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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2023年度 Vol.2

「お勧めのレストランを紹介して!」というALTのお願いを課題とし、 生徒が目的・場面・状況を意識してコミュニケーションする
福井県 坂井市立三国中学校

2023/07/05 09:00

福井県は、文部科学省・令和4年度「英語教育実施状況調査」において、CEFR A1レベル相当以上の英語力を有する中学生の割合が86.4%と、都道府県別で5回連続全国1位だった。その背景には、県内12地区のリーダーによる「郡市部長会」や、県内の全英語科教員が参加する「福井県英語研究会」などを通じて、各校の英語教育の実践や課題を共有し、教員間で切磋琢磨し続ける環境があった(福井県における英語教育の取り組みは、本誌P.17〜20に掲載)。

 

本記事では、坂井市立三国中学校の英語科主任・江澤隆輔先生による中学2年生の授業をリポートする。

 

▼本誌記事はこちら(↓)をご覧ください。

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学校概要

開校:1947(昭和22)年/校長:西健先生/生徒数:507人/教員数:36人/学級数:19学級(うち特別支援学級2)

お話を伺った先生

校長 西健(にし・たけし)
福井県英語研究会副会長。同校に赴任して1年目。

英語科主任 江澤隆輔(えざわ・りゅうすけ)
同校に赴任して4年目。2学年担任。

授業概要

学年:中学2年生(32人)/担当:江澤隆輔先生(T1)、ALT(T2)/教科、単元名:英語、世界の食の旅/主な文法事項:接続詞if, that, when, because/本時の目標:おいしいものが食べられるお店についての英文を、他者に配慮して書くことができる。/メインの課題:ALTに、福井県や三国町にあるお勧めのレストランを紹介する

生徒が必然性を感じて取り組めるよう、
「ALTからのお願い」を課題に設定

今回紹介する中学2年生の英語の授業は、接続詞を学習する単元のまとめにあたる。生徒には、接続詞の単語の意味は覚えたが、接続詞の後に続く従属節の用法についての理解は十分ではないという課題があった。そこで、江澤隆輔先生は、週1回行われるALTとのチーム・ティーチング(以下、TT)の授業で、従属節が必要となる言語活動を想定して課題を設定した。

「教科書の『お勧めのレストランを紹介する』という課題を『友人が来日するので、福井県や三国町にあるお勧めのレストランを教えてほしい』というALTからのお願いにアレンジし、ALTにお勧めするレストランと、その理由についての英文を書かせることにしました。生徒にとって意味のある目的・場面・状況を設定することで、単に『レストランを紹介する』よりも、生徒は必然性を持って課題に取り組めるのではないかと考えました」(江澤先生)

福井県教育庁は、県内の全公立中学校・高校に、1校あたり1〜2人のALTを配置しており、全校生徒約500人の三国中学校には、イギリス出身と南アフリカ共和国出身の2人のALTが配置されている。2人とも、生徒と一緒にペアワークを行ったり、机間指導で英作文のアドバイスをしたりと、生徒と積極的にコミュニケーションを取り、英語に慣れ親しめるよう、生徒を支援している。また、ALTが週1、2回は授業に参加し、休み時間等においても生徒と触れ合うことで、生徒はALTに親しみを抱き、ALTから提供された課題に一生懸命取り組むという。

「どの先生も、ALTと英語でやり取りするインタラクションを生徒に見せ、日本語での説明を極力しないようにして、生徒が英語で英語を学ぶ授業にすることを心がけています。例えば、“I like softball because, it is very interesting. How about you? I like〜. ”というALTとのやり取りを見せて、『どんな話をしていたかな?』『likeはどんな時に使っていたかな?』などと、具体的な英文から用法に気づかせます。その上で、“I like〜.”と、自分の好きなものをあてはめて、ペアワークをします。そうした授業を、本県では以前から行っているのです」

それでは、本時の展開と指導の工夫、生徒の様子などを見ていく。

1.ペアを変えながらChat Practiceを4回行う(5分)

写真1 1・2回目はプリントを見ながらの活動だったが、多くの生徒が、互いに相手の目を見ながらやり取りした。3・4回目はプリントなしで活動した。

導入では毎回、2つの帯活動を行っている。1つめは、Small Talkのペアワークだ。ワークシートを基に、1人が英語で質問し、もう1人が英語で答えるという活動で、じゃんけんをして、勝った方が質問する側、負けた方が答える側になる。
本時は、同ワークを、ペアを替えながら4回行った。1・2回目は双方ともプリントを見ながら90秒間、やり取りを行った。3回目は、答える側はプリントを見ないで、4回目は、双方ともプリントを見ないで、それぞれ30秒間ずつ、英語でやり取りを行った。江澤先生は、「30秒間頑張って、プリントを見ないでやり取りしよう!」と、生徒たちに声をかけた。
◎やり取りの例
A: When is your birthday?
B: It’s June 28.
A: What do you want for your birthday?
B: I want a new pencil case. My pencil case is old.

