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【誌面連動】マイ・ストーリーを語れる生徒を育む進路指導 詳細紹介
岩手県立福岡高校 2021年度3学年団と進路指導部
生徒に粘り強く寄り添う指導で、推薦型選抜における高い合格率を達成

2022/08/23 09:30

「マイ・ストーリー」とは、生徒一人ひとりの「自分のこれまでの学びや活動、その成果や結果に至るまでのプロセス、これからの展望」を指す。

本記事では、『VIEW next』高校版2022年8月号で紹介した岩手県立福岡高校の、「マイ・ストーリー」を描き、それを語れる力を生徒に育む取り組みを、さらに詳しく紹介する。

 

2022年8月号の記事はこちらから

学校概要

◎設立  1901( 明治34)年
◎形態 全日制・定時制/普通科/共学
◎生徒数 1学年約140 人
◎2022年度入試合格実績(現役のみ) 国公
立大は、弘前大、岩手大、秋田大、福島大、
埼玉大、新潟大などに61 人が合格。私立大は、
芝浦工業大、東京理科大、法政大、明治大な
どに延べ72 人が合格。

髙橋英明

進路指導主事
教職歴32年。同校に赴任して2年目。地理歴史・公民科。

横坂さくら

21年度3学年主任
教職歴30年。同校に赴任して4年目。英語科。

長岡拓郎

21年度3学年担任
教職歴11年。同校に赴任して4年目。数学科。

佐藤翔太

21年度3学年担任
教職歴11年。同校に赴任して4年目。理科。

なぜ、この大学なのか?
繰り返し生徒に尋ねた

生徒に総合型選抜や学校推薦型選抜(以下、推薦型選抜)への挑戦を推奨することを、学年全体の方針とした岩手県立福岡高校の2021年度3学年団。推薦型選抜の柱となる志望理由書の作成と面接対策を通して生徒に「マイ・ストーリー」を描かせ、それを語る力を育んだ結果、22年度大学入試において、139人の卒業生のうち、国公立大学の推薦型選抜に挑戦した生徒の約半数にあたる42人が合格という、輝かしい成果を収めた。

ペーパーテストの結果に合否が大きく左右される一般選抜に対して、推薦型選抜は、高校の調査書や志望理由書、面接、さらに小論文試験などが合否の鍵を握る。福岡高校の21年度3学年団は、特に志望理由書と面接の指導に力を入れた。

3学年担任を務めた長岡拓郎先生は、志望理由書の指導においては、志望大学を選んだ理由を繰り返し生徒に聞いたと振り返る。

「生徒が書いてきた志望理由書を見て、なぜ、その大学・学部でなければならないのかを何度も聞きました。例えば、弘前大学を志望している生徒には、『なぜ、弘前大学なの?』『なぜ、地元の岩手大学じゃないの?』『志望する学部は、弘前大学以外の大学にもあるのでは?』と、端から見ると、『生徒が志望する大学に行かせたくないのだろうか』と思われるほど、しつこく理由を聞いていました」

長岡先生が志望理由を繰り返し聞いていく中で、生徒たちは、進学すべきなのは志望大学・学部でなくてはならないことを自他ともに納得することができる説明にたどり着いた。一方で、志望大学・学部に進学するべき必然性がなかなか語れない生徒も一定数いた。

「大学案内などに書いてある大学や学部・学科の特徴を見ているだけでは、『ほかの大学でもよいじゃないか』といった結論になってしまいがちです。そうした場合は、多様な角度から、志望大学・学部・学科でなければいけない理由を生徒と一緒に探しました。大学院や附属機関の取り組み、企業との共同研究などにも目を向け、生徒の高校での学びと照らし合わせて、『やっぱりこの大学が、あなたに一番合っているね』と言えるまで、生徒と大学について調べました」

生徒のそばで、
生徒とともに進路を考える

生徒と教師が、「この大学しかない」と、自信を持って言えるようになるまで、特に夏季休業中は生徒と何度も面談を重ねたと、同じく3学年担任を務めた佐藤翔太先生は話す。

「生徒に、どの大学に進学して、どのような研究に取り組みたいのかを聞く中で感じたのは、大学だけでなく、社会についての知識が不足しているということでした。特に、自分が大学で取り組みたい研究については話せるけれども、その研究を社会がどれくらい必要としているかが分かっていない生徒が目立ちました。社会の課題と向き合う人たちと接する機会にもなる校外での活動が、コロナ禍によって減少したため、そのような状況が生じたのだと思います」

生徒の視野を広げ、社会についての知識を与えるため、佐藤先生は、志望理由書の作成の件で職員室を訪れた生徒に新聞記事を示したり、新書を紹介したり、大学のウェブサイトを一緒に見たりした。

「夏季休業中の課外学習が終わった午後は、生徒が入れ代わり立ち代わり職員室を訪れ、私と一緒にインターネットで大学の研究について調べました。私と生徒が職員室で話をしていると、いつも3学年主任の横坂さくら先生や、ほかの3学年の担任が、「この大学はこんな研究で定評があるよ」「新聞でこんな記事を見たな」と、声をかけてくれました。生徒は、たくさんの先生が自分を応援してくれていると感じたでしょうし、そうした先生たちの力を借りて、大学・学部や社会についての知識を増やすことができたと思います」

