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教育長の視点~その先にあるもの~

第15回
こどもが未来を切り拓く力を社会全体で育む~中学校区内の学校が1つのチームとなり、こどもの可能性を広げる~
大阪府堺市

2026/06/15 08:00

全国の教育長に教育施策の立案の視点について尋ねる本コーナー。第15回は、こどもが自身の未来を切り拓く「それぞれの世界へはばたく“堺っ子”」の育成に力を入れる大阪府堺市の関百合子教育長に、2026年4月にスタートした「第4期未来をつくる堺教育プラン」の背景にある思いや特色ある施策、成果などについて話を聞いた。

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堺市 概要

大阪府で第2の人口と面積を擁する政令指定都市。世界遺産の百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群や中世の海外交易拠点としての歴史を有し、戦後は近畿地方屈指の工業地帯へと成長。大阪市に隣接する利便性の高い立地からベッドタウンとしても発展するなど、現代的な都市機能と豊かな歴史遺産を併せ持つ。

お話を伺った教育長 

関 百合子(せき ゆりこ)

堺市教育委員会 教育長
1998年、文部省(当時)入省。日本学術振興会ストラスブール事務所、滋賀県教育委員会生涯学習課長・文化課長、厚生労働省労働基準局政策課室長、独立行政法人日本学生支援機構グローバル人材育成部長、文化庁文化戦略官などを経て、2024年4月から現職。

聞き手

森下芳行(もりした よしゆき)

株式会社ベネッセコーポレーション
学校カンパニー 小中学校事業本部
義務教育支援2課(西日本) 課長

1.こどもや現場の意見を聴き、プランに反映

<森下>初めに、2026年4月にスタートした「第4期未来をつくる堺教育プラン」についてお聞かせください。

<関>本市は「ひとづくり・まなび・ゆめ」を教育理念としています。将来の予測が困難な変化の激しい社会において、未来を担うこどもたちが、どのような状況下でも広い視野を持ち、自ら考えて判断し、他者と協働しながら未来を切り拓く「それぞれの世界へはばたく“堺っ子”」の育成に取り組んでいます。本プランは、これまでの活動の成果を継承・発展させ、本市がめざすこども像・学校像・教職員像の実現に向けた方向性や施策、目標を示したものであり、本市の教育における今後5年間の羅針盤となります。

<森下>プラン策定では、こどもや現場の声を大切にされたそうですね。

<関>プラン策定のコンセプトに掲げた「市の教育を自分事として捉えること」を実現するためには、市の教育に携わる人々が当事者として参画することが大切であると考えました。特にこども基本法の観点から、こどもたちが意見を述べ、それを尊重するため、小・中学校で受けたい授業や理想の学校などについてこども同士が意見を交わす場を設けました。その結果、「自分で計画して学びを進めたい」「安全パトロールの見守り隊の人たちがいつも見てくれているから安心できる」といった、率直な意見を聴くことができました。

また、プラン策定にあたり、全校種(幼稚園、小・中学校、高校、支援学校)の教員と教育委員会の職員から成るワーキンググループを設置し、1年間にわたって対話を重ねました。「確かな学力」「誰一人取り残さない教育」「社会で支えるこどもの育ち」などをテーマに議論し、そこで出た多様な意見をプランに反映しました。

<森下>同プランでは、初めて「こども版」を作成されたと伺いました。

<関>はい。こどもが自分の受ける教育についてきちんと知り、考えることができるよう、プランの概要を平易な言葉でコンパクトにまとめ、漢字にルビを振った「こども版」を作成しました(写真1)。新たな試みでしたが、早速、「大人にとっても分かりやすく読みやすい」といったお声をいただき、手応えを感じています。

こどもに「未来を切り拓く力」を育成するためには、学校・家庭・地域が連携し、社会全体でこどもを支え、育み、応援する観点も大切です。「こども版」を通じてより多くの方がプランを知り、本市の教育に関心を持ち、考える機会が増えることを願っています。

写真1 出前授業を行った小学校において「こども版」を紹介したところ、「私たちの考えたことが未来をつくるって、とても素敵だなと思いました」といった感想が寄せられた。

<森下>プランの内容には、どのような特徴があるのでしょうか。

<関>すべての施策を貫く基本的視点として、「ウェルビーイング」「教育DX」「堺が進める『新たな学校のあり方』」の3つを定めました。特に3つめは、中学校区内の小・中学校を「学校群」という1つのチームとし、各校が持つ強みや資源を生かしながら自主的・自律的な学校運営をめざす、本市独自の新たな取り組みとなります。

