

小村 俊平
ベネッセ教育総合研究所 理事長 教育イノベーションセンター長
1975年東京生まれ。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員との毎週のオンライン対話会「気づきと学びの対話」、中高生との定期的なオンライン対話会「SDGsユース」、中高生との探究的な学びのコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」を開催するなど教育イノベータが集まる場を主宰しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高校の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
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日本の弱みと改善の視点
一方で、PISA2025からは以下のような課題も読み取れる。
学びへの興味と自己調整
学力水準の高さに比べ、学習への意欲・関心は国際水準に比べて低い(図7)。「科学について学ぶことに興味がある」は日本54.7%、OECD平均61.2%、「物事の仕組みを知ることが好き」は日本59.1%、OECD平均74.1%である。正答に至る力だけでなく、「なぜそうなるのか」「もっと知りたい」と考える経験を、授業や日常生活の中に一層取り入れることが求められる。
また、自己調整関連項目についても注意が必要である。「理解を確認するために自問自答する」は日本30.6%、OECD平均49.1%、「取り組み方を計画する」は日本20.6%、OECD平均37.3%だった(図8)。教師が丁寧に教えることは日本の強みであるが、学習者自身が目標を立て、方法を選び、振り返って修正する機会を意図的に組み込まなければ、自律性は育ちにくい。
学びを将来や社会と結びつける意識
「社会的地位は自分で大きく変えられるものではない」と考える生徒は日本44.1%、OECD平均33.6%、「社会的上昇に学校の学びは役立つ」と考える生徒は日本56.9%、OECD平均66.4%だった(図9)。教科の学びを職業、地域、社会課題と接続し、卒業生や大人の多様な生き方に触れる機会を一層増やしていくことが重要だろう。
理数系のジェンダーギャップ
同様の観点で懸念されるのが、理数系の学習に対するジェンダーギャップである(図10)。科学コンピテンシー、数学的リテラシーでは男子の得点が有意に高く、上位レベルの割合にも男女差がある。また、OECD平均ではほとんど男女差がない「楽しさ」関連項目でも、日本の場合は男女差が大きい。
理数系人材の不足が指摘される中、女子が理数系分野の学びを自分の関心や将来の選択肢として捉えられるかどうかは大きな課題である。身近な課題と結びつける授業、ロールモデルとの出会い、固定的な役割意識を再生産しない意識づけが必要だろう。
家庭・地域との協働
日本の子どもたちは学校や教師への信頼感が高く、例えば「先生は分かるまで何度でも教えてくれる」は88.5%で、OECD平均の68.8%を大きく上回る(図11)。基本的には望ましい傾向だが、その一方で、家庭で学校の学びや将来の教育について話す割合はOECD平均より低い。
教育システムへの信頼が厚いことは長所であるとともに、学びが学校任せになってしまう危うさもはらんでいる。不登校経験者や通信制高校に通う生徒が増える中、家庭との対話、地域・民間資源との連携、多様な学びへのアクセスをどう保障するかが問われるだろう。
AI活用
学校の勉強でAIを「使わない」生徒は39.1%だった。OECD平均13.7%を大きく上回り、OECD加盟国で最も高かった(図12)。
現行学習指導要領が生成AIを前提に設計されていない以上、その結果は当然と言えるが、次期学習指導要領に向けては、生成AIの普及を踏まえた情報活用能力の育成について議論されている。先に見たように、日本の子どもたちの自己調整関連項目は国際水準に比べると総じて低い。目的を持って問いを立てたり、出力を検証する資質が育たないままAIを使わせたりすれば、安易な依存や認知的オフローディングを招きかねない。AIを使う場面でも、先に自分の考えを持つ、根拠を確かめる、AIとの対話を振り返るといった学習設計が必要だ。
まとめ
PISA2025は、日本の教育を支えてきた初等・中等教育段階の教師にとって、自信を持って受け止めてよい結果だったのではないだろうか。高い学力、公平性、デジタルの適正利用は、日々の授業と指導の積み重ねによるものと言えよう。
しかし、順位がよかったことは、課題がないということを意味しているわけではない。学ぶ意味を感じること、自分で学び方を調整すること、家庭・地域も含めて学びを支えること、AI時代の主体性を育てることは、これからの社会を生きる上では重要なテーマである。自校の実践を問い直す視点としても、改めて着目したい。
そして、今回の結果を「子どもの学び」だけに閉じないことが重要だろう。世界トップレベルの学力を持つ15歳を、およそ四半世紀にわたって社会へ送り出してきたにもかかわらず、日本の国際的競争力は低下を続けている。子どもの課題を探すだけでなく、「若者が力を生かせる社会を大人が築けているか」を問うことが求められているのではないだろうか。
参考資料
OECD「PISA 2025 Results (Volume.1)」(2026.09)
国立教育政策研究所「PISA2025のポイント」(2026.09)








