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他者とのつながりを通して 生徒が成長を実感できる場をつくり、 自立した女性の育成を図る
神奈川県・私立北鎌倉女子学園中学校高校
2026/09/10 14:30

少子化や教師不足、働き方改革など、様々な課題が学校を取り巻く中、学校経営者はどのような考えの下、経営にあたっているのかを尋ねる本コーナー。今回は、神奈川県・私立北鎌倉女子学園中学校高校の柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)学園長と佐野朗子(さの・あきこ)学校長に話を聞いた。同校は2018年度より、時代の変化にしなやかに対応して未来が担える女性を育てるため、「自主性の尊重・受験に強い授業」「英語教育の抜本的強化」「施設・設備の一新」「鎌倉に密着した体験学習」を軸とする学校改革を進めている。

学園長
柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)

学校長
佐野朗子(さの・あきこ)
学校概要
「健康で科学的な思考力を持った心豊かな女性の育成」を建学の精神とし、「のびやかな自立した女性を育む」を教育理念に掲げる。中学校は先進コース、音楽コース、国際コースを、高校は普通科先進コース、特進コース、国際コース、音楽科をそれぞれ設置する。
開校:1940(昭和15)年
生徒数:1学年 中学校約50人、高校約130人
教師数:約40人
2025年度卒業生進路実績:国公立大は、東京藝術大、神奈川県立保健福祉大、横浜市立大に7人が合格。私立大は、青山学院大、慶應義塾大、上智大、法政大、早稲田大、立命館大などに延べ119人が合格。
学校改革の推進のために学園長、学校長として大切にしてきたこと
柳沢 2020年3月まで東京都・私立開成中学校・高校の校長を務め、同年4月から本校に学園長として着任しました。着任後の最大のミッションは、自ら考え、自ら行動する「のびやかな自立した女性」を育成するための学校改革の推進に貢献することでした。そこで私は、生徒、先生方に、ハーバード大学、東京大学、そして開成中学校・高校で働く中で考えてきたことを、言葉で伝えること以上に、私の姿を通して感じ取ってもらうことを意識しました。例えば私は、これからの社会を生きる上で「考える力」を身につけることがますます重要だと考え、中学1年生と高校1年生が対象の探究学習である「論文指導」を毎年担当しています。2025年度は、「レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』を、その絵を見たことがない人に分かってもらう」というテーマで、高校1年生が自分の考えを400字詰め原稿用紙2枚以上にまとめる取り組みに挑戦しました。「考える力」「他者に伝える力」が求められる難題ですが、生徒は3人ずつのグループになってテーマについて話し合い、何度も推敲を重ねながら見事な論文を仕上げ、考える方法、考える力、考えを伝える技術を身につけました。生徒間で行う対話から生徒に気づきを促す授業を先生方に見てもらっているうちに、「クリティカル・シンキングを身につけるために生徒に紹介したい本がある」と私に相談する先生、「現代の女性が抱えているジェンダーにまつわる問題について、男子校の生徒と一緒に考える交流授業を企画したい」と提案する先生が現れ始めました。先生方は自分の目で見て理解し、心から納得した時に、それまでの教育観から大きく一歩を踏み出すのです。
佐野 神奈川県の公立高校4校の校長を務めた後、2022年に本校に着任しました。穏やかで素直な生徒たちが、充実したICT環境の下、国際理解教育や探究学習に取り組み、自分の考えを自分の言葉で伝えることができる自立した女性へと成長していく様子を見て、「のびやかな自立した女性」の育成を目指す学校改革をさらに促進するために、先生方の実践をしっかりと支えていきたいと強く思いました。そこで私が取り組んだことの1つが、先生方の働き方をよりよいものにすることです。例えば、休日に出勤した時の代休を取得しやすくするために、教師全員が出席する朝の打ち合わせは月曜日のみとし、各会議は水曜日の放課後に実施するなど、会議を実施する曜日と時間を定めました。また、業務は得てして属人化しがちですが、個人に業務の責任が集中しないよう、各分掌のチーム化を意識して人員の配置を大きく変更しました。先生方が授業改善に安心して取り組めるよう、ICTを活用した校務の効率化も進めながら、先生方にとって貴重な資源である「時間」の確保を意識してきました。
人のつながりを豊かにし、生徒を、学校を成長させる
柳沢 自立とは、今、自分に必要な人が誰なのかを理解し、その人を訪ね、ドアをノックできるようになることだと私は考えています。日々の学びの中で生まれた興味・関心を追究したり、疑問を解消したりするために、今、話したい人、相談すべき人を自分で見極め、それが理事長であっても、学校長であっても、臆せずにドアをノックできる生徒になってほしいのです。そのため本校には、生徒が必要な時にノックできるドアをたくさん用意しています。例えば、ICT教育の総責任者を務める田邊則彦(たなべ のりひこ)理事長補佐と立ち上げた、科学(Science)、情報(Information)、数学(Mathematics)を生徒が実践的に学ぶ「SIM Club」もその1つです。それは、希望する生徒が放課後の時間を使って数学や理科の先取り学習、プログラミング学習、生成AIの活用方法などを主体的に学ぶ課外活動で、理系教科担当の教師2人が生徒からの質問や相談に対応しています。学年を超えて集った生徒たちは、自分の興味・関心に応じて楽しく学んでいます。また、放課後の自習室では、大学生になった本校の卒業生がチューターとして常駐し、後輩である在校生からの学習に関する質問や進路の相談に応じています。それも生徒の自発的な学びを支援するものです。
