コロナ禍以降、不登校の子どもを取り巻く環境も変化

前回は、認定NPO法人カタリバ(認定特定非営利活動法人カタリバ)の活動や私自身の経験などを交えながら、10代の子どもたちへの願いや学校教育への思いをお話ししました。カタリバの設立以来20年間、その思いは変わっていないですし、私たちが行ってきた活動への反響からも一定の手応えを感じていますが、一方でコロナ禍以降、世の中の変化とともに新たな社会課題が生まれ続けているということもまた事実です。そうした中で立ち上がったプロジェクトの1つが、不登校の子どもたちへの支援です。コロナ禍以前は、家庭訪問や別室登校などを通して学校と家庭で役割分担をしながらケアを行うことができていたケースも、一斉休校等で子どもが先生と対面で会うことが難しくなり、保護者自らが我が子の学習面や精神面のすべてのサポートをしなくてはならなくなったという家庭も増えています。保護者がそのための時間を確保しようとしたことで、就業困難に陥り職を失ったり、年収が下がり貧困に陥ったりするということも起こっています。支援策が限られがちな地方では、保護者も子どもも社会から孤立してしまうこともあります。(図1

図1:不登校の現在地とその背景を示す、認定NPO法人カタリバの調査データ

不登校の子どもがオンライン上でつながる

そうした現状の社会課題に対する1つの打ち手として、2021年に開始したのが、オンラインを活用した不登校の子どもへの支援プログラムです。中心となる活動は、オンラインの学び場「room-K」です。通常は行政機関が各自治体に設置する教育支援センターを、オンライン上で展開するイメージで、そこでは、支援計画を作るコーディネーターが、保護者・子どもと面談し、個別支援計画を作成します。その計画を基に、専属のメンターがオンラインで定期的な面談を行い、子どもと保護者に寄り添い、サポートします。子どもたちは、週に1回の「作戦会議」と呼ばれるメンターとのミーティングを繰り返しながら、支援計画コーディネーターとの面談を経て、オリジナルの時間割「マイプラン」(図2)を作成します。「マイプラン」を基に、自分が立てた予定に沿って行動できるか、彼らにとっての小さなチャレンジを積み重ねていきます。

図2:オリジナルの時間割「マイプラン」の例

「room-K」に参加した子どもたちからは、「学校に行くことができない中で、毎日room-Kに参加できていることが、自信につながっている」「メンターさんとの作戦会議があるため、目標を持って生活することができている」といった声が届いています。一人ひとり状況は違いますが、こうした変容が少しずつ見られてきたことは、うれしい限りです。

また、不登校で苦しむのは子どもだけでなく、保護者も同じです。つらさや孤独を感じていながらも1人で抱え込んでしまったり、周囲の目が気になって学校や地域の人に相談しにくい場合などさまざまな状況を考慮して、保護者向けの相談窓⼝、「カタリバ相談チャット」の運営も2021年にスタートしました。そこでは、精神保健福祉士や臨床心理士等の専⾨的なバックグラウンドを持つスタッフや⼦育て経験があるスタッフが、サポーターとして保護者の悩みをお聞きします。1か月に100件以上の相談が寄せられることもあるのですが     、話をじっくり聞くことで安心してもらったり、具体的な支援策を伝えたり、時には保護者の思いをスタッフが代わりに行政窓口や学校に伝えたりなど、ケースバイケースで日々対応を重ねています。不登校に関する個別相談をご希望される方は、こちらからご相談ください。解決策は簡単には見つからないかもしれませんが、私たちとお話しをすることで、「次の一手を見つけよう!」と思える場を目指して、電話・ZOOM・メール等で個別相談を行っています。

先入観や前例にとらわれずに、学びのきっかけを増やし、広める

「room-K」では、近年注目されているメタバース(*1)のようなオンライン上の仮想空間に、子どもたちの居場所をつくる取り組みも行っています。そこには、いつでもどこからでもアクセスでき、自分のアバター(*2)を操作しながら、家族や学校の関係者ではない人と交流したり、学習したりすることができます。

オンラインや仮想空間での交流や学びと聞くと、学校の先生方は抵抗を感じるかもしれませんが、現実の学校には登校しにくいけれども、特定の空間と人間関係の中でなら、他者とかかわりたいと思っている子どもも少なからずいます。彼らの居場所をつくり、一人ひとりに合った選択肢のある個別最適な学びを実現するために、先入観や前例にとらわれないようにすることも大切にしています。2022年5月に、そうした考え方とプログラムに賛同してくださった広島県教育委員会と「オンライン不登校支援事業」における連携協定を締結しました(図3)。通常の支援プログラムは、子どもや保護者個人での利用が基本ですが、このプログラムのように、教育行政機関が活用する動きが広がることで、どんな環境下の不登校の子どもたちも、自分に合った学びの形を選ぶことができる、学びを取り戻せる、そんな世界がぐっと近づいてくると思います。

図3:広島県教育委員会×カタリバ/オンライン教育支援センター全体像

利用者である子どもは、実在する教育支援センターと、オンライン上の仮想空間にあるセンターの両方を併用できる。どちらも学習の場であり、居場所(図中の「SCHOOL“S”」)となっています。

*1「Meta」と「Universe」から形成される造語で、コンピューターやコンピューターネットワークの中に構築された仮想空間やそのサービス のこと。 *2 インターネット上の仮想的な世界で、ユーザーの分身として動作するキャラクターのこと。

現行法のままでは、真の個別最適な学びの実現が難しい

すべての子どもたちは、その生まれ育った環境にかかわらず、自分らしく成長し、幸せになる権利を持っています。「子どもの権利条約」という国際条約をご存知でしょうか。法的拘束力を持ち、日本も批准しているその条約は、18歳未満のすべての人の衣食住が保障され、勉強したり、遊んだりして、持って生まれた能力を十分に伸ばしながら成長できる権利などが条文化されています。しかし、日本が批准した時期は、世界で158番目と非常に遅かったことからも分かる通り、日本の子どもの基本的人権は、大人(特に高齢者)への手立ての厚さと比較して、軽視されているように見えるのが実情です。

そうした中、子どもの権利条約を反映させる形で、政府が2023年4月の発足を目指している「こども家庭庁」や、子ども政策の基本理念を定める「こども基本法案」の議論が進んでいることは、現状の改善への大きな一歩として、大きな期待を持っています。一方、子どもの学びを本気で保障しようとするのであれば、現行の法制下では限界があるとも感じています。例えば、学校教育法では、子どもの義務教育は「保護者の義務」として「小・中学校に通わせること」と定めています。そうではなく、義務教育の解釈自体も多様化する段階に来ているように思います。教育の場を学校だけに限定せず、子ども一人ひとりの実態に合わせた学習手段を認めることで、子ども自身の学習権を保障することもできるはずです。

不登校の子どもは全国に19万人超、長期欠席者も含めると28万人を超え、過去最多となりましたが、不登校は問題行動でも病気でもなく、どの子どもにも起こり得るものだと思います。不登校の子どもたちの学習機会を保障することが、個別最適な学びの実現には不可欠ではないでしょうか。その視点は、不登校だけに限りません。家庭環境や居住地域の違い、前回お話ししたような学びのきっかけへの気づきの度合いなど、様々な状況にあるすべての子どもたちに対して学びの機会を保障する仕組みをつくりながら、子どもたちが「未来はつくれると信じられる社会」をつくるために、私も挑戦と実践を続けていきたいと思います。

 

本記事の執筆者:久保木 有希子

今村久美(いまむら・くみ)

認定NPO法人カタリバ代表理事

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