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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2023年度 Vol.1

社会科や理科などとのコラボ授業で、学びと食への関心をアップ! 味つけや調理法の工夫で、食欲をそそる給食に
~千葉県 市川市立稲荷木(とうかぎ)小学校

2023/03/30 09:30

千葉県市川市は、健やかで心豊かに生活できる「誰もが健康なまち」を目指しています。学校教育においても、各学校が年間計画の下で「食育」を実施し、子どもが食に興味・関心を持てるように工夫。同市の学校給食は「自校方式」または「親子方式」のため、各学校が子どもの状況に応じて様々な工夫を施した献立の給食を提供しています(本誌P.21〜22に掲載)。

本記事では、その事例として、市川市立稲荷木小学校の取り組みを詳しくご紹介します。

 

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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市川市立稲荷木小学校 概要

開校:1956(昭和31)年
校長:松本 啓祐 先生
児童数:421人
教員数:38人
学級数:15学級

お話を伺った先生

校長
松本啓祐(まつもと・けいすけ)先生

同校に赴任して1年目。

栄養教諭
森 幸子(もり・さちこ)先生

同校に赴任して3年目。

栄養素を3色でキャラクター化し、
栄養バランスへの意識を向上

市川市立稲荷木小学校では、栄養教諭の森幸子先生が年間計画を立て、全クラスで年に最低1回は、森先生による“食”に関する授業を行っている。また、体にとって大切な栄養素と、その役割について、子どもがイメージしやすいように3色のキャラクターを取り入れている。体をつくる基となるタンパク質は「赤色の大工」、体を動かすエネルギーの基となる炭水化物は「黄色のスポーツマン」、体の調子を整える基となるビタミン・ミネラルは「緑色の医者」というキャラクター設定だ。

タンパク質、炭水化物、ビタミン・ミネラルをバランスよく摂取することが体づくりの基本ということを、子どもが十分に理解できるようにしています。そうすれば、テレビや雑誌などにあふれる“食”に関する様々な情報に振り回されずに、将来にもつながる健康的な食習慣を定着させることができると考えています」(森先生)

森先生は、3色のキャラクターが子どもに定着するよう、自身の白衣とTシャツを3色で着こなすほか、調理室前の廊下に、その日の給食の食材を3つの栄養素別に示すボードを設置している。「キャベツ」「リンゴ」「イカ」「レバー」「ヨーグルト」といった食材に加え、「さとう」「バター」「マヨネーズ」などの調味料もイラスト入りのプレート(マグネット)を用意。各学級の健康委員が持ち回りで、給食に使われている食材や調味料のプレートを、栄養素別にボードに貼り分ける活動を行っている(写真1)。

▲写真1:食材や調味料のイラスト入りプレートは100枚ほど用意。当番の学級の健康委員が、献立表に書かれた食材を見ながら、給食に使われる食材や調味料のプレートを3つの栄養素別に貼り分けている。

給食の時間になると森先生は各教室を回り、「今日の黄色は何かな?」「カレーには何色の栄養素が入っているかな?」などと子どもたちに尋ねたり、その日の給食の食材を展示したりしている(写真2)。そうした活動の積み重ねによって、子どもは「給食でどの食材から何の栄養素を摂取しているのか」を意識できるようになっている。

卒業生からの年賀状に、『赤、黄、緑をちゃんと食べています!』と書かれていることもありました。小学校での食育は、生涯の食生活に影響を与えるので、重要性を感じています」(森先生)

▲写真2:この日の献立の1つ「豚汁」の具材であるサツマイモ、ニンジン、大根、小松菜、ネギを教卓の上に並べて、食材を分かりやすく伝える。

コラボ授業で、教科の学習内容と食育を連携

森先生は単独での食育授業のほかに、担任からの依頼でT2として授業に入ったり、食育に関心のある教員にコラボ授業を提案したりして、学習内容のうち、食や栄養に関する分野についての解説をしている。
松本啓祐校長は、栄養教諭が校内に常勤していることで、教科学習の内容と関連した”食“に関する授業を行いやすく、教科学習と食育の双方に効果のある学びが期待できると話す。

