社会が大きく変化する中で、高等学校を取り巻く環境は年々変化しています。生徒の受験環境も、先生方の働く環境も大きく変化する中で、経営者である先生方は、どのようなことを考えて学校経営をされているのでしょうか。

大正14年(西暦1925年)に創立以来、2025年度に100周年を迎えられた、学校法人 守屋育英学園の関東第一高等学校(私立)の渋谷実理事長にお話を伺いました。

100周年にあたって、創立者の想いに立ち返る

建学の精神から常に考えることを常に意識しています。100年前、本校の創立者が何を考えてどんな議論をして、生徒にどうなってほしいという思いを持っていたのか、そこに思いを馳せます。その上で、今の時代に合うかどうかを考えるようにしています。指導要領が変わっていく中で、本校ができないことをやっていても仕方がないと思います。本校が現在取り組んでいることのうち、特に学校の特徴となることのレベルを引っ張り上げていきたいと考えています。10年後、20年後にも、建学の精神と現在やっていることがしっかりと重なっていないと先生も生徒も集まってこないですよね。将来を見据えて、意志をつないでいきたいと思っています。

私自身はバドミントンを長くやってきたので、学習に強く力を入れてやってきたわけではありません。そんな私でも、「法律やシステムが変わったらそれに合わせなきゃいけない」という当たり前のルールはわかります。学校において、指導要領が変わるというのはそういうことですよね。

そして人口減もこれから進むことは自明です。私はバドミントンをきっかけにヨーロッパに行くことがありましたが、当時のヨーロッパは人口減が進み、徐々に国全体の価値観が変わっていく姿を見ていました。日本もいずれはこのように淘汰されてしまうのでしょうか。そうはならないようになったらいいなと思っています。私はもう60歳を超えているので、次の世代に残せるもの、社会に貢献できるものは何なのかというのを常に考えています。

学校運営においては「教員の20年後を考える」

学校運営においては、もちろん生徒のことも大事ですが、なにより私は教員のことを考えています。本校の教員の20年後です。今が良ければいい、とにかく無理してやればいい、ということではないと思います。

私は教員の情熱とパワーが一番大事だと思っています。だからこそ、本校の教員には、自分自身の10年後、20年後を考えるパワーと愛情を持ってもらいたいと思っています。自分自身のことを考えられてこそ、本校の10年後、20年後を考えられる情熱とパワーを持ってもらえるのではないか、と思うからです。教員が自分自身のことを考える機会を持てるようにするために、私は時間やお金を使いたいと思っています。

競技の選手で考えてみましょう。たとえば野球選手も“かるた”の選手もそうですが、選手としての息は長いわけではありません。目先の年俸の金額でどの球団にするのかを考えるのではなく、選手人生を終えた後のことも考え、コーチとして球団に貢献する人生やその生活も見据えて考えると、より球団を大切にしようと思えるのではないかと思います。

そのように本校においても、教員が自分自身の教員人生を考えるために、時間を使ってほしいと考えています。海外に旅行に行くのも良いですし、他の学校のことを知って比較する中で本校の立ち位置を考えるというのも良い機会になるでしょう。

管理職になり最終責任者として結論を出さなければいけない立場になると、ものの見方が変わってきます。また、そういった最終責任者を若い30代の先生方にも任せていきたいと思います。

私のような60歳の人間が40歳の考えにはなれないので、30歳~40歳の人が学校の将来を考えられるようにしたい、そのためには若くして管理職になってもらう必要があります。そうすれば学校のことを自分事として考える時間が増えます。学校のことを自分事で考えている時間が増えることで、学校の将来のことを考える時間も増えてきます。そうして学校のことを考える時間が増えることで、それは子どもたちに還元され、子どもたちの発展につながると考えています。実際、三原教頭も30代後半でこの重責を担ってくれています。そして、彼のような世代にこそ、学校の次の20年を具体的にイメージしてもらいたいのです。

