安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)

株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO、東京大学大学院 情報学環 客員研究員

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社会の劇的な変化を背景に今、企業では「創造性」が強く求められています。私は大学院でワークショップのデザインを専門に研究し、以来、研究者と経営者の二足のわらじを履きながら、人間が創造性を発揮するために必要なことを探究し続けています。そこで今回は、創造性を高めるための「問い」に目を向け、学校教育においてよく見られる問いに対する誤解や、問いの本質についてお話ししたいと思います。

軍事的世界観から冒険的世界観へ。現在はその過渡期

私はこれまで、よりよい学びの機会を創出し、人間が創造性を発揮するためには、「問い」の力をどのように使えばよいのかについて研究してきました。 企業や学校からワークショップを依頼されることが多いのですが、企業にも学校にも「創造性」が猛烈に求められている一方で、それを発揮することは非常に困難な状況にあると感じます。なぜ、現在は創造性が発揮しにくい状況になっているのでしょうか。なぜ、ビジネスマンも学生・生徒も、自分のポテンシャルや個性を発揮しにくいのでしょうか。

 

その理由は、今の社会の根底にある方法論が、戦争的なメタファに基づく考え方を土台に成立していることにあると私は考えています。企業は戦争で用いられていた考え方や方法などを参考に経営を行い、発展してきました。決められたことをミスなく計画通りに実行する組織づくりが優先され、人材の育成が軍隊における規律訓練と似たものになってしまっています。そのような方針や考え方を是とする価値観や社会のあり方を、私は「軍事的世界観」と呼んでいます。
しかし今、軍事的世界観の考え方に強い違和感を示す人が若い世代を中心に増えています。人生100年時代と言われ、人間が持つ創造性や好奇心を高めるための選択肢が非常に増えました。そのため、いわゆる従来型の優良企業に就職し、我慢しながら長く働くというスタイルは合わないと感じる人が増えています。また、予測不能で不確実な社会においては、人間が元来持つ好奇心や創造性を生かして、まだ見ぬ価値を皆で探究していくことがますます求められます。好奇心を資源にしながら、自分で自分の人生や社会全体の新たな価値を探し求め、実現していくことを大切にする世界観。それを私は「冒険的世界観」と呼んでいます(図1)。

(図1)軍事的世界観のチームから冒険的世界観のチームへ
出典:『冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す9つの思考法』(テオリア)

今、社会の様々な場面で、冒険的世界観を重視する価値観や具体的な取り組みが見られるようになってきています。例えば学校現場であれば、知識の詰め込み型の授業ではなく、生徒の興味・関心を起点にしたプロジェクト学習や、答えが1つではない問いに挑む探究型のカリキュラムを導入する動きなどがそれにあたります。 ただ、社会の仕組みはそう簡単には変わりません。現在は人々の価値観や社会環境が転換しつつある一方で、様々な仕組みがまだ軍事的世界観の中でつくられたものであり、両者が混在している状態なのです。企業であれば、ミスが許されない雰囲気の中で、挑戦することを恐れずにイノベーションを起こせと言われます。学校も同様です。国を挙げて探究的な学びが奨励されており、それ自体は素晴らしいことだと思います。しかし、肝心の探究の時間では、生徒は探究する課題を数コマの授業時間内で設定することが求められるため、自分の興味・関心とはかけ離れた課題を設定する生徒が少なくないといった実態も耳にします。そのように、社会のあちらこちらでせっかく出てきた冒険的世界観の芽が、以前から存在する軍事的世界観に飲み込まれつつある状況を危惧しています。

時間内に全員が終わらなくてもよいという覚悟で探究する

学校に期待されることは、現場のリーダーの先生方が中心となって軍事的世界観に戻らないように舵を切っていくことです。それができるかが大きな課題であり、軍事的世界観と冒険的世界観の分岐点だと思います。その課題を乗り越えるためには、表面的な手法を変えるだけでなく、根底にある価値観や評価基準のレベルから変えていく必要があります。探究する課題の設定を全員が授業時間内に終えることを目的にワークシートなどを使うのならば、それは表面上は探究学習らしく見えるかもしれませんが、中身は古い価値基準のままであり、ワークシートを埋めさせる授業を展開しているだけに過ぎないかもしれません。探究的な学びには、そもそも人が抱く好奇心を生かしたり、その姿勢を評価したりする仕組みが必要です。そうした仕組みの下で取り組む探究学習では、探究する課題を予定時間内に設定できない生徒が少なからずいるかもしれません。それをよしとする価値観に転換するくらいの変化を起こさなければ、冒険的世界観にあふれる学びは実現できないのではないでしょうか。

 

