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【誌面連動】ウェブで詳しく!『新課程レポート』
広島県立安芸(あき)府中高校 これまでの自分を見つめ、
これからの自分を描くことで、変化の激しい社会を生きる力を育む

2022/08/19 09:30

本記事のコンテンツ

1.変化の激しい社会で必要な「なりたい自分を語る力」
2.きっかけさえあれば、高校生は大きく変わる
3.育成を目指す「6つの力」を通じて、生徒の成長を見取る
4.強み・こだわりを分析し、なりたい自分を描く

学校概要

◎校訓に「自主自立」「好学愛知」「心身錬磨」を掲げる。県内唯一の国際科を設置。

一人ひとりの資質・能力に応じて、グローバル化が急速に進展する地域社会・国際社会に貢献し、その持続的な平和と発展に寄与することができる人材を育成する。

設立        1980(昭和55)年

形態        全日制/普通科・国際科/共学

生徒数    1学年約200人

2022年度入試合格実績(現役のみ)

国公立大は、広島大、県立広島大、広島市立大、北九州市立大などに18人が合格。私立大は、明治大、京都産業大、立命館大、関西外国語大などに延べ272人が合格。

高橋 真 
たかはし・まこと

校長
教職歴36年。同校に赴任して2年目。

柳楽和人 
なぎら・かずと

進路指導主事・進路支援部主任
教職歴22年。同校に赴任して8年目。国語科。

加藤賢一 
かとう・けんいち

国際科主任・外国語科主任
教職歴20年。同校に赴任して2年目。外国語科(英語)。

1.変化の激しい社会で必要な「なりたい自分を語る力」

地球規模の様々な課題が生じている現代、学校現場には、未来の創り手として必要な資質・能力を子どもたちに育成することが求められている。そうした資質・能力の1つが、「なりたい自分を語る力」だ。

「どんな自分になりたいのかを語ることができる人は、想定外の事態に直面しても、自分が大切にしたい価値観や選択すべき行動を明確に認識していますから、よりよい人生を自分の力で切り拓いていくことができます」と、広島県立安芸府中高校の高橋真校長は考える。

「なりたい自分を語る力は、近年の企業の採用試験や大学入試の面接、小論文試験などでも求められています。広島県では、2023年度高校入試より、受験生が自分の得意なことやこれまで取り組んできたこと、高校入学後の目標などについて、自分で選んだ言葉や方法で検査官に伝える『自己表現』が課されることになりました。今の自分を認識して、なりたい自分を表現する力は、これからを生きる子どもたちに必要な力なのです」

 

2.きっかけさえあれば、高校生は大きく変わる

なりたい自分を語ることは、中学生や高校生にとって、決して容易なことではない。「進学や就職を1年後に控えた高校3年生でも、行きたい大学名や企業名は言えても、そこでどのようなことを学びたいのか、どのように働きたいのか、どんな自分になりたいのかを語れる生徒は多くない」と打ち明ける教師もいる。

しかし、高橋校長は、「なりたい自分がないのではなく、それをうまく言葉にできないだけで、なりたい自分を語る場を与え、教師が適切に支援すれば、なりたい自分に向けて大きな一歩を踏み出せる」と、現代の高校生が内に秘めた力を認める。

「『来年はどうなっていたい?』『10年後はどんな自分でいたい?』と聞いても答えに詰まったり、その理由を深掘りすると言葉が出なくなったりする生徒は確かにいます。だからと言って、そういった生徒が、必ずしも進路を切り拓く力が弱いとは限りません」

高橋校長は、同校のある生徒とのエピソードを明かす。

「総合型選抜の受験を控えた3年生と模擬面接をした時のことです。志望大学と大学卒業後の進路として志望している行政機関とのつながりが明確ではなかったその生徒と、模擬面接の振り返りを行う中で、『君の志望大学を卒業して、志望している行政機関に就職した社会人に、話を聞いたことはあるの? 直接話を聞くことで初めて分かることもたくさんあるんだけどなぁ』と、何気なく話しました。すると生徒は、『そういうことをしてもよいのですね』と、少し驚いた様子でしたが、その後、志望大学がある地域の行政機関に自らコンタクトを取り、そこの職員から直接話を聞いたとのことでした」

その生徒の担任は、高橋校長に、卒業生と話したことがきっかけとなって志望理由が深まり、しっかりと筋が通ったものになったと、うれしそうに報告したと言う。

「『今の高校生は内向きで、自分を語れない』などと諦めるのは間違っていると、その生徒に教えてもらった気がします。生徒の心に火をつけるきっかけをつくる支援が、私たち教師には求められているのだと思いました」

3.育成を目指す「6つの力」を通じて、生徒の成長を見取る

進路支援部主任を務める柳楽和人先生は、「未来の自分を考えるためには、過去の自分を見つめることが必要だ」と説明する。

「どの生徒も、様々な経験を積み重ねて今に至っているわけですが、勉強や部活動、学校行事などで発揮した自分の強みなどに気づいていない生徒は少なくありません。なりたい自分を描きやすくするためには、自分の強みや大切にしている価値観を分析するという経験を生徒に積ませることが必要だと感じています」

