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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2023年度 Vol.3

授業改善を出発点に、学校の教育活動全体が生徒主体へと転換
神奈川県 横須賀市立長沢中学校

2023/11/15 13:30

生徒が学びの意味を見いだし、主体的に学び続けるためにはどうすればよいのか。そうした課題意識から授業改善に着手した横須賀市立長沢中学校は、「深く考え行動する生徒」の育成を目指し、一人ひとりの生徒が授業で活躍できるようにするための工夫を凝らしてきた(取り組みは、本誌P.13〜16に掲載)。その授業改善が生徒や教員の意識を高め、「個別最適化」の充実にもつながってきている。現在は、生徒が校則の見直しや体育祭の運営方法にも主体的にかかわるようになるなど、その効果が教育活動全体へと波及している。本記事では、同校の教育改革についてリポートする。

▼本誌記事はこちらをご覧ください(↓)

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学校概要

開校:1985(昭和60)年/校長:小番奈緒美先生/生徒数:302人/教員数:25人/学級数:12学級(うち特別支援学級3)

お話を伺った先生

研究推進委員長
貝塚啓悟(かいづか・けいご)
同校に赴任して7年目。国語科。1・3年生担当。

「授業は最大の生徒指導」という信念の下、授業改善を開始

横須賀市立長沢中学校は、生徒が自ら学びを進めていく主体性を育むために、授業や学校行事、校則などを学びの「道具」と捉え、教育改革を推進してきた。その取り組みのスタートは、横須賀市教育委員会からの「フロンティア研究校」の指定を受けた2019年度。4年間の指定期間を終えた現在も、全校で取り組みを継続している。

改革に着手する発端となった課題は、授業を始めとする学校の活動に生徒があまり前向きに取り組めていないことだった。同校の研究推進委員長を務める貝塚啓悟先生は次のように振り返る。

「私が本校に赴任した2017年度は、授業で居眠りをする生徒が散見され、学校行事では『きちんと並びなさい』『静かにしなさい』といった教員の指示が飛び交う状況でした。生徒は教員の指示に従って動くという意識が強かったと思います」

そうした状況を変えるために、当時の校長の信念だった「授業は最大の生徒指導である」の下、全校体制で校内研究に着手した。授業改善を起点として生徒が変容することを目指し、研究テーマを「生徒が主体的・対話的で深い学びに取り組む授業づくり」と設定。最初に「生徒が」と置くことで、教員ではなく、生徒が学びの主体となる授業をつくるという決意を表した。

生徒が自ら課題を考えることで、自分たちで学びを進める授業を目指す

研究指定1〜2年目は、生徒全員が活躍できる授業づくりを中心に研究を進めた結果、生徒の変容を確かに感じられるようになった。研究指定3〜4年目は、学校行事や校則の見直しにも取り組みを広げていった。その変遷を追いながら、生徒、そして教員の意識が大きく変わっていった様子を見ていく。

研究指定1年目は、生徒主体の教育活動を展開する先進校の視察などを通じて、自校が目指すべき授業のあり方を検討。1年生を中心に全教科の授業で、生徒の主体性を引き出す工夫を取り入れた。その1つが、従来の授業では教員の説明時間が長いことが生徒を受動的にしたという反省に基づき取り組んだ「長沢スタンダード」の設定だ。教員が用意した「問い」を基に生徒が話し合って「課題」を考え、協働学習などを通して問題の解決を図り、「まとめ」と「振り返り」を行うという授業展開を、どの教科においても基本とした。

「教員が与える課題に取り組むだけの授業では、生徒はどうしても受け身になってしまいます。自分たちが課題を考えることになれば、『授業では何を考えるべきか』『どのように進めればよいか』などと、生徒が主体性を発揮することができるようになるのではないかと考えました」(貝塚先生)

