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生徒一人ひとりの「志」の種を見つけられる教師集団へと進化を図る
東京都・私立山脇学園中学校・高校
2026/10/30 17:30

少子化や教師不足、働き方改革など、様々な課題が学校を取り巻く中、学校経営者はどのような考えの下、経営にあたっているのかを尋ねる本コーナー。今回は、東京都・私立山脇学園中学校・高校の西川史子(にしかわ・ふみこ)校長と、学習進路部長の高桑浩一(たかくわ・こういち)先生に話を聞いた。同校は、長年にわたり教育目標に掲げてきた「志(こころざし)」教育を再定義し、様々な体験を通じて生徒の可能性を広げる教育を展開している。その結果、2025年度卒業生241人の進学先は82大学162学科と多様になっている。

校長
西川史子(にしかわ・ふみこ)

学習進路部長
高桑浩一(たかくわ・こういち)
学校概要
私立の完全中高一貫の女子校。⼭脇⽞・房⼦夫妻によって、現在の東京都新宿区の一部である⽜込区⽩銀町(うしごめくしろがねちょう)に實脩(じっしゅう)⼥學校として設⽴。1947(昭和22)年、学制改革に伴い組織変更し、山脇学園中学校・高校を設置。2010年から学校改⾰を推進。校舎を建て替え、イングリッシュアイランド(EI)とサイエンスアイランド(SI)を設置し、英語と理科の特徴ある教育プログラムを導⼊。ICT教育や探究学習に積極的に取り組む。2024年度からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校。
開校:1903(明治36)年
生徒数:1学年約260人
教師数:約120人
2025年度卒業生進路実績:国公立大は、東北大、東京外国語大、東京海洋大、東京大、金沢大、東京都立大などに19人が合格。私立大は、青山学院大、慶應義塾大、上智大、津田塾大、東京理科大、早稲田大などに延べ872人が合格。
受け継がれてきた「志」教育を再定義
西川 本校の教育目標の柱の1つは「志」の育成です。「志」を、「自分が心に決めた決意や目標」と「他者を思いやる心 愛情・厚意・貢献」の2つを併せ持つものと定義しています。実は、「志」を大切にする教育自体は、私が約30年前に着任した当初から存在していました。校章に描かれた富士山が象徴するように、建学の精神には「高い志」という概念が深く息づいています(写真1)。しかし、「志」という言葉は抽象的でもあり、具体的な言語化が必要だと感じていました。
転機となったのは5年前です。学習進路部長に着任した高桑先生が「志」の意味を掘り下げて、「自分の夢を追うだけでなく、周囲への思いやりを持って社会に貢献することこそが『志』だと思う」と、校内研修で述べました。その言葉を聞き、非常に腑に落ちました。それまでの志教育の積み重ねを踏まえた表現であると捉えました。それ以来、その2つの意味を込めた「志」の育成を明確な教育方針として、校内外へ発信しています。
高桑 学習進路部長に着任した際、まずは本校の教育方針に改めて向き合い、それを自身の言葉で語ることができるように努めました。初代校長である山脇房子先生に関する書籍を読むと、房子先生は第一次世界大戦時のベルギー難民救済募金や、働く女性のための託児所開設など、常に社会のために尽力されていました。その社会貢献の精神こそが、本校の教育の原点だと確信したのです。さらに「志」を辞書で調べると、漢和辞典には「心に決めた目標」「信念」とある一方で、国語辞典には「思いやり」「心遣い」という意味も載っていました。「寸志」という言葉があるように、相手を思いやり、大切にする心もまた「志」なのだと思いました。
そのようにして、房子先生の精神と言葉の意味が結びついた時、本校が目指すべき「志」の姿がはっきりと見えました。自己実現を社会貢献につなげてこそ、人は自分の存在意義を知り、幸せを感じて生きていくことができます。「自分の目標」と「他者への貢献」、その2つが本校の「志」なのだという言葉に、多くの先生方に深い納得と共感をいただき、校長の度重なる発信も相まって、その意味が根づいていきました。
「志」の種を見つける多彩なプログラムと、多様な進路実現を支える進路指導
西川 目指すべき「志」が明確に言語化されたことで、私たちが注力すべきポイントも見えてきました。生徒が入学時に見いだせていない志の種を、自分で見つけて芽吹かせられるよう、「学校が肥沃な土壌となること」、志の達成に必要な「学力を着実に伸ばすこと」、そして生徒が自分で志を拓けるよう、「チャレンジを後押しすること」です。
具体的には、大学や企業と連携した多彩な体験型プログラムを設けたこと、また2024年度からはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、中学3年生以上は全員、探究学習に取り組む体制を整えたことが挙げられます。教員たちには自身の専門や趣味も含めて、生徒の探究を支援できるテーマを挙げてもらい、それらを一覧表にし「知の総合」として、生徒に提示しています。「知の総合」は生徒が教科の枠を超えて探究テーマを見つけだすきっかけとなっています。進路選択において、最終的に選択肢を絞ることも必要ですが、本校の中高6年間のプログラムでは、まず選択肢を広げることを大切にしています。様々な経験を通じて自己のあり方・生き方を考え、自身の目指す方向と社会との接点を見いだせるよう支援しています。
学びの基礎としては、将来どのような分野でも必要となる表現力・対話力、データサイエンス、科学倫理などを育む独自の「総合知カリキュラム」を編成し、中学校段階から全員が履修しています(図)。
