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事例で読み解く! 教育トレンド
テーマ 自己調整学習・自由進度学習
データを基にした「目標設定」「中間評価」「振り返り」のサイクルで、自己調整力を育む
新潟県 新潟市立濁川(にごりかわ)中学校
2026/05/15 08:30

予測困難な社会であることを受け、自立した学習者を育成しようと、「自己調整学習」を取り入れる学校が増えている。そこで今回は、自分の学びを可視化できる「学習ログ」を活用することで、単元の学習の見通しを持ち、目標や家庭学習計画を立て、取り組み後に振り返るというサイクルを生徒自らが回せるようにすることを通じて生徒の自己調整力を育成している実践を紹介する。
学校概要
設立 1947(昭和22)年
生徒数 192人
学級数 8学級
教員数 20人
お話を伺った先生

2学年主任
石川 大(いしかわ・だい)
同校に赴任して2年目。
※プロフィールは、2026年3月時点のものです。
「主体的に学習に取り組む態度」をどう育てるか
新潟市立濁川(にごりかわ)中学校の石川大(だい)先生が自己調整学習に着目したきっかけは、観点別学習状況の評価の観点が「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つに整理されたことだった。「3つの観点のうち、『主体的に学習に取り組む態度』は、粘り強い取り組みを行おうとする側面と自らの学習を調整しようとする側面の2つの側面から評価すると示されましたが、『自己調整力』はどのようにすれば育成することができ、どう見取ればよいのか、頭を悩ませました」と、石川先生は語る。
当時、前任校で非認知能力の育成について研究していた石川先生は、学習場面で働く自己調整力を「学習の目標を立て、過程をモニタリングし、結果を省察する力」と定義。自己調整力を育成する鍵は「自分の現在地を理解すること」だと考えた。そのような状態に生徒を導くことができる活動を模索する中で、ある中学校の学習ポートフォリオの取り組みを知った。それは、単元の節目に生徒が自分の学びを記録していくことで、その変化を可視化する取り組みだった。その取り組みにヒントを得た石川先生は、単元の目標や学習計画、振り返りを記録するシート 「学習ログ」を作成(図1)。2023年度から、担当する2・3年次の数学の授業で同シートの活用を始めた。
図1 「学習ログ」の表面
「学習ログ」を活用した3段階のサイクル
「学習ログ」の表面の上段には、単元で「身につけてほしい力」とそれを評価する場面を3つの観点ごとに明記(図1①)。また、下段の左側には、「目標設定」(図1②)と「中間評価」(図1③)の記入欄を設けた。そして、下段の右側に「身につけてほしい力」の伸びを可視化する「レーダーチャート」(図1④)を掲載。「目標設定」「中間評価」「振り返り」の各場面の自分のレベルを記入することで、自身の成長を視覚的に捉えられるようにした。さらに裏面には、単元の学習内容のまとめと振り返りの記入欄を設け、単元を通した深い内省を促す構造とした。
授業では、単元の導入時に「目標設定」、中盤に「中間評価」、最後に「振り返り」の場面を1時間ずつ設定。各場面で「学習ログ」を活用することで、生徒が授業や家庭学習での取り組みを可視化し、自分で学びを調整するための3段階のサイクルを回せるようにした(図2)。3つの場面の具体的な流れは次の通りだ。
- テスト結果に基づく「目標設定」
「目標設定」ではまず、その単元の学習に必要な既習事項が身についているかを確認するための10分程度の「レディネステスト」を実施している。レディネステストは教員が作成するのではなく、個別最適化された課題を提示するAIドリル(ドリルパーク、*1)を活用することで、教員に負担をかけることなく、生徒個々の定着度をリアルタイムで確認できるようにした。
生徒はテスト結果を基に、現時点のレベルを「学習ログ」の中の「レーダーチャート」に入力。「目標設定」の欄には、「学習ログ」に記載されている「身につけてほしい力」を踏まえて、「どんなことができるようになりたいか」「そのために何(自主学習)に取り組むか」を具体的に入力する。