自分で学ぶ相手や方法を選べる「ぶらぶらタイム」

問題解決のプロセスでは、生徒は自分たちの力で解決方法を検討する。グループごとにメンバーの意見をホワイトボードに集約して全体で発表し合ったり、思考ツールを活用して個人で考えを深めてからグループで共有したりするなど、様々な方法を取り入れた。その1つが、生徒が自分の意思で歩きながら話し合いなどを行う「ぶらぶらタイム」だ。誰とでも自由に話し合うことができ、1人で考えたいのであれば個別学習も継続できるなど、生徒が自分の状況に合わせた学び方を選択できる時間とした(写真)。

写真:ぶらぶらタイムになると、教室のあちこちで自然に「協働的な学び」が行われる。貝塚先生の国語の授業では、教科書を読みながら意見を述べ合ったり、インターネットで調べた内容を見せ合ったりする生徒のかたわらで、個別学習を進める生徒もいた。

そのように、生徒が個々に学び方を選べる学習形態は、「個別最適な学び」とともに「協働的な学び」も充実させている。

「ぶらぶらタイムでは、必ずしも仲のよい友だち同士で集まるとは限らず、『このクラスメートに聞けば分かるかも』などと、生徒は自分の状況に合わせて解決方法を選んでいます。例えば、友だちと話し合って自分の考えをまとめた後、その考えを黒板に書いて、さらにほかのクラスメートに意見を求めるなど、自ら学びを発展させていく生徒もいます」(貝塚先生)

ぶらぶらタイムの実践を通して、教員の生徒観や指導観は大きく変化したという。

「以前は、生徒が自分の席に座って静かに考えることが学びだと思っていました。しかし、生徒が疑問を解決しようと考えたり、他者と話し合ったりして学びを深めていく様子を見るうちに、どの場所で誰と一緒に学ぶかなど、学び方の選択は生徒の意思を尊重すべきではないかという考えに変わりました」(貝塚先生)

各教科の「教科リーダー」が授業を進行

生徒の主体性を引き出す工夫として、生徒が授業の司会進行という役割を担当する「教科リーダー」も設けた。教科リーダーはクラスごとに各教科2人ずつ、生徒の立候補によって選出。任期は半年で、多くの生徒が経験できるようにしている。教員は教科リーダーによる授業の進行を見守りながら、生徒同士で問題を解決することができるような支援をいている。

「当初は、生徒から『どうして生徒が授業をするのか』『何で先生は教えてくれないのか』といった戸惑いの声が上がりました。しかし継続するうちに、『もっと1人で考えたい』『話し合いの時間を長くしてみよう』などと、生徒同士が相談して授業を進めるようになっていきました」(貝塚先生)
(教科リーダーの取り組みは、本誌P.13〜16に掲載。)

月1回、生徒が授業の成果や課題を話し合う

研究指定3年目には、生徒による「授業反省会」をスタートさせた。

「それまでの実践を通して、生徒から『先生が話す授業よりも、皆で話し合う授業の方が楽しい』といった声が多く聞かれるようになりました。それは、自分たちが生徒が授業の『運営者』であるということを生徒が自覚している表れだと捉えることができます。そこで、よりよい授業について生徒同士で話し合える場があれば、主体性をより発揮することができるのではないかと考え、授業反省会を行うことにしました」(貝塚先生)

授業反省会は、月1回、各クラスのホームルームの時間で行う。3~4人のグループに分かれ、下記の3つのテーマについて、成果・課題・改善点を出し合っている。

・授業の中で自分の考えをアウトプットできたか
・生徒同士で教え合う活動があったか
・振り返りを記述することができ、それを基に生徒同士で交流ができたか

授業反省会で出た意見は付せん紙に記入し、それを模造紙に貼って整理。最後にクラス全体で意見交換をする。そして、話し合った内容を基に、生徒それぞれが自分の学びの進め方をどう改善すればよいのかを考える。

授業反省会を実施するようになってから、生徒の中に「学びは自分たちでつくる」「自分で考えて動いてよい」といった考えがより根づき、学校全体の雰囲気が大きく変わっていった。