【江澤先生】
導入では、英語を話す雰囲気づくりとして、2つの活動を行っています。Small Talkでは、1年次や小学校の学習内容の復習を兼ねて、生徒が自分のことを英語で話す活動をしています。テーマを変えながら、年間を通しての活動を行うことで、年度末までには、友人と英語だけで2分間やり取りすることができるようになるのが目標です。そこで、短時間ではありますが、プリントを見ないで英語を話す場面を設けて、徐々にレベルを上げるようにしています。

2.2人の生徒が“Ideal Vacation”を発表する(5分)

写真2 オンライン掲示板アプリに入力した英作文をプロジェクターに映し、黒板の前に立って発表する。発表が終わると、聴衆の生徒は拍手を送った。

2つめの活動はスピーチで、1つ前の単元で取り組んだ英作文“Ideal Vacation”(理想の夏休み)について、2人の生徒が発表した。教科書の課題は“My Vacation”(私の夏休み)だったが、同校の生徒の大半が、夏休みは部活動に励むため、江澤先生は、「時間や費用などの制限がなければ、夏休みをどう過ごしたいか」という課題にアレンジした。
1人目の生徒が、“I am going to go to France during summer vacation. I want to go to Louvre Museum, because I want to see beautiful pieces there.”と発表したところで江澤先生が、「beautiful piecesの、piecesは何かな? In Japanese.隣同士で確認して」と、生徒に問いかけた。すると生徒から、「作品!」と声が上がった。
2人目の生徒は、祖父母が住む大阪府に行きたいと話し、“I want to visit them with my family. I want to talk them sometime when I meet them.”と締めくくった。すると江澤先生は、「sometimeはどういう意味かな?」と、生徒に問いかけた。
pieces とsometimeは、授業で学習したばかりの英単語であることを説明し、「新しい単語をどんどん使っていきましょう」と、江澤先生は生徒に呼びかけた。さらに、「発表してくれた2人は、接続詞のbecauseを使ったり、when を使って従属節を作ったりして、かっこいい長い英文を書いていました。拍手!」と、よかった点を取り上げて評価した。
【江澤先生】
生徒は、オンライン掲示板アプリに入力した英作文を、作品集のように自分の端末にためています。写真を貼り込むこともできるアプリなので、生徒の表現の幅が広がりますし、発表を聞く側も、写真を見ることで、発表者が何を伝えようと発しているのかが理解しやすくなります。入力した英作文はクラス全体で共有し、互いの英作文を見て、学び合える場にもしています。

3.ALTが英語で説明をしながら課題を提示(10分)

写真3 ALTは、大型モニターに2人の友人の写真や、好きな食べ物の写真を映しながら、自身の状況を説明し、「福井県でお勧めのレストランを教えてほしい」と伝えた。

江澤先生は、「ALTがみんなに相談があるそうなので、聞いてください」と伝えると、ALTは黒板の前に立ち、大型モニターにスライドを映しながら、大学時代の2人の友人が夏休みに来日すること、友人とおいしいものを食べたいこと、自分は焼き肉が好きで、友人も同じであること、そして、自分は昨年来日したばかりなので、福井県のレストランをあまり知らないことを説明し、「福井県でお勧めのレストランを教えてほしい」と伝えた。ALTはその際、単語を一つひとつ区切りながら、生徒が聴き取りやすいようにはっきりと発音。江澤先生は、「Universityって、何? いつの時の友だちなのかな?」などと生徒に問いかけたり、ALTに、「No allergy? アレルギーはない?」と質問したりした。
ALTが話し終わり、江澤先生が、「ALTは何に困っているのかな? 近くの人と話してみて」と言うと、生徒から、「もう1回、ALTの説明を聴きたい」という声が上がった。そこでALTは、さらにゆっくり、はっきりとした発音で再び説明し、最後に、“Please help me. What restaurants do you recommend in Fukui, and why?”とお願いした。
その間、生徒は集中してALTの言葉に耳を傾け、ALTの発言を理解した生徒が、「友だち2人が夏休みに来るんだって」「去年、日本に来たばかりだから、福井県の店を知らないって」などと、ALTの発言の概要内容について教え合った。
【江澤先生】
ALTの「レストランを紹介して」というお願いに、生徒はすぐに反応して、「〇〇ラーメンは福井のお店?」「魚でもいいですか?」などと次々に発言し、活動に対する意欲が高まっている様子がうかがえました。
ALTは来日1年目ですが、ゆっくり話してくれるので、生徒は英語が聴き取りやすいようです。また、生徒が理解しにくい単語や表現は、私が言い換えたり、日本語で補足したりしています。

4.お勧めのレストランをペアで紹介し合う(10分)

