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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2023年度 Vol.3

全員面談や教員による見取り・対話でヤングケアラーを早期に発見し、スクールソーシャルワーカーと連携して迅速に支援
東京都 江戸川区立松江第一中学校

2023/11/15 09:30

国の調査(*)では、中学生の5.7%にヤングケアラーの可能性があるとされている。子どもの権利を守る施策に力を注ぐ江戸川区では、32校の区立中学校で、ヤングケアラーの発見を目的とした面談を中学1年生全員に対して実施している(江戸川区の取り組みは、本誌P.24〜26に掲載)。学校現場では、そうした取り組みを生徒への支援にどう生かしているのか。本記事では、江戸川区立松江第一中学校の実践事例をリポートする。

*三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」(厚生労働省 令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業)。

 

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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学校概要

開校:1947(昭和22)年/校長:山岸健先生/生徒数:624人/教員数:38人/学級数:21学級(うち特別支援学級3)

お話を伺った先生

校長 山岸 健(やまぎし・けん)
同校に赴任して3年目。

生活指導担当 長山直樹(ながやま・なおき)
同校に赴任して6年目。主任教諭。国語科。3年生担当。

教務担当 伊藤良因(いとう・よしもと)
同校に赴任して4年目。社会科。3年生担当。

いじめや虐待とともに、ヤングケアラーの視点を教員が意識

江戸川区にある32校の区立中学校では、江戸川区教育委員会(以下、区教委)の方針の下、ヤングケアラーの早期発見・支援に向けた生徒面談を行っている。ヤングケアラーの可能性のある生徒を把握し、スクールソーシャルワーカー(以下、SSW)などと連携して適切な支援につなげることが目的だ。実施初年度の2022年度は全学年の生徒に、2023年度は1年生に面談を行った。

学校現場ではその取り組みをどのように受け止めて、生徒への支援にどう生かしているのか。江戸川区立松江第一中学校の山岸健校長は、従来の支援にヤングケアラーの視点をプラスすることで、より手厚い支援につながっていると話す。
「これまでも、いじめや虐待などを早期発見するために、生徒に対して学校や家庭の悩みに関するアンケートを定期的に実施してきました。しかし、ヤングケアラーの問題は本人が自覚しづらい上に、家族以外の人に話しにくいといったセンシティブな性質を持つため、教員が深く立ち入るのが難しく、表面化しづらい状況でした。区の取り組みとしてヤングケアラーの問題に焦点をあてた面談が導入されたのは、非常にありがたく思っています」

1年生の全生徒と面談し、2・3年生はアンケート形式で追跡調査

区教委が設定した面談の主な流れは、図1の通りだ。教員と生徒が厚生労働省製作の啓発動画を視聴し、ヤングケアラーについて理解をしてから面談を実施。ヤングケアラーと思われる生徒を発見したら、厚生労働省実施のアンケートを参考に作成した事前アンケートを経て教員が再度面談を行い、その結果を踏まえて、SSWらと連携して支援する。

図1 ヤングケアラーを把握するための面談とその後の支援
※江戸川区児童相談所、江戸川区教育委員会への取材を基に編集部で作成。

同校では、ヤングケアラーについての生徒の意識を高めるために、山岸校長が面談の前に全校集会でヤングケアラーについて触れ、「これから担任の先生が1人ずつ面談をするので、心配事がある人はその時ぜひ話をしてください」と呼びかけた。
「2022年度の全校集会でヤングケアラーについての説明をしたところ、『何のことだろう?』と、ポカンとした表情をする生徒が多く見られました。そうした姿から、ヤングケアラーのことはほとんど認知されていない状況が伝わってきました」(山岸校長)

面談の実施時期は各学校に任されているが、同校ではできるだけ早く生徒の状況を把握したいと考え、2023年度は5月のゴールデンウイーク明けに1年生を対象に実施した。また、2・3年生は2022年度に面談を行ったが、その際に問題が表面化しなかったり、状況が変わったりした生徒がいる可能性を考慮し、山岸校長の判断により、面談項目を文章にしたアンケートを実施した。

