高校の中には大学に推薦枠をお願いするところも出てきました。1980年代後半のことだったでしょうか、大学はこれを受けて「指定校」ではない高校からの推薦を可能にする「公募制推薦」を始めました。中には自分で推薦することも可能とした「自己推薦入試」を始めるところもありました。受験人口も多く大学入試が狭き門であり、高校よりも大学が優位だった頃です。「公募制」では「指定校」相当の基礎学力を担保するために基礎学力テストを課すようになりました。こうした動きに、基礎学力とは言え学力テストを課すことに「学力試験の前倒し」ではないかとの批判も一部の大学に対してありました。このあたりから「推薦入学」が崩れて「推薦入試」と言われるようになりました。
指定校推薦のみだった「推薦」が多様化して「推薦」の意味も変容してきました。

「指定校推薦」は使命を終えたか

「指定校推薦」の出願要件は「評定平均値」、つまり高校の成績で示されることが多いです。
でも、それはどこかおかしいです。
そもそも「評定平均値」は「自大学の教育にふさわしい」かを考えると随分と一面的で解像度が低いです。高校の成績は個々の授業のローカルルールにすぎません。その集合体である「評定平均値」は当然ローカルルールです。授業の水準、求める理解度、到達度は、高校や個々の授業によって異なります。大学側は高校間の差異をどう考慮するかを悩みます。そうしたものを評価するのはなかなかしんどいものです。そこに依拠するのはいかがなものでしょうか。ましてや募集時期からして、高校2年の終わり、あるいは高校3年生の1学期までの成績でしか評価できません。
最近の一部の高校の授業は「大学入試」に適応したものになっています。そうした授業の目的は「大学合格」であり授業内容は「受験対策」ですから「年内入試」を終えた生徒が授業に興味をなくすことも頷けます。授業に興味をなくした生徒が教室に増えたことから、高校から学校推薦型や総合型でも共通テストを課して欲しいとの声が挙がります。高校としては最後まで授業をしっかりと受けて欲しいとの思いは強いです。それに教室にはまだ一般選抜を受験する生徒もいます。こうした中での授業運営は難しいです。

こうした状況を打開するためには、推薦要件で「学力の三要素」のうち、特に「学習に向かう力」、意欲、関心、態度を重視するのです。それらを「探究学習」を通して判断するのです。意欲、関心、態度は試験問題を解いて測るようなものではなく、どのようにあるのかを認めるものです。高校は「探究学習」の様子をつぶさに見ているのですから、そこに依拠して自大学の教育にふさわしい生徒を推薦すればいいのです。
また「探究学習」は自らの興味関心や課題意識を反映させるものですから受験が終わったからとやめてしまうものではないですし、こうした学習の仕方は大学でも社会に出てからも継続したいものです。

第2回で示したように、大学は学生選抜において、「学校推薦型選抜」でも「総合型選抜」と同様に、小論文やプレゼンテーション、口頭試問などによる評価を求められています。そうした中で、高校での「探究学習」の成果を、プレゼンテーションや小論文、口頭試問で確認しつつ、大学の授業を受ける準備ができているかどうかを主体的に評価して、それに加えて、大学教育にふさわしい基礎学力を、独自の基礎学力テストなり共通テストで測れば良いのです。

しかし、そうしたときに、「学校推薦型選抜」は「総合型選抜」との差異はどこに出てくるでしょうか。なぜ学校長の推薦を求めるのか、その推薦によって優位に合格させる意味はあるのか等を考えていくと、「総合型選抜」で十分ではないかと考えます。

「学校推薦型選抜」、特に「指定校推薦」はそろそろ使命を終えるのかも知れません
そもそも「指定校推薦」のように高校3年生にしか応募できない仕組みも、生涯学習をにらんだときに、大学が送るメッセージとしていかがなものかとも思います。
「自大学の教育にふさわしい」かどうかは大学が主体的に確認すべきことです。実のところは高校だって「うちの大学の教育を受けるのにふさわしいかを判断して欲しい」なんてことを言われたって困ります。高校が数多ある大学のうちその大学のことをよく知っているとは限りません。教員にその大学の出身者がいてもそれは自分が若き頃の過去の大学を知っているにすぎません。かつてのような大学と高校の信頼関係は保てるでしょうか。
「学校推薦型選抜」は附属校やSSHなどの連携佼など、直接、教育内容や生徒の「探究」の様子を確認できるものに限るとすれば良いのではないでしょうか。「公募制推薦」も「総合型選抜」に組み込んで良いでしょう。
「学校推薦型選抜」は、高校の負担が大きく教員が困惑する選抜試験であり、大学側も合否の判断が難しい選抜方式です。文部科学省は「学校推薦型選抜」に選抜機能を求めるのであれば、その在り方を抜本的に見直すことが必要です。いかがでしょうか。

保護者のみなさんも、大学に入学できればそれでいい、高校の成績が良ければいいというのだけではなく、高校での学習をいかに大学入学後につなげるのか、高校時代にどのような学び方が良いのか、これらに加えて、子どもたちにふさわしい大学とはどのような大学なのかを落ち着いて考えていただきたいと思います。そのためにも子どもたちの「探究学習」に目を向けてみてください。そこから興味関心、好きなこと、自分が抱える課題などを見いだして、それらを引き続き学べる大学を選ぶことができると良いでしょう。

これまで「大学入試」と「探究学習」を考えながら、大人のみなさんに「アンラーニング」のポイントを示してきました。次回、最終回では、これまで考えてきたことを総括しつつ、これからの大学入試、高大接続を考えていきたいと思います。

後藤 健夫

教育ジャーナリスト

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