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特集

事例1
「問い」と「振り返り」で深い学びに導く探究型授業を組織的に実践
秋田県教育委員会

2026/06/15 08:00

文部科学省「全国学力・学習状況調査」の開始以来、結果が常に全国上位に位置する秋田県。約30年前から、子ども同士の対話を通じて学びを深める「秋田の探究型授業」を実践している。子どもの中で知識・技能が概念化されて生きて働く学力となるよう、子どもの発した問いを基にめあてを設定するとともに、次の学びに活用することを意識した振り返りを行っている。

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秋田県 概要

2015年度に生活習慣や家庭学習の指針「秋田わか杉 七つの『はぐくみ』」を策定し、学校・家庭・地域が一体となった「オール秋田」で子どもを育成。2025年3月策定の「第4期あきたの教育振興に関する基本計画」では、「地域に根差したキャリア教育」と「“『問い』を発する子ども”の育成」を重点課題に掲げ、関連施策を展開している。

人口 約86万7,000人
面積 1万1,637㎢
公立学校数 小学校162校、中学校98校、義務教育学校3校、特別支援学校14校、高校44校
児童生徒数 小学生約3万2,000人、中学校約1万9,000人、高校約1万8,000人
教員数 約6,000人

お話を伺った方々(PDFには全員掲載)

安田浩幸(やすだ・ひろゆき)

教育長
秋田県教育委員会高校教育課課長、秋田県立秋田高校校長等を経て、2020年4月から現職。

真崎敦史(まさき・あつし)

義務教育課 学力向上・教育報化推進チーム チームリーダー
秋田県公立中学校教諭等を経て、2025年度から現職。

藤谷 寛(ふじや・ひろし)

総合教育センター 研修チーム 主幹(兼)チームリーダー
秋田県公立小学校校長等を経て、2026年度から現職。

生活習慣も体力も全国上位。良好な心身が学びの土台

県の教育目標として「ふるさとを愛し、社会を支える自覚と高い志にあふれる人づくり」を掲げる秋田県は、文部科学省「全国学力・学習状況調査」において、調査開始当初から全国上位を堅持している。特に記述力が高く、2025年度の同調査の小学校国語では、記述式問題の平均正答率が全国平均を約7ポイント上回った。安田浩幸教育長はその背景をこう説明する。

「本県は昭和30年代に行われていた旧全国学力テストでは結果が低迷していました。そうした課題を受け、教育委員会(以下、県教委)が約30年前に『秋田の探究型授業』(以下、探究型授業)の実践を提唱し、今日まで継続しています。探究型授業は、子どもが自ら課題を見つけ、他者との対話を通して課題を解決し、学びを振り返る授業で、その本質は現行の学習指導要領が実現を目指している『主体的・対話的で深い学び』と重なります。主体的に学びを深めるからこそ知識・技能が定着し、他者と意見を交わす経験が高い記述力につながっていると考えています」

生活習慣調査(*1)や体力テスト(*2)の結果も同県は全国上位に位置しており、2026年4月には子どもの幸福感が全国1位と報じられた(*3)。

「家庭の支えもあり、本県の子どもは規則正しい生活習慣と体力を身につけています。加えて幸福感も高く、喜ばしく思います。そうした心身の良好な状態が日々の確かな学びを支えていると考えています」(安田教育長)

*1 文部科学省「全国学力・学習状況調査」の質問調査の結果。
*2 文部科学省「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果。
*3 日本経済新聞社の2026年4月17日づけ記事。文部科学省「第4期教育振興基本計画」において、ウェルビーイングに関する指標とされた「全国学力・学習状況調査」の質問調査の9項目について、小・中学生の回答を分析した結果に基づいている。

子どもが発した問いを基にめあてを設定

全教科で実践されている探究型授業は、子どもが学びの見通しを持ち、個と集団の学びを通じて考えを深めるための4つの基本プロセス(図1)から成る。それらは必ずしも左から右へ1つずつ進めるものではないと、義務教育課学力向上・教育情報化推進チームの真崎(まさき)敦史チームリーダーは説明する。

「基本プロセスは1コマの授業で完結させなければならないものではなく、単元全体の中で学習目標や子どもの状況に応じて弾力的に展開されています。例えば、自分の考えを持って集団で話し合った後、再度個人で思考を深める場を設けたり、単元導入時に1コマを丸ごと使って学習の見通しを持たせたりする場合もあります」