従来の面談に質問を追加する形にして、教員の負担増を回避

2022年度は面談の実施に先立って、教員がヤングケアラーに関する啓発動画を視聴した。多くの教員がヤングケアラーに関する知識を一定程度持っていたが、動画の視聴によって「こんなケースも該当するのか」と理解を深めたり、「家庭内のことでも声をかけるべきケースがある」と支援の必要性を自覚したりと、教員間の認識を統一できたという。
「ここ数年、ヤングケアラーについて耳にする機会が増えました。啓発動画を通じて、ヤングケアラーは目の前の生徒にかかわる切迫した問題であると、どの教員も再認識できました。これまでは、家庭内に問題がありそうな場合は、虐待や家庭内暴力を疑いましたが、ヤングケアラーの視点が加わったことで、支援対象者を幅広く、早期に発見することができるようになりました」(山岸校長)

面談を実施するにあたり、担任がクラス全体にヤングケアラーについて口頭で説明した後、生徒向けの啓発動画を視聴させた。「ヤングケアラーについて知っている人はいるかな?」と質問すると、手を挙げた生徒はほとんどいなかったという。

面談は1日あたり5人程度で、1週間をかけて実施。主に朝学習の時間に1人あたり5分間程度、他の生徒に話が聞こえないよう、廊下などのスペースを確保して行った。最初に雑談を交えるなど、生徒が話しやすい雰囲気をつくってから、区教委が設定した4つの質問項目をベースに面談を行った(図2)。

「これまでも生徒から悩みや不安についての相談を受ける面談を行ってきました。今回はそれにヤングケアラーに関する質問が少しプラスされただけなので、教員への負担はそれほど増えてはいません。また、どの教員も、ヤングケアラーに関する聞き取りは生徒のためという認識があり、積極的に取り組む様子が見られました」(山岸校長)

図2 ヤングケアラーに関する生徒面談での質問項目
※江戸川区教育委員会の提供資料を基に編集部で作成。

2回の面談を経て、十数人の生徒を要支援と判断

面談でヤングケアラーである可能性があると判断した生徒には、事前アンケートと20分間程度の再面談を実施した。事前アンケートは、家庭内で支援を必要とする家族、自分が行っている支援の内容や頻度、家族を支援しなくてはいけないためにできていない、自分のやりたいことなどを詳しく記入する形式となっている(図3)。

図3 2回目の面談前に生徒に行う事前アンケート
※江戸川区教育委員会の提供資料をそのまま掲載。

2022年度は各クラスで1〜2人程度が2回目の面談を行い、その後、学校全体では十数人がヤングケアラーであると判断され、SSWやスクールカウンセラー、児童相談所、福祉、医療などの関係機関による支援を受けている。一方、生徒が「自分はヤングケアラーかもしれない」と心配したため、再面談を実施したものの、本人の説明や状況を考慮すると問題はなく、そのまま注意深く様子を見ているケースもある。

本人の自覚がなくてもSSWと連携し、家庭を含めて支援

教員は、生徒は啓発動画を視聴していたため、ヤングケアラーについて十分に理解しているものと思っていたが、面談を進めるうちに、必ずしもそうとは限らないケースがあることに気づいたという。面談を行った伊藤良因先生は次のように述べる。
「いじめや虐待は本人が自覚している場合がほとんどですが、ヤングケアラーに該当する生徒は家庭内で自分が働くのは当然と捉えており、自分がヤングケアラーであるとは認識していないケースがありました。周囲からは見れば明らかにヤングケアラーであっても、『自分は大丈夫です』と言い切る生徒に、どのように対応すればよいかは難しい問題です」

そうした場合はSSWと連携し、家庭を含めた働きかけを行うようにしている。あるケースでは、生徒にヤングケアラーという自覚はなく、SSWの家庭訪問時に、保護者から「家庭の問題だから」と介入を拒否された。それでも、生徒のよりよい生活と未来に向けて、保護者とSSWが何度も話し合いを重ね、福祉などの支援を受けることにつなげていった。