長岡先生も、「生徒と一緒に考える時間が大切だ」と考える。

「○○学を学びたいなどと目標が明確になっても、その学問がどの大学で学べるのかを、生徒が1人で確かめるのは難しいこともあります。そうした時は、生徒と一緒に大学のウェブサイトを見て、教授の研究テーマやカリキュラムなどをチェックしながら、その生徒の顔を見て、『大丈夫だね!』と言ってあげることが重要です」

粘り強い指導で、
志望理由の一貫性を高める

生徒は、担任との対話を通して志望理由を明確化し、大学が指定する様式に従って志望理由書を作成したら、3学年主任の横坂先生と進路指導主事の髙橋英明先生に志望理由書のチェックを受ける。

「志望理由書の様式も、記入する文字数も、大学によって様々ですが、志望先に対する思いを自分らしい言葉で書くことが求められる点は、どの大学も同じです。一般論に終始してしまっていないか、その生徒のよさが浮かび上がってくる内容になっているかといった視点で、担任から渡された志望理由書を見ました」(横坂先生)

だが、横坂先生と髙橋先生からは、なかなか「OK」が出なかった。髙橋先生は、「自分たちに渡された段階では、多くの志望理由書が一貫性に欠けていた」と振り返る。

「一見、それらしく書いているのですが、読んでみると、大学案内などから得た情報をただ並べているだけのものが少なくありませんでした。また、自身の興味・関心と大学での学びとのつながりが弱いといった、志望の一貫性に課題があるものも多くありました。仮に、書類審査の段階で大学側が気づかなくても、一貫性に欠ける志望理由のまま面接を受ければ、必ず大学側に志望の根拠の乏しさなどを見透かされてしまうでしょうから、そうした志望理由については、一貫性が欠けている箇所を指摘した上で、担任に戻しました」

横坂先生は、「生徒は、自分の志望理由のポイントを理解したからと言って、必ずしもそのポイントに基づいて志望理由をスムーズに文字にすることができるとは限らない」と説明する。

「なぜ、その大学・学部を目指すようになったのか、そこでの学びは、社会でどのように役立つのか、なぜ、志望する学問に自分は取り組まなければいけないのかなど、志望理由を書く際に押さるべきポイントは、担任からも伝えるため、生徒は理解しています。しかし、ほとんどの生徒は、志望理由書を書く度に、いずれかのポイントを漏らしてしまうのです。そのため、繰り返し指摘し、行きつ戻りつする中で少しずつレベルアップしていく生徒を見守る根気強さが、教師には求められました」

担任と生徒の間では完成したと判断された志望理由書が、横坂先生、髙橋先生に10回近く差し戻されたケースもあったという。

「志望理由書の作成における担任の役割は、生徒のよさや思いを掘り起こすことです。なぜなら、一人ひとりの生徒のことを一番知っているのが担任だからです。志望理由として一貫性があるかどうかの確認や、大学が求める人材像とのすり合わせは、私や横坂先生の役割です。担任、学年主任、そして進路担当が、チームになって生徒の志望理由を固めていきました」(髙橋先生)

志望理由を一貫性のあるものにすることが難しくなっているのは、生徒の能力が低下しているからではなく、社会が複雑化していることがその一因になっているのではないかと、髙橋先生は考えている。

「私たちの社会は様々な問題を抱えていますが、どの問題も複雑で、解決のアプローチも多様です。例えば、地域の活性化というテーマを1つ取ってでも、産業や文化の振興という観点もあれば、教育の充実や地域コミュニティーの再構築という観点もあります。どの観点からアプローチするのか、複数の観点を融合させるのかといったことを考え、自分の興味・関心や高校までの学びと、これから学びたいことを結びつけて志望理由として仕上げるのは、簡単なことではありません。だからこそ、粘り強く生徒に寄り添っていくことが、教師には求められます」

「ウェブサイトを始めとする、誰かが編集した情報ばかりに触れがちな生徒に現場を見せることで、一気に思考が整理され、志望に一貫性が生まれたこともある」と、横坂先生はある生徒のエピソードを話す。

「教育学部志望のその生徒には、教育関連の記事をたくさん読ませ、様々な教育課題について私たち教師と話し合う機会を設けました。しかし、そうして仕上げた志望理由書には何かが足りないと、私たち教師、そして生徒自身も感じていました。そこで、夏季休業中、生徒は母校の中学校の恩師に連絡を取り、現場の教師の課題について話を聞きに行ったのです。すると、自分が在校していた当時と今とでは、教育環境が急激に変化していることが分かり、書籍や新聞記事で得てきた情報と、学習者としての自分の体験、そして現場の実態が重なったことで、志望理由を語る言葉に深みが出ました。3年生になって、志望理由書を仕上げる段階でも、外に出て現場を知ることは、とても大切なのです」