2.小・中の「縦のつながり」と小・小の「横の広がり」を生む

<森下>学校群は小・中の「縦のつながり」に加え、小学校同士の「横の広がり」もある取り組みですね。

<関>それが学校群の大きな特色です。「横の広がり」である小・小連携は、うれしいことに、施策を試行錯誤する過程で予想以上の副次的効果を実感しています。学校群内の複数校の教員が協働で授業づくりをしたり、複数校の同学年が運動会の団体競技を一緒に練習したりしています。例えば、綱引きは大人数で迫力があって面白いなど、こどもの数が減る中でも工夫して取り組んでいます。円滑な合同活動に向けたマネジメントの一例としては、小学校間で時間割の時程や職員会議の実施日をそろえた学校群もあります。

「縦のつながり」の小・中連携では、ある学校群の中学校が、群内の小学6年生の保護者を対象に中学校生活のことに加え、高校入試制度の説明などを行いました。従来の枠組みを超えた挑戦でしたが、平日の夕方の開催にもかかわらず多くの保護者が参加し、「先の見通しがもてて安心できた」といった好意的な声が多く寄せられました。

<森下>学校群は新たな挑戦だと思います。どのように実践されていますか。

<関>学校が具体的な活動や進め方をイメージできるよう、2年間のモデル事業を基にした「参考事例集」や、施策を進める背景や必要性を理解してもらうための「取組指針」を作成し、広く共有することにより、全中学校区での円滑な実施につなげました。

<森下>こどもからはどのような声が上がっていますか。

<関>「中学校に対する不安が減った」「違う学校の友だちの意見が参考になった」「幼稚園で一緒だった友だちと再会できてうれしかった」「中学生が合同行事で親切に教えてくれて楽しかった」といった声が上がっています。

こどもたちが、未知の状況でもしなやかに主体的に考え、広い視野をもって判断し、他者と協力しながら「未来を切り拓く力」は、多様な経験や地道な教育実践を積み重ねて培われると考えています。各校が教育資源を補完し合い、共通の課題に協働で取り組むことにより、こどもたちがより豊かに学ぶための「最適解」を見いだすことを期待しています。

3.堺の魅力や“本物”に触れる体験を、夢を抱くきっかけに

<森下>世界遺産の百舌鳥古墳群の雄大さを体感できる気球体験や、茶の湯を大成した千利休を生んだ地ならではの茶の湯体験(写真2)など、市の魅力を生かした体験学習も充実しています。

<関>人の心を動かす力がある“本物” に触れる体験学習を通じて、自分が何に関心があり、何をしたいのかを考え、将来の夢を抱くきっかけにしてほしいと思います。大阪・関西万博の時には各国の大使館職員による出前授業を実施しました。また、「日経STEAMシンポジウム」に本市の小学校3校が参加し、高校生に混じって探究学習のポスター発表を堂々とする姿は頼もしかったです(写真3)。多様な年齢・立場の人と接する経験は、こどもの可能性をさらに広げてくれるはずです。

写真2 茶の湯体験を行うこどもたち。学校内だけでなく、登録有形文化財である茶室や文化観光施設「さかい利晶の杜」に併設の茶室など、学校以外の実際の茶室で行うことも多い。

写真3 「日経STEAMシンポジウム」では、見学に訪れた様々な人に小学生が探究学習の成果を説明し、質疑応答も行った。1校がアドバイザー特別賞を受賞(2025年8月)。

<森下>教員採用においても、貴市はユニークな取り組みをされていますね。

<関>本市は教員採用に際して、授業や学校行事の見学、給食の試食など、「学校教育体験会」を2024年度から実施しています。採用予定者を対象に入職前のセミナーを開き、準備しておくことを伝えるとともに、同期とのつながりを深める場を設けるなど、安心して堺で先生となれるよう心がけています。採用後は、キャリアパスを支援し、先生方が働きやすさと働きがいを感じる職場環境の整備に努めています。

教員が健やかであることは、教職としての専門性や創造性を高め、こどもたちに向き合い、よりよい教育を実践する上で大切です。教員の笑顔はこどもの安心につながりますよね。本プランの基本的視点の1つとした「ウェルビーイング」が、教員からこどもへ、こどもから家庭や地域へと広がり、社会全体のウェルビーイングにつながっていく。それが再びこどもを支え、育む、応援する力となって還っていく。そうした循環を確かなものとし、「それぞれの世界へはばたく“堺っ子”」の育成に力を尽くしたいと思っています。

『VIEW next』教育委員会版 2026年度 Vol.1
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