写真4 最初は、教科書の例文に、自分の好きな食べ物やお勧めのレストランの名前をあてはめてやり取りし、英語表現を学んだ

ALTがお願いした“What restaurants do you recommend in Fukui?”を聞き合うやり取りを、席が隣の生徒同士で行った。その間、江澤先生は教室内を回りながら、どのような表現が使えるのかを考えさせた。そして、2〜3回のやり取りが終わった頃を見計らって、教科書の該当ページを開くよう、指示。大型モニターに教科書の該当部分を映し、教科書の例文を踏まえて、お勧めのレストランとその理由を考えるよう、“Please think.”と投げかけた。
生徒は最初に1人で2分間考え、次に教科書の例文に沿って、ペアでやり取りをする活動に取り組んだ。じゃんけんで勝った方が教科書の例文のAのパート、負けた方はBのパートとなり、好きな食べ物とその理由、お勧めのレストランについてやり取りした。
やり取りは、ペアの相手を替えて4回実施。ALTは生徒の中に入って一緒に活動した。その間、江澤先生は教室内を回り、生徒のやり取りで気になる点をチェック。2回目のペアワークの後には、「はい、注目して」と、例文に出てくる“think”のthの発音について注意するため、“think”と“sink”の発音を何度も繰り返し、「“think”は舌をちょっとかんでね。“sink”だと沈んじゃうよ」と指導した(写真5)。

写真5 「“think”はどっち? はい、こっち。じゃあ、“sink”はどっち?」と、江澤先生は“think” と“sink”を何度も発音し、2つの発音の違いを示した。

3回目のペアワークの後には、語順で気をつけたい点を説明。黒板に貼った日本語で書かれた語順のカードを指し示しながら、「“I think 〜 is nice, because delicious.”ではなく、“they are delicious.”や“it is delicious.”、など、正しく使いましょう」と、従属節の主語と述語を省略しないよう、呼びかけた(写真6)。

写真6 黒板のカードを指し示しながら、when, because, ifなどの接続詞の後には主語が来ることを説明した。

生徒の習熟度は一人ひとり異なるため、自分のペースで話したり、質問したりすることができるよう、個別学習やペアワークを基本としています。私の授業では、教科書の例文を生徒全員が一斉に音読するような活動はほとんど行っていません。個別学習やペアワークをする中で、分からない箇所が出てきたら、黒板に貼ってある語順のカードや教科書などをヒントにして、生徒同士で教え合い、そこで得たことを個別学習を通して内在化し、習得する。そうした、生徒同士で教え合って問題を解決するような授業を目指しています。

5.レストランの紹介文を英語で端末に入力する(17分)

写真7 分からない単語や文法を友人やALTに質問する姿が、あちこちで見られた。

「“Let’s write for ALT.” 今話したことを英語で書きましょう」と、江澤先生。さらに、“my favorite restaurant and your friend’s favorite restaurant”の2点について書くよう、指示を出した。
生徒はALTにお勧めするレストランの紹介文を英語で作成し、各自が持つ端末に入っているオンライン掲示板アプリに入力した。
お勧めの店を考え、英文を入力していくうちに、教室内が落ち着いた雰囲気になり、生徒が集中していく様子が見られた。生徒はALTに、“Do you like UDON?”、 “Do you like wine?”などと質問。また、生徒同士で、分からない文法事項を教え合ったり、スペルを確認し合ったりしていた。江澤先生とALTは教室内を回りながら、生徒の質問に答えたり、生徒の英文のスペルミスや文法の間違いを指摘したりと、生徒の活動を支援した。
【江澤先生】
いきなり英文を書くのではなく、話す活動をしてから、書く活動を行っています。生徒の中で英語の音と文字がつながるようにすることがねらいです。1つの課題で、「話す・聞く・読む・書く」の4技能を使う活動をし、生徒がその中で英語の用法や表現を学べるようにしています。
ALTが積極的に生徒とコミュニケーションを取って支援してくれるので、生徒はALTに質問しやすいようです。

6.2人の生徒がお勧めのレストランを発表(3分)

写真8 発表者の生徒は、オンライン掲示板アプリに入力した英文を大型モニターに映し、それをALTに紹介した。

授業の最後に、江澤先生に指名された2人の生徒が、ALTにお勧めの店を紹介した。
“I like sushi very much. My favorite restaurant is 〇〇sushi. I think it is a very popular shop.”
“I like bread very much, because bread is soft. I think △△(店名) is nice, because we find many kinds of bread there.”
2人が発表すると、大きな拍手が起こった。そして、ALTが次のようにお礼を述べると、2人の生徒はうれしそうな表情を見せていた。
“There are many recommendation. So, I’ll try them, sushi and bread. Good job. Thank you.”
【江澤先生】
本時は、どの生徒も3文以上の英文を書くことができていましたが、自分から手を挙げて発表するのが苦手な生徒もいるため、私が机間指導で生徒の入力状況を見取り、発表者を決めました。机間指導の際には、できている点は褒め、別の表現がないかを問いかけるなどして、ステップアップできるようにしています。また、できていない点については、生徒の理解が不十分なところまで戻り、一つずつ理解できるよう、段階を追って説明しています。本校には、英語が不得意な生徒が少なくないため、誰1人取り残さないよう、生徒の学びを支援することを大切にしています。

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