食は、教科学習の様々な分野に関係があります。例えば、社会科では地域の特産物や食品の流通を学ぶ学習につながり、理科では栄養素の働きと関連して学べます。体育科では、体を動かすには食事が大事といったことを学べるでしょう。栄養教諭が、食の視点から専門的な内容を解説することで、子どもは各教科の学びが“食”でつながっていることも意識できるのです

6年生の家庭科の授業では、子ども一人ひとりが1食分の献立を考える活動を行った。森先生は、それらの中から各クラス1つ、栄養バランスがよく給食に適した献立を選び、給食で提供した(写真3)。
また、6年生の外国語科の授業では「英語でクッキング」をテーマにした活動を行い、子どもが考えた「餅を具材にしたカレー」を献立にした。子どもの学習意欲を高めるとともに、授業での学びが生活に役立つことを感じられるようにしている。

▲写真3:6年2組の子どもが考えた献立は、鶏肉と蓮根の甘酢照り焼き、ほうれん草のお浸し、サツマイモのみそ汁。

イベントやコンテストで、食を楽しく学ぶ

食について楽しく学べるよう、学校内で食に関するイベントを開いたり、学校外のコンテストに参加したりもしている。

◎おさかな食べ方コンテスト

同校では、1年生で箸の持ち方を練習し、2年生で魚の正しい食べ方を学ぶ。その成果を発揮する場として、アジの開きを上手に食べるコンテストを実施。森先生が残った骨の状態を見て、きれいに食べられた子どもを表彰している。熱心な子どもは自宅で練習してくるという。

◎郷土料理の「祭り寿司」作り

地域学習や家庭科の授業で郷土料理を学ぶ時は、千葉県の郷土料理である「祭り寿司」を調理する。現在はコロナ禍の影響で実施を見送っているが、同市で獲れる海苔(のり)を使う献立なので、定期的に行っていた。祭り寿司とは、冠婚葬祭などで振る舞われる太巻き寿司のことで、断面が花などの模様になるように細工が施されている。

祭り寿司作りの準備や作り方の指導は担任だけでは大変ですが、調理の専門家である栄養教諭がいるからこそ実施できています。保護者にもボランティアとして参加してもらい、みんなで楽しく作りながら、郷土について学んでいます」(松本校長)

◎お弁当コンクールや朝食選手権への参加

千葉県主催の「いきいきちばっ子 オリジナル弁当コンクール」や、市川シビックロータリークラブ主催の「市川市小学生朝食選手権」にも、主に6年生が参加(写真4・5)。献立作りや調理法のアドバイスを森先生が行っている。

▲写真4:「オリジナル弁当コンクール」で優良賞を受賞したお弁当では、「鯖のカレー焼き」のサバ、「薩摩芋ご飯」のサツマイモと米、「胡麻きゅうり」のキュウリ、「豚肉とピーマンの炒め物」のピーマンで千葉県の農産物を使っている。

▲写真5:「小学生朝食選手権」で市川商工会議所会頭賞(銅賞)を受賞したお弁当は、鮭御飯、海苔入り卵焼き、きゅうりと竹輪の塩昆布和え物、ミニトマト、ブロッコリー、みかんと、栄養素も彩りも豊か。

子どもが苦手な魚や野菜料理は、献立や調理法を工夫

森先生は献立作りについても、必要な栄養素を確実に摂取できるよう、調理員と意見交換をしながら、食材選びと調理法の研究を重ね、独自のレシピを開発してきた。例えば、鉄分を多く含むレバーは、月1回は献立に取り入れるようにしている。ただ、見た目や臭みから敬遠されがちなため、湯通しして臭みをなくした上で、フライにして色が見えないようにしたところ、子どもたちはよく食べるようになった。また、白インゲン豆はペースト状にして、カレーやシチューの隠し味に入れる。コクが出るとともに、摂取しにくい食物繊維の量がアップするからだ。魚の献立や調理法も工夫しているという。