誰かからの指示を待つのではなく、主体的に行動できる生徒を育てるためには、私たち経営陣を含む、すべての教職員が「いつでもドアをノックしていいよ」という雰囲気を、日頃から生徒に対して示すことが重要です。先日も1人の生徒が、「柳沢先生は環境工学がご専門ですよね。私は環境と国際、どちらの分野に進めばよいか悩んでいます。話を聞いていただけますか」と、私に声をかけてきました。その生徒は一番話が通じそうだと思って私を相談先に選んでくれたわけですが、私にとってその「ノック」は、生徒の成長を実感させてくれるものでした。
佐野 柳沢先生がおっしゃる通り、私たち教師は、生徒がドアをノックしやすい存在にならなければいけません。「教育は人なり」です。そして、教師一人ひとりが自分の資質・能力を向上させ、人格を磨いていくためには、自校の外ともつながる必要があると私は思っています。柳沢学園長、田邊理事長補佐はもちろん、元駐米大使である藤崎一郎理事長は、それぞれ自分の人脈を生徒のために生かすことを日々考えています。私は現場の先生方にもどんどん学校の外のネットワークを広げてほしいと思っています。そこで私は、外部機関が実施する研修などへの参加を先生方に勧めています。最近では、教頭2人と教務主任に独立行政法人教職員支援機構が実施する集合研修に参加してもらいました。全国の実践者と交流すると、おのずと視野が広がりますし、教師自身が学び続ける姿は生徒にとっても刺激になるはずです。
例えば国の施策1つを取っても、公立学校には教育委員会によって咀嚼(そしゃく)された情報が教育委員会の方針と併せて通達されますが、私立学校は自校の力で国の施策を読み解き、取捨選択をし、自校の教育活動に落とし込んでいかなければなりません。そうした意味では、私立学校の教師には公立学校の教師以上にこれからの教育について考える力が求められると思っています。だからこそ、本校の先生方が外とつながり、教育観を絶えずバージョンアップしていけるような支援をしていきたいと考えています。
女子校の未来を切り拓くために
柳沢 2022年にアメリカのオープンAIが生成AI「ChatGPT」を公開したことは、教育のあり方にパラダイムシフトをもたらしました。東京大学と京都大学の2026年度入試の問題を「ChatGPT」に解かせたところ、いずれの大学の入試問題においても合格者の最高得点を上回ったことが報道されましたが、それは生徒が身につけるべき学力が今後変わることを示していると言えるのではないでしょうか。私が担当する、本校の探究学習である「論文指導」では、自ら問いを立てる力や、論理的に考え、他者に伝える力を養いますが、それらの力も、AI時代を生きる生徒たちに求められる力であると考えています。
そうした力を育成すること以上に重要なのが、自信を持って自分の考えを発言できるマインドセットをつくり上げることです。私は、日本の子どもたちの自己肯定感が国際比較で著しく低いことを大きな問題だと捉えています。どうすれば生徒が自信を持てるのか、それは本校の教育においても重要な問いです。その答えの1つは、仲間との協働にあると私は考えています。「論文指導」では、生徒はグループ内で仲間と対話を重ねながら、自分の考えを深めます。また、探究学習以外の授業でも、生徒が対話をする時間をたくさんつくっています。多様な他者と語り合い、考えたことをまとめ、皆の前で発表し、生徒間で互いの発表のよいところを評価し合う。そのような学習を積み重ねる中で、生徒は自己の経験に根差した自信を獲得していくのだと思いますし、そうした機会を学園の中にもっとつくっていきたいと考えています。
2026年度大学入試では、東京大学の理科一類・二類・三類の女子合格者の約25%を、4つの女子校の出身者が占めたそうです。共学校では「女子は文系、男子は理系」というジェンダー・バイアスが働きがちですが、男女別学の学校ではそうした先入観にとらわれにくく、自分の興味・関心に基づいた進路選択を実現しやすいと考えられます。科学技術・イノベーションを担う人材を育成するという点でも、本校のような女子校に対する社会の期待はますます大きくなると考えています。
佐野 生徒が自立した女性に成長していく上で、私たち教師はロールモデルとして生徒の前に立つ必要があります。特に私は、女性活躍が推進されている中、女性管理職として責任とやりがいを持って楽しく仕事をし、周りの人たちとともに心豊かに生きている姿を生徒に示したいと考えています。彼女たちにとっての憧れや手本になれるよう、学び続け、挑戦し続ける姿勢を大切にしたいと思っています。
変化が激しく、予測が難しいこれからの社会を念頭に置いた学びと教師のあり方は、本校では既に藤崎理事長や柳沢学園長が自ら実践し、先生方に示しています。学校長の私は、従来の形にとらわれない新しい教育を学校の中に取り入れられるよう、次期学習指導要領も見据えながら、より柔軟な教育課程の編成に取り組みたいと考えています。
近年、私学に対する助成が充実する傾向にありますが、それは私たち私学への期待であるとともに、その期待に応える責任を痛感しています。例えば、多様性を包摂した誰一人取り残すことのない学びの実現に向けて、本校の充実したICT環境をもっと生かせるはずですし、生かさなくてはいけないと思います。また、本校は、鎌倉市の地域住民や企業、寺社仏閣と連携した探究学習に力を入れています。鎌倉市や同教育委員会などとも教育連携をはじめ、本校のグラウンドなどの施設・設備を地域クラブに開放するといった取り組みも行なっています。今後はこうした取り組みをさらに発展させ、学校の強みや魅力を広く発信し、社会から愛される学校づくりを進めたいと思います。



