

齋藤 輝之
VIEW next編集部 VIEW next ONLINE担当責任者 小中領域担当責任者
2007年ベネッセコーポレーションに入社。高校、大学、行政、社会人と全国の様々な学齢や領域を担当してきた。東北支社長、文教総研研究員を経て2023年度より現職。休日はサッカーコーチとして、地元の横須賀の子どもたちと過ごす。
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文部科学省は2026年9月30日、小学6年生と中学3年生を対象とした令和8年度「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の都道府県・指定都市別調査結果を公表した。各自治体や学校の平均正答率が「全国平均より上か下か」という比較に注目が集まりがちであるが、本記事では前編に続き、単なるスコア比較にとどめず、「授業改善や環境整備にどう生かすか」という視点でデータを読み解いていく。
後編となる本稿では、今回公開されたデータから「主体的・対話的で深い学び」と「学びの自己調整」のかかわり、そして家庭環境による格差を補完する「ICT活用」の可能性について取り上げる。
公表された都道府県・指定都市別の結果(図1)からは、平均正答率の分布において、秋田県や、福井県・石川県を始めとする北陸地域、東京都などの一部の自治体で上位層の割合がやや高い傾向が見て取れるが、都道府県ごとの全体的な傾向は概ね共通している。その傾向は他の学年・教科においても同様だ。
一方で平均正答率という表面的な数値の裏側にある「児童生徒の学びの質」や「環境整備の手立て」に着目すると、自治体ごとに興味深い特徴や違いが見えてくる。 今回公表されたデータの中から、特に注目したい2つのクロス分析を取り上げたい。
1つ目は「主体的・対話的で深い学び」と「学びの自己調整」のクロス分析だ。
質問紙調査の散布図分析において、「自らの学習を調整している」と答えた児童生徒が多い自治体ほど、「主体的・対話的で深い学び」への肯定回答割合が高く、明確な正の相関が確認された(図2)。その結果は、両者が互いを高め合う関係にあることを示している。
「主体的・対話的で深い学び」と「学びの自己調整」はなぜ相関が高いのだろうか。以下の主体的な学び、対話的な学び、深い学びの3つに分けて学びの自己調整との関係を確認する。
・主体的な学び(プロセスの連動)
「見通す・実行する・振り返る」という学びのサイクルは、「主体的な学び」と「学びの自己調整」でともに必要になるプロセスだ。
・対話的な学び(メタ認知の促進)
他者との協働や対話を通して自分の考えを客観的に捉え直す(メタ認知する)ことで、学び方の柔軟な見直しや修正につながりやすくなる。
・深い学び(試行錯誤による充実)
未知の課題を探究する場面での試行錯誤を通して、学びを深めるプロセスそのものが自己調整力を自然と育んでいく。
以上のように、「主体的・対話的で深い学び」と「学びの自己調整」には好循環の構造が存在することがうかがえる。この学びの好循環を象徴するのが、散布図の最も右上(両方の肯定回答割合が高い位置)に位置する秋田県である。 前編でも触れたように、長年にわたり「問い」と「振り返り」を重視した授業改善を重ねてきた秋田県(『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.1)の歩みは、まさにこのデータ結果と深く重なり合っている。
なお、深い学びに欠かせない「答えまでの距離が長い大きな問いの設定」や「自己調整能力・メタ認知能力の育成」など、日々の授業改善に向けたヒントとして以下の記事を参照いただきたい。
参考:答えまでの距離が長い大きな問いの設定(『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.1 特集)
参考: 自己調整能力・メタ認知能力の育成(『VIEW next』教育委員会版 2025年度 Vol.1 特集)
2つ目は「低SESグループにおける学力D層の割合」と「ICT活用する自信」のクロス分析だ。
今回の調査では、家庭の社会経済的背景(SES)の代替指標として「家庭における蔵書数(家の本の冊数)」を用いた分析が行われている。全国的な傾向として、家に本が少ない低SESグループ(0〜25冊)ほど各教科の正答率が低くなる傾向が見られた。
しかし、都道府県別に低SESグループの学力層分布(D層)を分析すると、秋田県、東京都、石川県、福井県などの自治体では、家庭の蔵書数が少ないグループであっても学力が比較的維持されている(学力D層の割合が低い)。それらの自治体では、低SESグループの児童生徒においても「ICTを活用する自信」を示す割合が高いことが分かった。
電子書籍やデジタル教材の利活用など、学校における多角的なICT環境の整備と活用支援は、家庭環境の差を学校教育の中で補完し、子どもたちの学びを支える有効な手立ての1つと言えそうである。
このように、家庭環境による格差を学校教育の工夫によって補完する視点は、ICT活用だけでなく「経験機会の保障」においても同様に重要となる。 低SESグループにおける経験格差へのアプローチとしては、子どもの経験と学習意欲(『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.2 連載)に関するデータも参考になる。特に小学生での経験の差は学習意欲に強く関連している。学校行事の精選・見直しが進む中、自校が目指す子ども像と照らし合わせながら、家庭環境によって経験差が生じやすい宿泊行事など、学校で保障したい経験機会についても改めて検討すべきだろう。
今回公表された2つのクロス分析をきっかけに、次期学習指導要領でも引き続き焦点となる「主体的・対話的で深い学び」や「学びの自己調整」に向けた授業改善がさらに加速し、家庭環境による格差を補完する「ICT活用」や「学校行事のあり方」についての議論がより深まっていくことを期待したい。


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