図1「秋田の探究型授業」の基本プロセス
4つのプロセスは弾力的に活用するものであるため、順序を示す矢印はつけていない。

現在は、「“『問い』を発する子ども”の育成」を掲げ、探究型授業のさらなる充実を図っている。その手立ての1つが、子どもが発した問いを基に単元全体や1コマのめあてを設定することだ。同チームの矢吹敦(あつし)指導主事は、子どもが必要性や課題意識を感じながら学べるよう、子どものワクワク感を何よりも大切にしていると語る。

「先生方には、目指す子ども像を明確にし、子どもが発する『問い』を想定した授業づくりをお願いしています。その上で、想定した『問い』が出なくても本時のねらいを踏まえつつ、子どもの言葉を生かしてめあてを設定することや、『コンパクトでインパクトのある導入』を合言葉に、導入に必要以上に時間を割かず、必要な活動に十分な時間をかけられるようにすることの大切さを伝えています」

別の場面での活用を意識して、学習の内容や方法を概念化

県教委では、子どもが自ら問いを発し、学びが深まるよう、「振り返り」も重視している。総合教育センター教科・研究チームの田口牧(つかさ)主幹はこう語る。

「一般的に振り返りは授業の終わりに行いますが、振り返りを活用するのは新しい単元や授業の導入時です。振り返り時に習得した資質・能力を整理できていれば、導入時にそれまでの振り返りと新しい学習内容を結びつけて、『この時はどうなる?』といった新たな問いや、『あの知識が使えるかも』といった解決への見通しが生まれやすくなります。単元をまたいだ『学びの連続性』も実感できるはずです」

さらに、振り返りを学習内容のまとめに終わらせず、学習の内容や方法を「他の学習や生活で生かせるか」といった視点で整理し、概念化することを目指している。そのためには、授業や日常生活で子どもを見取り、粘り強く支援することが必要だと、同センター研修チームの藤谷寛(ふじやひろし)主幹は語る。

「『これはこう使える』などと、子どもが学んだことを自ら価値づけし、必要性を感じて活用する経験を繰り返すことが、生きて働く学力や自己調整能力の育成につながります。そのような子どもを育てるためには、教科や日常生活との結びつきを踏まえて、学習の内容や方法が別の場面で応用できる機会を単元計画に組み込むことが求められます。それは難しく、想定通りに授業が進まないことも多々ありますが、概念化までを意識した単元計画の重要性は先生方に繰り返し伝えています」

振り返りではデジタル活用を推奨。ある学校は、「既習事項とのつながり」「これから生かしたいこと」といった内容別に色を変えた付せんに入力させて電子黒板で共有したり(写真1)、次に役立つと自分が思う学習内容などをクラウド上の「学びの宝箱」に蓄積したりしている。デジタルであれば量が多くても1か所に蓄積でき、いつでも自分が学んだことを引き出せる。

デジタル以外にも、振り返りの内容を模造紙に書いて教室に貼ったり、小型の可動式ホワイトボードに振り返りを貼って教員が授業ごとに移動させたりするなどの方法を提示している。

写真1 ある小学校は、端末の付せん機能を活用し、振り返りを「分かったこと」(ピンク)、「参考になった友だちの考え」(青)、「既習事項とのつながり」(緑)、「これから生かしたいこと」(黄)と色分けして入力し、学級内で共有している。

協働で授業づくりを行い、目指す授業のイメージを共有

同県の強みは、県内8地区(*4)の授業研究会や年次研修、指導主事の学校訪問などを通じて、多くの教員が目指す授業のイメージを共有できている点にある。そうした場では「対話」を大切にしていると、同センター研修チームの赤川嗣昭(つぐあき)主任指導主事は説明する。

「2008年頃から、県の教員研修は指導技術を評価する形から、参加者がアイデアを出し合い、整理・分類しながら単元計画や1コマの授業をつくる形に転換しました。それが全県に普及し、各校の授業研究においても教員が協働で授業づくりをし、事後研究では改善案を出し合うことが浸透しています」

授業研究では、子どもから想定した問いが出ない場合や学習内容から逸脱した発言が出た場合の対応のあり方などについても、各自が考えや実践を出し、共有し合う。そうした授業研究を新採時から積み重ねるため、教員には子どもの発言や発する問いを大切にする姿勢が身につき、目指す授業のあり方の共通理解も図れるという。