生徒主体で進める
真剣勝負の模擬面接

志望理由書の完成後は、模擬面接を軸にした面接対策に力を入れた。推薦型選抜の面接で中心となる質問は、志望理由である。志望理由書の作成を通じて、志望理由は確固たるものになっていたはずなのに、模擬面接を行ってみると、志望理由書に書かれている志望理由からずれた内容を話す生徒が少なからずいた。

「生徒にとって面接は、大学の先生と直に接する場ですから、できるだけ立派なことを語ろうという心理が働きます。模擬面接に取り組み始めた当初は、1つの模擬面接が終わる度に、『あなたが面接で伝えたいことは何だったっけ?』と確認する作業が必要とされました」(髙橋先生)

同校では、生徒主体で模擬面接に取り組めるように、生徒がグループで模擬面接を進める仕組みをつくった。具体的には、早期に受験が終わり、既に入試の面接を経験した総合型選抜の合格者を講師役として、その生徒を含めた5、6人のグループをつくり、受験生役、面接官役をグループ内で交替で務めながら、模擬面接に取り組ませた。

生徒主体の模擬面接にしたことで、教師たちは各グループの模擬面接の観察役に徹することができた。模擬面接を見て、その場で受験生役の生徒にアドバイスを送るだけでなく、模擬面接の様子を動画で撮影し、模擬面接が終わった生徒たちと一緒に見直して、改善点を洗い出することもした。教師の指摘は、受験生役の生徒の言動だけではなく、面接官役の生徒の質問の仕方にも及んだため、生徒たちは、「面接する側の視点」も学ぶことができた。

模擬面接は回数をこなすことが重要だと考えた長岡先生は、自分のクラスの生徒に、模擬面接を行った回数をクラウド上の管理ファイルに入力させることで、クラス全員が互いの模擬面接の回数を共有できるようにした。

「同じクラスに、何度も模擬面接に取り組んだ人がいると分かれば、自分ももっと取り組もうといった気持ちになるのではないかと考えました。実際、私のクラスの生徒は、おおむね30回程度の模擬面接に取り組みました。中には、50回以上取り組んだ生徒もいました」

10回、20回と模擬面接を繰り返し、録画した動画を基に教師と生徒が振り返りを行う中で、模擬面接の雰囲気は「模擬」ではなく、「本物」に変わっていった。

「面接官役の生徒が受験生役の生徒に、『あなたの言っていることの意味が分かりません!』『あなた、本当に入学したいと思っていますか?』と、厳しい言葉を投げかけるようになりました。模擬面接だからと、いい加減な態度で取り組むのではなく、みんなで合格を勝ち取るために、仲間のことを思って厳しく模擬面接に臨もうとする雰囲気が醸成されていました」(長岡先生)

推薦型選抜を通して、
生徒は学び続ける力を得た

冒頭に述べた通り、福岡高校の21年度3学年団は、推薦型選抜で多くの合格者を出し、生徒の希望進路を実現した。しかし、残念ながら、不合格となった生徒もいた。

「私のクラスでも、高い目標にチャレンジした生徒数人が、推薦型選抜で不合格になりました。志望理由を深め、一生懸命面接対策を行ったからこそ、とても悔しい思いをしたはずです。しかし、その生徒たちはその後、一般選抜に向けた学習に真摯に取り組み、成績を上げていきました。そして、推薦型選抜では不合格だった志望校に、全員が合格したのです。推薦型選抜に出願した生徒には、夏の時点から、『大学入試は3月まで続く。どんな結果になっても、最後まで支援するからね』と話していました。推薦型選抜で不合格だった生徒たちは、私の言葉を信じてついてきてくれたのだと思います」(佐藤先生)

佐藤先生、長岡先生を始めとする担任たちは、生徒たちは推薦型選抜に向けて、「自分はこの大学に行くべきだ」という状態まで志望を固めたからこそ、推薦型選抜で不合格となっても、諦めずに勉強し続けられたのだと考えている。そして、その学び続けようとする力は、大学進学後も、生徒の中に生きていると思っている。

「推薦型選抜を通して自分を見つめ、自分のよさや使命に気づいた生徒は、大学でも社会でも、自分のよさを生かし、使命を全うしようとするでしょう。社会に出る前に自分のよさや使命に気づく機会として、推薦型選抜はとても価値があると思いますし、その機会を早い段階から生徒に意識させることで、高校生活はますます充実するのではないでしょうか」(髙橋先生)

22年度大学入試の成功体験は、教師にとって、自らの指導のさらなる改善のきっかけになった。

「視野を広げ、社会についての知識を身につけさせることは、やはり大切です。今年度、私は1年生の担任を務めていますが、1年生のうちからできるだけ学校外での経験を積むようにと、生徒に働きかけています。『企業が開催するこのプロジェクトに参加してみない?』『岩手県立大学のオープンキャンパスに、みんなで行こう』というように、『行ってきなさい』ではなく、『一緒に行こう』と声をかけています。そのように、大学入試に向けて、自分の中での進路の地盤固めをさせています」(佐藤先生)

生徒に寄り添った推薦型選抜指導を通して、生徒に自身を徹底的に見つめさせた福岡高校の教師たち。高校時代にまいた種が芽吹き、大学や社会で花開くのはこれからだ。

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