高桑 生徒のチャレンジを後押しできるよう、面談には特に力を入れています。生徒が校内外で参加したプログラムの履歴や面談のメモなどを生徒個別に蓄積し、定期面談前には学習進路部と学年団が集まって生徒の興味・関心を共有し、面談で伝える内容や支援の方向性を検討します。そして面談では事前に生徒から聞いていた興味・関心に加えて、その場での生徒の言葉や反応も手がかりにして、生徒と一緒に大学や学びについて調べます。「こんな選択肢もあるんだ!」「こんな学びもあるんだ!」という気づきを大切にしながら、どのような学びに関心があるのかを、生徒自身が気づいて発見できるように支援しています。新たな選択肢との出会いが、生徒自身のチャレンジにつながることもあります。そのように、本人がまだ気づいていない可能性を提示するのが私たち教師の役割だと捉えています。
西川 毎年3月に、2日間にわたって開催する探究発表会「山脇サイエンスEXPO」では、中学3年生以上の全生徒が探究学習の成果を発表しますが、今年の3月は保護者や卒業生、教育関係者など、約900人が来場しました(写真2)。下級生は上級生の多種多様な探究に触れて視野を広げ、発表する生徒は来場者との対話を通して自身の探究を改めて深めていきました。
そうした様々な経験を通じて、生徒は自分の「志」への理解を深め、その実現につながる進路を探していきます。その結果が多様な進学先に結びついていると考えています。
12人の部長に権限を委ね、互いに協力し合える教師集団へ
西川 学校経営で最も心がけているのは、トップが変わっても理念が受け継がれる、しなやかで強い組織を築くことです。そのためには、教師がやらされ感を抱かず、主体的に考え、動ける環境が重要です。他者から強制されているうちは柔軟な発想は生まれず、行動力も発揮できないと考えています。トップダウンでは、トップの交代とともにそれまでの取り組みがトーンダウンしてしまうという状況を危惧しています。
私は、先生方がそれぞれの得意分野でリーダーシップを発揮する「シェアドリーダーシップ」や、管理職や部長が現場の挑戦を支える「サーバントリーダーシップ」のスタイルを目指しています。本校の12人の部長、すなわち6人の学年部長、6人の分掌部長を、その分野の専門知識を持つリーダーとして配置し、権限を委ね、互いの仕事を理解し協力し合える体制を整えました。毎週行う部長会議では、各部の目標と進捗を共有しているため、部長間の横のつながりが強く、部署を超えた合同イベントや課題への取り組みが自然と生まれています。
高桑 組織のトップである西川校長が新しい提案をまず前向きに受け止めてくれることが、私たち教師が動きやすい大きな理由の1つです。新しい取り組みについて相談すると西川校長はまず、「いいですね」と受け止めてくれます。予算や教師の負担、生徒の安全面を十分に検討した上で、「責任は私が取る」というスタンスを示してくれるので、挑戦のしがいがあります。
西川 毎年7〜8月には、希望する教員全員と個別面談を行っていて、約90人の先生方とお話しします。日々の課題や今後取り組みたいことなどを話し、特に若手の先生には「5年後、10年後、本校をどのような学校にしたいか」について語ってもらう中で、先生方の成長を感じられる瞬間が何よりの楽しみになっています。面談で本人の希望やキャリアイメージを把握し、部署の配属や今後活躍を期待する業務の検討材料としています。
また、その面談とは別に、目標管理とフィードバックのための評価面談や、360度評価(多面評価)も実施しています。私たち管理職も評価される対象です。誰しも完璧ではないからこそ、自分を振り返り、強みや課題に気づき、主体的に学び高める環境を整えることが大切です。また、経験者が未経験者を支えるメンターの意識も定着しています。
教師のエンゲージメントとロイヤリティを高め、持続可能な学校を築く
高桑 生徒面談の事前準備は大変であっても、生徒一人ひとりの「志」をどのようにして広げていくかをほかの先生方と一緒に考える時間は本当に楽しいものです。志を広げるためには様々な知識や情報が求められますが、ICTも活用しながら幅広く情報を収集した上で、内容を確認・整理し、生徒の進路選択に役立つ形で届けることを心がけています。大切なのは、「生徒のよりよい未来を一緒に探していこう」というマインドであり、生徒の成長を喜び合うことで、そうしたマインドをこれからも学校全体で共有していきたいと思っています。
西川 現職に着任以来、私が大切にしてきたことは、「生徒の志を育む学びのフィールドを耕すこと」です。そのためには「人(教員)」そして教員を育む「組織」が最も大切だと考えています。私学は、「建学の精神と教員たちの想いが1つになってこそ、存在価値を放つ」という考えから、教員一人ひとりが本校の発展に貢献したいと思えるエンゲージメントと、本校への愛着や信頼に基づくロイヤリティを高められる環境づくりに努めてきました。「本校でどのような自己実現をし、どのように社会に貢献していきたいか」と常に問い続ける教員の志の実現も後押ししたいと考えています。
社会が急速に変化する中で、10年後の本校の姿を見通すことは容易ではありません。ただ、教員一人ひとりが時代の変化を捉え、新しい知見を取り入れて成長し続けることができれば、「この学校で学べてよかった」と、強い愛着と誇りを持つ卒業生をこれからも送り出せるはずです。それこそが、本校が社会的価値のある女子校として使命を果たしていく道だと確信しています。