「授業づくりの段階で想定外の事態への対応の仕方についても検討するため、例えば子どもから誤答が出ても、『この答えについてどう思う?』などと、教室全体の学びの機会にするといった、柔軟な対応を取ることが先生方に浸透しています」(田口主幹)

*4 秋田県には3つの教育事務所と5つの出張所がある。

教委は伴走型支援で現場とともに授業をつくる

県教委は伴走型支援で実践的な授業研究を後押ししている。2024・2025年度に実施した「ICTを活用した授業力向上事業」では、3校のモデル校1校あたり2人の指導主事が担当としてつき、各校に年20回ほど訪問して単元計画や授業づくりの議論に加わった。時には指導主事もチーム・ティーチングに加わって子どもの様子を間近で見取るなど、現場とともに授業改善を進めた。モデル校からは「指導主事にすぐに相談できてよかった」「指導主事が一緒に研究を進めてくれたのは心強かった」といった声が上がった。

「かつては指導主事が学校の実践を評価していましたが、本事業では問いの設定や子どもへの声かけなどについて指導主事が教員と一緒に振り返り、どうすれば適切だったのかを考えます。私たち指導主事も、支援を通じて授業がさらによくなり、子どもの表情が生き生きと変化する場にいられたことは大きな喜びでした」(矢吹指導主事)

なお、授業研究会の運営面での準備や実践の記録などは指導主事が担当し、現場の負担軽減に努めた。

キーワードを切り口に授業を見取り、教科を超えて議論

県教委による明確な指針の発信も、教員が目指す授業をぶれずにつくることに欠かせない。年2回行われる「全県指導主事連絡協議会」には、県及び市町村の教育委員会の指導主事等が教科ごとに集まる。各指導主事が学校訪問を通じて感じた成果や課題を共有するとともに、「全国学力・学習状況調査」や県独自の学習状況調査(*5)の結果などを踏まえて、学校教育の方針と当該年度の重点を示した「学校教育の指針」を策定し、全県に発信している。

現行の学習指導要領の実施時には、「主体的・対話的で深い学び」と探究型授業を結びつけて授業改善の方向性を示した「Akitaractive Eye(アキタラクティブ アイ)」を作成。さらに、「ICTを活用した授業力向上事業」では、探究型授業で大切にしてきた暗黙知を、①授業を楽しむ、②必要感などの10個の「授業力のキーワード」(図2)という形式知として示した。学力向上・教育情報化推進チームの佐々木修一副主幹はこう説明する。

「指導主事が学校訪問する際の視点にして助言でき、校内の授業研究も先生方が同じ視点を持って取り組みやすくなりました。特に学校規模の縮小によって担当が1人の教科がある中学校でも、例えば②必要感をテーマにすれば、教科を超えて同じ視点で授業を見取れるため、学校全体で授業研究を実施できます(写真2)」

図2「授業力のキーワード」
キーワードは単独で意識するだけでなく、かけ合わせれば他のキーワードの実現に向けた相乗効果を生み出すことができる。例えば、⑤ICTの活用×⑩振り返りで②必要感を生み出す、③ねらいの明確化×⑨言葉かけで⑦児童生徒が主役となる、などだ。

写真2 「授業力のキーワード」を活用した校内の授業研究では、教員がそれぞれ見取りや声かけなどについて自分の考えを付せんに書き、似た内容をグループ化して、よかった点や課題を可視化していった。

次期学習指導要領を見据えた学校支援も、これまで通り、現場が子ども主体の授業ができるように支えていく。

「議論が進んでいる次期学習指導要領については、議論の資料を精読し、教育の不易を土台にしつつ、時代に即した授業の本質を重点化するものと理解しています。私たち教育委員会の役割は、そうした点を踏まえ、先生方が安心してこれまでの実践を基盤とした質の高い授業改善にまい進できるように支えていくことです。これからも全力で現場に寄り添っていきます」(真崎チームリーダー)

*5 毎年、対象学年の悉皆(しっかい)で、小学4・5年生は国語、社会、算数、理科、中学1・2年生は国語、社会、数学、理科、英語の学力調査と、学習意欲等に関するアンケートを実施。

『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.1
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