また、ある生徒は、幼いきょうだいの世話のために、部活動の練習に参加しない日が続いた。部活動の顧問と担任が連携して話を聞くと、生徒は「自分が家族の面倒を見るのはあたり前のこと」と答えた。しかし、その後も根気よく教員が生徒と話を続けたところ、徐々に生徒の考えが変わり、支援を受け入れるようになったという。

生徒が話したがらない場合でも、教員が異変を察知して対応

面談を実施しても、生徒が家庭内の事情を話したがらないケースもある。そこで、面談やアンケートの実施に加え、教員による日常的な観察や声かけを心がけているという。
「本人の健康状態に問題がなさそうなのに休みがちになったり、服装の乱れや入浴していない様子が見られたりと、ちょっとした生徒の異変に担任が気づき、ヤングケアラーであることが発覚した例も複数あります」(山岸校長)

また、いじめなどと違い、友人からの情報提供によってヤングケアラーであることが分かることは期待しづらいという。生徒指導担当の長山直樹先生は、次のように話す。
「ヤングケアラーと判断されたある生徒は、『友だちには言えなかった』と話していました。家庭の複雑な事情を知られたくないという思いがあるのでしょう。友人にも相談できず悩みを1人で抱えやすいからこそ、周囲の大人が気づくことが重要であると感じます」

自分の悩みを誰にどこまで打ち明けるかは本人の性格にもよるが、発達段階によってもある程度の傾向が見られる。
「1年生は、自分の置かれた状況を客観的に捉えて問題を自覚するのが難しい半面、悩みがあると『先生、こんなことがあって』と、比較的気軽に打ち明けてくれることが少なくありません。一方、2・3年生になると、ヤングケアラーの問題も含めて自分や家族への理解は深まりますが、それゆえ『家族のことは隠したい』『弱いところを見せたくない』と、話したがらなくなる傾向があるようです」(山岸校長)

学校とSSWとの連携で、生徒一人ひとりと向き合い続ける

ヤングケアラーへの支援において、SSWは必要不可欠な存在だ。かねてから江戸川区はSSWの拡充に努めており、2023年度は34人のSSWを32校の中学校区に配置し、校区内の小学校を含めて巡回している。そのうち6人はスーパーバイザーとして、各SSWが受け持つ案件の相談や研修会の企画などを行っている。

面談を行って気になった生徒については、必要に応じてSSWが校内検討委員会やケース会議に参加して情報共有や助言を行う。支援が必要な生徒に関しては週1回、地域のSSWが集まる場で報告・相談し、スーパーバイザーからの助言などを得て、支援の方向性を決める。場合によっては家庭を訪問して、子どもや保護者と対話し、個別のケースに適したサポートを検討する場合もある。

SSWの1人は、ヤングケアラーの把握と支援の難しさを次のように語る。
「ヤングケアラーの問題では様々な要因が複雑に絡まっており、何か1つの明確な課題を見いだせることはほとんどありません。支援が必要でも該当するサービスがなかったり、支援対象のはざまだったりするというのが現状です。面談は、それを把握する機会になります。ただ、セルフスティグマ(社会的ならく印を自認している状態)の生徒もいて、声かけや支援によってかえって生徒の自尊心を傷つけるようなことがないよう、十分に配慮する必要があり、対応する教員の負担感は大きいと感じています」

また、教員とSSWの守秘義務の範囲が異なるため、連携や情報共有は慎重に行っている。SSWの1人は、「子どもを取り巻く環境が複雑化、多様化する中で、個々の家族のあり方に配慮をしつつ、学校が居場所の1つとなるような支援を、先生方とともに行っています」と語る。

同校は、これからも区教委及び関係機関との連携を通じて、該当する生徒一人ひとりへの支援を充実させていく考えだ。
「ヤングケアラーへの支援では、生徒一人ひとりにしっかり向き合って話を聞くことが何よりも重要です。これからも、面談やアンケートといった仕組みだけではなく、教員が生徒の姿をよく見るとともに、じっくりと話を聞くことで、手厚い支援につなげていきたいと思っています」(山岸校長)

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