河野 仙一

VIEW next編集部 高校領域担当責任者

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【関連する時事通信ニュース】教職員の生成AI活用で手引=業務効率化へ好事例紹介―文科省

文部科学省は、教職員の働き方改革に向け、校務での生成AI(人工知能)の活用例を盛り込んだ教育委員会向けの手引を作成する。年度内にまとめる予定だ。

煩雑な校務は生成AIが担い、教師は本分である教育活動そのものに注力できる。そうした未来を期待する声は少なくない。

生成AIは学校を変え始めている。それは確かだ。個別最適化、即時フィードバック。既に私たちの学びに、これまで以上の彩りを添えてくれた。

だが今、現場には別の景色も広がっている。

ハルシネーションへの対応、生徒の利用急増に伴う指導や評価への戸惑い。その実態を知るほどに、描く未来の明度は少しずつ下がっていく。

『VIEW next』高校版2026年度10月号(10月21日発刊)では、生成AIをテーマとして取り扱う。本稿では、その企画立案にあたり、各種調査などを通して見えてきた課題を整理し、理想を実現するための問いを立てたい。

データから浮き彫りになる課題

仙台大学AI教育研究チームが実施した全国調査によれば、学生の生成AI利用率は2024年から2025年にかけて30.3%から54.5%へと急増した。利用する学生の約6割は「授業の課題やレポートの作成」に生成AIを活用している一方、「出力結果に対するファクトチェックの方法を知らない」と回答した学生も6割を超えている。

生成AIは、いつでもそれらしい答えを提示してくれる。学習の利便性は確かに高まる。だが、自ら調べ、悩み、試行錯誤する過程は短縮されていく。

その「効率化」は、子どもたちの学びに何をもたらすのだろうか。

ベネッセ教育総合研究所は、生成AIの利用によって、答えにはたどり着けてもその答えに至るまでの探索や理解の過程が省略されやすくなることに着目している。

本来、知識は答えを知るだけで身につくものではない。調べ、考え、迷い、時に立ち止まる。その試行錯誤の積み重ねを通して、知識は生きて働くものになる。

一見すると遠回りにも思えるその過程は、答えにたどり着くためだけにあるのではない。考える力そのものを育む時間でもあるはずだ。

そうした過程を十分に経験しないまま成果物だけが完成してしまう。ベネッセ教育総合研究所は、その状態を「知の空洞化」と表現し、警鐘を鳴らしている

生成AIの出力を無批判に受け入れやすい状況を考える上では、AIとの心理的な距離の近さも見逃せない。電通の調査によれば、「対話型AIに気軽に感情を共有できる」と回答した人は64.9%に上り、「親友」(64.6%)や「母」(62.7%)とほぼ同じ水準となった。

文部科学省が実施した『学校教育における生成AIの利活用推進に向けた調査研究』では、指導者の88.4%が、生成AIに関するリスクとして「子供が誤情報、偽情報をうのみにすること」を挙げた。さらに、文部科学省が公表した『初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン』では、生成AIによる文章をほぼそのまま成果物として提出することなどを「不適切と考えられる利用例」として示し、口頭発表などを通して、生徒が内容を十分に理解し、自分のものとして身につけているかを確認するといった評価の工夫を求めている。

ここまで見てきた現状は、それぞれ別個の課題ではない。

弊誌が読者コミュニティーを対象に実施したアンケートでも、生成AIの普及によって教育現場で起きている変化や戸惑いが、具体的な言葉として数多く寄せられた(※1)。

各種調査データだけでは捉え切れない現場の生々しさが、課題の解像度をさらに上げる。

学校が直面している現実

志望理由書や作文も生成AI任せ

 「生徒が生成AIを利用して志望理由書や履歴書を作成していく上で、本人のスキル以上の文章に仕上がる傾向がある。美辞麗句を連ねた文章を基に面接試験に挑むと、書いてある文章と実際に面接で語る内容とに大きな乖離が生じ、それが理由となって不合格となる事例が散見される。不合格にならずとも、志望理由書に書いた事柄以外の質問が多くなり、面接のハードルが極端に上がるという皮肉が生じている」(三重県・公立)

「要領のよい生徒は『作文』課題を、こちらの様子を見ながら、AIに任せてしまうこともあるので、課題をどうするかは迷うことが増えた。」(東京・私立)

生徒が信頼を寄せる生成AI。高度な成果物を容易に生み出せるようになったことで、学校は「完成した答え」を見るだけでは、生徒がどのように考え、何を理解したのかを把握しにくくなっている。

プロセスを評価する重要性は分かっている。だが、まだその手法は確立されているとは言い難く、現場の評価をめぐる負荷が一層高まっているのが現状だ。

ハルシネーションの確認コスト

「存在していない本などが紹介されることがある。必ず『その情報のソースを示して』とプロンプトを出し、最後は自分で確かめるようにしている」(静岡・公立)

生成AIは情報を瞬時に提示できる。しかし、その内容が正しいとは限らない。

利便性が高まるほど、情報の真偽を確かめる責任は利用者側に委ねられる。効率化を期待して導入したはずのツールが、新たな確認作業を生み出しているという現実もある。

学校全体でルールをどう整えるか

「個人情報をどこまで入力してよいのか、明確な線引きが学校として共有されていない。生成AIを活用すれば業務が劇的に楽になることは分かっているのに、万が一のセキュリティーリスクを考えると、教員個人の判断では怖くて踏み出せない状況がある。」(東京・私立)

生成AIの導入は、個々の教師が活用方法を覚えれば済む問題ではない。 何を入力してよいのか。どのような場面で利用を認めるのか。問題が起きた時、誰が責任を負うのか。学校として共通のルールや運用方針が整わなければ、利便性を理解していても、安心して活用することはできない。

ここまで見てきたような、山積し、重層化する現場の課題を前にすると、国が掲げる「働き方改革としての生成AI活用」と学校現場が直面する現実との間の、なお埋めるべき距離にばかり目が行ってしまう。

だが、前に進むために、改めて問いを立てたい。

教育現場で今問われているのは、生成AIの活用方法だけではない。生成AIは、これからの社会を生きる子どもたちにとって、ごくあたり前の存在になっていく。だからこそ学校に求められるのは、その利用を一律に制限することでも、無条件に受け入れることでもない。

教師は、学校は、生成AIとどう向き合うべきか。

『VIEW next』高校版2026年10月号では、そうした問いを出発点に、学校現場の実践や、有識者への取材を通して、生成AI時代の学びのあり方を考えていく。

 

(※1)『VIEW next』高校版 読者コミュニティーアンケート。2026年4、5月にウェブで実施。

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