味噌(みそ)やしょう油の味はどの子どもにもなじみがあるので、魚は味噌煮やしょう油煮にしています。また、子どもが魚を苦手とする理由の1つは生臭さなので、スチームコンベクションオーブン(多機能の加熱調理機器)の機能を生かした調理を行ったところ、魚の生臭さが減って、ふっくら仕上がるようになりました」(森先生)

サバの味噌煮の食べ残し率が、オーブン導入前は11.6%だったのに対し、オーブン導入後は8.9%に。レバーフライも11.1%から3.7%へと大幅に減った。
また、野菜料理が苦手な子どもも多いため、2023年の干支にちなんだウサギ型のニンジンを茹でて、全校で6個だけ野菜料理に入れている。

「ウサギ型のニンジンは、苦手な野菜も楽しみながら食べられるようにしている工夫の1つです。給食時に教室を回っていると、『先生、ウサギのニンジンが入ってたよ!』とうれしそうに報告してくれる子もいます」(森先生)

教員や保護者が『残しちゃダメだよ』と言うだけでは、食事が嫌になってしまう子どももいるでしょう。森先生の取り組みを見ていると、食欲をそそる献立や調理法、3色のキャラクター設定やコンテスト、調理員や生産者との触れ合い(写真6)など、多様な切り口で工夫をされていて、“食”への関心を持たせることの大切さを感じています」(松本校長)

▲写真6:調理室前の廊下には、調理員全員の写真とコメントを掲示して、人となりを紹介している。

子どもに人気の献立レシピを保護者に公開

2022年11月には、PTA文化委員主催で3年ぶりに、保護者対象の給食試食会を開催した。当日は、定員いっぱいとなる約60人の保護者が参加。森先生が、食材や献立で工夫している点など、給食や食育での取り組みを説明した後、参加者はその日の給食を試食した。

子どもたちに人気の米粉カレーやレバーフライ、じゃこガーリックライスなどの献立レシピを教えてほしいというリクエストをいただいていたので、調理法の工夫などとともにお伝えしました。また、食品添加物や食物アレルギーなどについても説明しました」(森先生)

保護者からは、次のような感想が寄せられた。
「予想以上に丁寧に手間をかけて給食が作られていることを知り、感動しました。とても味わい深く、優しい味でおいしかったです。日々の家庭料理も頑張ろうという気持ちになりました」
「食材や食品添加物の話が勉強になりました。子どもがいつも『給食がおいしい』と話している米粉カレーを試食できてよかったです」

試食会を実施できる日は、食器の数に限りがあるため、学校行事で子どもが不在の際などに限定されるが、保護者が給食や食への理解を深めるよい機会として、今後も定期的に実施していく予定だ。

紙芝居や絵本の読み聞かせで、
食物アレルギーの留意点を周知

食物アレルギーへの対応は、市のガイドラインを基本とし、細心の注意を払っている。年度初めに保護者と面談し、食べさせてはいけない食材を確認。毎月、食材を詳細に示した献立表を配布して、保護者にも除去食や弁当などの対応が必要な日を確認してもらい、見落としがないようにチェックを徹底している。
子どもたちも食物アレルギーに関して気をつけるべきことが理解できるよう、食物アレルギーについて学べる紙芝居や絵本の読み聞かせを低学年次から行っている。また、保護者に了解を得た上で、食物アレルギーのある子がいることをクラスメートにも伝え、無理に食べさせたり、本人が誤って口にしたりしないように周知している。森先生は、食育への思いを次のように語る。

1年間の食事のうち給食が占める割合は2割程度です。しかし、常に栄養のある食事を提供し、食について学べる場として、給食はとても重要だと捉えています。この春には6年生が卒業し、新しく1年生が入学してきますが、子どもが変われば、好みも変わります。目の前の子どもを丁寧に見取り、毎日の食事をより楽しんでもらい、よりおいしく食べてもらえるよう、給食の献立も食育も試行錯誤を続けていきます

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