また、生徒が自分の強みや価値観を分析するための視点として、同校の教師たちが期待するのが、学校として、すべての教育活動を通じて育成を目指す「6つの力」だ。同校では、地域社会・国際社会の持続的な平和と発展に貢献できるグローカルリーダーとなるために必要な資質・能力として、6つの力(論理的に考える力、課題発見・解決力、伝える力、協働する力、やり抜く力、俯瞰して考える力)を設定した。教師が授業の冒頭に、「今日の授業では、『6つの力』のうち、特にこの力を身につけてほしい」と生徒に示したり、学校行事に先立って、「この行事で発揮したい力は何か、自分で考えてみよう」と担任が呼びかけたりすることで、「6つの力」が生徒にとって、自分の成長を認識するための軸になっていると、国際科主任の加藤賢一先生は話す。

「『6つの力』が、高校生活を振り返る校内共通のキーワードになったことで、生徒は、何がどのくらいできるようになったのかを語りやすくなりました。また、私たち教師も、生徒の成長を見取る観点を共有できたことで、生徒のよいところを共通の言葉で表現しやすくなりました」

同校では、1学期末の三者懇談で、生徒が保護者と担任に対して、「6つの力」のどの力がどのくらい伸びたのか、それはどのような高校生活を送ることができたからか、そして、これからの高校生活をどのように過ごしていきたいかを説明する時間を設けている。まさに、これまでの自分を振り返りながら、将来なりたい自分を描く力を育成する活動と言えるだろう。

「『6つの力』を意識して高校生活を振り返ることで、様々な経験が生徒の中で有機的に結びつけられているように思います。過去と今をつなげて語ることで、『自分は6つの力の中でこの力が、このような経験を通して伸びた。今後は、この力を伸ばすためにこんなことをしたい』と、生徒は次の成長の原動力を生み出しています」(加藤先生)

学校として育成を目指す「6つの力」を設定したことを、高橋校長が様々な場面で生徒に周知したところ、美術を選択している生徒の有志がシンボルマークを作成した。さらに、放送部が、学校紹介ビデオでシンボルマークを紹介するなど、生徒たちにとっても、「6つの力」は、高校生活を見つめる重要な視点として浸透している。

4.強み・こだわりを分析し、なりたい自分を描く

なりたい自分を描かせることで、変化の激しい時代を生き抜く生徒を育てようとしている安芸府中高校。高校生活を振り返りながら、なりたい自分を描く支援として21年度から導入しているのが、「進路達成プログラム」(※)だ。

「進路達成プログラム」で取り組むアンケートを通じて、生徒の行動や意識が分析・診断され、そこから明らかになった生徒の強み・こだわりを、志望大学が求める生徒像と照らし合わせたり、それらとマッチする大学を提示したりする。そして、「進路達成プログラム」で提示された大学を含め、広い視野で大学を改めて調べて、「この進路に進みたい」と心から思える志望校が絞り込めたら、「希望進路宣言」として、志望理由や志望実現のための今後の高校生活への決意などを自分の言葉でまとめ、担任と共有する。

「これまでの進路指導では、大学などの進学先を調べることに時間をかけがちでした。しかし、進路達成プログラムではまず行動・意識の面から自分にフォーカスをあてます。本校も、自分の内面にフォーカスすることを大切にしていますので、進路達成プログラムは、『6つの力』以外の視点で自分を見つめる機会として意義があると考えました。アンケートの分析・診断による客観的なデータで自分の強みを見つめながら、希望進路を実現しようとする思いを宣言したことで、生徒たちは明るく、前向きになったと思います」(柳楽先生)

21年度、「進路達成プログラム」で自分を見つめ、自分の強みやこだわりと、志望校が求める生徒像を確認し、志望理由や今後の高校生活の決意を言語化した上で、3年生たちは大学説明会に臨んだ。すると、複数の大学関係者から、「自分が描く未来を実現するのにふさわしい大学かを見極めようとする真剣さが、教学内容への具体的な質問などから伝わってきた」と、驚きの声が寄せられたと言う。自分の強みやこだわりを自覚し、大学で何を、どのように学びたいのかを考えることで、生徒は大きく変容したのだ。そうした事実を前に、高橋校長は、「生徒を変えるのは大がかりなイベントではなく、生徒が持っている力を、生徒自身が、そして私たち教師が認める、そうした小さな機会の積み重ねだ」と確信する。

「生徒が強みを発揮したり、こだわりを自覚したりする場をつくるという観点があれば、既存の教育活動はどれも改善することができます。例えば、学校行事や学校の広報活動も、教師が手を離し、生徒に任せる部分を増やすことで、生徒が強みを発揮したり、こだわりを自覚したりするチャンスも多くなります。生徒ができるかもしれないことは生徒を信じて任せ、私たち教師は、君は何ができるようになったと感じているのか、これからどんな自分を目指したいのかといったことを投げかける、生徒との対話に時間をかければよいのです。生徒から『なりたい自分』を言葉として引き出すことで、さらなる成長を促すことができるはずです」(高橋校長)

 

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