「問いかけ」が、チーム(教室)を動かす

冒険的世界観において人が尊重され、生かされるということは、人が好奇心や疑問を抱いた時に、そこから生じる自分の想いや考えを臆することなく表現できたり、必要に応じて深めたり、解決に向けて動けたりする状態です。探究においてそれらの状態を目指す時、「問い」の工夫は非常に有効な手段です。ただ、そこには陥りがちな誤解があります。それは、うまく問いかければ相手は本音を出すという誤解です。

 

人はなぜ、本音を言えないのでしょうか。多くの場合、何らかの規範意識があったり、場の空気を読んだりして、「これは言わないようにしておこう」といった、自分に対するとらわれがあるためです。ほかにも、「他者と比べた時に自分は劣っている」など、大人はもちろん、子どもも、そうした様々なとらわれを十字架のように背負っているために、言葉を発することができなくなっているケースは少なくないと思います。本音を引き出す前にすべきことは、相手が背負っているとらわれを外してあげることです。

 

問いとは、本音をつかんで引き出すような暴力的なものではありません。その人の心にあるストッパーを外してあげるツールなのです。対人的な意味合いを持つ問いは「問いかけ」と表現するのがよいかもしれません。よい問いかけはその人のとらわれを外し、前向きな気持ちや行動につながります。しかし、中にはストッパーを外すどころか、強化する問いかけが見られます。企業の会議などで上司が発する「何でもいいから、よいアイデアはない?」「自由に話してみて」といった問いかけはその代表例です。そうした問いは、投げかけられた部下にとっては実は非常に重い内容なのです。「自分のアイデアは上司が言う『よい』アイデアだろうか」。「『自由に』と言われても、範囲が広過ぎて間違ったことを言ったら恥ずかしい」。そのように、様々なストッパーによって部下の口が重くなることでしょう。

 

以前私がかかわった、ある企業のプロジェクトの例をお話しします。当時、その企業は新しいビジョンを掲げて社員の行動指針を策定し、社内への浸透を図っていました。軍事的世界観を持つ企業であれば毎朝の朝礼でその指針を暗唱させたり、指針から逸脱している社員にペナルティーを課したりするといった施策が実行されがちですが、その企業はプロジェクトを通して社員の内発的な変容を目指すことにしました。そこでワークショップを開き、「8つある指針の中で最も不要だと思う項目はどれか」という問いを立て、社員に考えてもらいました。すると、その答えは人によって様々で、議論していくうちに「うちのチームはこれじゃないか」「これはもうできているから不要だと思う」などと対話が盛り上がり、気づけば8つの指針のすべてを社員が主体的に解釈しようとしていました。その後に実施した人事のサーベイ結果では、ビジョンが社員に浸透していることが分かりました。ビジョンが上意下達のお題目ではなく、自分たちにとって意味があり、編集したり、活用したりすることができるものであることも社員に伝わっていました。「大切な指針の中で最も不要なものはどれか」という問いは一般的ではありません。しかし、経営陣の寛容さも相まって、その問いの力によって、ひとごとになりがちなテーマが自分ごととなり、「会社から示された指針をただ守る受動的な姿勢」から「指針を自らの意志で解釈し、日々の業務に自発的に生かそうとする能動的な姿勢」へと、社員の内発的な変容を実現することができたのです。

2025年4月、「新時代のキャリアデザイン~冒険の時代を楽しむ、探究的な生き方~」をテーマに、社会人向けに福岡で講演。自動車メーカーの商品開発を例に、固定観念にとらわれず、自分独自の視点で課題や機会を捉え直す重要性を伝えた。

学校においても同様です。探究の授業でも、会議でも、誰も答えを知らない課題を前にした時に、どのようにゴールを探りあてていくのか。それには創造的な対話が欠かせません。企業のワークショップの例のように、問い、あるいは問いかけの工夫によって創造的な対話が促されます。そうした「問いかけ」は3つのプロセスから成り立っており、各プロセスを踏み、問いの表現そのものも工夫すれば、相手の想像力を刺激し、より具体的で豊かな思考を引き出すことができます(図2)。

(図2)問いかけのサイクル
問いかけは「見立てる」「組み立てる」「投げかける」の3つのステップから成っており、よい問いかけによって、問いを投げる側だけでなく、受け取る側もかかわりながらその質を高めていくことができる。
著書『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より作成。

以上のように「問いかけ」は、その人のとらわれを外し、前向きな気持ちや行動につなげるためのツールです。「問いかけ」を効果的に使うことで対話や学びの質が高まり、皆がよりよい状態を主体的に実現しようとする、教師や生徒が冒険的な世界観を持つチームへと変貌していくのです。

(本記事の執筆者:神田 有希子)