三原直也教頭「理事長のおっしゃる通り、私自身、30代後半で教頭という立場で最終責任の一端を担うことで、以前とは比べものにならないほど学校運営を『自分事』として捉えるようになりました。特に、教員の『20年後』という視点は、同世代の教員を見ていると本当に重要だと感じます。
現在、本校では30代・40代の教員が、新コースの設置やICT化の推進など、学校の未来を左右するプロジェクトを任されています。例えば、教科指導主任の垣内先生は、先日私とともにシンガポールを訪問し、AIツールの知見を広げ、校務と授業の両面での活用を推進しています。一人一人が、自分の得意分野で存分に力を発揮し、結果を出すことで、『この学校なら、自分たちの手で未来を変えられる』という実感が湧きます。それが結果的に、生徒たちへの情熱、ひいては学校の『次の20年』を考えるパワーにつながっていると、現場の人間として強く実感しています。」

なにより、教員をしっかり育てる。

教員が健康で元気でなければ、考える時間がなくては、学校のことを考える余裕を生み出すことも難しいでしょう。教員に対して制度などの面も整えることで、考える時間を与えられるように今後も力を注いでいきたいと思います。それが最終的に生徒たちのためにもなると考えます。

これは未だ未来の話ですが、ゆくゆくは、先生方が「今だけではなく、将来を考えられる学校」であれるよう、介護施設や保育所なんかも作ることができたら、教員に時間を返せるようになって、より教員が自分の人生を本校の中で考えられるようになるのではと思います。そのように教員にお金と時間をかけていきたいと思います。

無駄の大切さ、無意味の大切さ

私は現代に合わせようと思っているものの、まだまだ昭和なところがあると思っています。結局、紙一重の勝負は努力と根性だと思っています。世界の舞台、例えばオリンピックなど、そこには無駄の大切さ、無意味の大切さがあると思います。無駄や無意味を知らないと至れない境地だと思うのです。裏返せば、本番の舞台で勝つような子を育てるのにどうするか、となったときにもそういった無駄や無意味の大切さがあると思うのです。

勝負所で勝てない子がいたとき、説教してしまう自分がいます。その説教も時代にあわないのかもしれませんが、変わらないのは自分と生徒との信頼関係だと思います。

これは、「本物」の教員を育てるときにもこの信頼関係が必要です。

少子化の中で、「本物」であるかどうかで選ぶことが増えていくのではないかと思っています。「本物」にならないと、選ばれないのではないかと思っています。「本物」は全体にいい影響を与えます。

自分流のものを作っていき、結果まで勝ち取る、そんな生徒を育てるためには、まず教員が「本物」となる必要があります。「本物」となる教員がいることで、若い教員を指導できるようになり、組織が育っていきます。そんな「本物」の教員を育てていきたいと考えています。

勝負強い、本物を育てる

本校には競技かるた部や野球部など、全国大会に出場している部活があります。全国大会で活躍できるというのは、結果が出ているということなので「伸びた」とも言えると思います。私は生徒に「全国大会に出る生徒を応援することと同じように、皆さんは勉強で同じように頑張ってみてください。」と伝えることがあります。ただ実際には、スポーツと勉強は同じではないところもあります。

好きなことは誰だってやれると思っています。ただ、それを別のことでもつきつめてできるようになっていってほしい、と、生徒に対しても、教員に対しても思っています。私は管理職を育てる立場ですが、部活動で培ってきた指導力を、学力を育てる指導力に転用できるか、ということに挑戦している最中です。競技をやっている間でも、一分野に秀でていても他の分野ができないということでは弱みになることもあります。学力が育つことで部活も相乗効果が生まれるのではないでしょうか。

部活だけでなく、勉強でも伸びて結果が出る生徒が本校から輩出されることで、「自分も勉強をやってみよう、やれる。」と今後はより思ってもらいたいと思います。この学校に入れば将来に向けて自分の持った目標を達成できる、ということを伝え、自分でハードルを設定して超えていく、という経験をしてもらいたいです。

本番に弱い人というのはいます。定期テストが強くても大学入試で失敗してしまったり、練習試合で強くても、本選では結果を出せなかったり。この困難を乗り越えるのは「心」だと思います。それぞれが元々持っている力です。私はまずこれを指導者となる人に伝えたいと思っています。

竹下 友梨

株式会社ベネッセコーポレーション 台湾こどもちゃれんじ事業部

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