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  • 【誌面連動】『VIEW next』高校版 2022年度 10月号

【誌面連動】マイ・ストーリーを語れる生徒を育む進路指導 詳細紹介
和歌山県立田辺高校
学びや活動の「記録」を基に、
展望につながる「気づき」を促す

2022/10/14 09:30

「マイ・ストーリー」とは、生徒一人ひとりの「自分のこれまでの学びや活動、その成果や結果に至るまでのプロセス、これからの展望」を指す。

 

本記事では、『VIEW next』高校版2022年10月号で紹介した和歌山県立田辺高校の、「マイ・ストーリー」を描き、それを語れる力を生徒に育む取り組みを、さらに詳しく紹介する。

 

2022年10月号の記事はこちらから

本記事のコンテンツ

1.面談を通じ、生徒の経験をストーリーとして紡ぐ

2.社会人との出会いが、これまでの経験を整理するきっかけに

3.推薦型選抜の対策を通じて、生徒と教師が成長

学校概要

◎設立  1896 (明治29)年

◎形態 全日制/普通科、自然科学科/共学

◎生徒数 1学年約280人

◎2022年度入試合格実績(現浪計) 国公立大は、東京大、京都大、大阪大、神戸大、和歌山県立医大などに101人が合格。私立大は、慶應義塾大、明治大、早稲田大、同志社大、関西学院大などに延べ521人が合格。

清水昌樹

進路指導部長
教職歴28年。同校に赴任して9年目。地理歴史・公民科。

保富仁之(ほとみ・ひとし)

進路指導部・国公立大学推薦担当
教職歴40年。同校に赴任して17年目。美術科。

楠部(くすべ)正寛

3学年担任・前3学年主任
教職歴18年。同校に赴任して19年目。理科。

川本将斗(まさと)

2学年主任
教職歴6年。同校に赴任して7年目。理科。

1.面談を通じて、生徒の経験をストーリーとして紡ぐ

高校生活の中での様々な活動を通じて生まれた問題意識や感情、今後取り組んでみたいことを、ポートフォリオに蓄積させ、その内容を基に教師が面談を行い、生徒の「これからの展望」を具体化させている和歌山県立田辺高校。進路指導部に所属し、国公立大学の総合型選抜や学校推薦型選抜(以下、推薦型選抜)の出願・受験指導を担当する保富仁之先生は、ポートフォリオに「点」として記録されている生徒の活動を、「線」でつないで「ストーリー」にし、生徒が志望理由書や面接で「マイ・ストーリー」を語れるようになるためには、教師の支援が欠かせないと語る。

「高校2年生になると、ポートフォリオの記録も充実してきますが、生徒の各活動は『点』と蓄積されているに過ぎず、それらの点のうちどの点が、大学の学問や将来の職業にどうつながるのかを明確に語れる生徒はまだ多くはいません。ポートフォリオの記録を基に、生徒と教師が生徒の高校生活を一緒に振り返りながら、『こんな学問につながりそうだね』『こんな本を読んでみたら?』などと、生徒の未来に結びつける視点で、点と点をつなぐためのアドバイスを教師が行っていく必要があります」

2学年主任の川本将斗先生は、生徒が「マイ・ストーリー」を語ることの難しさを次のように語る。

「ポートフォリオに蓄積された活動の記録を見ると、『総合的な探究の時間』や部活動で取り組んでいる研究で見事にPDCAサイクルを回していることが分かる生徒がいたのですが、その生徒と話をしてみると、自分の活動の価値を語ることができないだけでなく、それが大学の学びにつながることにも気づいていない様子でした。高校生にとって、未来につながるように過去や今を語ることは、我々大人が想像する以上に難しいことなのかもしれません」

2.社会人との出会いが、これまでの経験を整理するきっかけに

一つひとつの「点」にとどまっている生徒の経験を「ストーリー」にするきっかけとして、進路指導部長の清水昌樹が重視するのが、教師以外の社会人との交流の場だ。

「生徒は、使命感や目標を持って生き生きと働く社会人と接すると、大学卒業後の自分の姿を一歩踏み込んで考えるようになります。その際、過去の経験を記録したポートフォリオが、自分の未来を描くための材料になります」

清水先生は、ポートフォリオは進路を考える材料でもあることから、集まった材料を生かして進路を考えたくなる場面を多彩に準備することが重要だと語る。その場面の1つが、各学年で実施する面談であり、多様な社会人との交流だ。

保富先生も、生徒に社会の一員としての当事者意識を持たせるために、社会人や大学生との対話の場を積極的につくっている。

「本校の周辺には、企業や大学が多いわけではありませんから、各学年で進路指導部と協力して、自分たちのつながりのある社会人や大学生を学校に招くようにしています。先日は、言語聴覚士の仕事に興味がある生徒のために、卒業生でもある和歌山県立医科大学の医師を学校に招きました。その際、『こんな卒業生が学校に来るよ』と周知したところ、ほかに4人の生徒が集まりました。そのように、1人の生徒の興味を、ほかの生徒の興味へとつなげるような配慮も心がけています。3年生のために企画した社会人や、大学生との懇談会に、1・2年生が参加することも珍しくありません。1人の生徒の進路意識が高まれば、それがほかの生徒にも伝わり、多くの生徒が変わるきっかけになります。だから、たった1人の生徒であっても、できる限りその興味・関心に応えることが大事だと思っています」

3.推薦型選抜の対策を通じて、生徒と教師が成長

ポートフォリオの活用や面談の充実を背景に近年、推薦型選抜での合格者を増やしている同校だが、推薦型選抜は単なる選抜方式の1つではなく、生徒が人間的な成長を果たす大きなチャンスになると、前3学年主任の楠部正寛先生は語る。

「志望校合格のためには、一般選抜の本番まで着実に学力を高めていくような受験戦略の立案が必要だと、繰り返し生徒に説明しています。そのように、一般選抜まで見通しながら、推薦型選抜にも果敢に挑んでほしいと考えています。推薦型選抜は、志望理由書の作成から小論文や面接、プレゼンテーションの対策まで、様々なことに取り組む必要がありますが、その過程では、いろいろな教師の支援を受けます。そのため、生徒は模擬面接だけでも10人以上の教師と向き合います。推薦型選抜の対策を通じて、たくさんの教師と大学での学びやこれからの社会について語り合う経験は、大学合格という目先の目的を超えた、生徒の人間的な成長につながるという大きな価値を持っていると思います」

推薦型選抜の対策を通じて、進路意識を醸成していった生徒は、推薦型選抜で不合格であっても、強固な志望を原動力に粘り強く学習を続け、一般選抜で見事に合格を果たすことが少なくないという。自分を掘り下げることが求められる推薦型選抜にチャレンジすることは、人生の糧になると、同校の教師たちは考えている。

「推薦型選抜の志望理由書の作成や面接の指導の時に、生徒の興味・関心や問題意識を聞く際、私たち教師には、漫然と耳を傾けるのではなく、時に批判的に受け止め、生徒にフィードバックすることが求められます。そのため、担当教科の知識はもちろん、社会全般の幅広い知識が必要となりますし、その知識を用いて、現代社会の諸問題の解決策を生徒に例示する場面にも出合います。推薦型選抜の指導は、教師にとって決して楽なものではありませんが、私たち教師に、1人の社会人として学び続ける大切さを教え、成長させてくれるものであるのも、確かなことなのです」(保富先生)

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