「私の授業では宿題を課さないため、生徒自身が家庭学習の計画を立てます。『自分が設定した目標を達成するためには、何を使って、どれくらい学習するか』という問いを生徒に投げかけ続けていると、最初は『ワークを頑張る』としか書けなかった生徒も、次第に『ワークに3周取り組み、仕上げにAIドリルの問題を解く』というように、行動目標を具体的に書けるようになります」(石川先生)
- 軌道修正をする「中間評価」
「中間評価」では、生徒は学習の進捗を確認し、目標や行動を修正する。まず、授業冒頭の約20分を使って「知識・技能」の到達度を確認するデジタルテスト(テストパーク、*2)を実施。デジタル化によって自動採点が可能となるため、生徒は即座に結果を把握して、それを基に学習状況を振り返ることができる。「学習ログ」の「中間評価」の欄には、目標に対する授業や家庭学習での取り組みを自己評価して記入し、必要に応じて計画を修正する。そして、その時点でのレベルを「学習ログ」の「レーダーチャート」に入力する。
- 内省を深める「振り返り」
「振り返り」では、授業冒頭に「思考・判断・表現」の到達度を確認するためのデジタルテストを実施。「中間評価」と同様、テスト結果をすぐ確認し、自分の伸びを数値で把握した上で振り返りを記入する。振り返りを何度もするうちに、「文字式も約分できると分かった。特に割り算は分かりにくい。ケアレスミスをなくすために、少しでも式を簡単にしてから計算しようと思った」などと、生徒は自分の学習状況をメタ認知し、次の学習にどう生かすかを言語化できるようになるという。
また、「学習ログ」の裏面の「学びのワードマップ」に単元の学習内容をまとめることで、知識の構造化と俯瞰的な理解を促している。
図2 学びの3段階のサイクル
*1 ベネッセのタブレット学習プラットフォーム「ミライシード」に搭載されたアプリのうちの1つで、個別最適な出題をするAIドリル。
*2 「ミライシード」に搭載されたアプリのうちの1つで、CBT方式によって単元の到達度を確認できるデジタルテスト。
ICTによって可能となった、根拠に基づく自己調整
取り組みの当初は、各場面で生徒が「学習ログ」に入力する内容が感覚的で、根拠に乏しいという課題が見られた。そうした中、2023年度に「目標設定」のレディネステストとしてAIドリル(ドリルパーク)を導入。さらに2025年度に新潟市教育委員会のドリルパークのモデル校としてデジタルテストの活用を開始したことで、データを基に「中間評価」や「振り返り」もできるようになった。それにより、各場面で行う自己評価が、テスト結果という根拠に基づく、より確かな自己調整の機会に進化したと、石川先生は語る。
「自動採点の機能があるデジタルテストを活用することで、テスト結果を見てすぐに『中間評価』や『振り返り』に取り組むことが可能になりました。生徒の記入も『点数が低かった』といった結果のみのものから、『この内容でつまずいたから、次はこうする』といった具体的な省察へと変化しました」
デジタルテストの活用は教員の授業改善にも寄与している。石川先生は、「中間評価」の時点でクラス全体の正答率が概ね60%未満の場合は既習事項の復習に重点を置いた導入や演習とし、60%以上の場合は個別最適な課題や思考を深める活動を行うなど、データを基に授業構成を柔軟に調整している。
「デジタルテストの導入後は『自分の感覚とデータの結果とのズレ』を重要視しています。例えば、私から見て数学が得意だと思っていた生徒の正答率が低いと、すぐにその生徒に声をかけます。以前は生徒の様子を見て判断することしかできませんでしたが、今はデータも根拠の1つとすることで、生徒に対して客観的で、よりきめ細かな支援ができるようになったと感じています」(石川先生)
今回の実践は「競い争う『競争』から、ともに創る『共創』へ」という濁川中学校の教育方針とも合致している。同校は長期休業中の宿題を廃止しており、学校全体で自己調整学習が定着してきている。
「3段階のサイクルは学習に限らず、体育祭や定期考査など、学校教育のあらゆる活動において応用できます。生徒が様々な活動でそのサイクルを回すことを通じて、自己調整力を高めていくことを期待しています」(石川先生)



