

小村 俊平
ベネッセ教育総合研究所 理事長 教育イノベーションセンター長
1975年東京生まれ。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員との毎週のオンライン対話会「気づきと学びの対話」、中高生との定期的なオンライン対話会「SDGsユース」、中高生との探究的な学びのコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」を開催するなど教育イノベータが集まる場を主宰しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高校の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
【関連する時事通信ニュース】主要3分野で日本1位=国際学力調査、OECD加盟国―短文読解苦手、低得点層が増
日本の教育政策とPISA
OECDが2000年からおおむね3年ごとに実施しているPISA(Programme for International Student Assessment)は国際的な学習到達度調査である。15歳の学習者を対象に、科学コンピテンシー(※1)、読解力、数学的リテラシーの3分野の到達度を評価する。既習事項の再生ではなく、知識を現実の問題へ応用することを重視した問題が出され、生徒の背景や学校内外の学習条件と結びつけた分析が提供される(※2)ことも特徴だ。
PISAの目的は各国の教育政策・実践(Policy orientation)を検証することにある。順位を競うための試験ではない。日本は第1回から継続的に参加し、おおむね高いレベルの学力を維持してきたが、その間には、読解力スコアの低下を契機に「確かな学び」が重要視され、全国学力・学習状況調査が導入されたり(2007年)、デジタル化の遅れの指摘がGIGAスクール構想(2019年)につながったりするなど、日本の教育政策にも大きな影響を与えてきた(図1)。
今回の受験者は、小学校5年生の段階から現行学習指導要領の下で学び、同時に1人1台端末の普及を経験した現・高校2年生である。現行学習指導要領とGIGAスクール構想の成果が初めてまとまって問われた結果と位置づけられよう。
PISA2025で示された日本の強み
今回の結果については既に多くの報道がなされているが、教育関係者としてはどのようなポイントに注目すべきだろうか。 改めて日本の強みと弱みに着目して整理してみたい。
国際的に高い学力水準
継続実施されている3分野で日本はいずれも高いスコアを示した。OECD加盟国中の順位は3分野とも1位。全参加国・地域で見てもトップクラスである(図2)。
ここで重要なのは順位そのものではなく、国際的に多くの国・地域の得点が下がる中で、日本の得点が相対的に大きく下がらなかった点である。国立教育政策研究所も全体として「ほぼ横ばい」と整理している(※3)。読解力のレベル1の割合など、継続的な検証が必要な点はあるが、OECD平均と比べれば依然として低学力層の割合は低い。
科学コンピテンシー、革新分野のスコア
重点実施分野である科学コンピテンシーでは、環境や生物多様性などの具体的な課題に関する複数のデータを読み、科学的知識と結びつけて判断する力が問われた。日本は高い得点を示し、上位レベルの割合はOECD諸国で最も高い水準、下位レベルの割合も最低水準だった(図3)。
革新領域のLearning in the Digital World(LDW)では、デジタルツールを用いて試行錯誤しながら新しい知識を得て、問題を解く力が問われている。同領域でも日本はOECD加盟国中1位のスコアだった(図4)。
日本の生徒はデジタルツールを用いた分析的な操作や、初見の素材と既有知識を結びつけて考えることが苦手なのではないかといった見方もあるが、少なくとも今回の課題には国際水準以上に対応できたと言える。現行学習指導要領の下、学校現場が「主体的・対話的で深い学び」の実現に取り組んできたことと整合する結果とも読める。
デジタルの適正利用
学校における学習目的でのデジタルリソース利用時間は前回の2.1時間から2.3時間へ微増した(図5)。一方で、「デジタル機器によって集中を妨げられる」と答えた生徒は6.6%にとどまり、OECD平均の28.4%を大きく下回った。
科学コンピテンシーとデジタル利用時間の関係を見ると、デジタルを「適度に」使った生徒のスコアが高い傾向がOECD平均で確認できる。日本は同程度の使用時間でも高いスコアを示しており、効果的にデジタルツールを学習に生かしていることが示唆される。家庭でのSNS利用も1日2.3時間と、OECD平均の2.8時間より短い。
先日公表された「次期学習指導要領等に向けた審議のまとめ(素案)」では、2030年に向けて、デジタル学習基盤のさらなる活用や、情報活用能力の抜本的な強化が打ち出されている。リスクをうまくコントロールしながら現状の強みをより伸ばしていくことが重要であろう。
高い公平性・包摂性
社会経済的地位による学力差が小さいことは日本の教育の強みであり、今回の結果からもそれが示されている。
以下は、社会経済的地位の上位25%と下位25%の科学コンピテンシーの得点差を国別に示したものである(図6)。日本は全体として高いスコア、かつ、社会経済的地位による得点差も小さいことが分かる(日本の得点差は71点、OECD平均が85点差である)。OECD報告書が「日本の教育システムは優れた成果を挙げつつ、包摂性と公平性においても高い成果を挙げている」(※4)と評したことは、学校現場の継続的な支援の成果として受け止められよう。
後編では、日本の弱みと改善の視点について解説する。
※1 2022年調査までは「科学的リテラシー」
※2 OECD「PISA 2025 Results (Volume.1)」p.46
※3 国立教育政策研究所「PISA2025のポイント」p.3
※4 OECD「PISA 2025 Results (Volume.1)」p.110
参考資料
OECD「PISA 2025 Results (Volume.1)」(2026.09)
国立教育政策研究所「PISA2025のポイント」(2026.09)