「生徒は授業の当事者としての意識を強く持ち、主体的な姿勢で授業に取り組むようになりました。研究指定1年目に1年生だった生徒が3年生になる頃には、生徒主体の学びは日常の光景となり、授業は活気にあふれていました。そうした上級生の姿は下級生にも伝わり、校内の雰囲気もとてもよくなっていきました。もちろん、主体的になり切れない生徒もいましたが、教員が注意するほどではなく、また、自然と生まれた生徒間で支え合う関係性によって、そうした生徒も徐々によい方向へと変化していきました」(貝塚先生)

生徒が主体的に学ぶようになったことは、生徒を対象としたアンケート結果にも表れている。「長沢中学校は授業に対して前向きな気持ちで取り組める」という項目の肯定率(「よい+まあよい」の%)は、2019年度は72%だったが、2021年度は86%に増加した(図)。

図:「長沢中学校は授業に対して前向きな気持ちで取り組める」の肯定率は、年々増えている。
※長沢中学校の提供資料を基に編集部で作成。

生徒主体で校則を見直す議論が「主権者教育」につながる

さらに、研究指定3年目には、学校行事や部活動などでも、生徒は活動をよりよくするための発言をするようになり、教員はそうした生徒の声を積極的に受け入れた。

「校内研究の目的は授業改善でしたが、生徒がどんどん主体性を発揮していく姿を見て、教員の間に『授業はあくまでも生徒を育てる道具の1つではないか』という気づきが生まれました。そうであるならば、学校行事や部活動などのあり方も変えていくことで、生徒はより大きく成長するのではないかと考えるようになりました」(貝塚先生)

そこで、研究指定4年目の2022年度にチャレンジしたのが「校則を見直すプロジェクト」だ。生徒会が中心となってプロジェクトを立ち上げ、各クラスで「髪型」「靴下の色」「休み時間の過ごし方」などに関する校則について話し合い、生徒会が各クラスの意見を集約して議論を深めた。

その中の1つに、「靴下の色が白と決まっているのはおかしい」という意見があった。それに対して教員は、「靴下が白色であれば、こまめに洗濯されているかが分かりやすく、家庭環境の把握の一助になることが、その校則を設けた当時の理由だったようだ」と説明した。

「自分たちの希望を単に押し通すのではなく、校則も根拠をもって定められていることを認識した上で考えてほしいと思いました。相手の主張を受け止め、それを踏まえて自分の意見を再構築し、伝える。そうしたことを繰り返す中で、生徒は主権者になっていくのではないでしょうか」(貝塚先生)

2022年度のプロジェクトでは、「靴下の色(白のみから白、黒、紺、灰色に変更)」と「休み時間の過ごし方(コロナ禍もあり、廊下で過ごすことを禁止していたが、自由に廊下で過ごしてもよいと変更)」の2点について、校則が改定された。そして2023年度も、生徒主体で校則の見直しの議論を進めている。

生徒主体の活動を支えるのが、教師の役割

学校行事でも、生徒が主体性を発揮する姿が見られている。体育祭では、学年ごとに生徒が学年種目の内容を議論して設定するようになった。2023年度に貝塚先生が担当している1年生では、クラスの垣根を超えたえた一体感が生まれたという。

「ある生徒が『皆で決めて実行できたのだから、どのクラスも優勝だよね』と話したことにとても感動しました。以前は、生徒から勝ち負けにこだわる話ばかりが聞こえていたのですが、今年度はどのクラスの生徒からも『体育祭が本当に楽しかった』といった雰囲気が感じられました。生徒主体の活動がより充実していくよう、これからも生徒を支えていきたいと思っています。」(貝塚先生)

授業改善から始まった同行の改革は、教育活動全体に波及し、生徒や教員を確かに変容させている。「主体性を発揮しながらよりよく成長していくために、生徒が学校を利用するくらいの気持ちになるとよいのではないかと考えています」と、貝塚先生は力強く語った。

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